第五章【非日常と呪文とコスプレ】

第12話 「エターナルフォースブリザード!!」

「呪文ってさ、『Abracadabra』じゃなくてもいいって言ったよね」

 机の上に置いたぬいぐるみラビに向かい、わたしは魔法についての講義を受けている。そして、そのお復習いの為にいくつかの質問をしていた。

「魔法を導くことができるのなら、新たに創り出しても構わない。ただし、ゼロから創り出すとなるとかなり大変じゃ。一つ一つの文字に込められた意味や組み合わせによる変化等をすべて理解せねばなるまい。意味を知ったところでセンスがなければ、効率のよい呪文は創れぬ。だからこそ、先人達の創り上げた呪文を利用するのが一番なのじゃ。特に汝のような素人はな!」

 まるでお小言のような上から目線の言葉。

「うーん」

 わたしはしばらく考え込む。センスというならば 『Abracadabra』は古すぎるのではないか? そんなことを思ってしまう。だって、わたしの感覚だとお伽噺だし……。

「『Abracadabra』では何か不満か? 先ほどの戦闘でも使えたではないか。後は訓練すれば実戦でも苦労することはないと思うが」

「なんかね。いまいち格好がつかないんだよね」

 魔法と言えば、幼い頃に見たアニメが思い浮かぶ。

 話の内容はほとんど覚えていないけど、印象に残った呪文はいくつかあった。

「格好ばかり気にしてどうするのじゃ」

「日本人は形から入るんだよ。今のままじゃ、魔法に対する情熱も冷めちゃうかもしれないよ」

 それが詭弁であることを承知でわたしは押し通す。

 魔法に対するイメージの差を埋めるのには『せめて呪文だけでも』という考えもあった。

「汝がそれでは効率が悪いというのならいたしかたない。が、苦難の道だぞ」

「うん。とりあえず、試しにやってみるね」

 わたしは手に持ったシャープペンシルを魔法の杖のように振りながら呪文を唱えた。

永遠未知力吹雪魔法エターナルフォースブリザード!!」

「ちょっと待て!」

 詠唱の途中でラビに止められた。

「へ?」

「それはどういう意味を持っているのだ? だいたい、未熟な汝が魔法を導く場合、己の理解できる言語で意味を持たせなくてはならぬ」

 口うるさい小姑のような台詞にはうんざりする。

「『一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させ相手は死ぬ』って意味らしいけど、いちいち日本語で解釈を付けるのもどうかと……」

 個人的には「アブダカタブラ」よりは数倍マシだと思う。なにより言葉の響きが格好いい。中二病バンザイ!

「云ったはずだ。魔法を導くことができなければ意味はないと。必要なのは、己を守り、敵を殲滅する為の力を持った呪文じゃ」

 それは正論だと思う。ラビにとってはお遊び半分の呪文など、容認できるはずがないのだろう。

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