理科の時間+補習授業

 戦いとは何か?


 この問いに対しての答えは様々だ。


 あるものは『生甲斐』あるものは『趣味』あるものは『生きること』あるものは『避けるもの』。


 嘉神一樹にとっては『手段』でしかなく、嘉神一芽に至っては『目的』に過ぎない。


 そして神薙信一にとって戦いとは『作業』である。


 例えるなら宿題で読書感想文を書かされるようなものなのだ。


 ただ単に煩わしいだけ。


 提出すれば宿題が終わるように、戦えば勝つ。


 彼がやるのは、戦ってそれをどうやって魅せるかである。


 最強より強く、無敵より敵無しの、越えてしまった人間。


 神薙信一はそういう人種なのだ。


「来いよ。遊んでやるぜ」


 突如現れた男に三人の護衛は戸惑いこそしたが、そこはプロ、すぐに気持ちを切り替える。


 この男を倒してから嘉神一樹を追う。


 それで十分に間に合う。


 三人の共通認識だった。


「…………拙者から参る」


 最初に動いたのは侍だ。


 位置取るギフト座刀位置ラストサムライを使い神薙信一の真正面から日本刀で襲い掛かる。


 襲い掛かり、日本刀が折れた。


 それだけではない。


 右胸から斜めにそれこそ刀で傷付けたのと同じような傷がついた。


「莫迦な……」


 神薙信一は何も武器らしい武器を持ってはいない。


 ただ侍の血が彼の左手から零れ落ちていた。


「物を斬るためには底面積且つ高圧力、つまりは細くて速い、この二つの条件が必要だ。そこで細さに重点を与えて出来た武器がワイヤーを使った糸で物を斬ることだが、だったら逆も考えるべきだぜ。圧力を与える物体がどれだけ太かろうと、高圧力、つまりは速く動かせば物は斬れるんだぜ」


 要約すればものすごく速く手を動かしただけである。


 例え丸太のように大きな腕だろうが、速く動かすことが出来れば――――それだけで物は斬れる。


 肉体だろうが鋼鉄だろうが斬ることが出来る。


「安心しろ。急所は外しているぜ」


 侍は何も言わずに気を失い、倒れた。


「一人目、次はどうする? 戦うか戦わないか好きな方を選ばせてやるぜ」

「当然っ戦うっ」


 侍が倒され次挑んだのは鎧の男だ。


 この時鎧男には勝算があった。


 所詮はこの男は速いだけ、そしてその速さなら何よりも勝ち続けたのがこの鎧の男だ。


 対象より速いギフト速攻馬邦サイクロン、速さで負けることは無い。

 そして全身に着けているのは威力だけならば原子爆弾にも耐えられる超超合金の鎧。


 これを身に着けて突進すれば負けることなど皆無だと思っていたからだ。


「……」


 そして神薙信一はあろうことか走って逃げだした。


 鎧の男はそれを見て勝ちを確信する。


 動けば動くほど鎧の男が有利なのだ。


 否、有利だったはずなのだ。


「ぐばぁっ」


 鎧の男の全身から血が噴き出す。


 いつの間にか鎧は砕けていた。


「どう……やったっ。攻撃したようにはっ……見えなかったっ」

「当たり前だぜ。俺はお前に触れていないぜ」


 全身無傷・・・・の神薙信一は、倒れている男を見下しながら優しく告げた。


「よく漫画やアニメで音速や光速で動くという描写があるが、それは力学的に考えてやってはいけないことの一つだ。地球空間には空気の壁があり、動けば動くほどその壁は巨大になる。その壁は摩擦を生み如何なる物体だろうが破壊する。いくら硬かろうが柔らかだろうが関係なく……だ」

「……まさかっ」

「ああ。つまりは俺が光の速さ程度で動くことで、それを追うお前も光の速さで動くことになる。その速さで動けば、物は勝手に壊れるんだぜ」

「……そんな馬鹿なっ」


 鎧の男も気を失った。

 再び伝えるが神薙信一は無傷である。


 着物に傷一つすらついていない。


 それと蛇足だが、本来音以上の速さで動けばソニックブームが起こり、近くにいた忍者は勿論この浄化集会の建物は破壊されるのだがダメージを受けたのは鎧の男だけだ。


 ではなぜそれが起きたのか。


 解は一つ。


 それは神薙さんだからである。


「二人目、お前はどうする?逃げることもありだぜ」


 神薙信一本人としてはそれが最も望ましいことだが


「某は逃げん。たとえ負けると分かっていても足止めくらいは出来る」

「素晴らしいぜ。その心意気気に入った」


 既に忍者はこの男を倒すことは諦めた。

 その上自分の手には負えない相手であることを理解している。


 だがそれくらい日常茶飯事だ。

 たかが糸を使う程度で最速のギフトと位置取るギフトと同格以上に戦ってきている。


螺線解断スパイラルテープ


 周囲に張り巡らした糸は今までとは違う。

 蜘蛛の糸だ。


 触れたらギフトを解除するまで決して取れない超強力な糸。


 それを四方八方に張り巡らせ近づくことすら身動きをとることすら困難にする。


「さっき二つは物理やったから今度は化学をやるか」


 忍者はこの男が言っている意味が分からなかった。


 だがそれも数秒たてば分かるようになる。


 神薙信一は蜘蛛の巣をお構いなしに一歩を踏み出した。


「……!」


 忍者はこう思った。

 糸を無視して力ずくで前に進むのだろうと。


 しかし現実は違った。

 神薙信一は糸をすり抜けていた。


「は?」


 ゆっくりと忍者に向かって歩く神薙。


 歩く道中、彼はこういった。


「全ての物体は原子でできている。その原子とは原子核を中心に電子が公転している物のことだが、原子核は原子の十万分の一程度で電子はそれよりはるかに小さい。つまり原子は隙間だらけなんだ」

「だ、だったらどうした」


「つまりはこういうことだ。“お前のその糸を構成している原子と、俺を構築している原子がぶつからない様に歩いている”だけだぜ」


 何て事の無いように話す。


 それが一体どれだけ化学の理を犯しているのか知らないように。

 熱膨張程度では済まない理科そのものを否定している道理を、小学生に教えるように告げた。


「あ……」


 忍者は理解した。


 この男とは戦ってはいけないと。


 勝つとか負けるとかそういう次元の人間ではないと。


 それがこの忍者が神薙信一を正しく理解した唯一の思考であり、思考を終えた瞬間忍者の意識を失った。


「三人目、全くやれやれだぜ」


 完全なる無傷で戦いを終える。


 本来ならばこれで終了なのだが…………


「ファンサービスが足りない。折角な○うからカク○ムに出張投稿しているのに、同じような無双シーンじゃファンは離れていってしまうぜ」


 とのことで少しだけロスタイムを入れる。


「極限――――【それは舞い散る桜吹雪 《侵食》】」


 現象を無に還す能力を使い、侍甲冑忍者の傷を存在しないものにする。


 勘違いしてはいけないが、これはシンボルでも何でもない。

 この程度の事、神薙信一にとっては赤子をひねるより容易いのだ。


 男達はあまりのことに何も出来ず、動くことすらできない。


 それでも甲冑の男は拳銃を構え発砲。

 その銃弾よりも速さよりも速く、突進する。


「。【アンチ速攻馬邦サイクロン――《終焉》】」


 しかしその男はギフトが途中で使えなくなった。


速攻馬邦サイクロンを使えなくする能力。それが【アンチ速攻馬邦サイクロン――《終焉》】。何でこんな能力を俺が持っているかはここではしばらくいうことはないだろう。知りたければ……な○うにいき、7章の【最果ての絶頂】まで読め」


 再び鎧甲冑の男は倒れる。今度は指で貫かれた痕が残っており、なぜ倒れたのかは明白である。


「さあ、もっと遊ぼうぜ」

「「…………」」


 この時初めて二人は途中で任務を放棄した。

 神薙信一は逃げる彼らを追うようなことはせず、ただ一言。


「これじゃ主人公に無双したように思われてしまう」


 倒れていた男の血を使い、せっせと血で化粧をしたのだった。



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