His brake is broken.
神薙さんに対する怒りが消えたわけではない。
本来ならもっと突っかかるべきなのだが
「か、嘉神君……」
先輩が眼に涙を溜めてこっちを見ている。
先輩はかつて何度も死んでいる。
ゆえに誰よりも死を恐れている。
その先輩が一度死んだ。
「怖いよぉ……」
本気で泣き始めた。
俺はそれを宥めるのに忙しかった。
「嘉神一樹、お前にある選択肢は、月夜幸を一人で助けに行くか、もしくは見捨てるかの二つに一つだぜ」
答えは決まっている。
「月夜さんを助けに行きます」
それを聞いた先輩は
「嫌だよぉ。離れたくないよぉ」
と更に泣き崩れる。
「ごめんなさい。ですが今は月夜さんが先です」
少なくとも今彼女自身に危害は及ぶことは無いだろう。
ただ月夜さんは現在進行中(ただし時間は止まっているが)でピンチなのだ。
「神薙さん、最後に聞きたいことがある」
「何だ」
「月夜さんのギフトが、宝瀬先輩のギフトより上なのは分かった。だったらなぜ、あの事件を予知できなかった?あんたの説明ならこんなにも不幸になっている先輩を救うことができないのはおかしいだろうが」
少なくとも先輩はこんなことにはならなかったはずなのに。
「簡単なことだぜ。月夜幸のギフト
そうか。だったらまだ――――
「というのは表向きの話で、浄化集会にとって邪魔な衆議院議員を殺すことが目的だったぜ。それ以外にも嘉神一樹が殺した人間には浄化集会にとって邪魔な存在が多く含まれていたこと、それに宝瀬真百合の弱体化も理由に挙げられる。
「…………」
俺は先輩を抱きかかえる。
もうこの人に何も言うことは無い。
こいつは敵だ。
先輩を執事のいるところまで抱えて移動した。
俺は何とか先輩を落ち着かせる。
それだけで数時間かかった。
一応まだ『時間』は止まっているので数時間という表現はおかしいがとにかく数時間だ。
ただもう少し宥めないといけないようだったので会話をする。
「…………そういえば何でクラスや補正を隠しているんですか?」
「嘉神君は『時間』の能力ってどう思う?」
「そりゃ……卑怯だと」
実際の所『時間』を止める能力は強い。
「そうね。通常の能力ではまず『時間』の能力に勝てないわ。それだけで4千万の能力者のうち3999万は戦力外なのよ。ただでさえ差別がどうこう五月蠅いこの世の中で、絶対に勝てない10000人がはっきりしてしまう。それだけじゃないわ。更にその上の『運命』、『世界』、『法則』ってきているの。もしこれを発表してしまったらどうなると思う?」
「……分離されますね」
「そう。無能、『論外』、『時間』、『運命』、『世界』、『法則』の六つ……いえ『物語』を含めて七つに分類されるわ。そんなことになったら無能力ってどう思う?」
「末端中の末端ですね」
「そうよ。完全なる序列がついてしまうわ。いくらなんでも無能力者が能力者より優れているなんて信じている人は本当に愚かな人以外いないわ。普通に考えて出来ることは、精々平等を謳って自分の底を見ないようにするくらいよ。でも明白なる差が、目を背けることのできないような差がはっきりしてしまったら、どうなるかしら?」
「差別ですか?」
取りあえず思ったことを口にする。
「そうよ。実際そのシステムを公表したらそういう『運命』になるらしいわ。それを避けるために超者番付というものを作っているのよ」
「え?むしろ差別広がるんじゃ」
「逆よ。確かにそれで新たな差別が生まれるけど、場合分けは無能力者、弱い能力者、強い能力者の三つで済むわ。上から七番目ではなく上から三番目になるのよ」
世間では差別反対とかで反対意見の多かった超者番付だが、まさかあれが差別の広がる要因ではなく減らす要因だとは思わなかった。
「ねえ。やっぱりもう一度だけお願いさせて。行かないで。私の持っているもの全て嘉神君に捧げるからずっと私の傍にいて」
宝瀬先輩は世界の20%を支えている宝瀬財閥の次期後継者だ。
その彼女が持っているもの全てとは詰まる所この世界の2割なわけである。
「すみません。俺は
さて、三度目の正直と行こうか。
まだ門の付近に神薙さんがいた。
ただしいたのは神薙信一ではなくギャグ補正で治すシンボル持ちの神薙椿さんの方だが。
「少しお話ししたいことがあります。時間は取らせません」
止まっている時の中で彼女はそう言った。
神薙椿さんの話を聞き終わり、ちょっといろいろあっていざ浄化集会内に入る。
「お待ちしておりました、嘉神様」
前回と同じように受付がいた。
そして前回と同じようにホールに向かう。
今回は最初から月夜さんが俺の前に立つ。
隠れる必要はないということか。
隣に
「挨拶する前に確認したいんですけど、嘉神さん、もしかしてループしてます?」
「記憶あるのか?」
「はい。ですが所々あやふやになっていて、はっきりとその先が分かるとは言えませんが」
やはり『物語』の能力者は『世界』の影響を受けないのか。
「反応を見る限りどうやらその通りみたいなので目的は端折らせてもらいます。ただ一言言わせてください。人類の為に死んでください」
己の信念を隠さず俺に死刑宣告をする。
ただ俺はもう覚悟を決めた。
偽物だろうが、偽善だろうが、今はなにもよりも
「悪いが月夜さん。俺は人類の幸福より、友達の幸せの方が大切だ。だから、俺の為に人類を犠牲にしてくれ」
彼女の目を覚まさせる。
それにはまず月夜さんの目的を打ち砕く必要がある。
「勝手に話を進めないでくれないかな。僕はこう見えて忙しいんだ」
感情を与えるギフト
そして謎のギフトを持っている護衛三人、うち一人は
なかなかハードモードだ。
「すみませんがもう枯野さんの出番はありません。下がってください」
「なぜだい?だいたい僕がギフトを使えば勝てると思うよ」
「いいえ。絶対に使ってはいけません。そうじゃないと死にますよ」
月夜さんは俺を見ずに出口に向かっていく。
「枯野さん、説得は無駄です。今回は理不尽に倒させてください」
「分かったよ。報酬ははずむ。だから殺せ」
そして枯野たちも出口に。
俺はそれを黙って見送る。
今回は、先にこいつらを倒してから月夜さんをさらう。
「どうしたっ。来ないのかっ」
鎧をまとった男が俺に挑発的な態度をとった。
「安心しろ。倒す順番を考えていただけだ。だからお前たちも辞世の句、考えておけよな」
俺も挑発を仕掛けておく。
実際の所こいつらのギフト能力、まだ分かっていない。
分からずに特攻するのは馬鹿がやること、そう思っていた。
「某たちも舐められたものだ。攻撃するまで待っていると思っていたのか」
忍者の男がギフトを使い何かをして俺の首を切断した。
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