宝瀬真百合 3 (視点変更あり)
その声は私が今一番聞きたかった声なのに絶対に聞けないと思っていた声だった。
彼に触れた温もりはまだ残っており、過去に飛んだときに感じる酔いも感じない。
つまりは現実。
「な、なぜだあ。お前は死んだはず!」
私の前に立っていた男は、私が愛した人そのもの。
「………嘉神君!?」
「……………ああ。そうだ」
嘉神君が立っていた。
あまりにも嬉しくて全身から色んな体液が流れる。
でもそんなこと気にしていられない。
そのまま抱きついた。
彼は嫌がりもせずに私の頭を撫でながら
「先輩。隣で泣き喚かないでくださいよ。耳障りっていったじゃないですか。お陰で永眠から目醒めちまった」
どうやら嘉神君は私の大往生が耳障りだったらしい。
酷いことを言われたが、生きていてくれた嬉しさで全く気にならない。
「ふざけるな! 確かに息が止まっていたぞ!!」
でもそう。私も確認した。息が止まっていたし脈もなかった。
「ん………ちょっと待って。俺も考えるから」
嘉神君は片手を前に出して考え込んだ。
十秒たったくらいに彼はつぶやく。
「ああ。そっか。そう言うことか。ようやく理解した」
抱きついている私を見て何か分かったようだった。
「まさかおまえ………死んで生き返るギフトでも持っているのか?」
「いや。それはないことを俺が一番よく知っている」
「だったら一体どんなギフトだ!」
「誰が教えてやるかよ」
最後の白仮面を
残ったのはバスガイドと数人の観客。
戦闘員はもういない。
「そんな、ありえない。なんで、運命で死ぬこと決まってるのに死んでないの!」
「お前さ、何度も言っているだろ。もう一度言わせる気か?だったら最期にもう一度だけ教えてやる。心して聞け。運命が俺に勝てない理由、それはお前がブスだからだよ。運命の女神さん」
と、間違いなく関係のない上に私ですら理解できない理由を述べ引き金を引いた。
「さあて、まだ俺の処刑フェイズは終了していないからな。誰から殺して欲しい?」
景気よく何人も射殺して、最後の一人。
「うっ……」
急に嘉神君がふらつく。
「大丈夫?」
「……無理っぽい」
え?
「マジで目眩がして焦点が定まってない」
確かにフラフラで、もはやなぜ生きているかすら怪しくなる。
「肩、貸した方がいいかしら?」
「頼む、ついでに照準も合わせてくれ。視界がぼやけて前すら見えない」
私が右手で照準をあわせ、彼が左手で引き金に指を添える。
熱い拳銃が間に挟まっていたけれど、私は彼のぬくもりだけを感じた。
「や、やめてくれ……」
「お前には何も言うことは無い。後悔しながら死ね」
私たち、いいえ、嘉神君と私が引き金を引いた。
男から血が噴き出すのと同時に嘉神君も倒れる。
倒れた方向が私のいた場所と逆だったので慌てて下敷きになる。
呼吸はある。ただし本当に危険な呼吸だった。
「うっ……」
彼が倒れたのと入れ替わりに、誰かが目覚めたようだ。
「………一樹!」
男の声。だがその声に聞き覚えはない。
そうなるとあの人しかいない。
「あなたは、嘉神君のお父様?」
「ああ。オレはどうしてこうなった」
説明する義務もなかったのだけど、お父様に悪い印象を与えるのは良くないわね。
嘉神君に押し倒されている状態で説明する。
何か落ち着く。
「……ついに来たか」
「何の話ですか」
「いや、話せない。話そうとしたらまたサッカーボールが飛んでくる」
どうやらあのサッカーボールには心当たりがあったらしい。
「ただこれだけは一樹に伝えてくれ。
サッカーボールが嘉神君のお父様を吹き飛ばす。
どこかで聞いたことある名前だったけれど今は嘉神君だ。
結局あのお父様は訳の分からないことをいって退場した。
使えないわね。
本当に嘉神君のお父様なのかしら。
ヘリコプターの音が聞こえてきた。
一瞬また飛行機が落ちてくるのではないかと嫌な予感がしたが、空を仰ぐと私の家のヘリだった。
どうやら誰かが助けを呼んできたらしい。
これで本当の本当に助かった。
私は彼の鼓動を感じながらゆっくりと目を閉じる。
私もちょっと疲れた。
…………おやすみなさい。
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