月夜幸
神薙さんに言われた通りおいていったが大丈夫だろうか?
いくらなんでも三対一だ。もしもということがあるが……。
いや、信じよう。うん。
仮に死んでしまったらそれまでの人間だったというだけの話だからな。
俺は月夜さんに集中しなければ。
闇雲に走っても意味が無いので、以前手に入れた感知能力を使い月夜さんを探そうとする。
すると以外にも近くにいた。
近くにいたというより俺を待っていたという感じだった。
場所は階段を20段駆け上がった先の趣味の悪い部屋。
その部屋の扉を強引にあける。
そこには三人いた。
月夜幸と枯野親子だ。
真ん中に枯野礼成。右隣に息子。そして左前に月夜さん。
息子はこっちに敵意があるが枯野さんはこっちを見て薄汚い笑みを浮かべている。
それに対し、月夜さんは一瞬だけ驚いた表情を見せたがすぐに真顔に戻し
「……おかしいです。何で生きてるんですか?」
「戻ったら教えてやる」
「じゃ、いいです。それより少しお話ししませんか?」
「聞かん」
彼女能力はすでに知っている。
未だに『物語』のやばさを具体的には理解しているとは言えないが、それでもまともに戦ってはいけないのは理解してる。
「まあまあ。そう言わずに聞いてください」
聞く気なんてなかったのに聞かなくてはいけない気がした。
例えるのなら、これから主人公の説教を聞くので身構える敵の感覚だった。
聞かないって言っているのに話が進まないから無理やり聞かされ、そして説得される、その前段階。
この後説得されるのが義務づけられた哀れな噛ませ犬の心情をこれから俺はみることになる。
「わたしがまだ衣川さんと仲良くなる前の話です。お父さんとお母さんがいて二人はこじんまりとした花屋を営んでいました。貧乏な家庭でしたけどそれでも温もりがありました。子供のころからギフトはあったんですけど、わたしはこの能力の重要性を理解してはいませんでした。
ある時わたしが無理を言って遊園地に行きたいって言ったんです。両親はそのお願いを笑って聞き入れレンタカーをかりて隣の県の遊園地に行くプランを作りました。
でもいざ行くって時に
その結果がどうなったのか察しのいい嘉神さんならすでに分かっていますよね?」
「死んだのか?」
「はい。交通事故でした。しかも父の居眠りが事故の原因でした。多忙な生活でしたからきっと無理が出たんだと思います。なお悪いことにその事故は人様も巻き込んだんです。高速道路の事故で対向車線に突っ込んだので玉突き事故が発生しました。死者34人、負傷者121人の大事故でした」
「…………」
「因みにわたしは最後の最後の予期でシートベルト着用して頭を守れっていう予期があったので助かったんですけどそれは今どうでもいいとして、社会的に考えて父が悪いんですけどそれでもわたしがギフトの指示通りに動いていればみんな助かったんです」
「月夜さんがどれだけ不幸な目にあったのか分かった。だが……」
「いいえ。分かっていませんよ。分かっていればわたしを邪魔しようなんて思いません」
そうか。
俺は何が問題なのかようやく理解した。
月夜幸はギフトを使っているんじゃない。
ギフトに使われているんだ。
自分の思考を放棄してギフトに依存している。
自分で制御できていない。
いや、制御できていないことにすら気づかせてくれない。
「わたしはちょっと前に面会した程度ですので正確なことは言えませんが、枯野の一族は吐き気を催す邪悪にも分類されるクズの一族です。ですがそれでもクズだからこそ、行為に対する責任感がない。嘉神さんは出来ますか?目的の為に他者を踏みにじることを」
「……できるさ。あんたの為になら一千万人くらい平気で犠牲にしてやる」
「…………はは。その台詞、普通のヒロインだったらそれで落ちたと思いますけど、残念ながらわたしはあなたに口説かれる気はありませんよ。わたしはサブヒロインです。好意があることを否定しませんが、攻略なんてされてあげません」
別に俺も口説く気はない。
ただ本気で思ったことを言っているだけだ。
「では言い方を変えます。わたしを助けるために衣川さんや宝瀬さん時雨さんと言ったあなたのお仲間が犠牲になるって言ったらどうですか?」
「――そういう予期が出ているのか?」
「出ていませんよ。ただそういう可能性があるって言っているんです」
「可能性がどうこう言い出したら何でも言えるだろ」
「そうですが嘉神さんは考えないつもりですか?もしあなたがわたしたちの邪魔をして、万が一浄化集会のメンバーがあなたを、強いてはあなた達を恨んで襲ってこないなんて」
「!!」
その可能性は十分にあり得ることだった。
宗教を信じる人間は追い詰められた時何をするか分からないからな。
「ま、そういうことですよ。嘉神さんは目先のことしか考えていません。人類は新たな一歩を踏み出すべきなんですよ」
そう言って流れるような動作で俺に注射器を突き刺した。
完全なる動きだった。
虚を突かれたどころではない、美しすぎて身動きが取れなかった。
この動きにはゴ〇ゴですら反応できないだろう。
「くっかっあががが」
呼吸ができなくなる……
視界がだんだんと光を失っていった。
「もう一度言いますし何度だって言ってやります。人類の為に死んでください」
そうして俺は死んだ。
まあ、当然生き返るんだが。
ただこれで椿さんが作ったストックを使い切ったことになる。
次死ねば本当に死ぬ。。
「いい加減死んでくださいよ。折角出血しないような武器使ったんです」
そういや枯野礼成は血を見るの嫌いだったな。
忘れてた。
「待った。なんであんた血を見るのが嫌いなのに血を見るような武器を使っている護衛を雇ったんだ?」
「……あっ」
「もしかして気が付かなかったのか。おっちゃめぇ」
さて、頭で考えずに口先から出まかせを言っている間に残った頭で考えようか。
というか月夜さん強くないのに理不尽すぎる。
説得は無理。下手をすれば逆に説得され返される。
力ずくで挑むしかないのだが、ギフトでこっち側の行動を読まれる可能性ある。
というか絶対に読まれる。
そして潰される。
となると手は一つしかない。
たった一つのシンプルな答え。
月夜幸にキスをして同じギフトを手に入れる。
そうすれば同じものが見え、スペック差で俺が押し切れるだろう。
それしか……無い。
これ以外の方法を思いつかない。
俺の
「それはやらせないぜ」
後ろから満身創痍?の男がやってきた。
「だ、誰だ?」
神薙さんである。
「神薙さん?」
「ああ。俺だぜ」
「どうしたんですか?」
「いや……なかなか強敵だったぜ。一手遅れたらここに来たのはあの三人だった」
着物には幾つもの切り傷があり所々に血がついている。
その怪我だけで戦いの惨状を物語っていた。
どんな死闘をすればそうなるんだ。
「最もヤバい
「いや……無理でしょ」
立っているだけでもやっとのように見えるのに……
「大丈夫だぜ。それに純粋な『物語』共を戦わせるわけにはいかないんだ。だからここは俺にやらせろ」
「そういうあんたも『物語』だったんじゃ」
椿さんがそう言っていた気がする。
「そのくらい指摘されなくても理解しているぜ。だからシンボルや他の能力は使わない。嘉神一樹、お前には正しい敵の倒し方を教えてやる」
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