ループは常に一定とは限らない
リトライ2回目。
目を覚ますと俺が知っている天井ではなく、初めて見る天井。
地下室のような部屋にランプをともしているかのような暗い部屋。
起き上がろうとしたのだが手錠がされている。
足を動かそうとしても足枷が。
どうやら監禁されているらしい。
ただ監禁されている割に、ベッドは柔らかく空気もきれいで、手足が動かせない以外は心地が良かった。
まるで高級ベッドに捕らえられているかの様。
俺をこんなこと出来る人は誰だろうか。
頭のねじが数本いかれているとしか思えない。
そんな人間俺は一切心当たりがない。
「おはよう嘉神君」
俺の隣に宝瀬先輩がいた。
何だって!! 予想外の人間。
その先輩は下着姿だというのも問題がある。
ついでに俺もよく見たらパンツ一丁だ。
これ完全に事後の気がしたがきっと気のせいだろう。
気のせいだと信じた。
信じるのって大事。
「えっと……これをしたのは先輩ですか?」
「正確には違うわ。宝瀬直属の部隊を使ったわ」
「勝手に俺の部屋に入ったんですか?」
俺が心配しているのは自分の部屋に入られたことでは無く、ゴーストハウスであるあの荘に、何も対策しないで挑むのは如何なものかという意味だ。
「大丈夫よ。陰陽師に御祓いをやらせているわ」
そっか。それは安心と現状を丸投げる。
「……嘉神君はこれからどうするつもりなの?」
「これからってどういう意味ですか?」
「あなた一度、いいえ二度も死んだのよ。それでもまだ月夜さんを助けに行くの?」
「そりゃ、月夜さんを助けにいきますよ。当たり前でしょ」
「騙されているのに?」
「それは彼女が操られているからです」
「……きっとそういうと思ったわ」
一度宝瀬先輩は深呼吸をはさむ。
「よく聞いて。一回目つまりあなたが最初に死んだ後の話よ、浄化集会は二週間で世界最大の宗教になったわ」
「……」
これをどう捉えよう。
枯野礼成のギフトがすごいと考えるべきなのか、それとも月夜幸のギフトが強いと考えるべきなのか。
「あなたから勝手にギフトを使うなって言われていたからずっと使わなかったけど、2週間たった時、嘉神君のお父様が来て『世界をやり直せ、一樹はすでに死んでいる』って言われたから戻したの」
そういえば、仲野と喧嘩したときギフト使うなって言っていたな。
それを守ってずっと使わなかったわけか。
忠犬ハチ公のような従順さがあった。
「2巡目、嘉神君は何も言わずに行動に移したわ。結果はあなたが一番分かっていると思うけど」
2巡目は月夜さんも死んだので何も起きなかったと断定できる。
「私のギフトは遡った間は使うことができないから、2週間あなたがいない世界を生きてきたわ」
「そうですか」
俺がいない世界もなかなかどうして気になるが今はそんなこと考えるときじゃないな。
「それで何で監禁なんて?」
「あなたまた殺されに行くでしょ?」
「失礼ですね。助けに行くんですよ」
「頼まれてもないのに?」
「頼まれました」
「99%嘘だと分かっているのに?」
「俺は残りの1%を信じます」
「…………失礼だとは思うのだけど嘉神君の過去を調べさせてもらったわ」
「!!!!」
この女…………。
「どこまで調べたんですか?」
「…………ほとんど全部よ。宝瀬の情報網にかかれば個人情報なんて3日もあれば把握できるわ」
「ほとんど全部というのは?」
「いつどこで何を買ったのかくらいよ」
本当に……この人を日常に関して敵に回したくないな。
「嘉神君、あなた中学校時代に人を殺しているのね」
「…………」
まあ何を買ったのかを調べられるのならばれるか。
「それで、先輩は、いえ先輩も俺を非難するつもりですか?」
「いいえ。誰が非難するものですか。たとえ神様が非難しようとも私は嘉神君の方が正しいって思う」
「そうですか」
理解があってよかったと言っていいのだろうか。
「だから私は考えたの。嘉神君がここで動かない訳がない。でもそれは私にとっては困ること。悪いけれどその動きを封じさせてもらったわ」
「何で?」
「私があなたを失いたくないからよ」
よほどこの先輩は俺という駒を失うのが嫌のようだ。
個人としてはそこまで信頼してくれるのはうれしいが、嘉神一樹としてはやっぱり月夜さんを助けに行かないといけない。
さて、脱出方法を考えるか。
困ったな……対策を取られている。
あっ! 待てよ。
「先輩が調べたのはあくまでも俺の過去ですか?」
「そうだけれどそれがどうかしたの?」
「どこまでですか?」
「とりあえず私と嘉神君が出会う前からかしら」
うん。いけそう。
「
最近手に入れた姉さん(変態)のギフトを使う。
手錠や足枷を大きく、更に俺の体を小さくした。
これで一応自由になる。
「え?」
虚を突いた隙に手錠を先輩に通し再び小さくする。
これにより俺ではなく先輩が監禁された形になる。
「ふう」
やりきった感がある。
それにしても今先輩は下着姿なので手錠をかけられているのを見ると何やら疚しい気になるな。
「先輩、なんか着るものあります?」
「…………タンスの中」
言われたタンスの中を見ると、
「おお」
Yシャツがいい感じにある。
「好きなの、貰っていいわ」
一通り手触りを確認してから一枚を選択。
ズボンは動きやすいものを選んだ。
全部サイズがぴったりなのが、ちょっとだけ怖い。
「待って!」
「待ちません」
「私も連れて行って」
「いや、無駄でしょ」
言っちゃ悪いが巻き戻している最中の宝瀬先輩は足手まといにしかならないんじゃ……
「
世界が止まった?
「見て。私、遡った後でも、世界を止めることだけなら出来るようになったわ」
成長早いよ。
そんなすぐ成長するならコロシアイ事件の時成長していればもっと早く助かったかもしれないのに。
「だからきっと役に立つ。ううん絶対に役に立って見せるから。だから私を連れて行って」
「…………」
俺は考える。連れていくべきか否かを。
『世界』を止められるのなら戦力としては十分かもだが、俺が死ぬ前に一人世界が止まっている状態で動いているやつがいた。
ただ逆にそいつ以外は動いていなかった。
つまりそいつさえ倒せれば勝てるわけだが…………
よし、決めた。
「
俺は先輩を開放することにした。
「ありがとう。死力を尽くすわ」
「共闘してくれると考えていいんですよね」
「ええ」
「ですがこれだけは守ってください。ピンチになったらすぐに逃げると」
「いいえ。むしろ嘉神君はやばいと思ったら私を殺せばいいのよ。そうすれば三時間巻き戻ってリトライできるわ」
この発言に違和感がある。
先輩は何度も殺され続けた人間だ。
だから命の重さを最も理解している人間と思っていたのだが、まるで自分の命を駒にするやり方をするなんて俺には理解できなかったからだ。
そうまでして月夜さんを助けるメリットがあるのだろうか?
それとも他のメリットがあるのだろうか?
まあ女の心を完全に読もうとするなんて羽〇さんでも出来そうにないから俺なんかがやろうとしても無駄か。
よし、考えるのをやめることにした。
高級車で30分かけて目的地まで移動する。
今回は武器も持っていく。
先輩から護身用の拳銃を借りた。
拳銃の貸し借りは法律上よろしくないが、金を払えば問題ないとが先輩談。
ザ・金の力である。
金の力と言えば
「そういえば先輩の家何人いるんですか?」
すれ違っただけでも10人のボディーガードがいた。
「……えっと、質問に答える前に勘違いを正しておくとあれ家ではないわ」
「いや、あれ家じゃなかったら一体何ですか」
「小屋よ。あれは私たち姉弟が勉強するために建てらせたものだから」
「ですが学園の校舎くらいは大きかったですよ」
「そうね。でもあれが小屋だということに変わりはないわ」
「…………」
「ちなみに先輩の言う家ってどのくらいですか?」
「東京二十三区以外全ては宝瀬の敷地よ」
「いやいやいやいや。認めませんよそんなの」
「本当よ。宝瀬の社員住まわせているけれど、実質的な地券は宝瀬が持っているわ」
……まあ東京は二十三区までが東京であってそれ以外は東京じゃないって聞いたことがあるからな。
だからそれ以外の土地を持っていても何ら問題はないか。
「それとあの時いた男たちは本家から寄越してもらっただけだから正式に住まわせているのは二人よ」
「そしてそれがわたくしです」
運転席にいる執事服を着た女性が会話に入ってくる。
「俺なんかが宝瀬の一人娘を連れまわして大丈夫なんですか?」
先輩はああ言ってくれるが実際問題まずいことをしているんじゃないだろうか。
「大丈夫じゃありませんよ。お嬢様を傷つけでもしたらどうなるか分かっていますよね」
怖いこの人。
「めしべ。それはこっちの台詞よ。何嘉神君に脅迫しようとしているのよ。消すわよ」
「…………申し訳ございません」
そしてそれ以上に先輩の方が怖かった。
「それに安心していいわ。私は嘉神君から傷物にされる予定だから」
「…………」
一体何を安心すればいいのだろうか俺には分からない。
さて、ようやく支部の前に到着。
「ご武運を」
執事は遠くから見守って何かあればすぐに駆けつけてくれるらしい。
「大丈夫よ。たかが宗教団体に宝瀬が負けることは無いわ」
何か引っかかる。
嵌められた気がしてならない。
敵視点で話すのならば、宝瀬先輩がいる限り勝ち目はないはず。
だから何とかしてこの人を無力化する必要があるわけだ。
その手段を俺は想像もつかないが、万が一あるとしたらここでケリをつけにくる可能性がある。
本当に俺は彼女を連れて行っていいのだろうか?
「嘉神君は私を道具として使えばいいのよ」
「いや、それは無理ですよ。先輩は俺の大切な先輩なんですから」
「…………私はその言葉の意味をもう理解してしまっているけど、でもやっぱりそう言ってくれるとうれしいわ」
やっぱ一度決めたことを変えるのは良くないな。
先輩と共闘しよう。
余計なことを考えてしまった。
宝瀬先輩のギフトはどう頑張っても崩せないはずなんだ。
自動扉の前に立ちいざ決戦の舞台に入ろうとしたのだが玄関近くの柱に一人の男と二人の女がいた。
神薙信一さんとそのお付きの人。
「もしかして一緒に戦ってくれるんですか?」
この人の強さはよくわからないが、あの女性陣を見る限りものすごくヤバいというのだけは分かる。
そんな人が一緒に戦ってくれるのなら百人力だ。
ただその期待は裏切られる。
「逆だ。俺は止めに来た。次死んだら、お前達はリトライできないぜ」
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