天界図書館深夜の怪 司書は見た!

 夕方になった。

 日が傾き図書館も幾分暑さが和らいで来ている。

 あたしもロキもフレイアも少しは元気を取り戻している。


 それを見計らったように、クシナダさんが本を返しにやって来ていた。



 「沙織さん、この前借りたガーデニングの本返しに来たよ~」

 「おk~ すぐに処理するね」


 カウンターに座って居るあたしは手早く処理をしながら辺りを見回した。

 図書館の中は夕方になり、神の姿はクシナダさん以外は居ないようだ。

 本当に此処で怪奇現象起きてるの?

 半信半疑で彼女の顔を見た。


 「アマテラスさんから話を聞いたんだけど……」

 「その件なら、義姉様から聞いてますよ。

 オロチのお兄様達が夜中に此処を通りがかった時、怪奇現象目撃したと言ってましたよ」


 「怪奇現象?」


 「夜中にトイレですすり泣く声がしたり、図書館の中で何故か竪琴が鳴ったり色々あるようですよ」


 クシナダさんはオロチの兄貴たちが見た怪奇現象を説明しだした。

 彼女の話をまとめると、全部で7つ。


 1 夜中図書館のトイレですすり泣く声がする。

 2 図書館で夜中に竪琴が鳴る。

 3 石像の目が光った。

 4 夜中の図書館の窓から外を見たら、ぐもった男の低いうなり声と火の玉が飛んでいた。

 5 図書館前の池で、誰も居ないのに、夜中誰かが泳ぐような音が聞こえた。

 6 世界樹のふもとで夜な夜な樹を叩くような音が聞こえる。

 7 深夜の図書館に若い女性の幽霊が徘徊して居る。



 まるで学校の怪談の様な、レパートリーの多さ。

 本好きとは好奇心旺盛な人が多いのよね、あたしも例外に漏れず……。

 ここは司書として好奇心が疼くわねぇ。


 「この話聞いたんだけど、みんな好奇心が疼かない?」

 「沙織さん、もしかして怪奇現象の真相を確かめて見るつもりですか?」


 クシナダさんは、心配そうに此方を見ている。

 この方は少し怖がりなのよね。


 「勿論よ、図書館の司書として此処で起きている怪奇現象の真相を確かめなくっちゃね!」

 「沙織……、お前絶対に面白半分でやってるだろ?」


 ぎくっ!

 ロキはあたしに鋭い突っ込みを入れた……。

 目的の核心コア部分をヤシ〇作戦のように綺麗に打ち抜きやがった。


 私の心に10ポイントのダメージ!


 カウンタスキル 悪役令嬢の心得発動! 


 沙織は居直った!


 「そ~よ、あたしの趣味でやるんだけど、それが何か?

 あたしは此処では神なんだから文句を言うな!!」

 「汚ねぇ! 居直りやがった!!」


 ロキは悔しそうにしている。

 勝った!

 悪役令嬢のスキルは意外と便利……。


 「それが何か問題でもある?

 ロキ、あんたは夜中の図書館探索行くの?

 それとも、いかないの? 

 まさか、このあたしが誘っているから、行かないとは言わないよねぇ?」


 あたしがロキを睨み付けると、彼はうなだれた。


 「それは俺に選択の余地は無いって事だよな……」

 「その通り」


 まずは、ロキをゲット。


 「お姉様、私も行ってもいい?」

 「勿論良いわよ」


 フレイアも行きたそうにしてる。

 この子は普段は怖がりなのに、この位の年頃なら怪談とか興味ある年頃なのかもね。

 その姿を見ていたクシナダさんも目を輝かせている。


 「その話、私も参加しても良いですか?

 子供の頃の肝試しとか良くやったものよね~」

 「クシナダさんも?」

 「うん参加するわよ、うちの旦那ボディガードに連れて来たら安心でしょ?」



 破壊神のスサノオ様が用心棒に来てくれると凄く心強いわね。

 この方が来てくれると、何が出ても退治して貰えそうな感じがする。

 悪知恵のロキも居る訳だし、最強探索PTになりそう。


 「じゃ 今夜早速やるわよ~

 時間は今夜、日付が変わったら図書館前に集合ね」


 うなづく一同。

 後は、オーディン様にも話をしとかないとね。



 「オーディン様、今夜図書館で司書の仕事の一環として怪奇現象解明きもだめしするのだけど、大丈夫ですよね?」


 「う、うむ……。

 沙織さん、司書の業務に励んで下さい」



 オーディン様は顔を引き攣らせながら、此方を見ている。

 何とかこっちも許可ゲット。

 後は夜を待つだけよ。




”””



 図書館近くにある建物。

 其処は、あたしたちの宿舎にもなっている。

 その一室のベットの上で深夜になるのを待った。


 ほんとに怪奇現象って起きるの?

 あたしはベットに腰かけたまま、窓枠を掴みながら外を見上げた。

 窓の外には静かな夜空が広がり、辺りは静寂に包まれている。


 「沙織お姉様、そろそろじゃない?」


 同室のフレイアが此方の方を見ている。

 時間的にそろそろの頃か。


 「そろそろ集合時間のようね、そろそろ行くわよ」

 「はい、お姉様、寝ているロキを呼んできますね」

 「お願いね」


 その時、遠くで何かを蹴る音がしたような気がした。

 きっと気のせい……。



”””


 ロキを叩き起こしたあたし達は、集合場所の図書館入口に向かった。

 其処には既にクシナダさんだけが待って居た。


 「クシナダさんごめん、待った?」

 「少し前に来た所なので大丈夫ですよ」


 あれっ?

 たしかスサノオさん来ると言ってたけど、居なくない?

 二人は仲が良いので有名なんだけど、スサノオさんに何かあったのかな?


 「スサノオさんは?」

 「旦那様は酒飲み過ぎで起きてこないのよ」


 クシナダさんは照れ臭そうに口を開いた。


 なるほど……あの人の酒豪は有名だからねぇ。

 酒乱の気もあるし今回は来ない方が正解だったのかもね。

 そう思いつつロキの方を見ると、少ししょんぼりしている。

 彼とは暴れん坊同士相通じるものが有るのかもしれない。


 「あのオッサン来ないのかよ……」

 「旦那は来れないけど、代わりに義姉様に来てもらいましたよ」


 其処には、アマテラス様が居た。

 勿論きっちりとした恰好で。


 彼女の装備は、ヘルメットに登山服、手にはライトが持たれている。

 ちょ ちょっといくらなんでも其処まで重装備はいらないでしょ?

 その装備で崑崙や須弥山でも行くつもりなの?

 世界の果てまで行って〇の登山部に交じっても違和感ないわね。


「こんばんわ、沙織さん。

 弟たちが酒飲み過ぎて起きてこないのよ、私が代わりに来ました」


 「此方こそ宜しくお願いします」


 あたしがアマテラス様にお辞儀をすると、フレイアも続けてお辞儀をした。


 「アマテラス様、今日はよろしくお願いしますね」


 ロキはアマテラスに例の禁断の言葉を口にしそうになって居た。

 その気配を察知したフレイアはあたしの短パンの裾を引っ張っている。


 「沙織お姉様、ちょっとロキが……」


 あたしもそれで気が付きロキを睨み付けた。

 このくそガキは何と言う事ほざこうとしてるのよ。


 「おば……」


 その言葉を聞いたアマテラスの目じりが動き始めた。

 これはヤバい!


 「ロキ、『おば』、の次は何を言うつもりなのかなぁ?」

 あたしはロキの腕を思いっきりつねった。

 彼は仕方なく別の言葉にしたようだ。


 「おばんです……」

 「宜しい!」


 「ロキさん、こんばんわ」


 アマテラス様は笑顔を取り戻していた。

 危機は去ったようだ。



 「そろそろ確かめに行きませんか?」

 「行きましょう~」



 そうして、図書館の怪奇現象解明きもだめしが始まった。

 まず最初は直ぐ近くにある池の噂よ。



”””



 あたし達は池に着いた。

 其処の水は澄みきった水を湛えており、満天の星空を水鏡に映し出している。

 私達以外の気配はしない、辺りは静寂が支配していた。


 「おい沙織、何も居ないぞ?」

 「噂だからねぇ、酔っぱらった人が見間違えたのかもね」

 「オロチの義兄様たち、何時も酔っぱらって居ますからね……」


 泥酔のオロチ連合がへべれけになって、幻覚を見た可能性高いわね。

 それか兄弟の一人が池で暴れたのかも……。

 じゃあ、この噂はこれで一件落着かな?


 そう思うと、あたしもほっとした。

 肝試しで、実際に何か出たら洒落にならないものね。



 「図書館の中で、何か竪琴の音が聞こえません?」


 アマテラス様が図書館の方を指差した。

 一同図書館の方を向いて耳を澄ませると、確かに聞こえる。


 「ぽろろ~ん♪ ぽろろ~ん♪」


 物悲しい音色の竪琴の音が!!


 「でたぁ~~~!!」

 「きゃぁぁぁ~~~~!!!」

 「沙織お姉様~~~!!」


 突然の音色にパニックになるロキとフレイアとクシナダ。

 フレイアはあたしにしがみ付いている。

 あたしも腰を抜かしそうになった。


 「まったく、何を慌ててるんですか?

 私たちは、その音の真相を確かめに来たのでしょう?

 クシナダも狼狽えない、情けないわよ」


 アマテラス様は平然としている。

 さすが……。


 「そうですよね、音の真相確かめないと、今夜集まったのもそれが目的だからね。

 みんな行くわよ!!」




 みんなで図書館に乗り込み、音の発生源にたどり着いた。

 其処には暗がりの窓辺で竪琴が音色を奏でている。

 もちろん無人で鳴る訳は無い。

 誰かが竪琴を奏でているようだ。



 「これが、夜中に鳴る竪琴の真相なの?」

 「そうみたい……」


 あたしとフレイアは、その姿にくぎ付けになった。


 其処には、美男子のアポロン様が窓辺に腰かけて竪琴を奏でている。

 星明りに照らされた彼の姿は神秘的なオーラを漂わせていた。

 なんて美しい七不思議の正体。


 「すいません、図書館に夜中に忍び込んでお騒がせしてしまって」


 此方に気が付いたアポロンは深々とお辞儀をした。

 美男子だとその姿もかっこいい。


 「全然平気よ。

 でもこんな所で竪琴を奏でなくても、自分の家で演奏したらどうなのよ?」

 「…実は……」


 彼は、恥ずかしそうに事の次第を説明し始めた。

 家はアルティミス連合のたまり場になって居て、家で竪琴を弾くと妹アルティミスに家から追い出されるそうだ。

 それで仕方なく此処で練習をしていると言う事だった。



 「なさけねぇ……。

 妹に負けて家から追い出されるなんてな」


 ロキは呆れている。


 「アルティミスさん凄いのね、わたしも大きくなったらレディースに入ろうかな?

 そうしたらロキにも威張らせないで済むのに……」


 フレイアは真顔で話している。


 あたしの脳裏に、ネコで曳く車に特攻服を着たフレイアが箱乗りする姿が浮かんだ。

 彼女の4代目総長もさまになってそう。


 図書館で彼女が数世代前の不良の様に鉄パイプにチェーンを振り回す姿が目に浮かぶ……。

 これは却下!!

 断じて阻止しないとね。


 「フレイアちゃん、女の子はクシナダさんみたいにお淑やかじゃないとね」

 「沙織さん、期待裏切ってごめんなさい!!」


 クシナダさんは申し訳なさそうにあたしの方に手を合わせて謝った。

 いやぁ~な予感がする。

 むしろ確信と言うべきかもしれないけど。


 彼女は照れ臭そうに続きを話した。


 「私も前は連合でぶいぶい言わせてたから……。

 義姉様今だから言える事があるの、聞いて貰っても良い?」

 「どうしたの?

 あなたがレディースだった事くらい知ってるわ」


 アマテラスは彼女の告白にきょとんとしている。

 何の事か本当に検討が付いて無いみたい。



 「義姉さまの仕事場の屋根に崖から馬バイクを突っ込ませて大穴開けたのは、実は犯人は私なんです」

  突然のクシナダの告白に一同の目が点になった。

 アマテラスはアホウの様に口をぽかんと開けている。

 ロキもフレイアもフリーズしている。

 これにはあたしも次の言葉が出てこない。


 「私が事故っちゃって義姉様の仕事場の屋根に崖から馬バイクを突っ込ませて大穴開開けたんですけど、スサノオさんは、『手下の責任はオレの責任』って言って相談役のオモイカネさんも丸め込んで自分がやった事にしたんです」



 屋根に馬バイク突っ込ませて、けが人多数の天界の大惨事の真相はこうだったのか……。

 スサノオが度胸試しで突っ込ませたとばっかり思ってた。

 こんな所で明らかになる親分スサノオのカリスマ性、アイツ意外とやるじゃん。


 「義姉様、今まで黙ってて本当にごめんなさい!!」


 クシナダは申し訳無さそうに深々とアマテラスに頭を下げた。

 彼女はクシナダを怒るつもりは無さそうだ。


 「済んだことだし、私は気にして居ないわ。

 でも、もうそんな危ない事はしないでね」

 「はい、義姉様」


 いい感じで二人の仲が深まったようね。



 その様子を見ていたフレイアが口を開いた。


 「沙織お姉様、私今度は連合に入りたくなったな……」


 その話を聞いたフレイアは、今度は連合に入る気満々みたい。

 目を輝かせている。


 「連合もだめよ!!!」


 あたしは必死でフレイアを制止した。

 今度はフレイアが馬バイクにまたがり暴走する姿が目に浮かんだ。



 それを横目にアポロンとロキは小声で話し合っていた。


 「絶対に、フレイアは将来、族になるのは確定だよな……」

 「うちもそうでしたから……」


 そう言うと、二人ともうなだれた。



 天界図書館肝試し、2つの謎は解けた、残る怪奇現象はあと5個よ。

 次の怪奇はトイレですすり泣く声。

 謎に向かってあたし達は突き進む!


 天界図書館肝試し、今日は深夜に営業中。

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