天界司書結城沙織 ワルキューレとしてのお仕事編 HERO 前篇

 夕方の図書館前広場。

 ここは意外と広く草むらになっている。



 そこであたしとスサノオが剣を持って向き合っていた。

 あたしは、動きやすいようにキュロットスカートにTシャツ。

 彼は作務衣の様な服を着ていた。


 ――お互いの手には、剣の代わりにガマの穂が持たれている。



 今日はスサノオさんにお願いしておいた日。

 ――剣を教えて貰う為ね。

 あたしはここ暫く、司書が終わった後に戦闘訓練をやっていた。



 「今日はお願いします」

 「怪我すんなよ?」


 スサノオは不安そうな表情を浮かべる。


 「でも、なんでガマの穂なの?」

 「先端が重くて、さらに脆くて細くてしなやかな物で練習しておくと、良いフォームが身に着くんだぜ」

 「だからガマの穂と言う訳ね」


 一瞬あたしは考えた。

 振り回すのは、バットじゃ無いんだけどぉ……。

 ――あたしが習いたいのは剣よ!?


 でも、彼スサノオが剣を持ってあたしの練習に……――ヤバい!!

 ――ファルに殺される前に死んじゃう!!

 炭酸を飲んだ後にゲップが出る位確実に殺される……。


 ――仕方ない、この際ガマの穂で教えて貰おう。


 あたしは軽く会釈をすると彼も頭を下げた。

 そして、お互い剣を抜いた。


 「こい!」

 「お願いします」


 練習とは言っても真剣そのものだ。

 凄まじい威圧感プレッシャーが彼から放たれている。

 ――空気が痛い程、張り詰める。


 さすが破壊神という所か。



 ――でも、そうじゃないと意味が無いわね。


 応援と称して、ギャラリーも結構いる。

 何時ものロキにフレイア、後はスサノオさんにくっ付いてきた、クシナダとオロチ連合……。

 彼らは固唾をのんで成り行きを見守って居る。



 彼らには、あたしの練習を何時もの遊びに思われてるかも知れない。

 でも、あたしは真剣なんだけど。



 あたしは、剣を強く握りしめ、先日の事を思い出していた。


 この前、あたしはファルと初遭遇した。

 何の気配も出さずに現れたアイツ……。

 あたしは何もできずに奴に背後を取られてしまった。


 ヘルが居たから向こうが逃げ出したけど……。

 ――あたしだけでファルに遭遇したら確実に殺られていた。



 今思い出しても身震いがするわね……――くやしい!!



 そんな訳で、あたしはクシナダに頼み込んでスサノオさんに剣を教えて貰う事にした。

 ――正直言って、あたしが破壊神に鍛えて貰うのは無謀に近い。

 幼稚園児が大学の講義を受けるようなものだ。


 でもファルの強さが判らない以上、彼に鍛えて貰わないとね……。

 スサノオと互角に戦えれば、ある程度は善戦できる筈、たぶん。



 何せ、ファルに負けたらタダじゃ済みそうにないからね……。


 ――死。

 いや……――もう死んでるから消滅するのかな?




 「何を考えてるんだ? ぼ~っとしてるとこっちから行くぞ」


 ――はっ!

 スサノオの声で我に返った。


 彼は待ちくたびれたような表情をしていた。


 「行くわよ!」

 「何処からでも来い」

 「お言葉に甘えて」



 あたしはスサノオに突進した。

 しかし彼は、あたしの行動を読んでいた。

 スサノオの斬撃があたしの頭上に降り注ぐ。


 ――まるで空気が生き物の様に鳴動している。

 当たると相当痛いのは確実……。


 「甘い、バレバレだぞ」

 「それはどうかしら?」


 あたしはニヤリと微笑んだ。

 しかし、スサノオは表情を変えない。

 その光景にギャラリーのオロチ一家とクシナダは息を飲んで見持っている。


 「あたしの武器は剣だけじゃ無いのよ!」

 「なに?」


 唖然とするスサノオ。

 ――あたしの武器が判らないようね


 次の瞬間、あたしは翼を展開した。



 この展開は彼も予想外だったらしく、スサノオは目を丸くして固まって居る。

 ギャラリーからも歓声があがる。



 ――隙ありっ!


 あたしは地面を蹴り急加速!!


 ――刹那、スライディングのように体を地面に這うように飛行。

 そして、一瞬にして彼の足元に入り込んだ。


 突然の出来事にスサノオは反応できずに居た。



 チャンス!


 いくらスサノオでも、ここは間合いの外よねっ!

 あたしの口角が上がる!!


 「これもあたしの武器よ、これであたしの勝ちねっ!」


 

 あたしはスサノオを低い体勢のまま、下段から一気に蹴りあげた。

 そして、自分の体が一回転し宙に舞った。

 ――サマーソルトキックと言う技よ!


 あたしの渾身の鋭い蹴りは、空気を切り裂くような高音を放った。

 まるで、青い閃光だ。


 ――この間合いなら躱し様がないでしょ?


「あなた、危ない!!」

「兄貴!!」×8


 ギャラリーからどよめきが上がる。

 だが、スサノオ余裕で半歩下がって蹴りを躱して居た!


 「ふっ!」

 「躱された!?」


 あたしは思わず息を飲んだ。


 そんな馬鹿な!?

 あの間合いで外すなんて嘘でしょ? 

 恐るべし、スサノオ。


 そして、蹴りあがった体勢でバランスを崩したあたしに彼の反撃が来た。


 「蹴りの鋭さはあるな、 だがまだまだだ!」


 スサノオが剣を水平に薙ぎ払う!

 ――疾風が吹き抜ける。

 その斬撃は、空気を切り裂くような鋭さだ。



 受けれる? 


 否っ! 


 彼の斬撃を受けたら剣が両断されてしまうわね、躱すしかない!!


 「沙織かわせ!!」

 「お姉さま危ない!!」


 ギャラリーのロキとフレイアからも躱せの声が上がって居る。


 ――どうする?


 ――翼?

 そうだっ!!


 ――ぱたぱた。

 あたしは羽ばたいて空中でとどまりった


 きんっ!


 ――足元を斬撃が駆け抜ける。

 ……躱せた!!


 「あぶな…」


 あたしは思わず呟いた。


 あたしはそのままスサノオに蹴りを入れる。


 「甘い!」

 しかし、その前に彼は体を半分ひねり蹴りを躱す。

 そして、彼の斬撃があたしを捉えた。

 ――袈裟懸けだ!



 「くっ! 躱しきれないっ!!! 」


 ――そして、彼のガマの穂があたしの頭を叩いた。


 ぽふっ♪ 情けない音があがる。


 「勝負あり! 勝者スサノオ!」



 クシナダが旦那の勝利名乗りをあげる。


 ギャラリーからは惜しみない拍手が上がっている。

 ――やはり強いわね……。


 「ずいぶん腕を上げたな」

 「どうもありがとう」

 「この位、動ければどんな相手でもボロ負けはしない筈だぜ」



 スサノオはあたしの成長ぶりを褒めてくれた。

 ちょっと嬉しいかも。


 ――この数週間の特訓で少しは実践慣れしかもしれない。

 ある程度は体が勝手に動くから……――これならファルにも負けないかな?


 「沙織 ずいぶん強くなったよな」

 「ロキありがとう」

 「其れなら、司書辞めても破壊神やれそうだな」

 「おぃ……」


 あたしはロキを睨み付けた。


 ギャラリーたちはあたしの成長ぶりに目を見張って居るみたい。

 めいめいに破壊神とか言ってるけどいい加減にしてほしいわね。

 ――あたしのお仕事は司書なんだからねっ


””



 そう思って居ると、嫌な気配が漂った。

 黒いそして燃え盛るような気配……。


 ――この気配は? ヘル?


 ……――気配が読めるようになって居る!?

 これも修行の成果かかもねっ♪

 思わず笑みがこぼれる。



 「沙織、こんな所でチャンバラして遊んでいる暇は無いわよ。 し・ご・と!」

 「ヘル、居るのは判って居るわよ」

 「判って居るならさっさとしなさい」


 あたしは声の方に振り向いた。


 そこには犬ふぇんりるにまたがったヘルがいた。

 犬にまたがり、その手には本が持たれている。


 犬に乗るってお前は某アニメのヒロインかっ?

 あたしは心の中で突っ込みを入れた。


 「お仕事?」

 「ええ」

 「大至急付いて来て、本は渡しておくわ」



 あたしは犬にまたがったヘルを追いながら大急ぎで地上に向かう。

 急降下で地上まで、ほぼフリーフォール状態。


 ――余程急ぎなのね、彼女の態度に余裕が無いのが判る。

 そんな今度の相手はだれよ?


 「ヘル」

 「なに?」

 「今度の持ち主は?」

 「赤沢 七瀬 ♂32歳 死因は事故死」


 ヘルはあっさり死因を教えてくれた

 彼女の声に焦りが見える。


 ――なによ? 余程ヤバいの?



 「沙織! 剣を展開して!」


 ヘルがいきなり叫んだ!

 いきなり何よ!?


 あたしは金の栞に意識を集中させ剣を作る。


 「作ったわよ?」

 「私が加速させるから 地上に居る男を護りなさい!!」



 ちょ!!

 この落下速度に更に加速させるつもり?

 ――死ぬでしょ!?


 確実に!!

 あんたは鬼か?



 ヘルはあたしの下降速度を急加速させた。

 ――これは、もう墜落よ!!


 死ぬぅ~~!

 死んでるけど 更にしぬぅ!!

 体の周りを空気が凄い速さで流れる。 



 あたしの目の前に地上が一気に近づいて居た。

 目の前には、地上の景色が一気に大きくなっていく。


 「――ファルに殺される前に墜落死するぅ~~~!!」


 あたしは凄い速度で地上に向かって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る