天界司書結城沙織 終章 RISING SUN  後編

 「あ、後は……、あんたの出番よ!」

 「うむ!」


 マーラを倒したあたしは、ネコ好きの神に目で合図を送る。

 そして、金のしおりで男の魂を叩き出す。 


 アラブ人の男は肉体から魂が転げ出した。


 彼の目の前にはターバンを巻いてドルマンを羽織った神が居る。

 しかも、腕を組み威厳は抜群だ。


 ――何時の間に、着替えやがった?!


 その出で立ちから一目で誰だか判ったようだ。

 男は頭を地面に伏して神に祈りを捧げていた。


 「مون احمق هو !」


 ネコ好きの神が、男に向かい何やら怒鳴りながら一喝する。

 ――聞いた事の無い言語なので内容は判らないが、あまりブチ切れに髭が天をついていた。

 怒声の度に髭がゆさゆさ揺れていた。


 神に怒鳴らて居る男は、恐怖のあまりガタガタ震えながら土下座をしていた。

 そりゃそうだ、神に直接怒られるなんて、人類史始まって以来の事態だろう……。


 しかし、マジでこの神怒ると怖いなんだけど……。

 そう言えばこの神は、軍人としても優秀だったのよねぇ。




 暫く怒鳴られた後、本体に戻った男は一目散に部屋から出て行った。

 ――そして、夜明け前の街を駆けて行く。


 その様子に、安堵した表情を見せる神。


 「沙織さんお世話をかけました、彼は今から自首して来るそうです」

 「良かった」


 彼の表情を見て、あたしも胸を撫で下ろす。 


 「でもさ、肝心の爆弾・・は?」

 「それも、在処を全部言うそうです」


 髭をさすり、彼は自慢げに言って居る。

 しかし、何か引っかかる。……言葉が通じないんじゃない?


 「自首して、在り処を言うのは良いけど言葉は通じるの?」

 「そう言えば、彼は日本語は堪能じゃ無かったですね!!」


 彼の返事に目が点になる。

 そして一言。


 「この、あほう~~~」


 

 あたし達は全速力で追いかけていった。


 交番に着いた。

 レディースの様なガラの悪い婦警が男の対応していた。


 「المذنب هو لي ! قنابل أريكا ......」


 男は必死の形相で、在処を切々と婦警に訴えていた。

 だが、まったく言葉が通じていない。


 案の定、婦警の宿直しかいないので、通訳はできてないようだ。

 しかし、体に巻いた爆弾を脱いで置いて有る。

 その為、冗談ではないのがわかっているようだ。



 「てめぇ 日本語で喋れ! 日本語で!! 」


 彼女は締め上げながら、魔王の形相で男を問い詰めている。

 その姿は殆どヤクザ。 

 ――いや、今のヤクザよりは確実に怖い!!


 さすがに通訳も爆弾処理班も此の時間帯なら来るまで時間がかかるだろう。

 アプリの自動翻訳ソフトも言語の種類が判らないとお手上げらしい。


 この状況を、あたしとネコ好きの神で見ている。


 「あんたは言葉は判るよね?」

 「もちろんですよ……。」


 この神は、この男の言葉が判るらしい。

 しかし、伝える方法が無い……。

 ど~したら良いの?


 その時、婦警がこっちの方を見て話しかける。


 「お前、言葉分かるなら翻訳しろ」


 この婦警もだれかの本体なの?

 ネコ好きの神は頷くと、爆弾の場所をいい始めた。


 「この男が仕掛けた場所は、~~高校のロッカー、小学校の……

 ……――爆発のタイムリミットは夜明けと話して居ますね」


 余りの爆弾の数の多さに、婦警も男を締め上げる手を緩めて唖然としていた。


 彼が話した場所は全部で10カ所以上だろうか?

 まるで、ボンバー〇ンの様に彼一人で仕掛けまくったようだ。

 ――しかも、リモコン無しと言うおまけ付けで!


 本体に戻れても、一人でまわりきれそうにない。

 しかも、爆発のリミットは夜明けと言う事だ。


 どうしよう…。

 一人、二人じゃどうしようもない……。

 あたしのシナプスが絶望的な答えにたどり着く。


 答えは3番……。

 ――阻止は出来ない……、現実は非情だ……。


 思わず、力が抜けて崩れ落ちそうになる。

 そんな……。



 「沙織さん、みんなでやれば何とかならないかしら?」

 「……だれ?」


 振り返ると、背後にアマテラスが居た。

 いや、アマテラスだけじゃない、他の神々に仏も大集合しているようだ。

 交番が神無月の出雲状態になっている。

 いや、仏が居る分だけこっちが豪華だろう。



 ネコ好きの神は、髭をさすりながら口を開く。


 「……そうですね、爆弾はコードを切るだけで止めれますからね」

 「じゃ、本体に戻ったら手分けして止めて行きましょう。 詳細は後で本体に伝えるから、みんな頑張りましょう!」

 「「「「「「「「「「お~~~!!」」」」」」」」


 アマテラスの鼓舞を合図に神+仏たちは本体目指して散っていった。



 「ありがとうございます。ネコ好きの神様に、アマテラス様」


 あたしは本体に戻ろうとする二人の神に頭を下げる。

 二人は振り返り笑顔で返事を返す。


 「お礼を言うのは、こちらの方です」

 「そうですね」


 マーラーの狙いは、憎しみを振りまいて自分の勢力を拡大する。

 その為に、大暴れしていたんだから。

 ――考えたら、名前を使われたネコ好きの神も良い迷惑だったのよね……。



 「所で、あたしの担当は?」

 「あなたは体に戻りなさい。 時間が無いんでしょ?」


 アマテラスの言葉にはっとした。

 ――あたしの方もタイムリミットが迫って居たんだ。


 「ごめん、 行って来ます!」


  あたしは振り返らずに、病院まで飛んでゆく。



 小汚い旧市街の路地。

 老夫婦が、爆弾を囲んで話して居る。

 しかし、鋏を持つ老人の方は爆弾に気が付いて居ないようだ。


 「どこにあるんだ爆弾が……」


 ボケをかます老人に、老婆は非情な突っ込みを入れる。


 「めが有れば見い このめくら爺。 目の前にあるじゃろう」

 「なにをこの鬼婆!!」

 「永遠の喧嘩の続きは、アマさんが言って居たこれを切ってからじゃのう……」


  老人は、爆弾のカラフルなリード線を切断した。


 ――夫婦喧嘩は尚も続いて居る。



 小学校の教室。

 一組の男女が居る。

 年の頃、高学年の金髪の少年と銀髪の少女だ。


 二人は懐中電灯片手に暗い室内を歩いて居る。


 「夜の学校こわいよ~」

 「ほっといたら、もっと怖いことになるんだぜ!」


 少女に檄を飛ばす少年。

 しかし、怯えた表情の少女は少年に尋ねた。


 「場所分かるの?」

 「頭脳派の俺に任せろ。……体は子供、頭脳は大人。 俺の推理によると……――此処だ!」


 彼は教卓の上に置かれた怪しげな紙袋を指差した。

 中には爆弾が入って居るようだ。


 「オレの推理に、間違いは無い!!」


 威張り腐る少年を横目に、少女はスマホを見ながら爆弾のコードを切断した。

 そして、彼女は口を開く。


 「やる事をやらずに威張るなんて、精神年齢は幼稚園児でしょ?」

 「……」




 女子高の職員室。

 真面目そうな女学生と、禿校長と、カルそうな金髪教師が頭を悩ませていた。


 「どこにあるのよ……」

 「アマテラスさんの話では、ロッカーと言う話ですが……」

 「Oh! ロッカーだけでも、いくつ有ると思って居るんですか?」



 彼女の話からすると、爆弾が見つからないらしい。

 その時、教師が頭を光らせて画期的なアイデアを抜かした。


 「こんな時のビデオじゃナイデスカ~。何か映っているかもですね」

 「それよ!」


 ビデオを確認すると、不審人物が2年の女子更衣室に進入していた。


 「どこだこれじゃ分からないでしょ?」

 「心配有りませんよ、中も撮影してあります」


 不安そうな表情を浮かべる女生徒に校長はニヤリとする。

 ――そして、リモコンを取り出し画面を切り替える。


 写っていたのは、男が爆弾をロッカーに仕掛ける姿。


 「有るのは、ここです!」

 「ありがとう、パパ」


 ……さらに画面が進んだ。

 そこには、女生徒がが下着姿で着替えを刷る姿がうつっていた。

 デカメロン、プチアップルパイ、パイ一杯の特盛映像である。

 ――更には、彼女たちが悪戯っぽく胸をもみ合う姿まで。



 その画面食い入るように見つめる教師の隣で、二人は硬直する。

 そして、彼女はぽつりと校長に言い放った。


 「あなたの娘に生まれて恥ずかしい……。 後で此の件はママとしっかり家族会議ね!!」


 女生徒が走り去って行く後で、校長は青ざめながら禿頭を光らせがっくりうなだれた。


 「終わった……」



 パンチパーマの薬剤師が街を走っていた。

 サンダルの足音がバタバタ響いている。


 「沙織の罰当たりにもほどがある。 殴られるわこ、き使われるわ、今日は仏滅だ…。」


 ぶつぶつ文句を言いながら、走り抜ける。

 彼に向かって、白衣を着た優男が話しかけた。


 「本当の意味で仏滅になりますよ。うちの担当がんばるしか無いでしょう」

 「……仕方ない、栄養ドリンクでもよこせ」

 「はい、後で給料から引いときますからね」

 「……鬼か……」



 アマテラス製薬社長室。


 「敵さんも派手にしかけてくれたね……」


 切れ長の目をしたクールビューティの女社長がビルの部屋から外を見ている。

 その視線の先には、白み始めた街をあわただしく走り回る神々の本体の姿があった。

 そして、振り返り彼女は社員に檄を飛ばす。


  「時間が無いから、手配通りみんな急いでお願いね」


 その檄に、ヤンキー風の社員や役員、事務員が答える。


 「おk 姉貴」

 「御姉様がんばるね」

 「「「「「「うぃ~す」」」」」




 「やれやれ、一時はどうなるかと思いましたよ」


 髭ずらの親父が走りながら呟いた。

 隣を走る、神父の様な男。

 さらに後ろには、フリーターのような人も追いかけて居た。


 「そうですね、彼女のお蔭で何とかなりそうですね。 終わったら、一服どうですか?」


 神父は煙草を取り出して、髭ずら親父に話しかける。


 「無事済んだらな」

 「こうやって、三人で協力するのは初じゃ無いんですか?」


 フリーターの様な男の問いに頷く2人がいた。


 「たまには、こうやって一緒にやるのも良い物だな」

 「同禿」

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