神より怖いもの でも ここではあたしが神よ!
ヨモツシコメさんが駆け出して暫く経った。
あたしは司書の席に座ったまま静かに図書館を見渡した。
相も変わらず、何も知らないゼウスは未だにクシナダさんを口説いている。
自分の危機が迫っているのにねぇ……。
知らぬは、本柱ばかりなり。
まあ、あたしの知った事じゃないんだけど。
そう思いながら、近くに目落とすとフレイアちゃんが静かに寝ている。
もちろん彼女の膝の上に猫エンマ付きで。
ふぅ、どいつもこいつも……。
まあ、猫エンマは大目に見てやるか。
「ぱらら、りららりらり~~♪」
突然、天界図書館の外にゴッドファーザーのクラクションの爆音が鳴り響いた。
この雰囲気、一人や二人じゃない感じがする。
スサノオ一家のご到着!?
きたぁ~~~
あたしは目元が緩むのを抑えて平静を装った。
ふっふっふっ ゼウスめ今日こそ年貢の収め時よ!!
「沙織お姉さま、今の音何なの?」
騒音でフレイアちゃんが目を覚ましたようだ。
あたしはフレイアの方に目を落とす。
「起こしちゃった?
びっくりさせてごめん、でも何も心配ないからね」
「ううん、平気です沙織お姉さま。
所でロキは何処に行ったの?」
フレイアが心配そうにあたしの顔を覗き込んでいる。
あたしは図書館に佇む、一人の美しい女性を指差した。
何の事か解らず、きょとんとするフレイア。
「あの服、どこかで見た事無い?」
あたしがニヤリとすると、彼女も理解したようだ。
ロキがフレイアの服を着ている事を。
「あ~~~~~~ あの服は私のよ」
「ねっ、そう言う事よ」
事態を理解し、笑いを抑えるのに必死のフレイア。
膝の上に居るネコも狂ったように笑っている。(たぶん)
クシナダさんより美人に見えるのがちょっと悔しい。
さすがのゼウスも外の異変を察して、クシナダのナンパを諦めたようだ。
彼女から離れていった。
でも、別のナンパ対象を探している。
今度は美しい女性ロキに目を付けたようだ。
その様子を読書片手に軽蔑の目で見ている女神が居た。
ゼウスの娘アテナ。
彼女がため息交じりに呟くのが聞こえて来るようだ。
「ふぅ……。
あの人の娘で恥ずかしい」
この人は文武両道に優れる優等生タイプなんだよね。
あたしには敵わないけどねっ。
でも、思わずあたしとの間に冷たい火花が飛び散った。(たぶん)
「ぱぱぱ~ん♪ ぱぱぱ~ん♪」
今度はやけに景気の良いウエディングマーチのクラクションが、図書館の入り口の近くで鳴り響く。
その音で、フレイアは怯えた表情を浮かべて、あたしにしがみついた。
「今度は何が来るの?」
「フレイアちゃんは何も心配しないで大丈夫よ」
あたしは優しい笑みを浮かべて、彼女の髪を撫でてやった。
そちらの方におそるおそる目を向けると……。
其処には、白い特攻服を着て、木刀や鉄パイプで武装した女性の集団が図書館に入って来るのが見えた。
リーダーと思われる女性の特攻服の背中には、『天界連合 三代目総長』と刺繍が入れてある。
彼女は、一昔前の暴走族そのまんまの恰好だ。
きたぁぁ~~
レディース軍団アルテミィス一家。
初代のレア、2代目のヘラ、アルティミスと続いている最怖軍団。
この人たちまで来たら、あたしもゼウスの今からを考えたら気の毒になって来る。
「アルティミス、使って悪いわね、所でうちのアホウはどこ?」
裏番らしい女性が総長を従え、阿修羅のような表情で口を開いた。
その女性は黒いロングドレスを身に纏い、手には木刀を携えている。
彼女は、あたりに殺意の波動を漂わせている。
「ヘラの頭ヘッド上の命令は絶対ですから、あたしらを好きにって下さい」
特攻服を着たアルティミス達は深々とヘラに頭を下げた。
「じゃ、働いて貰おうか、旦那ゼウスを此処に連れ来な!!」
「御意!
おい、てめぇら、あのスケベ親父を探してきな!!」
そう言うとアルティミス連合の配下は図書館に散らばって行き、
総長のアルティミスは木刀を持ってこちらの方向に来ている。
ちょ……。
この人怖いんだけど……。
何もしなくても、漂っているオーラだけでも暴力だと思う。
「沙織お姉さま……」
フレイアちゃんは、がたがた震えながらあたしにぎゅっとしがみ付いて来た。
子供は、総長の特攻服姿見たらそりゃ震えるよね。
あたしでも、多少怖いから。
総長はカウンターの前に来ると、ゼウスの事を尋ねた。
「あんた、ゼウスを知らないか?」
「あそこにいらっしゃいますよ、今あの子をナンパしようとしているのがゼウス様です」
ゼウスを訪ねてきた彼女にあたしは、女装したロキをナンパしようとしているゼウスを指差した。
「ありがとう、司書さん」
そう言うと総長は、あたしに頭を深々と下げた。
あたしも小さくお辞儀を返した。
「どういたしまして」
この人達は、見た目怖いけど礼儀正しいのよね。
怒らせたら怖い人だけど。
「先代、見つけました、此処に居ます!」
総長の声が図書館に響き渡り、彼女はゼウスを指差している。
その声を合図にヘラがゼウスの元に駆け寄って行って行き、それにレディース連合も続いた。
さすがの彼ゼウスもナンパを諦め逃げ出そうとしている。
「あんたここで何してるんだ?
死ぬ覚悟出来てるわよねぇ!?」
ヘラが殺気を込めて、逃げ出そうとしているゼウスを捕まえ吐き捨てた。
「げぇぇ~~
許して下さい……!!」
彼は情けない声を上げている。
「誰が許すか!」
「其処の女の子の方から儂を誘ったんだ、儂は無実だ!
儂は被害者だ!!」
ゼウスは女装しているロキを指差した。
「なぁにぃ~~~!」
彼女たち視線が一斉にロキの方に向いた。
しかし、ロキは平然と答えた。
「あのオッサンから、僕もナンパされそうになったんだよね。
男の子なのに……」
「お前男だったのか!」
ゼウスは青ざめた。
「うん、正真正銘の男。
そっちの気全くなし」
さすがのヘラもこれには頭のブレーカーが落ちたようだ。
レディースの配下共々、アホウの様に大口を開けて唖然としている。
「先代しっかりして下さい!
お気を確かに!!」
「あ…ありがとう、アルティミス」
気を取り直したヘラは羅刹と化し、ゼウスをぼこぼこにしはじめた。
「あたしの魅力は男にも劣るっていうの?」
ぼごっ ぼごっ!!
彼女ヘラは彼ゼウスを殴りつけた。
攻撃回数で数えるより、攻撃密度で表す方が適当なくらい殴られている。
「これは間違いだ!!」
「間違いと言うのは、てめぇの存在自体が間違いなんだよぉ」
今度は彼女は彼を蹴りつけた。
「だれか助けてくれぇぇ~~」
ちらりとゼウスがアテナの方に視線をやったが、彼女は本を見ながら、横目で汚い物を見るような視線で彼を見ている。
「自業自得……。因果応報よ」
彼女のつぶやきが聞こえた気がする。
ぼこぼこにされて居るゼウスは、ヘラの隙を突いて、入口の方に逃げ出した。
「待てごるぁぁ!」
ヘラの罵声が響き、彼を追いかけて行った。
其れに続くレディース連合。
まさに修羅場の形相である。
図書館の入口に目を向けると、其処にはスサノオと元配下のオロチ連合の頭ヘッド7人が居た。
それに、オロチ連合の頭ヘッドの嫁でクシナダさんの姉7人も来ている。
「クシナダ、ヨモツシコメさんから連絡有ったけど大丈夫だった?」
姉たちはクシナダを心配そうにみている。
「来てくれてありがとう、お姉さま達。
あそこに居るスケベ親父が私をしつこくナンパして……
何度も断ったのに……」
クシナダはゼウスを指差して、スサノオの旦那に泣きついた。
「あなた~怖かったよぉ」
「なにぃ!」
スサノオは、仁王像のような表情をして彼の方に走ってくるゼウスを睨み付けた。
オロチの頭7人衆もヤル気まんまんの様だ。
「スサノオの兄者、俺たちの義妹を泣かされてこのままにするのかよ」×7
「あのオヤジにきっちり始末つけてやらねえとな……!!
きっちりケジメ付けさせて貰おうじゃねぇか!!」
そう言うと、スサノオはオロチの頭に目で合図を送った。
スサノオ一家はクシナダ8姉妹で繋がったファミリーだけあって、
連携は、ばっちりのようで、あっという間に入口を一家で封鎖した。
「逃がすんじゃねぇぞ!」
「おう!」×7
前門の虎スサノオ後門の狼ヘラ、横には、無慈悲な娘アテナ。
これは絶体絶命の大ピンチのゼウス。
残る逃げ道は……。
「助けてくれ!!」
そう喚きながら、ゼウスは青ざめた表情であたしの方に逃げ込んで来た。
やはりそう来たか。
前も後ろもダメじゃ、残る逃げ道は横に居る司書あたししかないよねぇ。
「顔色が優れないようですが、どうされましたか?」
「おい司書、悪い人たちに追われて居るんだ何とかしてくれ!!
助けてくれたら、儂の愛人にしてやっても良いぞ」
彼は、カウンターを乗り越えようとしている。
どうやら、あたしの椅子の後ろに隠れる算段の様だ。
こっちもあんたに来られたら困るんだよねぇ……。
しかも、この期に及んで、あたしに愛人になれとは、何処までも懲りない奴。
「カウンターは本を乗せるところです、土足で上がられると困ります」
あたしは乗り越えようとした彼を、椅子に座ったまま彼をの顎あたりを蹴り上げた。
勢い良く後ろに転げ落ちるゼウス。
彼は、捨て台詞を吐いた。
「司書の分際で何を!?
ここの図書館は客を蹴り飛ばしても良いのか!?」
司書の分際ぃ?
ぷちっ!! シナプスが焼けきれる音がした。
「司書の分際とは何だ?
神聖なカウンターを土足で乗り越えようとするんじゃねえよ!
そもそも、スケベなお前が一番悪いんだよ!!」
あたしはカウンターを飛び越えると、彼に追撃の蹴りを食らわせた。
苦悶の表情を浮かべるゼウス。
其処に駆けつける、アルテミィス一家とスサノオ一家。
「おっさん、血ぃ見る覚悟は出来てるんだろうな?」
「あんたここで、死ぬ覚悟出来てるわよねぇ!?」
「ヘラ様とスサノオ様、少しお待ちになって戴いてもよろしいですか?」
あたしはネコを被って二人に話しかけると、ゼウスの表情が少し明るくなった。
このまま、彼をこの場所でタコ殴りにさせても良いんだけど。
図書館で暴れられると司書のあたしとしては困るのよねぇ。
「なんだぁ?」×2
「ここで騒音を出されると、他のお客様のご迷惑になられます。
出来れば、外でお願いできませんか?」
「堅気の方に迷惑は掛けれないぜ(わ)×2
どうやら、解って戴けたみたい。
見た目怖いけど、中身は良い人かも。
「其処のオロチの頭の方、少し間を空けて貰えませんか?」
「ん? 良いぜ」
「このスケベオヤジ、出て行け!!!」
あたしはそう言うと、絶望の表情を浮かべたゼウスに蹴りを食らわせた。
彼は勢い良く図書館の外に転げだしている。
「まてぇ ごらぁ 逃がすかぁ~」
追いかけるヘラとスサノオ一家。
外では凄い悲鳴が聞こえて来ているが……。
まあ、自業自得。
「あんたやるねぇ。うちに来ない?」
アルティミスは此方を見ている。
スカウトだろうけど、あたしはこの職業が気に入ってるのよね。
「ごめんなさい 司書なので……」
「そっか、仕方が無いわね。
あんたなら4代目も狙えるよ、気が向いたらおいでよ」
アルティミスは残念そうに入口に走って行った。
「沙織お姉さま、アテナ様が本の貸し出し希望です」
声の方を振り向くと、フレイアがあたしを呼んでいた。
「すぐに向かいますね」
どうやら、アテナが本を借りに来ているようだ。
彼女の顔は引きつって居るように見え、その手には、解剖学の本が持たれている。
「本の貸し出しお願い出来ます?」
「少々お待ちください、処理しますね」
あたしは本の貸し出し処理を行った。
「この本、私が借りた事内緒でお願いしますね」
「良いですけど?」
「今度 親父ゼウスが恥ずかしい真似したら、私がその本に書いてある親父ゼウスの人体急所を思いっきり叩くつもりだから」
アテナは表情一つ変えずに答えた。
こわぁぁ~~~。
このタイプが一番怒らせたら怖いのかもね。
怒らせないようにしよう。
「お待たせしました、お持ちください」
「ありがとう、この件はくれくれも内密にね」
アテナは本を持つと裏口から外に出て行った。
「おい 沙織。
オレはもう何時もの服に着替えて良いよな?」
声の方を向くと、恥ずかしそうな表情のロキが其処に居た。
もちろん、着替える時間は無いのでフレイアの服を着たままで。
「今回はグッドジョブだったわよ ロキ」
あたしはロキの頭を思いっきり撫でてやった。
嬉しそうな表情を浮かべるロキ。
「オレはもう着替えるぜ、役目はちゃんと済ませたしな」
「あたしは良いけど、フレイアちゃんはそうも行かない見たいよ」
「フレイアがどうしたって?」
あたしがフレイアの方を指差すと、
其処には、ロキ見ながら笑いを堪えられないフレイアが居た。
「ロキ、私の服を勝手に着てたでしょう?」
「待てよフレイア、それは沙織が……」
「言い訳無用です、罰として今日一日その格好で居なさい。
私より似合うって許せないです」
あたしは更に追撃の一言を放った。
「今夜は、ヨモツシコメさんとクシナダさんと宴会だから、あんた達も参加ね。
もちろんロキはそのままの格好で」
ロキはがっくり俯いた。
外では未だに悲鳴が風に乗って聞こえているが、気にしない事にした。
今日もいい風が吹いている。
天界図書館、今日は騒がしく営業中。
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