彼がまだ無能力者だった頃の話 3

 時は流れ金曜日の放課後。


 新入生歓迎会や部活動紹介(俺は帰宅部と決めている)を終え、来週からある意味本当の授業が始まる。


 母からメールが来て今日も遅くなるらしい。


 前言った惣菜店は時雨がいたら面倒だから今度はコンビニに寄った。

 なのにパンを買い終わってコンビニを出たら時雨と鉢合わせした。


 酷い巡り合わせ。運命を呪う。


「「………」」


 多分大丈夫だ。自宅謹慎中問題を起こせば間違いなく退学は確定する。幾ら何でもそこまでバカじゃないだろう。


「――雷電の球ライジングボール


 撤回する。バカだこいつ。

 後先くらい考えろよ。



 再び走って逃げたのだが……迷った。


 何せ一直線上になると時雨のギフトで電気の球を撃って攻撃してくるので、一直線にならないように逃げないといけない。


 俺は1年前高校入学を機にこの神陵祭町に引っ越してきたため、土地勘が小さい。


 その結果が迷子。高校生にもなって恥ずかしいが、誰もそれを指摘する人はいないので黙っておくとする。


「ホント面倒なことになったな」


 それにしても買ったのはパンでよかった。弁当だったら逃げるときにこぼれていただろうし、こうやって悠長に腰を下ろして食べることはできない。


 そして一体ここはどこだろうか。前を見ても後ろを見ても右を見ても左を見ても木である。樹海である。


 樹海に迷い込むタイプの自殺があるように、変に動くと俺の命も消えてなくなってしまう。


 長い間逃げ回っていた所為で周囲は暗くなり、夕日は半分くらい沈んでいた。


 まだ明かりが残っているうちに元来た道を戻ることを決意する。

 しかしそう決意したとき、後ろから声をかけられた。


「何で貴様がここにいる」


 微かに残った夕日の木漏れ日で妖しく輝く衣川さんがいた。


 一瞬時雨と思ってビビったのは秘密。


「その……迷子になって」

「こんなところでか?」


 時雨と喧嘩していて逃げてきましたとは言えない。


「それで衣川さんは何でこんな所に?」

「ここは衣川家の私有地だ。だから私が私の家の敷地内にいようが何の問題もない」

「ここって、山の中ですよ?」

「そうだ。この辺りは山菜が豊富に採れる。特に松茸は美味だ。そんなことはどうでもいいが、許可無く他人の私有地に入るとは褒められた物ではない」


 そう言われて俺は速やかに立ち去ろうとしたのだが、一つ疑問が生まれた。

 ここで聞きそびれたら二度と聞く機会がないため迷惑を承知で質問を投げかける。


「衣川さん」

「なんだ?」

「どうしてあなた、服がボロボロなんですか?」


 肌には傷らしい傷一つ付いていないのに、身に着けている衣服だけは何故か、鋭い何かによって裂かれた後があった。


「ふん。貴様には関係のないことだ。だからさっさと……」


 帰れと言おうとしたのだろうが、それを言いきらず目を見開く。


 何だと思って後ろを振り向くと


「   」


 絶句した。


 薄暗くなっている樹海、そこには俺と衣川さんの2人。


 そしてもう一つ。



「【っfしふぇhふぃおqわふぇsdげqwd】」


 わけの分からない化け物がそこにいた。





 薄暗い樹海だがそれははっきりと存在した。

 2本の足で立ち、腕も2本ある。だが人間と呼ぶにはそこしか繋がりがない。


 頭部は馬、そしてその皮膚は岩石ように不格好にごつごつとして、三メートルを超えるであろうそれがこちらを見下している。


「何ですかあれ?」


 混乱が一周して逆に冷静になれた。

 十分な距離を取ったのを確認してから再び質問する。


「知らん。一年前ほど前から私の現れた意味の分からない化け物だ」

「知らんって。これ絶対あなた達の関係でしょ」


 化け物とか俺の知り合いには存在しない。

 ギフト関係に間違いない。よって俺には一切関係がない。


「知らんものは知らん。それよりさっさと逃げろ。一般人。どうやらもう一回戦闘することになる」


 つまり衣川さんは、さっきまでこの化け物と戦っていたらしい。だからあんなに服に傷が付いていたのか。


「―――鬼人化オーガナイズ


 衣川さんは勇敢にも化け物に襲い掛かった。






 言われた通り俺は逃げた。一目散にスタコラサッサである。


 話から一年間戦ってきたようだし、面倒そうにしていたが、無理とかそんなことはないだろうと会話から判断。彼女は化け物を倒してくれるはずだ。



 いいのか?本当にそれで。

 いいに決まっているだろう。俺は何を考えているんだ。バカか。バカなのか?


 だいたいここで出しゃばった所で足手まといになるのが関の山だ。


 だから逃げる。格好悪く惨めに逃げる。それが最善、否、最低限の義務だろう。


 そんなことを考えながら走って逃げるのだが、一つ俺は勘違いをしていた。


 いつどこで俺は、化け物は一体だと思いこんだのだろうか。


「【sだしfhwdgじsfしおふぁしdなそんfさf】」


 先程見た化け物とは明らかに違う。


 大きさは二メートル半くらいしかないが、身体が金属で覆われていた。


 身体が人間、頭が蛇の化け物。


「まじかよ」


 俺はこの時自分の死を覚悟した。





 ……覚悟したのだが、それでも足掻けるだけは足掻く。

 化物は無駄にでかい図体で身体が金属、つまりは重い。


 多分速くは動けない。


 だから俺は別に小さくないのだが小回りを利用して、木を利用しながらジグザグに逃げ回る。そうすれば逃げ切ることは出来るだろうと考察。




 甘かった。自分の甘さに呆れた。


 それは相手が生き物の話でこいつは間違いなく化け物だ。


 一般常識が通じる相手ではなかった。


 化け物は、周りの木を巻き込みながらこっちに向かってきた。


 俺の読み通りそこまで速くはなかったが、決して遅いわけではなかった。

 草を踏み潰し、蔦を引き千切り、気をなぎ倒しながら化け物は進んでいく。


 それは戦車が地雷を踏み潰しながら直進するかの様。


 こっちはジグザグに進まなければならないのに対し向こうは一直線で動くことが出来る。


 更に恐らくあちら側にはスタミナという概念がない。


 時雨から逃げた後のこの足が逃げ切れるまで保つとはとは思えない。


 でも俺に逃げ回る以外他はなかった。




 スタミナが切れかけたとき、洞穴を見つけ身を潜めていたら当たりは真っ暗になった。


 時計を見ると僅か三十分しか経っていなかったのだが、体感的に数時間はあったと思う。


「今日はこのまま野宿かな」


 衣川さんには申し訳ないが、もうしばらくはここに居させてもらう。

 ていうか俺本当に死ぬんじゃないだろうか。


 追ってきていたらもう見つかっているころだろうし、今日の所は大丈夫。


 寝よう。




 我が校では、第二第四土曜日は出席しないといけない。


 よって明日登校日である。


 学校に行くためには、一回家に帰ってシャワーを浴びそして家に向かうことを考えたら、六時までにはこの樹海を出る必要がある。


 学生の本分は勉学。忌引きでも体調不良でもないのに休むわけにはいかない。


 辺りはまだ暗いが、携帯のライトを頼りに洞穴から抜け出す。



「……………」

「【………………fさいwにあ】」


 洞窟を抜け出したとき何かが金属みたいな物が反射するなと思ってライトを向けたら、化け物が面白いポーズを取っていた。


 どれくらい面白いかというと蛇頭はとぐろを巻いてう○この形をして、その頭を足として正座していた。


 どうやら俺はこいつの掌の上で遊ばれていたらしく、敢えて逃がしその後ホッとした所で殺すようだ。


「【だふぇえfdふぁいfじういんひえfじゃsんふぁ】」


 化け物は己の頭をバネの様にしてこっちに向かってきた。


 俺は運良くかわすことが出来たのだが、その時体勢を崩し崖に足を滑らした。こんな所に崖があるなんて知らなかった。


 自分の悪運の強さに感動しながら転げ落ちていった。


 止まったら殺されるので、最低限後頭部を押さえて転がれるところまで勢いよく転がった。


「痛え……」


 背中を打ち付け足は打撲した。


 すぐには立ち上がれそうにないが、かろうじて意識ははっきりしている。


 よし。生きてるな。


「なっ……! 何故貴様がここにいる!!」


 ほっとしたのも束の間、後ろから声が聞こえ振り向いたら


 殆ど半裸の衣川さんが居た。


 どれくらい半裸といったら白い袴を身に纏いその上に水浴びをしているので、ぶっちゃけ色んなところが見えている。


 身体的にはちゃんと服を着ているのだが、視覚的には全裸に等しい。よって半裸。


「なななななっああああああ」


 普段の生活からは有り得ない程、取り乱す衣川さん。うわーい可愛いな……じゃない。俺死にかけてんだった。


「キサマヲコロス」


 あれ? どうしてかな? 一分前の方が生存率高かったんじゃないかと錯覚してしまうんだが。


「―――鬼人化オーガナイズ

「あの……衣川さん?」


 昨日は暗かったり慌てていたりではっきりと衣川さんのギフトを見ていなかったのだが、どうやら衣川さんのギフトは『身体の一部を変化させる』ギフトのようだ。


 今衣川さんは右手を鬼のようにな感じである。これもこれで化け物だ。


「そうだ! そうそう衣川さん! さっきあっちで例の化け物を見たんですけど」


 この事を話したらきっと意識がそっちに向いてくれるだろう。てか、向いてくれないと死ぬ。


「―――それが遺言か?」


 マジで怖い。


「愚かな者だ。自らの人生の最後の言葉を虚偽で飾るなんてな」

「本当ですって!変な金属の化け物が襲ってきたんです!」

「墓穴を掘ったな。あれは土か石の塊しか居ない。金属の『あれ』など私はこの一年一度も見たことがない」


 どうやら新しいタイプの化け物らしい。って、何で俺冷静に分析してるんだろうか。


「墓穴を掘ったついでに本当に貴様の墓穴を掘ったらどうだ?まあここには埋めてやらんが」


 完全に目が据わっている。


 その時、頭上から例のイミフな化け物が見えた。


「衣川さん! 後ろ!」

「誰が貴様のいうことなど信じるか」


 怒りで冷静さを失っている。って本当にまずい。


 俺は急いで衣川さんの所に走っていき思いっきり蹴り倒した。


 衣川さんは右腕しか鬼?でしかなかったため、後は人間だ。だから女子高生の重さとして普通に蹴ることが出来た。


 結果衣川さんは吹き飛び後ろ向きで俯せになった。


 衣川さんには申し訳ないことをしたという自責の念がゆっくりと流れ、左肩に激痛が走った。


「貴様あああ……ぁ?」


 衣川さんは怒っている。まあしゃあないよな。思いっきり蹴ったんだから。


 そんなことを思いながら俺は倒れていった。




 朦朧とする意識。その中で衣川さんはあの化け物と戦っている。


 だが明らかにこっちを気にして、自分の動きという物が取れていない。


 俺は立とうとするのだが立てない。よく見ると周りが真っ赤だった。


「(俺の悪運もこれまでか……)」


 思えば悪運だけで生きてきた人生だった。だからきっとろくでもない死に方をするんだろうなと思っていたが、女の子を庇って死ぬなんて結構マシな、むしろ上位に来る死に方じゃないだろうか。


 痛いなほんと。でもせめて邪魔にはなりたくないな。


 だから俺は這い上がることは出来なくても這い蹲って端の方にずれる。これで俺はそこまで邪魔にはならないだろう。


 身体の半分は鬼化している衣川さんを見て、なんて美しい鬼なんだろうかと思いながら意識を失った。






 目が覚めると身体は縮んでいないかわりに見知らぬ天井だった。


 焦げ茶色の天井。周りは一面襖。布団の下は上等な畳。


「あれ俺生きてるのか?」


 絶対死んだと思ってたのにな。


 痛む左肩を撫でてみると包帯がしてあった。


「(衣川さんかな……)」


 次会ったらお礼と謝罪からだな。


 そう思い、起きあがろうとしたのだが無理だった。


 決して身体のどこかに違和感があるというわけではない。


 身体の上詳しくいうならお腹の上に衣川さんがいた。


 すやすやと安心して眠っている衣川さんを見て俺は起きあがることが出来なかったのだ。


 数分このままの状態で待ったが衣川さんは一向に起きる気配がない。


 二度寝するわけにはいかないし、親との連絡も取らないといけない。俺は高校生だから一日家に帰らなかったくらいでは警察は相手にしないはずだ。そこまで問題にはならないだろう。


 だからゆっくりと起こさないように、そうっと布団から抜け出そうとした。


「ふにゃ?」


 失敗した。起こしてしまった。


 だがまだ寝惚けている。今ならまだ間に合う。


「おやすみなさい。衣川さん」


「うむ……おやすみ………じゃなあああい」


 衣川さんは完全に覚醒した。


 仕方ない。次の作戦だ。


「あの衣川さん。この包帯衣川さんがしてくれたんですよね? ありがとうございました。それと水浴びを除いてしまったのは不可抗力ですがすみませんでした」


 作戦名、ガンガン話を進めようぜ!

 俺は布団から抜け出そうとするのだが


「今は絶対安静だ」


 止められてしまった。


「いやでも……学校はあるし………」

「もう学校は終わっているぞ」

「は?」


 携帯を取り出そうとしたのだがそういや化け物から逃げる時落としたんだった。


「これを見ろ」


 衣川さんは自分の携帯を俺に見せた。


「マジか……」


 時刻は14時を回っていた。


 土曜は午前で終わるのでもう間に合わない。


「諦めて今日のところは休め。覗きの件は許してやるぞ」

「いや、でも、せめて母さんに連絡くらい取らないと」

「ああもう!それも私はやる。貴様は今日絶対安静!分かったら返事!!」


 いつものノリで返答した。


「断ります。絶対に連絡とりますから」


 そう言って起きあがろうとするのだが、左肩を少し押されただけで激痛が走った。


「くっ……」

「ほら。だからやめろと言ったのだ」


 だが俺は一つ疑問に思うことが出来た。


「衣川さん。そういえばわざわざ衣川さんが看病しなくても普通に救急車呼んでくれたらよかったじゃないんですか?」

「あまり自慢できるものではないが、ここは衣川組の本家だぞ。その場所で傷害事件があれば警察は余計な散策をする。それを回避するために救急車を呼ばなかった。だが大丈夫だ。無免許だが名医に見てもらったぞ。それにどうしてもまだ痛むというのなら私にも秘策がある」

「俺は、BJ先生は信用しない派なんで」


 無理やりにでも起き上がろうとする。


 怪我をしているとはいえ、身長177㎝の若干鍛えている俺が160後半の女子に負けることはまずないだろう。


「きゃぁ」


 少し強くやり過ぎたかな。妙に女の子らしい悲鳴を上げる衣川さん。


 衣川さんは俺の体を押さえつけていた右手を外してしまう。するとそのバランスを崩しこちら側に倒れてきた。


「「…………!!!!」」


 一瞬の出来事なので反応できず、気付いたときには衣川さんの唇は俺の唇に重なっていた。


 お互い呆気にとられ数秒間身動きが取れないまま時間が過ぎる。


 事故だった。キスの味は甘酸っぱいとか、そういう感情は芽生えず理解するのに脳をフル稼働する。


「~~ッッ!」

「ぐへぇ」


 先に動けたのは衣川さんだった。


 彼女はけが人の俺を容赦なく突き放した。


 とはいえ、これは彼女が責められる道理はない。


 無論俺も悪くないのだが、こういう事故は男が謝罪をするのが一番ベターな選択だろう。


「えっと……衣川さん?すみませんでした許してください」


 潔く土下座した。


「……。一分間だけその姿勢でいてくれれば許してやってもいいぞ」


 衣川さんはなんて優しいんだろうか。あんな事をしてしまったのに僅か一分間の土下座で許してくれるなんて聖女マリアもビックリだろう。


「―――鬼人化オーガナイズ


 絶対に聞こえてはいけない単語が聞こえた。


「ちょっ衣川さん!!それ明らかに――――」

「なぜ貴様が顔を上げている。まだ一秒も経っていないぞ」


いやさすがに一秒は経ったんだけど。


「それに後68秒だ。そこにじっとしていろ」


 1分は60秒です。とはツッコミをいれることが出来なかった。


 これは本日5度目の人生の危機を感じたため、急いでこの部屋から出ようとする。


「お邪魔しましたあああああ」


 急いで自分のいた部屋から脱出するのだが、何分この家、部屋数は多いわ、似たような部屋ばっかりで、すぐ迷子になった。


 これぞ本当リアルの鬼ごっこ(鬼が本物の鬼)






「ようやく出口(玄関)だ」


 半ばかくれんぼのように逃げ、ついに出口を発見した。


 俺の人生はまだ始まったばかりだもんな。


 ここで死ぬなんてことは無い。


 安堵し気が抜けた時だった。


「かー がー みー」


 後ろから何者かによって肩を叩かれる。その声は鬼ごっこをしながらメリーさんを思わせるまるで閻魔様が死を宣告するかのごとく。


「みー つけ たー」


 衣川さんは全てを飲み込むブラックホールのように素晴らしい笑顔だった。


「あはははははは」


 思わず笑ってしまう。笑う所じゃないのに、心を偽装しないと生きていけない気がしたのだ。


「海と山、どっちがいいか」


 笑顔が消え、鬼の形相でこちらを睨みつける。

 今度は逃げないように制服をガッチリと鬼の手で捕まれて、このままでは絶対に逃げれない。


「あの……話し合いで解決しませんか?だからまずその手を離してください」

「そうか。コンクリートの中が好きなのか。仕方ない。少々手がかかるが折角最期の頼みだ。聞いてやらねばな」


 話し合う余地はなかった。


 ここまでの段階になると、相手が女の子かどうとかいう次元ではないため、全力で回避する。


 まず制服を脱ぎながら足払いで衣川さんを転かせ、残りの体力を振り絞って全力でダッシュした。


「逃がすかああああ」


 下手をしたら男より漢らしい衣川さんは転んでもすぐに立ち上がり、タックル。無事俺を押し倒す。


 何とか逃げ出そうとするが、扉を開けた所でマウントポジションを取られししまった。


「ぎゃあー。けだものーーー!」

「何を言う!先に手を出したのはそっちではないか。この除き魔!痴漢!」

「否定できないのが悔しいが、事故だったんだ」

「私にこうさせたのも貴様の責任だ。まあいい、これで心置きなく貴様を殺れる」


 今度こそ本当の本当に覚悟を決める。




「……え?」


 声を出したのは俺でも衣川さんでもない。

 完全な第三者。


「月夜!?」


 同じクラスの月夜さんだった。

 確か名前は月夜幸つきよゆきといって髪の毛全体が黄緑色の見た瞬間にギフトホルダーというのが分かる。身長はとっても小さくクラス、下手をすれば学年で1番小さいんじゃないかってくらいだ。

 人形とかを持たせたら、映えるんじゃないかって感じの所謂森ガールに属している。


「すみません。お二方がそんな関係とは知らずに勝手に上がり込んでしまってすみません。」


 謝り癖があるのか、開始早々謝ってきた。


 第三者視点から見て、俺と衣川さんがどういう関係なんだろうか。少し状況を整理してみよう。




 まず現在の立ち位置からだ。と言っても俺は衣川さんに押し倒されているため立ってはいない。


 そして今俺の姿はズボンとワイシャツ一枚、そして衣川さんは寝巻みたいなラフな服装をしている。


 最後にさっき俺達の会話をリピートしてみよう。



『ぎゃあー。けだものーーー!』

『何を言う!先に手を出したのはそっちではないか。この除き魔!痴漢!』

『否定できないのが悔しいが、事故だったんだ』

『私にこうさせたのも貴様の責任だ。まあいい、これで心置きなく貴様をヤれる』



「「あ……!!」」


 俺達は同時に気がつき、驚きのセリフも一致した。


「違うのだ月夜!私はそんなに汚れていない!!」

「いいんです。わたしは別に衣川さんがどんなふうであろうと構いません。ですからお二方のその……空気を壊してしまって………せめてものお詫びに祝福をクラス中に広めてきます」


 月夜さんは、回れ右して走っていった。

 逃げたな。俺も混ぜてはもらえないだろうか。


「待つのだ月夜! お前わざとなのか!!」


 幸運なことに衣川さんは俺のことを忘れ月夜さんを追っていき、俺一人が残される。


「た、助かった……」


 同級生とキスをしてしまったというよりも、何とか死なずに済んだという感情の方が強かった。



 先ほど助かったといったが、あれは嘘だ。


 現在俺は正座をしている。


「さて一樹くん。あたしに何かいいたいことはありますか」

「母さんキャラ変わってる」

「だまりんしゃい」

「はい」


 絶賛説教中。


 普段家に帰ってこない分、若干過保護な我が母、嘉神育美かがみいくみ

 なお、過保護といっても手をかけるだけで特に何か為になることをするわけじゃない。


 丸一日連絡なしに帰ってこなかったのだから、怒られることに文句はない。


「一応言い訳をさせてあげます。あたしに何か言いたいことがあったらいいなさい」


 見た目だけだと全く迫力がないのだが、この後のことを考えると胸が痛くなる。


「ギフトホルダーに襲われ化け物に襲われ鬼に襲われました」


 ありのままあったことを話した。

 正直に話したんだから許してくれないだろうか。


「母さんは悲しいです。自分の息子の最期のセリフがそんな嘘だなんて」

「母さん。今最期っていわなかった?言ったよね絶対?」


 この親自分の息子を殺す気だ。


「取り敢えず明日は日曜日ですし母さんもパート休みですからそうですね、今から家出した時間正座を続けたら許してあげましょう」

「冗談だよね?そんなことしたら俺の足が死んでしまうよ」


 母さんは優しく微笑み


「えい」


 どこから取り出したのか石版を俺の太ももの上に置いた。

 そんなもの買うお金があるなら、食事代をもっと寄越せ、なんて言葉が喉元まで出かけたが我慢。


「一日そこで反省していなさい」

「あの………マジですか」

「かあさんうそつかない」


 そんなことはない。母さんいつもうそをつく。


 だがしかし、ろくでも無いことに関しては事実である場合が多い。そしてこれも事実であった。


 教科書を読み、勤勉であることをアピールし何とか量刑を減らそうと試みるが、堂々と昼寝をされ全く効果がない。


 本当に一日中拷問を受けた。


「足が動かない」


 ようやく解放して貰ったのが深夜。


「大丈夫よ。きっと朝までには治っているでしょうから」


 母さん普段はもっとはっちゃけるため、こんなキャラの時は本気で怒っている。


 まだ怒りは収まらないのかと思いながら、早く痛みが治まるよう願いながら眠りに着いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る