第三章【非日常と邪悪と猫】

第6話 「ごめんなさい。わたし、やっぱり魔法使いになれなくていいです」

 それは毛並みのフサフサした黒いネコ耳の付いたカチューシャだった。

 たしか数年前にどこかのテーマパークで買ったことを思い出す。

「えー? なんで、よりにもよってコレなのよ!」

 わたしが不満なのは、ラビからそれを装着しろとの指示を受けたからだ。そんなものを日常的に装着できるわけがない。

 わたしだって羞恥心くらいは持ち合わせている。

「しょうがないじゃろ。それが一番魔力を込めやすいのだから」

 鏡に映った自分の姿を見て、頬が熱くなっていくのを感じる。これじゃまるで罰ゲームだ。

「これって絶対につけないとだめなの?」

「魔力が安定するまでじゃ。汝の魔法が暴走したらとんでもないことになる。それに、これは敵の姿を認識するのに役立つのじゃ」

 本来なら魔法少女のアイテムはマスコットから授けられるのが基本だ。しかし、ラビは既存の物をリサイクルしただけだった。手抜きにも程がある。

「だって、これで街を歩いたら頭のおかしい人だよ。とってもマニアックな人だよ。その手の店にスカウトされちゃうよ! その手のお兄さんにストーカーされちゃうよ!」

 鏡を見ていて空しくなってきたわたしは、目を閉じて元凶であるカチューシャを外す。

 このカチューシャは大昔、仲良しの友達とテーマパークへ遊びに行った時に買ったもの。

 当時ならまだしも、日常でこれを装着する勇気はない。テーマパークの中だからこそ、堂々と着けられるのだから。

 それをラビが「これは魔力の制御に丁度良い」とマジックアイテムへ変えてしまったのが発端。

 さらに「魔法を使いたいのならこれを着けるべし」と鬼畜なことを言い放つ。

「ごめんなさい。わたし、やっぱり魔法使いになれなくていいです」

 告白してきた男の子を振るように、頭を深々と下げた。

「今更何を云う。汝に選択肢などないのだ。事態は緊急を要するのだぞ」

 だがラビは容赦なかった。一度は望んだ魔法使いだが、自分が考えていた魔法とはまったく違っていたのだ。できるならクーリングオフを適用したいくらいだと、密かに思う。

「ええーん。動けないぬいぐるみの癖に、言うことだけは偉そうだ」

 わたしは涙目になりながら地団駄を踏んだ。

 その時、頭上を風が通り過ぎる。それはとても奇妙な事であった。部屋の窓は閉め切ってある。扇風機もエアコンも稼働してはいない。

 なんだか胸騒ぎがする。

「いかん。我の居場所を気付かれたか」

「え? 何?」

よこしまなるものだ」

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