天界司書地獄変 ネコを苛める奴は地獄へ行きなさい!

 天界司書の職を手に入れたあたしは、今天界図書館にいる。

 今日は楽しくトーン上げながら、図書館の一角で金髪の美青年フレイ様とおしゃべり中。

 お客様の本の希望聞くのも司書のあたしのお仕事なの。



 「フレイ様は、どんな本を読まれるのですか?」

 「そうですね、農業関係の本を読むことが多いかな」


 「そうなんですか、フレイ様に満足頂けるように、農業方面の本を強化して行きますね」

 「それは助かります、最近は技術も日々進歩してますから此方も大変です」

 「そうですよね、それに負けないように、図書館も頑張って行きますね」


 「ありがとうございます、沙織さん」

 「お客様に満足して頂くのが、司書の務めですから」



 そう言うと、あたしはフレイ様にぺこりとお辞儀をした。

 フレイ様のあたしへの評価 10ポイント上昇(自己判定で)



 「お~い沙織、主神おやじがお前を呼んでるぞ。

 直ぐに来いってさ」

 「判りましたロキさん、直ぐに其方に向かいますね」


 折角の楽しい時間なのに、ロキのクソガキがニヤニヤしながら声を掛けて来やがった。

 こいつは全部見抜いて声を掛けて来たんだろうなぁ。

 しかし、ここで切れても、フレイ様に悪印象だから、猫を被る事にした。


 「また宜しくお願いしますね、フレイ様」

 「また会いましょう、沙織さん」



 そう言って、あたしはフレイ様の所を後にした。

 名残惜しい!

 フレイ様に名前覚えて貰えたから、チャンスだったのに!!


 「ロキ、良い所だったんだから、邪魔しないでよ」

 「そう言っても、主神がスグに呼んで来いって言うからさ。

 オレも嫌々なんだぜ」



 しかし、ロキの顔は弛んでいる、

 このガキ、確実に狙ってたな……。

 あたしの顔が不動明王の顔になりそうになって居た。

 いや、オーラだけなら確実に、あたしは殺意の波動を纏っている。


 「沙織、殺意が滲んで居ねえか?」

 「いいえ、ロキが邪魔したのは全然気にして居ませんからねっ!」



---



 「司書沙織、只今招集に応じました」


 あたしは主神に向かってひざまずいた。


 あたしの上司は、主神オーディン。

 斬鉄剣は振り回さないけど、物静かで凄く賢いお爺さん。


 あたしから言わせれば、

 知恵を手に入れる為に自殺未遂までやらかしたと言う、サイコな爺さんだけど。

 傍若無人、天衣無縫のあたしも、流石にこの人だけは頭が上がらないの。



 「よく来られた沙織さん、今日は地獄に行って頂きます」


 げぇ~~、 このあたしも遂に年貢の納め時?

 そりゃ神を殴り、仏を蹴るとかの結構悪いこともしたけどさ、

 地獄行くほどの事はして居ない筈だけど(自己評価で)。


 「どう言ったご用向きで、私が地獄に行けば宜しいのでしょうか?」

 「閻魔の要請で亡者達の資料を届けてほしいのです、大丈夫でしょうか?」



 良かった、どうやらあたしが地獄に落とされるんじゃ無いみたい。

 それを聞くと下がっていた、声のトーンが元に戻った気がする。

 自分が落ちるんじゃ無ければ、後は気楽な物ねっ。


 「かしこまりました、閻魔に本の配送ですね」

 「道案内は、ヘルに案内させるから安心して行って来なさい」

 「行って参ります」



 今回は、あたしが地獄に落とされるかと、内心びくびくしながら答えたけど、

 どうやら今回のお仕事は、閻魔まで亡者の生前の行いが書いた本を届けるらしい。

 ユーザに本を届けるのも、司書の仕事の一環よね、


 それに、地獄も自分が落ちるんじゃ無いなら、地獄を高見の見物も面白いかもねっ。

 そんな感じで、地獄への本配達が始まった。



 「沙織さん早くこの本を準備して……、閻魔様の所までは遠いわ」


 かび臭い書庫の中でヘルという陰気くさい少女がぽつりと抜かした。

 あたしに持って行くように出した本は軽く30冊は超えている。

 このヘルという少女も地獄の神様の一角らしいが、ここではただの陰気なガキだ。 

 図書館ではあたしの方が上よ。


 

 「解ってるわよ、どうしてこんなに本が多いのよ!」


 これだけの本だと、相当重いのよね。

 こんな力仕事なんかは、頭まで筋肉のトールとかにされれば良いのよ!

 あたしは頭脳労働派なのよ!!


 「今回……たくさんの人が死んだから、その人数分……」

 「へぇ……、 何があったの?」


 あたしは興味本位で聞いてみた、あたしは既に死んでるわけだしね。

 人様がどうなろうと、あたしに影響はない。

 たくさんの人が死んだという所に純粋な興味が湧いてきた。



 「あれよ」


 ヘルは、図書館の片隅に居るフレイアを指差した。

 よく見れば、フレイアが泣きながら自分の飼いネコを手当てしている。

 ネコの尻尾は痛々しく包帯が巻かれていた。


 「フレイアちゃんがネコの手当てしているけど?」


 フレイアちゃんの飼いネコが怪我だらけになってるけど

 それと、沢山の人間がくたばったのと何か関係あるの?

 しかし、ネコをいじめる人間は、地獄に行った方が世のためよ!(あたしはネコ好きなの)



 「ネコが怪我をしたのも、沢山の人たちが死んだのも同じ事件の一環なの……」

 「あたしには、ますます解らないんだけど?」

 「それはね……」


 そう言うと、ヘルは人間界であった事件を事細かに話し始めた。




 将軍御用達の肩書と、10両の賞金を巡って店同士、人間たちの醜い争いが有った事を。

 そのとばっちりで、フレイアのネコちゃんが怪我をした件や、

 最後には店同士で毒を盛りあって、未曽有の悲劇が起きた事を。



 「そう言う事ね、良く解ったわ」


 最初は面白半分だったけど、

 ネコを苛める奴は問答無用で地獄の底に叩き落としてやりたくなった。

 それに、お互い毒を盛りあったアホウ共の顔も見たくなったからね。



 「じゃ…… 地獄へ急ぎましょう……。」

 「本の半分はあんたが持ちなさいよ、あんたの仕事は案内だけじゃないでしょう?」

 「あたしをこき使うと、地獄に落ちた時の責め苦が酷くなるわよ……、どうせあなたは地獄に落ちるんだから……」


 このガキ、ここであたしを脅迫するとは良い度胸してるねぇ……。

 自分の顔が引きつるのがわかる。

 ヘルは半分腐った少女と言われてるけど、

 根性が腐っただけのガキに、なめられてたまるか。

 天界図書館の司書の恐ろしさ思い知るが良い!!


 「ここであたしが、あんたに地獄以上の責め苦をさせてあげるから。

 あたしに逆らう事は閻魔に逆らう以上の愚行と思いなさい!」



 そう言うと、あたしはヘルを蹴り飛ばし、本が詰まった袋を半分ヘルに押し付けた。



 「重たい……、

 こんな事をして……。

 ただで済むと思ってるの?」


 じっとこちらを見るヘル。


 「どうぞご勝手に、その本はあんた達が必要なのよねぇ?

 本が無いと困るのは、貴方じゃないのかなぁ?」


 「あなた……、時期に地獄に落ちるわよ」

 「其処は私たち今から行く場所よね?

 どうぞご勝手に!」


 そう言うとヘルに回し蹴りを食らわせた。

 ヘルは、うらしめそうにじっとり此方を見ている。


 「死ねばよいのに……」

 「残念! あたしは既に死んでるからねっ」



 そうして、地獄への道中が始まった

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