天界司書結城沙織 ワルキューレとしてのお仕事編 HERO 中編

 「逝く~!!」


 絶叫しながらあたしは猛スピードで地上まで向かって居る。


 『キュ~~~ン』

 空気を切り裂く音が聞こえる。

 翼を展開して居ても速度は変わらないみたい、依然猛スピードで頭から地上に向かっている。



 ――どんどん地上が近づいて来る。


 ここまで急がせる理由って何よ?

 ……――理由は一つね。 

 ファルが本アカシックレコードを狙って居る。

 そうなると戦いは避けられないわ。



 落下地点に目を向けると黒服の男が見える。

 ――彼の年の頃は30代前半――そして不気味な笑みを浮かべていた。

 漆黒のスーツを纏い、頭には黒い帽子、その手には黒光りする剣。

 そして、男が握る剣からは漆黒のガスの様な得体を知れない物を漂わせている。


 上空からでも嫌な気配をビンビン感じた。

 闇夜の様に暗く、氷の様に冷たく……――そして深海の様に果てしなく重い。


 ――間違いない、ファルだ。


 奴は漆黒の剣をふりかざしていた。

 地上に居る男を斬り付けようと静かに歩を進めている。


 アイツは本アカシックレコードの持ち主、赤沢あかざわ 七瀬ななせを狙って居るぽい。


 ――でも、ここで彼を斬らせる訳には行かないのよねぇ。


 「どうするかな……、そうだ!」


 あたしは翼を縮めてさらに落下速度を上げた。

 剣を前に突き出し、ファルを斬り払う体制を整える。


 ファルを斬り払った後、地上すれすれで飛行方向を変え無事着地する計算よ。


 「上手くいってよね!」


 あいつは、すれ違いざまの初太刀で倒すのがベスト。

 もし外した時は……――正攻法で倒すしか無いわ。


 ――やるしかない!


 『ひゅん!!』


 ファルをかすめる様に飛行!

 そして、すれ違いざまに切りつける――。


 ――だが……。


 ……手ごたえが無い――躱されたかな?

 あたしは体をひねって、体勢を立て直し着地に備えた。

 奥義ネコひねり!


 『かりがりがり~~~』


 足の裏が大地を捉えながら、猛烈に摩擦音を放っていた。

 多少足の裏が熱い……――けど無事着陸成功。


 あたしは、ファルと七瀬ななせの間に着陸した。

 どうやら間に合ったぽい。



 「まちなさい!」


 ファルは叫び声を上げたあたしに気が付いたようだ。

 奴の動きが止まった。

 そして、剣をこちらに突き付ける。



 ――そして彼は、暗く重い口調で話し始めた。

 ……感情は持ち合わせて無いのか無表情だ。


 「……戦乙女ワルキューレですか?」

 「それが何か?」

 「よほど邪魔するのがお好きなのですね」

 「此方のセリフよ! 面倒な仕事を増やさないでよね!!」



 ――好きで邪魔している訳じゃ無いわよ。

 あなた達が本アカシックレコードを破壊するから戦うだけよ

 本アカシックレコードは人の思いの固まり。

 人の思いを踏みにじる奴は許さない。



 「……わたくし達も面倒な事は好まないのですが……」


 ファルは帽子を被りなおすと空気が変わった。

 スサノオと戦った時の様な張り詰めた空気。


 ――まるで、ガラスの破片が付きつけられる感覚だ。

 息もするのが苦しい。

 これが実戦なの?


 ――くる!!



 ファルはいきなり間合いを詰め、剣を下から振りぬく。

 ――あたしは半歩体を右に移動させた。


 『ヒュン』


 鼻先を斬撃が通り過ぎる。


 皮一枚でファルの斬撃を躱せた。

 あたしが思って居た以上に体が動いた。


 ――スサノオとの実戦が生きてる、これならやれる!


 「ほう なかなかやりますね!」

 「それはどうも!!」


 無表情なファルをあたしは蹴り上げた。


 ――蹴りは綺麗に顎に吸い込まれていく。

 油断大敵ってやつよ!


 ――蹴りは顎先の急所を直撃!

 あたしの会心の一撃!!



 ファルは、にやりとした。

 ――効いて無い?


 彼は蹴り上げたあたしの足首を掴んだ。

 奴の体温が伝わる――氷の様に冷たい。


 あたしは足を持たれて逆さまにの体勢になった。


 ――蝙蝠みたいな恰好……――否。

 白い翼だから、華麗な白鳥が吊るされる姿?

 ――どちらにしても、これは多少ピンチ!?



 「先代に比べて、戦い方に品が有りませんね」

 「品? 何それ? そんなセリフは勝った後に言ってよね!」

 「まあ良いでしょう、これで終わりです」


 ファルは剣をあたしに突き刺そうとしている。

 剣先が此方の方を捉えていた。


 ……これで、逃がさないと言うつもりなんだろうけど、予想済なんだよねえ……。

 逃げれないのはファルも一緒よ!


 「これじゃ、あんたも逃げないよね?」

 「!?」


 あたしはニヤリと口角をあげた。

 ――逆さまの体勢からファルに追撃の横薙ぎを放つ!


 『ザクッ』


 ……手ごたえあり!


 ファルの胸の辺りに黒い煙亜があがる。

 ――奴はぐらりと揺れた。


 「くっ! やりますね。 今日は私たちの負けです……」


 彼は黒い霧になって消えて行った。

 後には何も残って居ない。

 ――居るのは、あたしと本アカシックレコードの持ち主の七瀬のみ。



 翼を羽ばたかせて着地する。

 あたしは小さくガッツポーズをした。


 「はあ、はあ、はあ……、 勝てた!!」

 まだ息が上がって居る。 



「そういえば、あまりに急いだから周りを見て無かったわね……。 此処は何処なの?」


 あたしは辺り見渡した。


 遠くの空には夕日に照らされて居る摩天楼がみえる。

 そして近くに目をやると、住宅街が広がって居た。

 あたしがファルと戦っていた場所は住宅街のコンビニ前の駐車場か。

 ――コンビニの入口近くには綺麗な花束があった。


 「ここは大都市に隣接した町の住宅街のコンビニってとこね」

 あたしはぽつりと呟いた。


 まだ夕方早いせいか、人どおりはけっこうある。

 女学生らしい人が店に入って行った。




 残されたあたしと七瀬ななせ。


 しかし、豚の様な男ななせは身動きしない……。

 周りが見えて無いようだ。



 「沙織 上手く勝てたようね」

 「なんとかね」


 見上げると、犬ふぇんりるに乗ったヘルが頭上から話しかけて居た。

 彼女も七瀬が無事で上機嫌のように見える、声の調子が明るい。

 余程この男が重要人物だったようね。


 「――この男は、散らす訳にはいかなかったから」

 「何故?」

 「あたし達が求める人間だから」


 ヘルの言葉の意味がわからない……。

 ――どういうこと?

 こんな豚が??


 「あんたの言葉の意味判らないけど?」

 「本を見なさい」



 ヘルは薄笑いを浮かべて本アカシックレコードを指差した。

 あたしの無知を楽しんでいるように。


 多少のムカつくんですけど~。 

 ――高い所から話しかけられると更に……。



 本アカシックレコードを読んで見た……。

 彼の最後のページは……。


 ――――して、――――の最中に不運にも死亡。

 彼のあまりの死にざまに、思わず声が上がった。

 (あまりの変態度に自主規制)


 「なにこれ? 変態じゃない? しかもエロ物書き? まるで自来〇?」

 「それは余りにも失礼よ……」


 あたしの矢継ぎ早の発言にヘルは顔を引き攣らせていた。

 でも、あの死に様だと変態にしか見えないんだけど。

 ――……でも、この男に何かあるの?


 「変態をあつめるの?」

 「おばかね、判らないなら構わないわ。 さっさとやる事をやりなさい」



 あたしは赤沢 七瀬に本アカシックレコードを手渡すと

 七瀬は阿呆のような表情をしていた。


 「オレは此処で何を」

 「…………」


 あたしは言えなかった。

 そんな恥ずかしい事なんて口が裂けても言えないわよ!

 ――――な事をしている最中で死んだなんて!!!


 ヘルは犬から降りて、あたしの近くに降りて来た。

 何か言いたげな表情だ。


 「さっさと転生させなさいよ」

 彼女はぽつりと呟いた。


 言われなくても判って居るわよ……。

 この男が重要人物な意味が解らないけど早速転生して貰わないとね。



 「と とりあえず 転生してもらうので宜しいですね?」

 「構わないであります!」

 「じゃあ、本を出してもらえます?」

 「これで有りますか?」


 七瀬は軍隊の様な口調で答えて本をこちらに差し出した。


 さっそく本に白銀の栞を……。



 その時コンビニから少女が出て来た。

 ――その手には花が持たれている。

 彼女は事件現場であるコンビニ入口に花をささげ始めた。

 ……つまり、あたし達のすぐ傍に。


 こんな場所に花を捧げるって理由は一つよね……。

 此処で事件に巻き込まれて死んだ人間の悼むため。


 ――つまり……この変態ななぜに花を手向けている訳よね……。

 また嫌な予感がバリバリするんですけどぉ――。



 あたしがそっちを見ているのに七瀬も気が付いたようだ。


 「あの少女がどうしたんだ?」


 あたしが答える前に少女は呟き始めた。


 「もしかして、あなたがあの小説書きだったの?」



 その様子を見た七瀬はあたしの方を向いて口を開いた。

 彼は何か思う所が有るようだ。

 不信感たっぷりな表情を見せて居た。


 「もしかして、あの少女はオレに花束をささげているのか?」

 「そうよ」


 ヘルは返事を返した。

 その返事を聞いて彼は、さらに顔をしかめている。

 全く意味が解らないようだ。


 「おい、オレは褒められる事はしてないぞ?」

 「じゃあ、確かめて見れば? このまま見れば判るわ」


 きたよ……。

 あたしの嫌な予感が確信に変わった。



 「あの……、転生は?」

 「まだやらない、真実が判るまでな」

 「はやく転生しないと此方も困るんですけどぉ……」

 「俺の死が避けれぬ真理なら、それを受け入れ最善となる方法をとるのが最良の手腕であろうが!?」


 あたしが恐る恐る尋ねると七瀬は『真実が判るまでは転生しない』と言い切りやがった。


 し・か・も!


 真理をずばり言いやがった。

 ――くう……、こいつ一体何者なの!?


 しかし、ヘルは沈黙を保って居た。




 少女は俯きながら続けた。


 「貴方が死んでから更新が止まったから、そんな気がしているの。 あたしの勘だけどね……」


  少女の話を聞いた七瀬は呟いた。


 「――確実に俺だな、でもこいつはオレの事が良く判ったな」

 「何か心当たりでも?」


 あたしが尋ねると、七瀬は少し考える仕草をした。

 そしてヘラヘラしながら照れ臭そうに口を開いた。

 ――こいつ、絶対に何か心当たり有るよ。


 「何も無いであります。 だが、気になるので真相を確かめても宜しいで有りますか?」

 「構わないわよ、見てらっしゃい」


 ヘルは平然と見て来いとお抜かしになられたけど、転生させないとあたし達は帰れないんですよ?

 そして、彼女は更に続けた。


 「あなたの様な方はVIP待遇だから」

 「こんなエロ物書きでもVIPとは、緩いでござるな」

 「ええ、私を甘く見ないで……あなたの本当の姿は」


 ヘルの言葉に七瀬の顔から緩んだ表情が消えた。 

 そして、真剣な表情に変わって居る。

 彼は遠くをぼんやり見つめる感じで呟いた。


 「昔の話――……でござる」


 少女は更に続けて呟いた。


 「――あなたに救われ者です……」


 一体この人らに何が有ったの?

 謎が深まるばかり……。


 暫くすると、少女は何処かに向かい始めた。

 ――追いかけるあたし達。

 さらに謎は深まるばかりだった。

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