『時間』『運命』『世界』『法則』『物語』

 前回のあらすじ。


 神薙さんに月夜さんを助けに行くのを止められました。




「どうしてそんなこと言えるんですか?」

「お前らに勝ち目がないからだ」

「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないですか」

「例えば、バスケでプロと、そこら辺のから集めた適当な中学生を戦わせてやってみないとどっちが勝つか分からないなんて言えるのか?」

「それは……それは極論でしょ。そこまで差があるとは思えない」

「そこまでの差があるんだぜ。月夜幸と宝瀬真百合には」


 いや、言っちゃ悪いが先輩のギフトの方がえぐい気がするのだが。

 世界改変と予期。


 明らかに前者の方が強い。


「勝てない理由。それは能力のクラスが違うからだ。ずっと気になっていただろ。『時間』だの『運命』だの『世界』だの言われて」


 確かに気にはしていたが今はそれどころではない。


「さすがにそろそろ時間がありません。早くしないと月夜さんが犯されてしまいます」

「おっけ。ならば撫子」

「はい」

「命令だ。『時間』を止めてやれ」

「かしこまりました、ご主人様」


 そばにいた一人の女性(巫女さん)は能力を使う。


 時間は止まった。


 俺たち以外行動している奴は見当たらない。


 ただ俺がいつも見ている反辿世界リバースワールドのとは大きく違った。

 反辿世界リバースワールドは周囲の色が反転しているが、今回は色がモノクロになっている。


 ただ携帯を確認して起動していないし、空を飛ぶ鳥はその場で停止しているから本当に止まっていると判断できる。


「では説明を始めるぜ。能力というのは7種類に分類される」

「火とか水とかですか?」


 7種類といえば曜日を用いて日を光、月を闇で7種類の能力ってイメージが少しばかり存在する。


「いいや。そういうのは一つにまとめる。光や闇も含め『論外』に含まれる。この『論外』というのは話にならば位くらい弱いという意味で、衣川早苗の鬼人化オーガナイズや時雨驟雨の雷電の球ライジングボールがこのクラスに含まれる」


 いきなり何でこの人が知っているのか分からないことを言われた。

 だが早苗と時雨のギフトが『論外』? しかもその理由が話にならない位に弱いときた。


「『論外』のことはいったん忘れろ。まず俺が最初に説明するのは『時間』だ」


 『時間』がまずなのか。


「イメージはしやすいはずだぜ。さっきした通り時間を止める。過去に戻る。未来に行く。時間軸に影響を及ぼすこういった能力は『時間』というクラスに存在する」


 まあこのくらいならまだ理解が追い付く。


「能力を上げるならば宝瀬真百合の父親のギフトがそれだ」


 確か自身の時間を速めることだったか。


「次が『運命』。これも何となく分かるだろ?」

「はい。一度そういうギフトに会ったことあります」


 あのバスガイドのギフトが運命的に殺すギフトだったはず。

 全く効果なかったが。


「ああ。ついでに言うと俺の女の一人の確定未来エンターキーもその『運命』に分類される。因果律に作用しているもの全ては『運命』に分類されると考えていいぜ」

「もしかして次は『世界』ですか?」


 先輩が自分の能力は『世界』だなんて言っていたことを思い出す。


「その通り。察しが早くて助かるぜ。補足説明をするのなら並行世界や〇×次元、神界、虚無界などに影響を及ぼす能力も『世界』に入るぜ」


 ん?今絶対におかしな単語聞こえた。

 聞き間違いとして処理するとして、挙げるなら反辿世界リバースワールド回廊洞穴クロイスターホールが『世界』のギフトだというつもりなのか。


「そしてその次が『法則』なのよ」


 ずっと黙っていた先輩が口を開いた。

 『法則』って一度どこかで聞いたことがあるんだよな……どこだっけ?


「その通りだぜ。『法則』とは不死身や全知全能や拒絶等の設定みたいなものだ」

「いやいや。二番目おかしい」


 何だ全知全能って。


「現在出ている能力は薊の意思で不死身だろうが殺す殺生意思リバーシブルリバー。お前の父親である嘉神一芽のキスした相手の能力をどんなことがあろうとも奪う口留めリップリード。このあたりだ」

「じゃあ父さんの能力って一応神様と同クラスなんですか?」

「ああ。ついでに言っておくが並の全知全能ならば奪えるぜ。出来たらの話だが」

「あの人噛ませなのに?」

「噛ませなのにだぜ」


 驚き桃の木山椒の木だ。


「そういえば先輩は知っていたんですか?」

「一応は知っていたわ。ただこれを知っている人間はほとんどいないはずだけど」

「そんなこと何で皆知らないんですか?」

「補正を隠したいからよ。たぶんこの神薙って男はその補正について話したいのだと思うわ」

「その通りだぜ。分かってもらって助かる。だがその前に残り2つ説明していない能力の種類がある」

「残りは『複合』だけでしょう?『時間』や『運命』や『世界』等に任意で影響を与えることのできる」

「『複合』についての説明はあっているぜ。以前俺が見せた完全消去オールクリアは『複合』だ。『時間』や『運命』『世界』をそれぞれ消去できる」


 以前そこにいる巫女さんが言っていた『世界』とはこういうことなのか。


 きっと現在はこの巫女さんは『時間』を止めるギフトを作ったのだろうな。

 一見するとこれが最強クラスに思えるが何かこの言い方だと違うように聞こえる。


「それじゃあ最後の一つはいったい何なんだ?」

「最後に登場するクラスが『物語』」

「『物語』?」


 満を持して神薙さんが発したその答は到底受け入れられるものではなかった。


「『物語』というのはギャグやメタ、ご都合主義といった能力のことを指す」

「「…………」」


 俺達は黙ったままだった。

 その沈黙をなんとか俺が破る。


「そんなの能力としてありですか?」

「ありに決まっているだろうが。お前はあれか?自分が認められない物は能力じゃないって言いたいのか?」

「いや、そんなことありませんよ」

「ついでに言っておくが嘉神一樹の口映しマウストゥマウスは『物語』だぜ」

「は?」


 いきなり俺のギフトを言われ、たじろいだ。


「更に言えば俺や椿のシンボルも『物語』だぜ」

「もしかして椿さんの治癒能力ってギャグ補正で治すんですか?」


 治癒能力でギャグといえばそれ以外の答えは思い浮かばない。


「…………まあそうですね。そうなります」


 椿さんは何やら煮え切らない言い方だったが大体は合っているらしい。


「もう一つ、月夜幸のギフトも『物語』だ」

「てっきりこの説明だと『運命』か『世界』のどちらかだと思いましたけど」

「確かに世界中の人間を幸せにする程度ならば『世界』クラスだ。問題はそこまでに至る過程にある」

「……」

「漫画やアニメとかで、客観的に考えて、どう考えても敵キャラの方が正しいと思ったことはあるか」

「……まあチラホラと」


 『復讐をして何になる!?』とか『1%の確率で喜ぶ中学生徒』とか、まあそういうの。


「だがその話の中だと主人公の言っている方が正しい風潮になっているはずだぜ。実際主人公であるお前も仲野雄太の宗教論をバカにしていたくせにお前の方が正しいという風潮があったはずだ」

「…………まさか!?」



「そのまさかだぜ。多幸福感ユーフォリアでの行動には主人公補正が付く」



 つまりあの時俺が説き伏せられかけたのも、月夜さんが主人公らしきものになっていたからか。


「とりあえず能力のクラスは説明したぜ」

「『論外』『時間』『運命』『世界』『法則』『物語』『複合』ですね」

「ああ。次に補正についてだ。それについてはまず宝瀬真百合にご教授願おうか」

「…………まず先に謝っておくけど私は嘉神君のギフトが『論外』だと考えていたから知る必要のないことだと思っていたの。だから隠していたわけじゃないのよ」


 『物語』以外の説明に宝瀬先輩は頷いていた。最初から知っていたんだろう。

 そうだと言われて振り返ってみると思い当たる節がある。


「分かりましたからさっさと進めてください」


 言われた通り先輩は説明を始めた。


「今から話すのは『時間』『運命』『世界』『法則』の優劣についてよ。よく『時間』を遡るだけだと『運命』がある限り結果は変わらないって言うでしょ?」

「確かに」

「それは『運命』が『時間』より上位に立っているからよ」

「まあ、ギリギリ分かります」

「ただその『運命』は『世界』には勝てない。『運命』が他世界に影響しないのは理解できるわよね?」

「そうですね」

「このあたりはシュ〇ゲかまど○ギを見れば分かると思うぜ」


 神薙さんが余計な口をはさむ。


「そして『世界』はこの世の真理である『法則』に劣るとされているわ」


 確かに全知全能ならば『世界』なんて敵じゃないのは分かる。


「でも『物語』というのは初めて聞いたわね」

「普通に『法則』の上位クラスだぜ。どんなことがあろうともご都合主義や主人公補正に神は勝てないだろ」

「つまり『物語』>『法則』>『世界』>『運命』>『時間』ということですか」

「ああ。それが前提条件だ。そこで補正の話が入る」

「で、どんな補正があるんですか?」




「能力同士が対峙した場合、自分が上位クラスであればその時点でその能力が優先される」




「詳しい説明をお願いします」

「既存の能力で説明するならば、前回のコロシアイ事件が分かりやすい」


 何で知ってるんだよ。もしかしてサッカーボールの男はこの人か?


反辿世界リバースワールドは『世界』、雲迷路デスティニーランドは『運命』、この時点で反辿世界リバースワールドが優位にいる。だから確定死の未来を否定し続けることに成功したんだぜ」

「そうなんですか?」

「そうよ。そうでなければ反辿世界リバースワールドは発動しないわ」

「ですがあれは勝っていたとは思えないですよ」


 殺され続けたのに勝っていたなんて到底理解できない。


「私の反辿世界リバースワールドは3時間で回避できなければ発動することは無いわ。そうでないと寿命で死んだとき死に続けることになるでしょ」


 それもそうだな。


「あと止まった『世界』を動けるお前たちが止まっている『時間』に動けるのもこの補正があるからだぜ」


 これ俺たちが自分で動いているのか。てっきり動かさせてもらっているとばかり。


「理解しているとアピールするなら、『時間』を巻き戻しても『運命』は変わらず、『運命』を変えるために『世界』を改竄し、『世界』が改竄されても『法則』の神視点では認識できるが、『法則』という神様は『物語』という作者の気分次第って所ですか?」

「パーフェクト。その認識で100点満点だ」


 褒められても嬉しくはない。


「そう言えば最初俺が先輩とあった時に『世界』や『法則』がどうの言っていましたけど、あれはこういうことだからと認識していいんですね」

「そうね。一番上が『法則』で自分のギフトはその次のクラスだと認識していた。だから例え『時間』や『運命』のギフトを嘉神君が持っていても私には勝てない。勿論あの時はそれすら介入できない『論外』の能力とばかり思っていたわ」


 前情報がなければはいそうですかなんて言えなかった。

 それっぽいことがあったから納得のできる者もあるってことだ。


「おまけ説明として、嘉神一樹と嘉神一芽がキスをすればどうなるかだが、答えを言えば嘉神一樹が嘉神一芽の今まで手に入れたギフトを手に入れた上に、嘉神一芽のギフトは全て無くなるぜ。『物語』にそういう描写があれば自分のものにするギフトと、キスをすれば『法則』として奪うギフトじゃ話にならないのは火を見るよりも明らかだぜ」


 父さんのあまりの弱さに絶望した。

 いや、この場合は俺が上なだけなのか?


「この能力の補正は、能力者がいかに愚図だろうが賢人だろうが関係なく適応される。ただ当然だがこれは能力同士が対決した場合であり能力者同士が対決した場合じゃない。そこで次の補正だ」

「能力の補正はそれ以外にあるんですか?」

「違うぜ。今から俺が話すのは能力ではなく能力者としての話だ」


 そして神薙さんは



「能力者がいて二つ以上相手の能力のクラスが自分の能力よりも下の場合、自分はその能力の影響を受けずにすむ」



 と言い放った。


 今度こそ意味が分からない。


「『物語』>『法則』>『世界』>『運命』>『時間』という優劣だが、『世界』を持っている人間は『時間』の影響を受け付けない。『法則』持ちならば『運命』と『時間』、『物語』持ちならば『世界』『運命』『時間』の影響を受けない」

「は?」


 なんだそれ。



「言っておくがこれもフラグがあったぜ。嘉神一樹。雲迷路デステニ―ランドの死を決定づける能力、『運命』受け付けなかっただろうが」

「……」


 あれそういう理屈なわけ?

 一回死んだから『運命』をキャンセルできたと思っていたんだが、裏でそんなことがあったのか。


「ついでに言っておくが、『世界』を巻き戻しているのにデジャブがあるのは常識的に考えておかしいだろうが」

「え?」

「無かったことにされているんだぜ。何で僅かにだが記憶がある。デジャブが出たのは嘉神一樹だけだろうが」

「「あ」」


 宝瀬先輩と俺は同時に気付く。

 俺はさっきの説明の裏付けとして、宝瀬先輩の場合は『物語』という存在があるという裏付けとしてだろうが。


 そうだよな。普通に考えてあり得ないよな。

 それに無かったことにされているのにギフトが残っているのもそういう理屈だろうな。


「補足説明を加えるぜ。ただしこの二番目の補正は持っているだけで使える補正じゃない。ある程度の訓練をして身に着けることのできる補正だ。だから嘉神一樹はある程度の影響を受けている。それと自分が受けないだけであり、相手の発動を無効化するわけではない。『時間』が止まっても自身は動くことはできるが、相手の能力を解除して『時間』を動かすことは出来ないぜ」

「その説明だと今現在『時間』が止まっているのに気付いている人がいそうですね」

「ああ。数百人ははいるぜ」


 何か俺達すごく迷惑なことしている気がする。


 最初『複合』が一番強いんじゃないかと思っていたがこの補正がある限り『物語』が一番強いな。


「この神薙信一も『物語』の能力者だ。だから時間軸を歪まされようが因果律を狂わされようが亜空間に誘われようが、影響を受けないぜ。至って当たり前のことだが確認は必要だもんなあ。もちろん嘉神一樹も練習をすればそんな風にすることが出来るんだぜ」


 そうできるイメージは沸かない。


「それでもイメージできなければ会社に例えて説明しよう。『物語』『法則』『世界』『運命』『時間』『論外』の7種類。順に会長、専務、社長、部長、平社員、アドバイザー、アルバイト。

平社員と部長の意見は当然部長の意見が、社長と会長では会長の意見が優先される。

それに2つ以上差があると立場が上過ぎて直訴すら許されない。

アドバイザーは能力によって意見は出来ても、その会社による立ち位置がない。

アルバイトの発言権は一番下だが、特にしがらみは存在しない」


 分かるような……分からないような。

 ただ俺も聞いてそれ以上の適切な喩えを思い付かない。


「とりあえず補正については理解できました。ですがそれが一体何なんですか?何で失敗するって言い切れるんですか?」


 『物語』である月夜さんの能力がやばいのは分かった。


 ただ今までに二回発動できている以上今回発動できないわけがない。


「過去二回の反辿世界リバースワールドは嘉神一樹が生き返るための道具だから発動できた。だが今からする反辿世界リバースワールドは明らかに多幸福感ユーフォリアの邪魔を目的としている。『世界』と『物語』、どっちが上か説明は済んだはずだぜ」


 前二回は、多幸福感ユーフォリアとぶつかっていないから発動できたが今回は違うというわけか。


「それは違うわ。私自身嘉神君を生き返すためだけに使う予定よ。それ以外の目的で使う気はないわ」


 神薙さんはギロリと睨み


「宝瀬真百合の意思なんて関係ないぜ。嘉神一樹が共闘の意思がある以上お前は道具ではなく一個人として扱われる。そしてそれが足を引っ張る原因となるぜ」

「…………」

「ちょっと今のは言い過ぎですよ」


 いくら神薙さんでもその言い方はあんまりだ。


「確かに言いすぎかもしれない。だが俺は謝らない。実際の所、洒落にならないくらい危ないんだぜ」


 そう言って宝瀬先輩に手刀を入れる。


 彼女の首は跳ねられた。


 その首は地面に落ちる。


「ちょっ!」

「見たか。反辿世界リバースワールドの能力を持っているが発動してはいない。これが『物語』の意思だ」

「だからじゃねえ!あんた何やったのかわかってるのか!」

「椿。治してやれ」

「はぁ。はい」


 一瞬で宝瀬先輩の体は元通りになった。


「分かったか。今こうして俺が殺せたのは俺が『物語』の能力者であるのと、単純に多幸福感ユーフォリアの邪魔だったからの2通りある。同じ『物語』のシンボルである戦女神の冠ルナティックティアラで無ければ治療できなかったんだぜ」

「一体」

「どうした」

「一体あんたは何なんだ! わけわからないことを言って! 理解を超える範囲で先を知って! 平気で人を殺す! あんたは一体何者だ!神にでもなったつもりか」


 神薙さんは落胆したように溜息をしてつげる。


「そんなつまらないものと一緒にするんじゃないぜ。無論人外でも超越者でも無い。ただのしがない死が無い主人公だぜ」



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