しぬきで頑張る

「うぐっ――――ぁあ」


 想定通り失敗した。全身が痛い。

 まず右足の指が三本無くなった。左腕が骨折した。左太ももには抉られた傷跡がある。


「えっと……大丈夫ですか」


 天谷は俺を心配する。数分前ではあり得ないことだが、その変化が嬉しい。


「平気。すぐ治る」


 鬼人化オーガナイズを発動させることで、回復力も上がる。


 臓器か脳以外なら体力が持つ限りは再生可能。

 体から離れた部品を掻き集め、治療作業に入る。


 疲れるだけで無傷と言っても差し支えない。


 しかし相変わらず、この空間は真っ白だな。

 ただ、何となくだがこの閉じ込められた地図の把握ができる。


 恐らくここは地下。窓もなく風もないし、湧井が攻撃したときに出来たクレーターでも凹ませることはあっても、穴を貫通させるなんて出来なかったことから推測。


 あ、よく見たら換気装置あるじゃん。ここは地下、確定。


 肝心の地図だがこれも推測の域であることを明記しておく。


 今俺が倒れている場所から約20m先に十字路、更に20m先に十字路が見えそれが数回続く。

 例えるなら将棋や囲碁の盤面がこの地下の施設。黒い線で書かれた格子が通路、その間のマスに部屋がある。


 通路は5mほどと仮定し十字路の数とT字路2つで計算すると、フィールドの面積は約1k㎡といったところだ。


 そんなことわかって何になるかと言われそうだが、効率的に他のプレイヤーを見つける方法と言い換えれば、貴重な推測になる。


「天谷はどっか痛いとこあるか」

「少し腕に掠り傷を負ったくらいです」


 俺より軽傷だった。特に問題はないな。


「そうです。先輩のこのギフトで逃げればいいじゃないですか」


 希望に満ちた声で提案する。ただそんな猿でも気づきそうなこと持ち主の俺が考えないわけがない。


「それは俺も考えた。だが見ての通り、僅か数百メートルの移動でこの有様だ。遠くに逃げるなんて自殺するのとと同じだ」


 天谷は少し落胆したみたいだ。

 ただ彼女には言わないが、それ以外どうしようもない時は覚悟を決めて使う。


 全員一度に移動すると仮定した場合……成功率は1%くらい。


 ま、世の中五分五分や90%以上よりも、1%の方が成功率は高かったりするから、個人的に言えば悲観する数字じゃない。


「まだここには他の仲間がいるんだ。お前の大好きな早苗もな。だから見捨てるなんて出来るかよ」

「先輩は殺されかけてもまだ仲間だと言えるんですか」

「当たり前だ。早苗にだって何度も殺されかけたし、時雨やお前だって俺を殺そうとしたことあるしな」


 今更だ。俺を殺そうとした所で特に問題はない。

 ただそれ以外を殺そうとするなら許せなくなるかもしれないが。


 もちろん一番許せないのはこんな企画を考えた運営なんだけどな。


「先輩って大物なんですね」

「そうか?結構小物だと思うが」


 さっき天谷に仕返ししたこととか含めるとやっぱり俺は二流だ。

 ギフトも二流だし。


「個人的にさっきの感知タイプのギフトを持った女子、その子仲間につけたかった。そうすれば多くのやつに接触できる」


 あいつを仲間に出来なかったのは痛い。

 とはいえ、変に勧誘して死んでもあれだったので、自分がどうしたいかを伝えられただけで、良しとするか。


「そろそろ治ってきた頃だし、天谷は後ろを警戒。俺は前と左右を警戒するから」

「あの……先輩。ホント一体何の能力ですか?瞬間移動みたいなことができたり、お姉さまみたいにすぐに傷が治ったり。それと察しが良すぎるのも気になります。基本一人につき一つの能力ですよ」


 そうだよな。この機会になるといわないといけないよな。


「だが教えない」


 チームワークが乱れる。

 ギフトを手に入れるのにキスする必要があるなんてこいつに教えたら、連鎖的に早苗とキスしたことがばれるわけでこいつが怒るのは自明の理だから。


「訂正するが、察しがいいのは俺個人の能力で、ギフトなんかじゃない。崇めろ、敬え」

「いや、無理です」


 はぐらかして俺達は先に進む。


 ただ、実際俺もちょっとだけ違和感というか……。

 胸になんかつっかえているんだよな。




 天谷とT字路から角に向かって歩く。

 コツッ、コツッ と歩く音が右角から聞こえ、向こうもこちらの足跡に気づいたらしくその場に立ち止まった。

 天谷にジェスチャーで誰かいることを伝え、万が一の場合は逃げるよう指示を出す。


「おーい、そこの人―!」

「その子は一樹か?」

「早苗!?」


 俺は少し声を荒げる。そして同時に安堵した。


 移動した先が早苗のいる近くだなんてついているなあ。


「お姉さま……?おねえさまあああーー!!」


 そりゃ、俺と一緒にいるより早苗の方がいいよな。

 うん、しゃーない。


「一樹。会いたかった」


 だが当の本人である早苗は天谷には気づかず俺に抱き付いた。


「ギブギブ。チョーク。首締まった」

「怖かったんだぞ。これで少しは安心だ」

「ハッ!」


 殺気!


「せんぱーい。お姉さまから離れてください」


 こわーい後輩の天谷茉子は、仲間なのに俺に拳銃を向けた。


「よかった。早苗が無事で、天谷も心配したもんな?」

「はい。お姉さまも無事で何よりです」


 早苗をだしに、機嫌を取る。

 流石白黒激しい女は違う。


「茉子、お前は大丈夫だったのか?」

「はい。先輩をうまく利用して運良く助かりました」


 なんだろうか。嫌な予感。


 わずかに変なビジョンがうつる。それは早苗が撃たれるかのようなそんなビジョン。


 違う!?これは既視感デジャヴ??


 直感的に二人を突き飛ばし、湧井の時と同じように銃弾が早苗のいた所を通過した。

 もしも押し倒していなかったら早苗の頭に直撃していた。


 天谷と勝手が違い、撃ち手は相当な手慣れに違いない。


「あらあら。どういうことかしら?」


 お嬢様のような喋り方。

 そして俺はその声を聞いたことがある。


 確か宝瀬先輩が『琥珀』と呼んでいた三年の先輩。


「わたくしの存在を見抜くなんて不可能なことなのに」


 声の方向から右だというのは分かるのだが、それでも全く見えない。


「どこにいる。姿を現せ」


 いや早苗さん。絶対現すこと無いでしょ。


「断りますわ」


 言わなくても分かりますって。


「先輩。名前とギフト教えてくれませんか」

「名前だけなら良いですわよ」


 やっぱギフトは教えてくれないな。ちゃんとそこら辺は分かってる。

 分かっている人が、敵意をもって発砲してきたって事実がかなりまずい。


「わたくし、四楓院琥珀しほういんこはくと申しますわ。お見知りおきを」

「良い名前ですね。惚れてしまいそうだ」


 嘘っぱちである。名前で惚れる奴なんているわけ無い。


 なのに、なぜか二人の視線が痛い。


「じょ、冗談はおよしくださるかしら」


 四楓院先輩も動揺してくれた。意外でも何でもないが初心な人。

 今時意外でもない初心な人なんていたことに感動すら覚えた。


 そんなことしている場合じゃなかったな。今は同盟を組もう。


「四楓院先輩。同盟組みませんか?そっちの方が安全ですよ」


 主に俺達の身が。


「………お断りしますわ。わたくしにメリットがありませんもの」


 いつの間にか、声のする所が右側から後方に変わっていた。

 その際姿の確認や足音など彼女に関する情報が一切手に入れられなかったという恐怖。


 発見不可能の得体のしれない能力。


「メリットならありますが、その前にデメリットから。もしここで俺達を殺してしまったらデメリットが生じますよ。先輩のギフト、攻撃型じゃありません。だから攻撃はその拳銃に絞られるわけですが、銃弾は足りますか」


 今俺達は三人いる。殺すには最低三発必要だ。


 だが支給されている弾の数は六つ。


「言っておきますけど、俺は拳銃捨てましたから、殺しても弾なんて持っていないですよ」


 これは嘘偽りの無い事実。

 俺が何時も法螺ばかり吹くと思わないでほしい。


「早苗は持ってるか?」

「いや。もう使い切った」


 残るは、天谷ただ一人だが、ここでメリットを提示する。


「そしてもう一つ、天谷の能力は物を複製することです」

「先輩!何勝手にばらしてるんですか」


 天谷の反応によってより発言の信憑性が増しただろう。


「銃弾が一発さえあればいくらでも撃てる。逆を言えば銃弾が一発しか入れていなくても問題ない。賢い先輩なら言いたいことは分かりますよね」

「筋は……通ってますわ」


 まだ誰が死んだのか分かっていない状況で弾数を減らすなんてしたくはないはず。


「ですが貴方、一つ致命的な過ちを犯してます。真百合さんを怒らせていたでしょう?」


 げげげ、なあなあに出来ると思っていたのに。


「はっきり申し上げますが、わたくしはあなた方3人を殺すリスクよりも、貴方と手を組み彼女を怒らせる場合に生じるリスクが高いって思ってますの」


 それは……うん。

 俺も納得する。


 宝瀬先輩がどんな人かどんなギフトを持っているのか詳しくは知らないけど、とんでもない人だということだけは分かる。


「うぐぐぐ」

「ちょっと先輩! なに説得されかかってるんですか!?」

「正論に納得しなければ、屁理屈に納得でもするのか? 先輩のいう事は正しいです。ならばこうしよう」


 一度一呼吸を置く。


「俺を捕虜のように扱ってください」

「捕虜?」

「はい、四楓院先輩が俺を捕まえて服従させたことにするんです。そうすれば宝瀬先輩も怒んないで済むと思います。その代わりですが早苗と天谷は対等に仲間として扱ってください」

「…………」

「何ならここで服を脱いで靴でも舐めましょうか?」

「結構です。そこまで状況を理解しているのならわたくしにとっても手を組むメリットはあるでしょう。真百合さんが怒ったら私から説得します」


 ということは…………!?


「いいでしょう。誑かされてあげますわ」


 目の前に四楓院先輩が姿を現す。

 それこそ5メートル、本当にすぐそばにいた。


 つまり俺たちはそれだけ接近されても気が付かなかったことになる。


「初めまして。俺は嘉神一樹です」

「名乗ったとは思いますが、四楓院琥珀ですわ」


 挨拶を欠かしてはいけない。


「先輩。俺達の目標は俺達が生き残ることではなく皆が生き残ることです。協力してください」


 俺は頭を下げた。礼儀もまた欠かしてはいけない。


「確かに冷静になってみれば、この程度の連中に従っているようでは四楓院の名が泣きますわ」


 話が出来て、理解のある人でよかった。

 早苗だったら話を聞かず、また理解できずじまいだっただろうな。


「一樹、今失礼なことを考えなかったか?」

「まさか」


 何で分かったんだ。




 メンバーも二人増えた所だし一度情報を整理にかかる。


「四楓院先輩。そっちに誰かいましたか?」

「いえ。わたくしが誰かに会ったのはあなた達が初めてですわ」

「早苗は?」

「………私の所は、三年の先輩方が暴れ出して、かろうじて逃げてきた所だ」


 早苗が逃げ出すとは、先輩たちどんだけ強いんだ。


「じゃ、左から生きましょうか」

「先輩。人の話聞いていましたか?お姉さまが危ないっていっていたんですよ」


 お前こそ人の話聞け、後輩。


「だからこそだ。俺達の目標はみんなが戦わないという状況を作り出すことだ。それなのに戦っている奴らがいるんだ。止めなくてどうする」

「そうですけど……」

「わかった。分かった。早苗と四楓院先輩は天谷と一緒に前進してください。俺は一人で左に行きます」


 なぜかみんな驚いた。


「危険すぎる! やめろ」

「早苗は、俺が負けると思っているのか」

「う………だがあそこは危険だ」

「だから俺が一人で戦場におもむくって言ってんだ。早苗には関係ないだろ」


 まっとうな理論で言い返す。


「それともなんだ。まさか早苗ともあろうものが、怖いのか?」

「ああ怖いぞ。当たり前だろう」


 え? まさか早苗の口からそんな言葉が出るとは思ってもいなかった。


「死ぬのは誰だって怖い。ここにいる茉子や四楓院先輩だってそうだ。だがなぜ一樹は死にいこうとする」


 そうか。そういうことか。


「これだったんだな。何となく嫌な感じがするのは」


 早苗はもちろん天谷や四楓院先輩は命をかけて戦っている。


 だが俺は、自分のことを死ぬとは思っていない。


 口映しマウストゥマウスを含めた5つのギフトがある俺は、普通に戦ったら負けることは無いと心のどこかで思っている。


 要は慢心しているのだ。

 慢心こそが最大の敵なのに、その敵に負けてしまっている。


 みんながピンチの中で一人だけ余裕ぶっているのは、考え方によっては格好いいだろう。


 だがそんな人間の説得に誰が応じるのか。

 四楓院先輩は常識的に考えてくれたため、助かったが普通なら涌井達のように相手にしない。


 誠意のない交渉に誰が応じるか。


 今の俺じゃ絶対に成功しない。俺がいる限り全員生存は無理だ。


「すみません。どうやら俺は無駄に四楓院先輩を巻き込んでしまいました。ですがどうか、戦わないでください。もしも早苗を殺したら俺が死んでも殺しますから」


 それだけ言って早苗が元いた先輩方がいる方に一人で向かう。

 同盟の破棄。


 結んだばかりなのに申し訳ないが、今の俺では絶対に不可能だと気づいたんだ。


「待て! 私も……」

「来るな。早苗は俺なんか構わず、後輩を守ってくれ」


 少し頭を冷やさないといけない。







「お前……何のようだ」

「いっぺん死んどけよな」

「な……ボクのギフトが効かないだと!?」

「ふざけやがって」


 ああ、なんてことだ。ふざけやがってだって?

 良いじゃないかふざけたって、こんなの真面目にすることないのに。


 真面目に頑張る気のない男が、まじめに説得するのは無理なのか?


「後ろがお留守だぜええ」


 背後から拳銃で撃たれ、その場に倒れる。


 口から真っ赤な液体が流れ出す。痛い。物凄く痛い。


 みんなこの痛みをかけて戦っているのか。忘れてた。定期的に死にかけないと忘れるよな。


 ああ。景色が歪み出す、出血多量。これは死ぬな。


「バカか貴様は!」


 早苗の声が聞こえる。ははは、幻聴が聞こえるな。


 それにしても幻覚も見える。怖いなあ。


「って早苗じゃねえか」


 何となぜか早苗がいた。


 そして早苗はコロシアイが終盤でもないのに鬼神化オーガニゼーションを発動している。あれ体力著しく減ると言っていたのに。


 そのため、一瞬で片が付いた。いくら俺でもあれには勝てない。


「起きろ。一樹!」


 俺は急所を刺されている。回復するより先に出血多量で死ぬだろう。


「なんできたんだ」

「心配になったからに決まっているだろ」


 成る程。早苗は自分以外の手で俺が殺されるのが嫌だそうだ。


 すっげえ嫌われてるな。もはやこれは愛のレベルではないか(笑)


「ああくそ……これが死ぬことかよ」

「喋るな。止血したら助かる!」


 無理だというのは俺が一番分かっている。


「死ぬのは怖くないが、やり残したことがあるな」


 たった一つの後悔。死に瀕した者が残す怨念。


 生にしがみつこうとする俺が、たった一つの遺言を早苗に残す。


「言うな!何も言うな!!」


 泣き喚く早苗を無視して、俺は一言、自分の意思を託す。


「最期に、女の子の腋舐めて死にたかった」


 こうして俺は息を引き取った。




「あれ?何で俺生きてるの?」


 なぜか目が覚めた。死んだはずなのにおかしいな。


「ああそっか。これが死後の世界か」


 にしては白い部屋のままなのが気がかり。


「違うぞ」


 早苗によく似た女性がいる。


「鬼……か。つまり俺は地獄に堕ちたんだな」


 悪い事した記憶無いんだけどな。

 訂正。俺早苗の覗き未遂をしてた。


「事故の覗き程度で地獄に堕ちるなんて……こんなのってないよ。あんまりだよ。酷すぎるよ」


 平手打ちされた。


「あれ?物凄く痛い」


 死んだ人間に痛みなんて無いはず。


「一樹。貴様は生きている」


 どういうことなの?


「私の血は治癒能力を持っているといっただろ。痛かったのだぞ」


 早苗の左手は、爪で引っ掻かれたあとがある。


「じゃあ俺は、早苗から助けて貰って……まだ生きてる?」

「そうだと言っておるだろ」


 そうか。また俺は悪運を発動したのか。やっぱ俺はまだ生きるべき。


「それにしてもまさか一樹に腋フェチがあるとは知らなかったぞ」

「……………」


 死にてええええええええええええええええええ。


「ハッハッハ。そんなことあるわけ無いじゃないですか。遂に呆けましたか。衣川さん」


 動揺のあまり口調が昔のように敬語に戻った。

 やばい……やばい……!


「『最期に、腋を舐めたかった』だったか。そんなこと言われたら、生かしたくなったではないか」


 間違いなく俺の顔は赤っ恥によって、真っ赤になっているだろう。


「どうした?もっとその顔を見せてみろ」


 早苗ホントに楽しそうだ。

 初めて俺を玩べるチャンスを得たのだ。無理はないだろう。

 俺が逆の立場だったら嬉々として責める。


「それにしても、強いな。早苗の鬼神化オーガニゼーションは」


 まさか三年の先輩方を一瞬で倒せるなんて。


 特に音を使うやつは柳動体フローイングが無いと太刀打ちできないと思っていたのにな。


「話を逸らすな。私はまだ腋の話をしたいぞ」

「そうだ早苗。周りに誰かいないか確認しなければ」


 ホントこの話無かったことにしてほしい。


「今ここで一樹と腋以外の話をする必要はないだろう」

「そうだ。そんなの嘘です。嘘っぱちですよ。騙されましたね」


 嘘にしてしまおう。


「そうか。嘘なら仕方ないな」


 うんうんと数回頷く。流石は早苗、単純で助かる。


「だったら、一樹。今ここで自分は腋に興味がないと言ってみるのだ」

「なっなんでそんなこと……」

「別に言えるはずだろ。何せ腋が好きなのは嘘なのだから」


 そうだ。俺は嘘吐きだ。この程度の嘘、生死を賭けたハッタリをしてきた俺には苦痛でもない。


「早苗、俺は別に腋の事なんて好きじゃ……」


 なぜだ。なぜあと二文字が言えない。


「どうした。続きを早く言ってみろ」


 キラキラした目だ。


「俺は腋の事なんて」


 もはや半泣きである。


「大好きだ! 俺は腋を愛している――!」


 俺は大声で愛を叫んだ。


 白い部屋の中心でフェチを叫ぶ獣。


 つまり俺。嘉神一樹。


 自分に嘘を付くのはいい。だが、自分の気持ちには嘘をつけない。


「先輩って結構な変態さんだったんですね。まあ予想通りですが」

「あらあら」


 なぜか天谷と四楓院先輩がいた。

 あと天谷。予想通りって何だ。腋フェチは変態なんかじゃない。俺と同様ノーマルだ。


「お姉さまを追ってきたら、まさかこんなのが聞けるなんて思っても見ませんでした」

「大丈夫ですよ。隠し事の一つや二つ、誰でもありますわ」


 これは俗に言う親にエロ本の隠し場所をばれた感じだ。

 ばれた相手が同級生と先輩後輩って致命的だがな。


 ははっ、はははは。


「うわああああああん」


 あんまりだあああ。俺のフェチがああああ。HEYYYYY。


「もうお家帰るぅぅぅう」


 俺はあまりの絶望のためこの場から逃げ出した。




 ちょっとだけ真面目にやろうとした時にふざけられた気持ちを理解した。二度としないと誓う。






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