宝瀬真百合 2 (視点変更あり)

 多勢に無勢のこの戦い。


 誰がどう見ても負け戦、いや、敗戦処理にも思えるこの戦いだったが、嘉神君は善戦していた。


 鬼人化オーガナイズで一気に攻め、雷電の球ライジングボールで動きを止め、回廊洞穴クロイスターホールで致命傷を与え、柳動体フローイングで回復する。


 この流れをなかなか白仮面は切り崩せずにいた。


 流石は嘉神君だわ。これならばきっと。


「おい、坊主。こっちを見ろ」


 白仮面の一人が私たちを攻撃する。


「ちっ」


 一人を殺す決定的なチャンスを捨て、私たちを防御した。


「総員、狙いをそこに寝ている連中に変更」

「……」


 白仮面は馬鹿ではない。どうすれば彼を倒せるか、その答えを見つけた。


 護衛先の攻撃。


 仲間思いである嘉神君は、やられるまえに倒しにかかるが、あいつらの方が早い。


氷里一体ホワイトアウト


 氷柱による連撃を私たちに狙って放つ。


回廊洞穴クロイスターホール


 当然彼は私達を守る。


 ただしその攻撃は彼の背後から、ためもっとも防御の早い回廊洞穴クロイスターホールを使用していた。

 そしてこの能力は穴を空けられるのは一度に一つまでであり、その間前方からの攻撃は不注意になる。


 ギフトによる攻撃ならば柳動体フローイングで防御可能なのだが。


 パンッとむなしい音が響いた。


「ぐがっぁあ」


 嘉神君が拳銃によって撃たれていた。


 ここからでは確認できないけれど多分お腹を撃たれている。


 鬼人化オーガナイズでは臓器の再生は出来ない。


 だからあの一撃は受けてはいけない攻撃だった。


「………!」


 それでもまだ彼は戦う。


 傷口を押さえようとはせず、突撃。


 残り5人。


 白仮面は全員拳銃を構える。


 発砲。


 回廊洞穴クロイスターホールで一発は跳ね返す。


 残り4人。


 しかしその代償は大きい。


 右肩右の肺左足を撃たれている。


 その場で倒れた。


「手間をかけさせおって」


 大臣がほざくが…………


「うぉおおおおおお」


 それでも彼は立ち上がる。

 致命傷を何度も受けながら。


 既に出血量で死んでもおかしくないはず。


「くたばり損こないが!」


 恐れをなした一人の男がタイミングを合わせずに発砲した。


「くっ」


 早苗が嘉神君の前に出て盾になる。

 彼女も体力気力がほとんど尽きているはずなのに、最後の力を振り絞り鬼神化オーガニゼーションを使う。


 残り3人。


雷電の球ライジングボール


 時雨君がすきを見て攻撃。


 残り2人。


 私も何かしないといけない。


 そう思って銃弾を放つ。


「ニヒィ」


 跳ね返された。

 嘉神君がその体で私をかばう。


 彼はもう回廊洞穴クロイスターホールを使うことも出来ないらしい。


「うぉおおおお」


 早苗が鬼神化オーガニゼーションで突撃しようとしたが


「……!」


 力尽き倒れた。


「雷電のライジングボール!」


 その背後から再び時雨君がギフトを使う。


 感電した。


 残り1人。


 早苗は倒れているけど時雨君と嘉神君は立っている。


「おい、お前ら何をやっている!ここで殺すのがお前たちの仕事だろ」

「そりゃそうなんですが旦那、いくらなんでもここまで強いやつは無理がありますぜ」

「お前の都合など知らん!殺せ!!!」

「そうしたいのは山々なんだけどよ……俺っちのギフトじゃ、こいつに吸収されて終わりなんだよ。それにもう銃弾も使い切っちまった。だから戦えないんだよ」


 嘉神君は何も言わずに立っている。


 勝ったのね。


 流石は嘉神君だわ。言ったとおりだった。


 運命なんて彼の敵ですらないのね。


「んん↑? あ……ははははっは。やるねえこいつ」

「どうした!?」

「旦那。撤回するぜ。俺っちは戦える、そしてどうやら勝てそうだ」


 え?どういうこと。


「どういうことだ!説明しろ!」

「だってこいつ、弁慶のように立ったまま死んでる」


 その絶望を私は正しく理解することは出来なかった。


「訳わかんねえかも知れねえけどよ。ほら」


 男は嘉神くんの息が触れるくらい近づいた。


 それでも嘉神君は動かない。


「こいつもう息をしていない」


 そんな……


「嘘よ!そんなの有り得ないわ!!!」

「うせえな。事実なもんはしょうがないだろ」


 私は急いで嘉神君の元に向かう。


 脈は……無かった。本当に立ったまま死んでいた。


「いやぁ…………あああああああああ」

「ぴーぴーうるさいな。旦那、この男の死体貰って良いですか。俺英雄の死体の一部集めるのが趣味なんですよ」


 今日は仲間の死体も手に入れて豊作だと言っていた。


 私はその場でへたり込む。


 その僅かの衝撃で嘉神君は倒れた。


 まともな受け身を取らず頭から崩れ落ちる。


 意識があるなら絶対にしない倒れ方。


「ハハハハハアアア!どうやら私達の勝ちのようだな。みなをまとめて殺すのだ」

「了解したぜ旦那」


 白い仮面を被った男は私達に攻撃態勢を取った。


「安心しろ。俺はお前らに興味ないんだ。死んだらご先祖様と同じ場所で眠れるぞ」


 世界が巻き戻っていないところを見ると、彼は反辿世界リバースワールドを会得できなかったらしい。


 巻き戻ったせいか最初から会得でいなかったのかは分からない。


 けど重要なことは一つだけ。


 嘉神一樹はもう生きていないということ。


 それだけで生きることを放棄した。


「てめえ」


 時雨君が無駄な攻撃をするが


完全燃焼バーンアウト


 炎により燃やされる。


「ぐああああああ」


 まだ息があるのは素直に感心するけど正直どうでもいいわ。


 これで詰み。


 嘉神一芽は何者かによる攻撃で戦闘不能。早苗と時雨君も同じ。


 私はギフトを使えない。他のみんなは睡眠中。


 そして、嘉神君が死んでいる。


 絶望しか残っていない状況。


 死しか残っていない状態で


「よかった。また嘉神君に会える」


 そんなことを呟いた。


 え?


 私今なんて思った?


 よかったって?


 これから死ぬのに?


 いったい私何を考えているの?


 これから死ぬ恐怖より、嘉神君に会える喜びの方が勝っているとでもいうの?


「馬鹿じゃないの」


 馬鹿は死なないと治らないというけど、何千回と死に続け、その後生き残って、また死んでやり直しになった時の台詞がよかったなんて、神経を疑った。


 いいえ。間違いなく気が狂っている。


 でも、それでも、私は今とても幸福に満ちている。


「あはっ」


 私は嗤った。


 自分自身の存在に。


 誰よりも宝瀬という姓を憎みながら、生よりも性にしがみ付く宝瀬真百合に。


「あっははっはっはは」


 泣きながら笑顔で、彼の亡骸を抱く。


 彼の出血により私の体が血に汚れる。


 胎児が母親の中にいる感覚を味わっているようだった。


 私という存在が彼によって確定させてしまった。


 この先どんなことがあっても変わることは無いだろう。


 私は涙を拭き立ち上がる。


 理由なんてないけれど彼の死体を私の死に巻き込みたくなかった。


 そして、泣きじゃくった後の顔を隠さず精一杯笑顔を作る。


 傍から見ればそれは気が狂ったようにすら見えるだろう。


「気が狂ったか。だがおれはその顔が見たかったんだ」


 別にどうでもいいのだけど見たければ見なさい。


 あなた達はもうただの風景。


 なんて思われようとかまわない。


「恐怖や苦痛に満ちた表情を私に見せろぉおお」


 残念だけどそれは無理ね。


 彼の元に逝ける。


 今度は私から助けを求めるわ。


 もしかしたら嘉神君は覚えていないかもしれないけれど、私は絶対にあなたに着いていく。


 約束は守るわ。


「そろそろ終わらせろ!」

「合点承知だ」


 私の役目は笑って生きること。


 だから精一杯笑う。


 何も怖くない。


 ただ一つだけ。


 生き残れなかった私を


完全燃焼バーンアウト


 みんなが守ってくれたのに死んでしまう私を


「死ねえええええ」


 希望を持って死ぬ私を許してください。




























「だが断る」




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