天界司書結城沙織 ワルキューレとしてのお仕事編。 ミッシングリンク 経たれた鎖 上

 「今日は暇だな」


 あたしは、ぼんやり書架の本を整理しながら呟いた。


 数日前、ワルキューレの力を先代から受け継ぎ初仕事が終わった。 

 あれから数日、戦乙女ワルキューレの仕事は無く、天空図書館の司書の仕事をしている。



 先日あたしは初めて魂が次の世界に行く瞬間に立ち会った。

 ――彼女は次に何処に転生? 

 ……彼女の残された思いは、何処へ?


 本を整理しながら色々な事があたしの頭を巡る――

 いくら考えても、答えは出ない。 



 ふと、あたしが上の方を見上げると、例の扉がはっきり見えた。

 ――真っ白い作りの扉。

 図書館の上空にあるアガスティアエリアの入口だ。


 戦乙女ワルキューレの力が有る今なら、あたしだけで入れる筈よね……。

 ――でも、今は一人で入る気にならない。


 本アカシックレコードは人の思いの塊。


 それを受け止めるだけの心があたしに有るのかな……。

 ――こんなあたしに人間の魂の干渉なんてやっていいの?

 あたしは静かに考える……。


 ――でも、その答えもまだ出ない……。



 「沙織、何ぼーっとしてるんだ? 元気無いんじゃね?」

 「ロキ、何よ?」


 あたしがぼーっとしてたらロキが話しかけてきた。

 何か不安そうな口ぶりだ。


 ――あたしが元気無いように見えたのかな?

 でも、心配してくれた気持ちが嬉しいかも……。


 「初仕事終わってから、前より優しくなってないか?」

 「何よ、その言い方。 元から優しかったわよ」

 「前は平気で殴ってきたのが、そんなのが最近全然無いからさ……」


 ロキは、あたしの微妙な変化に気がついているみたい。

 ――でも、一体あたしの何処が変わったと言うのよ?

 私にはまだ判らない……。


 「じゃあ、今からあんたを殴ってあげようか?」

 「前言撤回、前と一緒だった」


 もしかしたら、先代の言っていた言葉――私の場合は地獄だった……。

 ――ううん……、なんでもない。


 脳裏に浮かぶ不安を振り払うように、あたしはロキに笑顔を返した。



 「ロキ~ あたしの所に来たって事は何か用事でもあるの?」

 「本題忘れてた。 本の貸し出し希望来てるぜ」

 「それを早く言いなさいよ、急がないと!」



 あたしは翼を展開して大急ぎでカウンターまで飛んでいった。

 ぼ~っとしていても司書のお仕事は来るのよねぇ……。

 急がないと――お客様は神様ですからねっ!


””



 あたしは貸し出しカウンター着いた。

 既に彼女は居た。――アルティミスだ。

 今日の彼女は真っ白な特攻服……では無く、カジュアルな服装をしていた。


 前に会った時はすごく怖い服装だったのに……――普通の格好をしたら綺麗な方なのよねぇ。

 何時もこの格好で図書館来てほしいわね……。


 彼女と本は結び付かないけど、一体今日は何の本を借りに来たのよ?

 な~んか嫌な予感がした――あたしの勘だけどねっ。



 「お待たせしました、今日はどの本の貸し出しでしょうか?」


 あたしは笑顔で会釈すると、軽くお辞儀をした。

 ――彼女も感じよくお辞儀を返し、そして口を開いた。


 「噂は聞いてるよ、おめでとう沙織さん」

 「何をですか?」


 一体何の事? 

 そう言われても、あたしは一瞬唖然とした。

 彼女から祝福される事何かあったっけ?

 ――う~ん、何も無い筈。


 「戦乙女ワルキューレ継承の事だよ、先代から戦乙女ワルキューレを受け継いだんだろ?」

 「もう知ってるんですか?」

 「当たり前だろ? チーム内で情報は回ってるよ」


 ――恐るべし彼女達の情報網。

 クシナダ経由でスサノオ一家~アルティミス連合って伝わったのね。

 彼女達の情報拡散速度はツイッ〇ーに負けて無いな。



「あんた達もうちらと一緒だね」

「どういうことです?」


 アルティミスは微笑みながら、あたしを見ている。

 ……あの笑顔何なんだろ?

 ――気になる……。


 「うちらも代々の魂を受けついているからね」

 「魂?」

 「見な、これがあたし達が代々受け次いで来た魂さ」


 彼女はポケットから鉢巻を取り出した。

 使い古されているが綺麗に折り畳まれて居るようだ――鉢巻には代々の総長の名前が刺繍されている、


 「これは鉢巻?」

 「こいつは総長の証。 初代から受けついた魂は、次の世代に受け継がせなきゃ消えてしまう。 次の頭に受け継がせるのが、現役頭ヘッドのあたしの役目さ」


 「なるほど……」


 あたしも妙に納得してしまった。

 で、一体何の本を借りるんだろう……。


「え~っと 本を借りに来られたのでは?」



 「別に用が有って来たわけじゃ無いんだよ。 個人的な用事で頼まれごとがあって、あんたのツラ拝んでおきたくて来ただけさ」

 「どう言う事ですか?」


 ――え……。

 あたしのツラ拝みに来たってどう言う事よ。 

 まさか……、ケンカでも売りにきた?


 あたしの顔から冷や汗が流れ落ちた。

 これは大ピンチって奴!?


 ――でも 真相はすぐに判った。


 「あんたは此れからワルキューレとしてやってくんだろ? 後継者しおりに伝えるように頼まれた伝言を伝えたくてね」

 「え?」


 きょとんとするあたし。

 なんか知らないけど、ケンカ売られた訳じゃ無いぽい。 

 危機は去った――たぶん。

 そして、あたしは小さくため息をついた。



 彼女は表情を変えずに話し始めた。


 「仕事ワルキューレに感情を入れすぎるな……――それだけ。 アイツらに肩入れしすぎるとキツイよ」

 「どう言う事です?」


「まだ数回しかやった事が無いあんたには、まだ判らないと思う。 でも。時期にいたいほど身に染みてくるよ。 ――じゃ 強敵ともからの言葉、ちゃんと伝えたからね。」


 アルティミスはそう呟くとそのまま図書館から出て行った。

 ――いったい何なの。

 彼女の強敵とも――……まさか、先代 戦乙女ワルキューレ!?



 「沙織お姉様」

 フレイアはいきなり話しかけて来た。

 ――心配そうな顔であたしの顔を覗き込んで居る。

 ……どうしたのだろ?

 あたしも少し心配になった。


 「どうしたの、フレイア」

 「――お姉様は何処も行かないよね?」

 「どうして?」

 「戦乙女ワルキューレのお仕事は、精神的にも凄くハードなんでしょ? 私は心配なの……」

 「この位の事で音を上げる訳無いでしょ? あたしは、逃げぬ。 隠れぬ。 後悔せぬ。 アガスティアの管理がいくらのものよ♪」

「なら大丈夫そうね」


 あたしは笑顔で返事を返した。

 その表情をみてフレイアも安心したような表情を見せている。


 ――でも、人生と言う本を扱うお仕事の大変さは予想以上だった。

 本アカシックレコードの持ち主の思いの欠片をくみ取る大変さ……判ったような気がして来る。

 転生させた、彼女の涙を見てそう思う。



 そして、静かに時は過ぎて行った。



””


 夕方になった。


 そろそろ閉館の時間に近くなっている。 

 そのせいか、お客様はもう誰も居なようだ。


 ロキとフレイアも帰り支度をしている。

 あたしも荷物を纏めて帰る準備を始めた――このまま今日も図書館のお仕事は終わりかな?



 がさごそ……。

 頭上でなんか音がしている。

 嫌な予感がした。


 ――夕方にぎりぎりで来る要件――……。

 それは、だいたい厄介ごとと相場はきまってるんだからね。



「厄介事が来るとおもってたでしょ?」


 あたしがカウンターで荷物を纏めていると、上空でいきなり声がした。


 あたしが見上げると少女が漆黒の翼を羽ばたかせながら、此方を見下ろして居る。

 ――ヘルだ。

 今日の服装は黒いワンピース姿のようだ。

 ――ワンピースだから、下から見上げると彼女の黒い下着も丸見えに。


 ――ワンピースだから下から見上げると、下着丸見えなんだけどぉ……。

 あたしが言うべきか、言わぬべきかそれが問題よね。

 フレイアも言おうかどうしようか、迷っているみたい。


 ん? ――何処からかネコが駆け寄って彼女を見上げている。

 美味しいネタの嗅覚だけは持ってるんだよねぇ、こいつは……。

 ――このスケベネコめ。



 「ヘルの黒パンツ丸見え~ 恥ずかしくねえのかよ!?」


 ロキがいきなり叫んだ。

 ――そりゃそうだけどさ、ダイレクトに行くのもいかがなものかとw


 「……ロキ……、――あんたなんか死ねばよいのに……」


 ヘルがぽつりと呟きながら、降りて来た。

 彼女もさすがに恥ずかしいのか、スカートを手で押さえて顔を赤くしていた。

 恥ずかしいなら、普通に歩いて来たらよいのねぇ。


 「ばか オレがそう簡単にしぬかよ」


 ロキは悪態をついている。



 此奴が来たって事は、また例のお仕事?

 ――今日は平穏無事に過ごせる予定だったのになぁ……。


 「ヘル、こんなぎりぎりに何の用?」

 「……あなたの思って居た通りよ、本アカシックレコードの件で緊急に主神オーディンからの要請があったわ」



 あたしは思わずためいきをつく。


 「しかたないなぁ…… 下界に行けば良いのね」

 「ええ」

 「場所は?」

 「本アカシックレコードはここ。 場所はあたしが案内するわ」



 ヘルは本アカシックレコードをあたしに手渡すと羽ばたいて下界にいった

 ――仕方ないなぁ……。


 「二人とも後はお願いね」


 そう言うと、あたしも翼を展開し、大急ぎで彼女の後を追った。



 ――あたし達は地上に向かって降りて行く。

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