天界司書結城沙織 終章 RISING SUN 中編
あたしが図書館に戻ると館内は騒然としていた。
夜中にもかかわらずだ。
有名どころの神様連中が右往左往している。
アマテラスやクシナダ、フレイに、果てはバロンとランダも居る。
まるで神々のオールスター感謝祭の様相で、更に蜂の巣を突いた騒ぎだ。
その様子に、さすがのあたしも不安になってきた。
一体何が有ったのよ?
「沙織さん、大変なことになってます」
オーディンが顔色を変えて話しかけて来た。
ただ事じゃないのが表情から判る。
「何事なの?」
「大変な事が起きました、奴らの大攻勢です」
「なにそれ?」
「時間が無いのです。 本体に戻れるようになったのなら、大至急入って町から逃げ出してください、みなさんも本体を避難させるように言ってます」
オーディンは息を切らせながら話した。
どうやらテストの前日、何もしなかった位、相当ヤバいのはだけは伝わって来る。
「まったく意味が解らないんだけど?」
事態が飲み込めず不安顔を浮かべるあたしの側でヘルは話し始めた。
「マーラーが一気に魂を獲得する為に何かやるんでしょ?」
そう言えば、あたしが戦乙女ワルキューレになってから、まだ一度も本アカシックレコードをマーラーの勢力に渡していないんだっけ。
だから、大攻勢をかけて獲得する作戦か。
「ヘル、あなたの言うとおりです、気がついたのは少し前でした…」
オーディンは説明を始めた。
彼が説明したのは、同時多発爆弾テロ計画。
某、事件の様に街の至るとこに爆弾を仕掛けて、多くの人間を殺傷するという話だ。
犠牲者は全部爆発したら数千……、万の人間が死ぬかもしれないと言う規模らしい。
まさか、あたしの住んでる町で起きるなんてね。
予想外の事態に、全く現実味が湧いて来ない。
いつぞやの大地震で大津波と放射能汚染とおなじ。
宇宙人が攻めてきて、某ビルが崩壊するくらい現実味は無いけど、オーディンが言うのだから起きるのだろう。
でも、自分でも驚くくらい冷静だった。
そして、表情を変えず自分でも予想しなかった言葉を吐き出していた。
「阻止は出来ないの?」
「時間がありません。しかも数が膨大で何個仕掛けたのやら…」
彼は表情をくもらせた。
あたしはオーディンを締め上げながら尋ねる。
「あたし達は逃げ出せば良いけど 街のみんなは?」
「仕方ありません…。
お気の毒ですが、ファルに倒され残しを転生させるしか……。」
オーディンは沈痛な表情で言葉を出している。
その姿を じと~っと睨み付けるヘル。
オーディンの説明は、人間は見捨てるって事ね。
転成させるときに残されていた人たちの顔が浮かぶ。
――冗談じゃないわよ!!
「これも神のおぼしめし」
突然が聞こえた。
振り向けば有名どころのネコ好きの神様が髭をさすりながら言っている。
――まるで他人事のように。
こいつは、なにかあればいつも神をだしにしてるけど、あんたも神でしょうが。
「冗談じゃないわよ、そんなのは認めないわよ! あたしが全部救ってみせる!!
まだ時間はあるでしょ?」
「そうですね…。」
ネコ好きの神は髭を撫でるのを止めた。
そして、目を細めて話し出した。
「……まだ、夜明けまでには時間はありますね。 やってみますか……」
「仕掛けたのは、だれか判るの?」
その時、大手の神が横槍を入れて来た。
「ネコ好き神の派閥の信者がやったんですよ」
ぼぐっ!!
あたしは、その神を全力で殴りつける。
全力で殴ったので、その神は壁まで吹き飛び逆さまの状態になっていた。
そして、あたしは神を睨み付けながら喋り出す。
「派閥はど~でもいい。 どいつがやって、そいつがどこに居るのかと聞いてるのよ?
手前らが追いつめるから今回の事が起きたんでしょうが? お前も責任重大だ!!」
「神を殴っても良いと思って居るんですが?」
「神がひっくり返って居るなら 神じゃないでしょ?」
「?」
「神(GOD)がひっくり返ったら、犬(DOG)でしょうが?」
「そんな馬鹿な!!!!」
「犬! 殴られたくなったら、とっとと場所を言え!!」
あたしの剣幕に有名どころの神は、おびえながら仕掛けた男の場所を抜かした。
「某ボロ住居の…」
わかってるなら、とっとと言ってよねぇ…。
時間がないのに……。
その様子を呆れた様子で見ている他の神々。
ネコ好きの神様は、無関係を装って一言抜かした。
「そうですよ、これも常日頃からのおこないが…」
「やかましい!」
ぼぐっ!
「じゃあこれも神の罰よ!」
あたしはこっちのネコ好きの神も裏拳で殴りつけた。
その様子に、彼は目を丸くした。
「バチがあたりますよ」
「ど~ぞご勝手に!!」
「私を殴ると、テロが起きますよ」
「もう既に起きてるし! てめぇも、管理不行き届きだろうが? 責任とれ責任を!!」
「何をしろと?」
「てめえしか出来ない事があるでしょう?」
「ぐぇ~~」
何の事か解らない彼を、あたしはヘッドロックしながら図書館を引きずって行く。
行き先は地上。
その様子を、ほかの神も呆れながらみている。
「そういえば、私たちの大切な事を忘れていましたね。 私達は全部同じものと言う事を」
アマテラスが目を細めてぽつりと言った。
”
あたしは地上に行きながら考える。
隣には、某ネコ好きの神。
ヘッドロックされた神の教義は平和主義。
なのに、男は過激な暴力を行っている…。
そもそも、犯人一人だけなら神々の力を合わせれば阻止くらい簡単に出来たはず。
なのに、なにも出来ないと言うのは……。
いやな予感、いや確信がした。
”
あたし達は地上に着いた。
吹けば飛ぶようなぼろい一戸建ての一室。
聞いた場所はここね。
其処には、アラブ系の彫の深い男がいた。
年の頃20代。目は殺気だっている。
こいつが仕掛けた犯人らしい。
部屋じゅうにプラスチック爆弾や 電子部品 タイマーなどが散乱している。
爆薬の空き箱から類推すると大きな町一つを塵芥にできそうだ。
どこから集めたのやら……。
あたしは判って居た。
こいつの背後に何か居る、ネコ好き派閥の大手宗教の教えだと大量殺戮は教義に反しているから。
つまり、コイツは何かに憑依されて操られている。
しかも、あいつらが排除できなかった…。
其処から導き出される結論は一つよ。
敵のボスがいる。
――其の前に、彼が纏っているオーラがまともじゃないのが見てわかる。
ネコ好きの神が青ざめて口を開く。
「沙織さん気を付けてください」
「判って居るわよ、コイツがまともじゃないって事くらいね!」
あたしは金の栞で男を叩こうとした。
――男から不気味なもやが現れ 異形の生物のように集まる。
それは、異形の物体だった。
大きさは部屋の天井に頭をつけるくらいの大きさ。
形はマツタケのつぼみ、それを包み込むように皮膚が包まれ血管がグロく浮き出ている。
足元には二つの球体が皮袋に包まれていた。
その姿から、あたしは一つの敵を連想した。
――マーラーだ。
数々の神話に登場し、悪の根源と言われている悪魔。
アーリーマンともサタンとも言われる存在だ。
その姿は根源的な恐怖を思い出させずには居られなかった。
あたしもあまりのプレッシャーに体が震える。
ネコ好きの神もこれには驚いた様子でくちを大きくあけていた。
「前にあったときは、ここまで強大で有りませんでしたよ!!」
こいつは悪意の固まり、こいつが生きていた時代とは人口も違う。
あの時より人口が増えれば悪意もふえるよねぇ。
マーラーは巨体を揺らし話しかけてきた。
攻撃してくる仕草は無い。
まるで蟻を目の前にした戦車。
戦う前からして勝ち誇ったような雰囲気だ。
「運命に逆らうつもりですか?
みなさい、この世界にあふれる死んだ目をした社畜達を……。
絶望に沈んでいる奴隷や社畜たちを解放するのですよ…その先にあるのは永遠の安息。
皆が望んで居る事です……そして我々と一緒になるのです……」
マーラーが言う事は真理。
だけど、腐りきった真理をイカ臭いこいつが抜かすのは腹が立つ。
みんな、今日よりも明日と、必死でもがいて居るんだから。
あたしは思わず叫び声をあげる。
「ふざけるな! てめえに言われる筋合いはないわよ!」
マーラーはニヤリと笑い、更に続けた。
「貴方も絶望したでしょう……絶望、怒り 疎外感、それが私たちを作るのですよ、幾らでも沸いてきます。人間が人間である限…」
ち~ん
彼がしゃべるのは遮られた。
あたしはマーラーの足下にある玉を蹴りあげたのだ。
――急所だったらしく、彼は青ざめて苦悶の声を上げる。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
彼はあまりの痛みに悶絶して転げまわって居る。
油断大敵と言う奴よ!
あたしは転げまわるマーラーを見据えながら、栞にありったけの力を込める。
そして、力を集め終わると灼熱の刃が現れた。
「言いたいのはそれだけ? そんな負の感情も人間だけど……それだけじゃない!
とっとと消えなさい目障りよ!」
――一閃!
あたしが剣でマーラーを真っ二つに斬り裂くと、彼は無数の本になって燃え尽きる。
そして、灰は窓から天空に舞い上がって行って居た。
浄化された灰は、きっと新たに人間として生まれ変わるのだろう。
そういえば、もうじき聖夜だっけ?
――来年は、ベビーブームになりそうね。
あたしは、後ろに居るネコ好きの神をちらりと見た。
後は、この人に頑張って貰うだけね……。
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