神と言う存在  ここではあたしが神よ!

 地獄への出張も無事 (たぶん)終わり、

 あたしは天界図書館に戻った。

 目に前には何時もの光景が広がっている。


 あたしが自分の司書の席向かうと、

 カウンターの後ろの席では、フレイアとロキが静かに居眠りしていた。


 「二人とも起きて、其処はあたしの席よ」

 「zzz」


 二人とも無邪気な顔で寝てる。

 全く起きる気配は無いみたい、

 そこは司書あたしの席だけど、この際大目に見てやるか。


 こうやって見ると二人の寝顔は可愛いのよね。

 でも、

 起きるとロキの方は生意気なガキなんだけど。



 今日は彼女のネコは来て居ないようだ。

 さすがに閻魔ジジイは来れないか。


 まあ、フレイアちゃんの膝の上に、閻魔が居た事が皆に知られたら、

 彼の威厳は、リーマンショック後の株並み暴落は間違いない。

 それ所か、食品偽装をしたミー〇ホープのように、地獄の組織その物が崩壊するかも。


 そんな事を考えながら、あたしは天界図書館のカウンター横の床に腰を下ろした。

 目の前には広大な書架が広がる中で、さまざまな神が何時ものように読書を過ごしている。

 これが何時もの光景だ、今日は平穏無事な日だと良いな。



 何か横で小さな音がした。

 あたしがそちらの方を振り向くと、カウンターの下で何か光った。


 其処には二つの双眸がある。

 目を凝らすと其処に猫エンマが居た……。 

 閻魔ネコはカウンターの下から、

 フレイアちゃんのスカートの中を舐めるように覗いて居る。


 まったく、このオヤジは自分が閻魔大王って事を自覚……

 して居ないから、やっているだろうけどねぇ。

 そんな事をしていたら閻魔は地獄に…… あたしがこの前叩き落としたか。



 「閻魔様、その根性を裁判にも生かして下さいね」


 あたしが意地悪く呟くと、ネコは残念そうにフレイアの膝の上に移動した。

 (何処までも、往生際の悪い……)


 

 しかし……。


 今日も、更なるトラブルの種が、あたしの目の前で発芽しかけていた。

 まったくどいつもこいつも……。



 「クシナダちゃん、隙ありぃ~」


 中年のスケベそうなゆるんだ声が図書館に響いた。

 次の瞬間、若い女性の凄い声がそこらじゅうに響き渡たる。


 「きぃやぁぁぁ~~~~~

 何するのですか、ゼウス様!!」

 まるで、ホラー映画上映中の状況である。



 「はぁ……」

 あたしはため息をついた。


 またやってるわ、あのスケベオヤジが……。

 あたしは、そう思いながら声の方を向くと、

 思った通り、ゼウスとか言う神がクシナダさんのお尻をさすっていた。



 クシナダさん人妻なのにねぇ、ゼウスさん知らないのかな?


 旦那のスサノオ様来たら血を見る事になるんだけど。

 あの人、昔はチーマーだったから怒らせたらヤバいのにねぇ。

 まあ、あたしの知った事じゃないけどね。



 「クシナダちゃん、今夜どう?」

 「や、やめて下さい、私には主人が……」

 「そんな事は、愛の前には……」


 そのセリフを何人に言ったんだろ?

 ゼウスの奴は偉い神らしいけど、スケベなのよねぇ。

 浮気は日常茶飯事、隠し子の数は数え切れず。


 そう言えば、あそこの一族はロクなのが居なかったな……。

 陰気な誘拐犯ハーデスに、

 アテナとの勝負に負けた腹いせに都市を壊す、ガキのようなポセイドン。


 ゼウス本人も、此処に何しに来ているのやら判ったものじゃないけどね。

 あたしは冷たい視線を彼に送った。


 しかし、ゼウスは気にして居ないようだ。



 「ここは、図書館です、

 他のお客様のご迷惑になられる事はお控え下さいね」


 しかし、ゼウスには効果無かった。

 このスケベオヤジが……。

 このあたしを無視するとは良い度胸してるじゃない。



 クシナダが口説かれるのを、羨ましそうに見る神が居る。


 あたしも一目置く存在。

 天空図書館の真の主ともいえる存在。

 負のオーラ満載したアラフォー女神のヨモツシコメさんがその様子を見ている。


 ヨモツシコメさん、あんな不細工でも、実はトップアスリートだったりする。

 イザナギさんが冥界から逃げ出すのを追跡した、結構有名人なんだよね。


 食い意地が張ってて、追跡に失敗するアホウな面も有るんだけど。



 ピコーン!

 ロ〇サガの閃きのように、あたしの脳内にLEDが点灯した。


 見てろよ、スケベオヤジ。

 あたしの口角が上がり、目が笑ってくるのが判った。

 あんたの悪行も之までよ。(くっくっくっ)



 あたしはロキの傍に近寄ると彼を叩き起こそうとした。

 「ロキ、起きて」

 「zzz」


 彼は、まったく起きる気配は無いようだ。

 どいつもこいつも……。

 よし、こうなったら奥の手使うか……。


 あたしは、フレイアの膝の上に居るネコに目を落とした。

 この作戦は、猫エンマもロキも同時に成敗出来て一石二鳥よねぇ。

 (にやっ)


 あたしはフレイアの膝に居るネコを掴むと、ロキの顔の前にぶら下げた。


 うにゃ~~~ ふぎゃ~~~狂ったように暴れるネコ。

 引っかかれるロキ。


 余りの痛さにロキも慌てて飛び起きた。

 彼の寝ぼけた悲鳴が響く。


 「いってぇぇ~~~。

 沙織、俺がいい気持ちで寝てるのに何しやがるんだ!!

 俺に何か恨みでもあるのか?」


 ロキは突然の事に唖然としながらも、

 いち早く事態を飲み込んだようだ。

 頭の回転が速いわね、流石トリックスターと言われるだけあるわ。


  

 「あんたが、あたしの席で寝るからいけないんでしょ、

 其処は、あたしが昼寝する場所なのよ、何か文句ある?」


 「フレイアの方は良いのかよ?」

 ロキは不満そうにフレイアの顔を見ている。


 「あの子は、何時も其処で寝てるから構わないのよね。

 しかも可愛いから許してあげるのよ」

 「それって、差別って言うんじゃねぇか?」


 「文句が有るなら、フレイアちゃんみたいになるのね」


 あたしはロキを挑発してみた。

 引っ掛かってくれないだろうけどね。

 ダメ元でも、やってみないよりはマシよね。


 「フレイアみたいになれば、良いんだよな?」

 「そうよ」

 「二言は無いよな?」

 「そっちこそね」

 「無いからな!」


 きたぁ~ まんまとロキが引っ掛かった(ひっかかりやがった)。

 作戦その一、大成功♪

 あたしの目じりが緩むのが判る。


 「ロキ、今からあたしの言う通りにしなさいよ、

 ごにょごにょ……」

 「沙織、そ、そんな恥ずかしい事、俺ができる訳ないだろ?

 第一、頭脳派の俺が考えても絶対に失敗するの確実だぜ」


 その話を聞いたロキは、顔を赤くしながら青ざめている。

 しかし、もはや手遅れよ!

 あたしの作戦勝ちね。


 「さっきの話、あんたの話に二言は無いんだったよねぇ?」

 「俺、トリックスターだから……」


 ロキはあくまでも言い逃れして、逃げようとして居る。

 あたしは、逃がさないわよ。

 ロキの首根っこを摑まえた。


 「あたしは、神だからね、神には色々いて。

 中には破壊神ってのも居るのよねぇ……」


 ロキは涙目になっている。


 「やれば良いんだろ、やれば?」

 「そうよ、覚悟を決めなさい」

 「沙織、絶対お前面白がってやってるだろ?

 そんな事して居たら、お前は絶対地獄行くぞ」


 「残念、あたしは、この前地獄行ってきたからね」

 「くそ……。覚えてろよ」


 ロキは観念したのか、図書館の奥の部屋に向かって行った。



 後は、ヨモツシコメさんに協力をお願いしないとな。

 「ヨモツシコメさ~ん」

 「あたしを呼んだ?」


 ヨモツシコメはいきなり声を掛けられて、

 一瞬アホウの様な表情を浮かべた。


 「お呼びしましたよ、

 あなたの俊足を見込んで、お願いがあるんですけど……」

 「なになに? あたしにできる事なら何でも言って」


 ヨモツシコメさんは俊足で此方に向かってきた。

 この人、不細工だけど気の良い人なんだよねぇ、

 お局様タイプなのかも知れない。


 「頼みと言うのは……。 ごにょごにょ……」

 「面白そうだね、

 その位お安い御用よ、あたしに任せなさい」

 「お願いしますね」


 ヨモツシコメさんは駆け出して行った。



 ゼウスは、未だにクシナダさんを口説いている。

 早く逃げた方が良いのにねぇ。

 あたしはロキが座って居た席に座り、静かに目を閉じた。


 図書館には気持ちの良い風が吹き抜けて行って居る。

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