天界司書結城沙織 ワルキューレとしてのお仕事編 Best Friend 後編
あたし達は、かいとの部屋に居た。
ねこのマイケルさんの心残りを解消させて、心安らかに転生させる為に。
そんな最中、ヘルが袋からとんでもない物を持ち出して来た……。
――ゴスロリ服にネコ耳ヘッドドレス。
一体だれがこんな物着るのよねぇ?
「こんな服を着れるのは、貴方しか居ないわね」
「ちょっと待ってよ、こんな服着れる訳無いでしょ!?」
ヘルはとんでもない事を抜かしだした。
袋から出たのはネコ耳メイド服。
それを あたしに着ろと……。
今回のいや~な予感は此れだったんだ。
「沙織、やり方には文句をいわないはずだったわよね?」
「くぅ……」
「まさか、あなたともあろうものが二言はないわよねぇ?」
「あ……有る訳無いでしょ?」
ヘルは嬉々とした表情で鬼の首を取ったような態度を見せて居る。
こいつに言質を取られるとは不覚……。
あたしががっくり肩を落とした。
「サイズもピッタリな筈だから、覚悟を決めて着なさい」
「何処で着替えるのよ、着替える場所無いでしょ?」
「どうせこの子には見えないし、居るのはネコと私だけでしょ?」
「そう言う問題じゃ無いでしょ」
あたしは猛然と抗議した。
見えなくてもこんな人目の付く所で着替えれる訳無いでしょ?
しかし、ヘルはすまし顔で答えた。
「気になるなら、着替え用のテントもあるけど?」
「…負けました…」
ヘルは何が何でもあたしにこの服を着せたいようだ、テントまで用意するなんてねぇ。
どうやら、これは逃れないらしい……。
――覚悟を決めて着替えるか。
あたしはそれを 嫌々ながら着て見た……。
””
――結果……。
「はぁ……」
あたしはガラスに映った自分の姿を見て自己嫌悪してため息をついた……。
ゴスロリファッションで、手にはネコ手袋、耳付き、尻尾アクセサリーあり。
何が悲しくて、私が黒猫メイドの様な姿なのよ!
どうみても、ネコ耳メイド喫茶店員じゃん!
――しかも首輪をつけている。
繋がってるリードはヘルが持っているし……。
一方ヘルは、エナメルの服に黒のブーツ。
まるで女王様スタイルだ。
しかし、体型が合わないのでスカスカだ。
「似合ってるじゃないの沙織、これならうまい具合にかいとに伝わりそうだわ」
「……あんたに言われても嬉しくも何とも無いわよ」
「ネコの姿はあんたにはまり役よ、今から練習しないとねぇ」
ヘルは、にやにやしながらあたしを見ている。
彼女はリードをおもいっきり引っ張った。
首が痛い!
それに、あたしはペットじゃない~~!!
「痛いわよ!!」
「返事は『にゃんにゃん~ご主人様』といいなさい!」
さらにリードを引っ張るヘル。
「なんであたしが?」
「やり方には文句をいわないはずよね?」
「――そうは言ったけどねぇ……」
「なら何も言わずに、『にゃんにゃん~ご主人様』と言いなさい」
ヘルは更にリードを引っ張り蹴りを入れてきた。
このガキめ……!!
「ヘル、痛いわよ!」
「聞き分けなの無い子ね。 ネコなら、ご主人様痛いにゃ~んと言いなさい」
あたしが猛烈の抗議にも関わらず、ヘルは更にリードをぐいぐい引っ張って居る。
マジで痛いんだけど!!
――この際仕方ない、言おう……。
あたしは仕方なく、可愛い口調で口を開いた。
「にゃ~ん、痛いですご主人様。リードを緩めて下さいにゃ~ん♪」
「よし、それでよいのよ!」
ヘルは満足そうな表情であたしを見ていた。
こいつめこれをやりたいがために、どこからかこの服を苦心してさがして着たんだな。
――探し疲れて、カウンタの下で寝入って居た訳ね……。
いったいドコから仕入れやがったこんな服。
――くぅ……。
ネコ耳をつけて可愛らしく鳴くあたし……。
何が悲しくて、こんな恰好をしなきゃいけないのよねぇ!?
その格好に思わずがっくり肩を落とした。
ネコはその姿をみて猛烈に鳴きまくって居る。
――猛烈に抗議するように。
その様子に気がついたヘルはネコに訪ねた。
「どうしたの? ネコが大きいからどちらが主人か判らないと?」
にやっ。
あたしの口角が邪悪に歪む。
――ふふふw
こんどはアンタの番よ!
「ヘル~」
「沙織どうしたの?」
あたしは冷たい笑顔をしてヘルを見つめた。
自分でもゾッとするほどの冷たい笑顔だ。
――その笑顔にヘルも嫌な気配を感じたらしい。
彼女の頬が引きつった。
「あんたとあたしが役割交代ね」
「わたしは嫌よ…」
「あたしは着たんだから、あんたも着ないとねぇ、あのかいとって少年のためにもねぇ」
あたしはニヤリとして自分の首輪を外すと、ヘルの首に付け替えた。
まさに人を呪えば穴二つ!
自業自得とはこの事ね♪
今度はあんたが引き回される番よ!
「……かいとの為よねぇ……」
「そうよ、あの少年を元気にさせてマイケルさんを転生させないとねぇ」
あたしが言うとヘルは嫌々ながら着替えだした。
”
――ヘルはネコ耳メイドに着替え終えた。
ゴスロリ服と、ネコ耳がベストフィットしている。
あたしより、数倍お似合いね。
そして、首輪にリード。
そして、あたしはリードを持って居る。
――あたしは袋に有った漆黒の服を着ていた。
「へる~。良く似合ってるわよ」
「沙織、あたしに、こんな恰好をさせて良いと思って居るの?」
ヘルはあたしをじっと見つめた。
「良いと思ってるから、やってるのよねぇ~」
あたしはそう言うと、ヘルのリードを引っ張った。
「覚悟しなさい、このネコめ!」
「沙織……痛いわよ……」
少し涙目になるヘル。
元はあんたが先にやろうと言ったんだからね。
でも、これならネコも文句無いでしょう?
あたしはネコの方を振り向くいた。
「にゃにゃにゃん♪」
ネコは嬉しそうに鳴いて居る。
尻尾も猛烈にぱたぱた振って居た。
まるで、ウエットタイプのキャットフードを貰った様に。
ネコが喜んでいるのがあたしにも伝わって来た。
「これならばっちりだそうです。」
「あんたに猫語わかるの?」
ヘルは訝しげに尋ねて来た。
あたしはネコが嬉しそうにな居ているのを指差した。
「見れば分かるでしょ?」
「……納得だわ……」
”
あたし達は彼が寝静まる深夜を待った。
月明かりが照らす中、漆黒の衣装を着たあたし。
傍にはネコ耳姿のヘルが居る。
――これで仕込みはばっちりね。
ベットの上ですやすや眠りに落ちている かいと。
あたしは かいとを金の栞で叩くと彼は抜け出した。
唖然とした表情の彼は、私たちを見るなり尋ねて来た。
「…お前たちはいったい?」
あたしが答える前にヘルが口を開いた。
「この女は血も涙も胸すら無い地獄の支配者ヘルボインよ」
「ヘルボイン?」
「そうよ、この黒服貧乳女は私を地獄に連れていくために来ているのよ」
ヘルは首輪を付けられ涙ながら彼に訴えている。
――ちらちらあたしの方を見ながら。
その姿は、名子役もびっくりのはまり役。
彼女は切々と訴えていた。
その発言にあたしは一瞬、目が点になった。
言うに事欠いて、このあたしを『地獄の支配者ヘルボイン』と抜かしやがった。
しかも、胸すら無いと。……――否っ!!
確実にあんたよりは有るわよ!
あたしの姿を凝視した かいとは唖然としている。
「 貧乳なのにヘルボイン?」
かいとは胡散臭そうに尋ねるとヘルは答えた。
「だから地獄の貧乳 ヘルボインなのよ」
彼は其処は納得したように頷いた。
そして、ヘルの方を向いて考えるような仕草を始めた。
「じゃあ お前はいったい誰なんだ?」
「わたしは、ここで飼われていたアンタの親友、ネコのマイケルよ」
「ま マイケル? 」
かいとはその言葉を聞いて半信半疑の様だ。
そりゃそうだ、いきなり現れて『私はあなたの飼い猫でした』と言っても誰も信じないでしょ?
しかもマイケルって雄ネコだったよねぇ…。
――むしろ信じる方がおかしい。
しかし、ヘルは何かいい方法が有るようだ、自信たっぷりに続けた。
「――マイケルしか知らない秘密を言えば信じて貰えるわよね?」
「何を知ってるんだよ?」
かいとは訝しげに尋ねて来た。
「貴方が最後におねしょをしたのは5年前の事だったわよね」
「な、なんでお前はその話を知ってるんだよ? しずくとマイケルしか知らない筈」
「だから、私がマイケルよ」
彼は目を丸くしながら泣きそうな顔になって居た。
「お前がマイケルなんだな」
「何度も言わせないでよ、私がマイケルよ」
ヘルはにゃんにゃんと、尻尾を振って見せた。
「お前に会いたかったよ~、親友のお前が居なくなってずっと寂しかったんだよ~~」
「わたしも貴方に会いたかったのよ」
かいとは泣きながら、ヘルの手を思いっきり握りしめた。
ネコの手袋に水滴が点々と付いて来た。
ヘルはすこし顔を赤くしながら口を開いた。
「あんたに会えたけど、すぐにこの貧乳の悪魔に地獄に連れて行かれることになるのよ」
「どう言うことなんだ?」
かいとはあたしを睨み付けた。
言うに事欠いて、貧乳貧乳とそこまで言うかな普通……。
みてろよ クソガキめ。
あたしは意地悪く微笑むと、ヘルを冷たい視線で見つめた。
そして静かに重い口調で語りだした。
「お前がいつまでもめそめそしているから運命が狂い、マイケルは転生できなくなったのよ」
「ぼくのせいで?」
「そうよ、あたしはマイケルを地獄に連れて行くためにきてるの!」
「嘘だろ?」
かいとが青ざめる中、あたしはリードを引っ張りヘルを数回けった。
「このバカネコ、とっとと地獄にいくわよ! 」
ヘルは涙目になりながらあたしの耳元に話しかけて来た。
「あなた覚えておきなさいよ……」
「お生憎さま、あたしはアンタほど頭が良くないのよねぇ」
あたしは更にリードを引き回した。
ヘルは「ぎにゃ~ふにゃ~痛いにゃぁ~~~」と涙目で鳴きながら更に続けた。
「本当なら、私はあなたとしずくさんの子供として転生できたのよ」
「!!!」
かいとは顔を赤くしながらびっくりしている。
「あなたが何時までも立ち直れないで居るから、あなたとしずくとの間の運命が狂ったのよ……」
「僕としずくの運命が狂ったのか?」
「結ばれる運命が結ばれなくなって何処にも転生出来ない私は、地獄におくりつけられて永遠に苦しむ事になるの……」
ヘルは泣きまねをして、うらめしそうにかいとを見ている。
彼はヘルの話を聞いて青ざめていた。
――自分の所為で、自分の親友の運命を狂わせて居る事に驚いているようだ。
「僕はどうしたら良いんだよ……」
「そんな事は自分で考えたら? あたしはこのネコを連れに来ただけだらねっ!」
あたしはヘルを蹴りながら引き回した。
さっきの件の恨みを込めて!!
おらおらおら~。
――どがどがどが!!
「とっとと地獄の責め苦をうけなさい!」
「ギにゃ~ ふにゃ~ 痛いにゃ~ マジで痛いわよ」
「ネコの返事は~ご主人様だったよねぇ」
恨めしそうな視線であたしを見るヘルを差し置いて、あたしはさらに引きました。
「ご主人さま痛いですにゃぁ~」
「この性悪ネコとっとと地獄に着なさい。」
ヘルは多少涙目になっている。
まさに自業自得というやつよ。
本当ならあんたがあたしを引き回して、蹴りまくるつもりだったのよねぇ。
その様子を見ていた かいとがベットからあたしに突撃してきた。
そして、あたしを子供の力でぽこぽこ叩き始めた。
――その眼には、涙が浮かんで居る。
「マイケルを地獄に連れて行くな!! 僕はもう泣かないで立ち直るから!!!」
「ちゃんと立ち直るのだな?」
「約束するよ」
あたしが尋ねると彼は力強くうなずき返事を返した。
――先程のうじうじした様子は微塵も無い。
もう大丈夫そうな感じがする。
その様子に、部屋の隅で様子を伺って居たネコのマイケルも目を潤ませている。
彼は安心したようにあくびを始めた。
――もう、大丈夫そうに見える。
「そう言うならマイケルを転生させる事にする、良かったわねマイケル」
「ありがとう、ヘルボインさん」
あたしはヘルの首につながって居た首輪を外した。
「あなたも頑張りなさい。 マイケルを失った心の痛みは貴方が彼に注いだ愛情の裏返し……あなたの深い愛情を受け取ったマイケルは幸せな生涯だった筈よ。 そして今度は……」
かいとは俯きながら何かを考える仕草をしている。
そして、静かに口を開いた。
「最後にマイケルにお別れを言わせて貰ってもよい?」
「勿論よ」
かいとはヘルを軽く抱きしめると 呟いた。
ヘルは赤くなっている。
「いままでずっとありがとう、でも少しの間お別れだね」
「あんたと暮らしたのも悪くなかったわよ。 後あんたの幼なじみにもちゃんと謝っておきなさい、ずっと心配してくれたんでしょう」
「しずくの事だよね? 今からすぐに謝ってくるよ」
そこでカイトは目を覚ました。
彼は空の餌箱を見ながら呟いた。
「夢? ――何でも良いよ……マイケル合いに来てくれてありがとう……。 すこし行って来るね」
彼は窓を開けると、2階の屋根をつたって三軒先の家に所に向かって行った。
そして、2階の窓を軽く叩いた。
――こんこん♪
暫くすると、寝巻姿のしずくが首をさすりながら出てきた。
彼女は首の周りが赤くなっている。
「こんな夜中に何のよう? 大体検討は付いてるけどねぇ」
かいとは眠そうな顔で出て来たしずくに、思いっきり頭を下げた。
そして申し訳無さそうな口ぶりで口を開いた。
「今までわがまま言っててごめん! それと、何時も来てくれて居てありがとう、明日からはちゃんと学校にいくよ」
しずくは意地悪そうな口ぶりで返事を返した。
――しかし、顔は嬉しそうに緩んでいる。
「あんたの足りない頭でも、行く気になったのね。結構なことね」
「足りない頭と言うな」
「じゃあ 幼なじみのよしみで阿呆の頭でも分かるように、言ってあげましょうか?」
「阿呆でもない…」
あたしは遠目に彼らを見ながら呟いた。
「やっぱりあの子性格最悪よねぇ」
「……中身はいい子のはずよ」
ヘルは照れ臭そうしている。
後は、マイケルさんが転生したら終わりよね。
「マイケルさん、もう心残りはないよね?」
あたしが尋ねると、彼は嬉しそうに尻尾を振ってにゃんにゃん言って居る。
「沙織、このネコさん、もう転生しても良いらしいわよ」
「じゃ 本アカシックレコードを貸して貰えるかな?」
あたしは近寄って来たネコの本アカシックレコードに白銀の栞を差し込んだ。
「にゃ~ん♪」
ネコは嬉しそうに鳴くと風に溶けて行った。
”
「さっき、まいけるの声が聞こえた気がする」
かいとは月明かりが照らす夜空をふと見上げ、耳を澄ませていた。
しずくはそんな彼を呆れ顔で見つめながら優しい視線を送って居る。
「何タワケた事を抜かしているの…。そんな頭に蝶が舞ってる子はあたしが一生そばで監視してあげるわよ」
あたし達は、上空から二人の様子を見ていた。
――鬼嫁と冴えない旦那になりそうな予感なんだけど丸く収まりそうな感じがしている。
「こちらも良い感じになりそうね」
「滅茶苦茶を言っても心の奥ではつながって居るのよ」
「ベストフレンドって、そんな物なのよね」
「沙織、あんたとは、なれそうに無いけどね……」
お互い顔を見合わせる二人。
「そりゃねぇ、お互い性格最悪だしねぇ」
「言えてるわね」
あたし達は図書館に向かって羽ばたいて行った。
白銀の月が照らす中、冷たい夜風が町中を吹き抜けていっている。
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