天界図書館深夜の怪  トイレの花太郎さん!?

 あたし達はアマテラス様を先頭に噂のトイレに向かった。

 ロキとフレイアとクシナダとアマテラス様の五人PTだ。

 図書館の奥に行く途中、ドアの手前でアマテラスは突然立ち止まった。



 「沙織さん、あなたは此処の図書館の仕事を始めてどの位になるの?」


 アマテラスは、急に真顔になってあたしに奇妙なことを聞いてきた。

 この方は、クシナダさんとかスサノオさんの組織の中枢に位置する方。

 そして、主神オーディンとも同格の存在の人物よ。

 (もっとも図書館ここだとあたしが一番偉いんだけど)


 表情は先程とは全く違う真面目な顔をしている。


 あたしもその表情に何かを感じて居た。

 その表情にロキもフレイアもクシナダも何も言い出せずに居る。


 「三か月ちょっと位かな?」

 「…だったら、そろそろ知っても良い頃よ」

 「何をですか?」

 「ここの図書館のもう一つの顔、アカシックレコードの事よ」

 「アカシックレコード?」

 「貴女は、主神オーディンにアカシックレコードも前任者の事も何も聞いて無いのね、まったくあのキツネオヤジ何を考えているの…」

 「……」


  その話を聞いて私は何も答えられなかった。

  来た時には既に前任者は居なかったし、アカシックレコードも話すら出て来ない……。

  ロキもフレイアもその件は何も話さないから。



 アマテラスは冷めた目をしている。


 多分この人は何かを知ってるんだろうな……。

 でも今のあたしには関係ない事よ。

 此処であたしが神を殴って仏を蹴りながら、司書をして居る事が何より大事だから。


 あたしの表情から何かを察したのか、アマテラスはいきなり口を開いた。


 「今日は肝試しに来たのだから、さくっと残りの怪奇現象を解明しましょう。

 クシナダ、次はトイレですすり泣く声がする話よね?」

 「はい義姉様、オロチのお兄様達が見たと…」


 この人いきなり何を言い出すのかと思ったけど、今回の目的から行くとちゃんと本題に沿ってるから悔しい。

 上手く話題を変えられたかな?

 この件は、今度時間が有る時に聞いてみよう。

 時間は幾らでも有る訳だからねっ。



 「クシナダ、行くわよ~~~!!

 この世界にも高天原の神の威光を示すのよ!!」

 「義姉様、待ってください!!」


 アマテラスは妙にハイテンションで図書館の奥に全力で突っ込んで行って居る。

 それに続くあたし達。


 こうなったらどっちがお目付け役か判らないわよ。

 さすが頭に太陽が浮かんでいる様なお方よねぇ…。


 あたしと、ロキとフレイアも彼女達の後を全力で追いかける。


 

”””



 アマテラスが図書館を駆け抜ける。

 その後ろを追いかけるあたし達。


 

 「おい、沙織」

 「どうしたのロキ?」

 「さっきユミルの石像の頭辺りで何か光ったぞ」


 そう言えば、石像が光るって怪奇現象も有ったっけ…。


 「きゃ~~~~~!!!

 お姉様、お姉様~~石像の目が光ってる!!!」


 フレイアが物凄い悲鳴を上げながらあたしにしがみ付いた。

 その小さい体からは考えられない位の発声量の悲鳴を上げている。

 その声はマンドレイクも気絶するするくらいの大音声(大根に聴覚が有る無しは置いておいて)


 あたしが石像の方を振り向くと……。

 石像の目が怪しく光ってる?!

 (まさか、本当にでたの!? 

 ユミルの亡骸の上に作られた世界だから、怨霊が出てもおかしくは無いんだけど)


 その表現は正確では無かった、石像の上に有る目が光っている。


 「みんなストップ!!

 怪奇現象の正体判明したわよ」


 あたしは石像を指差した。

 そこには、石像の頭の上で丸くなるネコが居る。

 そのネコは、物音で起きてこちらの方をじっと見ていた。(こいつが犯人だったのか)


 「あのネコ、昼間あたしの膝の上に居るネコよね……」

 「だよなぁ……。

 怪奇現象の真相は、判ってしまえばこんな物なんだよな」


 ロキとフレイアは呆れた顔でネコを見つめている。

 其処にアマテラスとクシナダも戻ってきた。


 「そう言う事ね、ネコは高いところがお気に入りなのよね」

 「義姉様、これで3個目も解決しましたね」

 「そうねクシナダ、所詮は怪談の真相としてはこんな物よ」


 アマテラスとクシナダは顔を見合わせて微笑んでいた。


 ロキが石像の目に反射テープでも貼り付けてるかと思ったけど、ネコが犯人とは意外な幕引きとなった石像の怪。

 このネコは、夜になったらネコ好きの神様の裾で丸くなって居るとばっかり思って居たけど。



 次の怪奇現象の解明はあたしが探索の主導権握らないと、誰が探索のリーダーか判らないわよね。

 ここは私が先頭を行かないとねっ。


 あたしはトイレの方に走り出した。

 ロキやアマテラス様が何か言って居るけど、聞こえないふりで突っ走る。


”””



 トイレ前に着いた。

 ロキたちは後ろに居る。

 あたしは、トイレには一番乗りを果たした。


 しかも、トイレではすすり泣く声が聞こえている、これは真相をする大チャンス。

 ふっふっふっ、この謎の解明はあたしの物よ!!

 あたしの口角が邪悪に歪む。(にやっ!)


 しかし次の瞬間、その希望はビルの爆破解体の様に一気に崩れ去った。


 トイレから声が聞こえている。


 しかし…。

 しかし……。

 聞こえているのは、殿方用のトイレの方からよ!!



 普通トイレですすり泣く声が聞こえるのは女子トイレの方だよねぇ。

 この場合は、声が聞こえるのは男子トイレ、出てくるのは花子じゃなくて花男?

 いや、花太郎かも……。


 今回はそこが問題じゃないのよ!!

 無視して入るか、入らないか其処が問題よ。

 プライドと羞恥心の挟間で心が揺れる、男トイレに突っ込む勇気を神様あたしに授けて~!



 「この場合、沙織は入れないよなぁ」


 後から来たロキは、にやにやしながらこっちを見ている。

 くぅ~。

 脳のシナプスがブスブス焼け焦げ始める感じがして、ロキをトイレの中に蹴り込んだ!!


 「判ってるなら、とっととアンタが入って調べて来なさいよ!!

 男はあんただけなんだからねっ!」

 「行けば良いんだろ、行けば……」

 「判れば宜しい!

 さっさと行って来なさい!!」



 ぶつぶつ言いながら、トイレの奥に入って行くロキ。

 その間に、アマテラス様やクシナダさんやフレイアも来たようだ。




 しばらく時間が経って彼はトイレの奥から出て来た。

 その表情は、何時ものロキとは違っている。

 まるでお通夜の様な感じで居た。

 一体何を見たんだろ?


 「ロキ、中に何が有ったの?」

 「絶対に言えねえ、男同士の約束だからな!!

 オレは絶対にあんな事はしねえ…」


 「何が有ったのか言いなさいよ、ロキ」

 「フレイアちゃんここは大目に見てあげなさい」


 フレイアがロキを問い詰めるのをアマテラスが制止した。

 一体中に何が?

 謎は深まる一方。



 しかし、その答えはスグに判った。


 暫くすると、ネコ好きの神様がトイレから出て来た。

 その眼は真っ赤に腫れている。


 「おや、アマテラスさんいらっしゃったのですか?

 お恥ずかしい所をお見せいたしました」


 ネコ好きの神がお辞儀すると、アマテラスもお辞儀を返した。


 「いえお気になられないでください……、うちの所も同じでしたからね。

 何処もトップと言うのは気苦労が多い物ですから」


 二人の神々はため息を吐いている。


 なるほどねぇ……。

 人々を幸せに導く為に考えた教えが変に理解されて、その教えが人々を不幸に導く。

 その教えを作った本人は変えようにも何も出来ないんだし、これは一番シンドイわよね。

 夜な夜なトイレで泣きたくなるのも無理は無い……。


 そうして、ネコは行き場を無くして石像の上に居たと言う事か。

 とりあえず、コレがトイレの怪奇現象の真相だったのね。



 ふと、窓の外を見ると何かとんでもない物が見えた気がする……。

 火の玉が凄い音を立てて飛んでいる!!!


 気のせい…。

 気のせいとして見なかった事にしよう……。

 そんな非科学的な物が有る訳無いからねっ!!



 そんなあたしの希望を打ち砕くように、火の玉は轟音を立てて飛び続けている。



 残りの怪奇現象は後2つ!?

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