雲迷路
ここからが俺からすれば本番。
如何にして皆を生きて外に出すか、これに全てが掛かっている。
宝瀬先輩と考察したのだが……運営側もそれなりに面倒なことをしていると結論付けた。
この施設は地下備蓄庫を改造したものであるため、ひどい魔改造は出来ない。
毒ガスの散布だってそれが理由だろう。
爆弾の方が手っ取り早く確実なのにそうしなかったのは、このゲームが終われば、実際に備蓄庫として使わないといけないため。
破壊なんかしたら、何でそうなったのか調べられる。一般の俺すら怪しむくらいの強引な採決だったんだ、内部からはもっと不審がっている人はいるだろうからな。
そのため自爆装置何てつけなかった。今後の保身の為に。
それと宝瀬先輩のギフトは、運営は知っているが観客は知らない。
ジェット機による特攻なんて、どこの誰がしたとしても、国家が戦争に振り切るには十分の理由。
宝瀬先輩を殺せばリセットされるという考えがなければ、実行するわけの無い愚案だ。
あっち側にとっても不測の事態だったはず。
でもだったら爆破装置を作っていてもいいんじゃね? と思ったのだが、企画を進行させるのが運営だが、観客の誰かが施設を作らせたならば納得がいく。
だから運営側は証拠を消し去る手段は乏しい。
乏しいなりに、この数時間は何が何でも殺しにかかるはず。
それに毒ガスの散布だって、人質がいるのに本当にしていいのか確認に追われているはず。
あいつらの誰かにやれと指示を出す能力はない。
能がないからこんなことするんだから、断定できる。
……そう考えると、ジェット機の突撃は誰かの独断専行に思えてしまう。
このゲームを覗いてはいるが積極的な参加をしないが、ヤバくなったので自身の持つ力で干渉をする、運営の上の大元のような存在………………その場合考えられる存在は一つしかない。
――――もしそうだとしたら、はっきり言って今の俺が出来ることは何もない。
それに、こんなこと考えてもそんなに重要じゃないからな。この件は終わり。
本当に大切なのはどうやって脱出するか。
それをみんなで話し合った結果…………やっぱ
運営からの提案はどんなことであっても受け入れ難く、かといって何もしないとなると殺される。
みんなが最も信頼できるのが俺のギフト……俺だといってくれた。
そう言ってくれると俺はとても嬉しい。
嬉しくて何でもできちゃいそうだが、建設的な考えはしないといけない。
つまり同じ穴に同じように通れば、結果は同じ。
綺麗にできた穴だったら何回通っても問題ない。
しかしそれを判断するのは一度穴を通らないといけない。
そこでだ、ここにあるではないか。
人型をしている、生きていようが死んでいようがどうでもいい脂の塊が10数存在する。
利用しない手はないだろう。
無事、別に尊くもない犠牲のおかげで16人全員が博優学園運動場に到着。
日直の先生すらいないのは、警備としてどうなのか。
居た所で役に立たないのは分かりきっているため、特に何か言いたいことはない。
そう言えば、今の所全員生存だがその弊害と言うべき事態が起きた。
「…………」
ブスバスガイド、現在生存中。
いやー、殺すタイミングは無かったとは言わないがそれ以外の観客を拷問するのに忙しくて積極的に狙わなかった。
結果生きてるし。顔が不快し目も不快。
何で生かしてるんだろ。殺そう……そう思った矢先
「好い加減放しなさーい」
おお。意外に凄いな。このブスバスガイドまだ心が折れていなかった。
一巡前はすぐに心が折れたのに。
もしかして殺されないとでも思っているのだろうか。
「そうね。ここにいる全員の靴を舐めたら許してあげるわ」
宝瀬先輩。そんな目で言っても誰も信じてくれません。
「良いんですかそんなこと言ってー。私のギフトまだ発動できるんですよー」
「………!?」
この豚。ギフトホルダーなのか!
「どうやら嘉神という男の所為で、失敗したようですがー。ですが、もう十分でーす。私のギフトを再び使うのに十分な時間が過ぎましたー」
ハッタリ? 違う。ハッタリじゃない!?
「私のギフトは
「先輩! 世界を巻き戻せ!」
だが無理だ。
今回は上手く行き過ぎて、前回巻き戻った時間分過ごしていない。
そうだ。この可能性を俺は忘れていた。
あまりにも当然な……運営サイドにも能力者がいる可能性。
「宣言しまーす。ここにいる全員この場で死にまーす」
何となく分かる。
これはまずいと。
とんでもないことが起きる。
「一樹!!」
「!?」
周囲を囲むようにして現れたのは、真っ白な仮面をかぶった奴ら。
数は……10体。
早苗にあの事件の後聞いた。
あいつらは元犯罪者。いや……服役中の囚人とも言っていい。
ギフト持ちを普通に牢獄に入れることは不可能であり、また折角能力があるのに使わないのはもったいない。
一般人にはやらせない仕事をさせ、量刑を減らさせる。故に彼らは屑の集まり。
それが白仮面。
「遅かったではないか」
「大臣。たまたま管理人の機嫌がよかったからいいものの…………少し遅れていれば殺されていましたよ」
阿呆が。どんな管理をしているんだ。
「全員死ねー。みんな死ねー」
………………
でも待てよ。白仮面だよな?
噛ませで有名なあの白仮面だろ?
ということは………
「父さん」
「呼んだか、一樹」
試しに呼んでみると、来た。
我が父、嘉神一芽。
職業殺し屋。年齢四十前半。
キスをした相手のギフトを奪う
不満があるが俺が知っている中で、父さんより強い人はいない。
周りの連中(敵味方含めて)驚いている。
俺もまさか来るとは思わなかった。
「あいつら殺れる?」
「任せろ。だがその前に、スリープ」
父さんは俺と早苗と時雨と宝瀬先輩以外の生徒を眠らせた。
「これからオレがこいつら殺すが、その時の様子をこいつらに見せるわけにはいかない」
おお。意外にアフターケアしっかりしているな。
ん?
「じゃ何で、起きている奴いるの?」
「一樹たちは以前に殺人を見ているから問題ない」
確かに俺と早苗はあの時の光景を目撃しているし、宝瀬先輩は何度も死に続けた身だ。
問題ないと判断していい。
ん?一人多い気がする。
ま、別にいいか。
父さんがきっと白仮面を退治してくれるからな!
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「おこだよっ!」
彼女は怒っていた。
嘉神一芽が最終的に敵を倒すという、同じような展開が二度も続くということに。
仮に、嘉神一芽という人間が『物語』における最強の登場人物だとすれば、彼女も許していただろう。
しかし嘉神一芽はそこそこ強いキャラでしかない。
最強はもちろんいずれチートキャラとすら言われなくなるような男なのだ。
精々役割は嘉神一樹の父親程度でしかない。
「うーん。2章で父親殺すの早い気がするけどここまで邪魔されたら消すしかないかな」
仏の顔も三度撫でれば腹立てる。
神は二度目で怒る。
今がその時だった。
「よし、あいつ殺そうかな」
思い立ったら即行動である。
彼女は先程まで食べていたポップコーンを一粒掴み
「えい」
天頂から投げ捨てた。
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「ぐはっあ」
いきなり、父さんが口から出血して倒れた。
「「「え?」」」
敵味方含めて、何が起きたか理解できた人はいない。
倒れた父さんはそのまま動かず、気を失っていた。
試しに小突いてみる。
動かない。
踏んでみる。
動かない。
ち○こ蹴ってみる。
あ、動いた。
どうやらまだ生きているようだ。
いったい誰がこんなことを?
俺は周りを見渡す。
そしてあった。
「サッカーボール?」
炎に焼かれたようなサッカーボールが転々と転がっていた。
どうやらサッカーボールで倒されたらしい。
納得したよ。サッカーなら仕方ないからな。
………
「……………」
何だよこの展開。
俺は目まいがして何故か落ちてあったポップコーンを踏んでしまった。
何で落ちてんだこれ?
この1分に起きたことをまとめる。
・ブスバスガイドはギフトホルダーだった。
・(たぶんそいつのギフトで)白仮面がやってきた。
・父さんが加勢にきた。
・見せられないようなことをするため、数人を除き眠らせた。
・父さんが気を失った。
何だこれ。
自体が悪くなったと思ったらよくなって最悪になった。
邪魔しかしてない。
「よくわからんが幸運が付いてきたようだ。それがお前の能力か」
議員がバスガイドを評価する。本当にこいつのギフトなら俺に何ができようか。
「えー。多分違うんですけどまーいいですー」
確かに、父さんならこんなやつ相手にやられるとは思えない。
ただ、だとしたら一体誰がやったんだ?
いや……そんなこと今は考えている余裕はないか。
「宝瀬先輩、残り何分?」
「……30分」
きついな。
この流れだと、仮に宝瀬先輩を
だとしてもここにいる10人の白仮面を相手するのはつらい。
しかも気絶している人間が10人以上。そいつらに攻撃させるわけにもいかない。
早苗に応援を頼みたいのは山々だが、体力が切れている彼女はむしろ足手纏いだろう。
だから、生き残る可能性を考えたら前者の選択肢をとるべきだろう。
「時雨。みんなを一か所に集めてくれ」
「………お前まさか。死ぬ気かよ!」
それも仕方ない。俺が一番適任だ。
「安心しろ時雨。場慣れしてるのはお前らかも知れねえが、修羅場慣れしてるのは俺の方だ。この場は俺に任せろ」
ブレザーを脱ぎ、軽く準備運動。
「まさかこのガキ。これだけの人数一人で相手する気か?」
「バカなのか?バカなのかこいつ」
油断してくれるならそれがいい。
「気をつけろ! こいつは他の雑魚とは違う。こいつの所為でこんなことになっている」
それを聞くと白仮面は臨戦態勢を取った。
余計なことを。
「ご忠告ありがとうございます。どうやらその通りのようだ。その目つき……人殺しを何とも思わない
俺は
1対10。しかもハンデありの無理ゲーだが、抵抗しない理由にならない。
「これが『運命』なんですよー。この絶望が、この理不尽が、『運命』なんですよー」
バカでブスなバスガイドが変なことをほざく。
「嘉神君……『運命』には勝てないのよ………」
宝瀬先輩が絶望しきった表情になった。そう、俺があの部屋であった時と同じ顔。
まあ確かにこの状況はまずいかもな。
だがな先輩、あんたが絶望は見ていて気持ち悪い。
あなたには、笑っていてほしい。
「そこのバスガイド」
「なんですかー」
「お前に二つ名をやるよ」
「どうせブスとかいいだすんですよねー。分かってますよー」
そんな事実を言っても何の価値にもならないだろ。
「何勘違いしてるんだ。俺はお前に運命の女神という名をやろうと思っていたんだが」
「もしかして命乞いですかー。無駄ですよ。一度決まったら変えられないのが『運命』なんですー」
「今そんなことは聞いて無い。とりあえず受け取っておけ」
「そうですねー。受け取ってあげましょうー」
「そして宝瀬先輩。よく見ろ。
あんたの敵を。
あんたが敵だと思っている運命を。
こんなにも醜く、醜悪で、そして汚らわしいじゃないか。
見るも無残だが、同情する気にもなれ無いただの腐ったごみカスだろうが。
これが運命の正体だ。
こんなのの為に恐れは涙はいらない。
笑え。あざ笑え。
あなたがやるべきことは、笑って生きることだ
絶対に泣くんじゃない!!」
盛大に格好つけてやった。
とはいってもたぶん俺これから死ぬ。
間違いなく死ぬ。
だが死ぬのは俺とゴミだけでいい。
先輩も早苗も生きていなきゃいけない。
「さあてモブ以下の白仮面の皆さん。お互いの最期に俺がてめえらに一つ人生の教訓とやらを教えてやるよ」
深呼吸する。覚悟を決める。
何と言って死のうかな。
「最期くらい笑って死ねよ」
あいつらだけではなく自分にも言い聞かせ、俺は無謀に等しい特攻を開始した。
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