第14話 「ネコ耳は、じゃすてぃすだお」
「ねぇ、ラビ。ほんとにこの格好で出るのぉ?」
自動販売機の陰に隠れているわたしは、胸に抱えたラビに問いかける。
もちろん頭にはネコ耳のカチューシャを装着していた。
「我の居場所が知れわたるのは時間の問題だ。ならば、こちらから討って出るのが得策であろう」
ここは人通りもそれなりにある商店街の一角だ。家の中にいたのでは敵を見つけられない。だから外に出るようにと、ラビ指示されたのだった。たしかに言ってることは理解できる。
「そりゃ、敵を殲滅することが目的なら守りに入るのは効率が悪いってのはわかるけど……だいたい、その『
「昨日説明したはずじゃ! 何度も云わせるな。我の敵であり放置しておけば人間を害する」
半分寝ぼけていたわたしには、肝心の知識は頭に残らなかったようだ。記憶に残らないものだから楽観的な考えは捨てられない。
「でも……そんなに簡単に見つかるかなぁ」
「我の匂いを嗅ぎつけて嫌でも向こうからやってくるわい。あの場所に居た時は結界のおかげで奴らから逃れることができていたがな」
あの場所とは古本屋のことだろう。あそこにいる時は封印でもされていたのだろうか? そもそも、あのぬいぐるみは何時からあそこにあったのだ?
「だったらあの本屋にずっといれば良かったのに……」
「戯け! それでは根本的な解決にはならん」
ラビはわりと短気だ。なぜかよく怒られる気がした。
「わかってるよぉ」
わたしは覚悟を決めて自動販売機の陰から表通りへと出る。
その時、ちょうど前から歩いてきた若い男と目があってしまった。
「にゃっ!」
「フヒヒヒヒ」
相手の表情がニタリと不気味な笑みを浮かべたので、それが怖くて再び引っ込んでしまう。
「どどどどどうしよう。その手の趣味の男の人にビンゴだよぉ」
ラビに顔を寄せて泣きそうな声で呟く。
わたしに声をかけてきたその人は、小太りでそんなに気温も高くないってのに額に汗が噴き出している。
後部のデイパックにはポスターが刺してあり、ゲームのキャラクターが描かれた紙袋を下げていた。薄汚れたTシャツには戦闘美少女系の魔法少女がお決まりポーズをとってこちらを見ている。が、サイズが合ってないのかその顔は歪んでいた。
「コ、コスプレだよね。今時、そんなベタなオタクさんはいないよね。きっとテレビ局が『
「ネ、ネ、ネコ耳は、じゃすてぃすだお」
男の嬉しそうな顔が近づいてくる。引きつりそうな笑顔でわたしは声を出した。
「さ、さよならー」
全力でその場から駆け出すわたし。その瞳には涙が溢れていた。
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