第15話 「昔ね。わたしには大親友って言えるほどの友達がいたの」
ネコ耳付きのカチューシャを外したわたしは、ひとけもまばらな夕刻の公園にいた。噴水の縁に腰掛けてぼんやりと遠くを眺めている。
ここは県内でも最大規模の公園であった。それもそのはず、三年前までここには様々なビルが建ち並ぶ商業地帯だったのだから。
ある災害によりダメージを受けたこの土地は再開発されて公園となり現在に至る。
「そろそろ日も落ちてきた。この程度の夕闇なら装着しても目立つまい」
「……」
わたしは立ち上がると再びネコ耳のカチューシャをつけようとして、そこで根本的な問題に気づく。
せっかく髪を纏める為に三つ編みにしているのに、それにカチューシャを着けても意味はないのではないか。
そう思い、おもむろにその髪を解いていく。
夕暮れの気まぐれな風が頬を撫でる。
胸まであるわたしの髪は解けてその風に靡いた。
「どうした? 髪など解いて」
ラビが不思議そうに問いかける。
「まあ、たまにはいいかなって」
わたしはカチューシャを持ち直すと、額から後ろへと髪を梳くように装着した。
顔全体に風を感じる。
普段は前髪を垂らしているので新鮮な感じもした。
そういえば昔こんな風におでこを出してたことがあったっけ。
「なんだかいつもと雰囲気が違うな」
声だけでははっきりわからないが、ラビのその口調は照れているようにも感じた。
「いつもって……まだ出会って二日目なんですけど」
「そうだったな」
わたしはそのまま、噴水の縁の上に立ち上がって風を全身に受ける。
心地良い空気の流れ、緑の香り、鳥の声。まるで世界が一変したかのようにも思える。
「昔ね。わたしには大親友って言えるほどの友達がいたの。このカチューシャはね、その子と一緒に遊びに行ったテーマパークでお揃いで買ったの。当時はお気に入りだった。恥ずかしげもなく、日常的に付けていた時期もあったの」
わたしは静かに語り出す。優しい記憶と絡み合ったつらい記憶を。けして忘れられないあの子の事を。
「その子とは連絡を取っているのか?」
ラビのその質問に、わたしは下を向く。そして、一瞬の沈黙の後にこう答えた。
「ううん。お別れ直前にケンカしちゃってね。それっきり……」
「そうか」
ラビはそれ以上は訊かない。彼なりの気遣いなのだろう。
そのせいもあって淀みなく流れてくる風さえもわたしには優しく感じられた。
だが、緩やかに吹いていた風が一瞬やむ。
そして、不意に突風が吹き荒れた。
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