ミナゴロシゲーム

「確認するが我々の安全は保障されているのだな」

「勿論です。プレイヤーは全て滞りなく配置につかせました。後はゲーム開始を待つだけでございます」

「そうじゃない。ギフトを使っておれ達に攻撃を仕掛けないかと心配している」

「大臣殿、その心配は杞憂でございます。なぜなら彼らのギフトは全て把握済みです。我々の居場所に気付くギフトは1つだけ存在しますが、我々に辿り着き又攻撃できるギフトは存在しません」


「ならばいいが……この嘉神という男はつい最近ギフトに目覚めたとある。能力は把握しているのか」

「はい。彼はとのことです」

「つまらんギフトだ。ならば問題ない。それと後始末はどうなっているか。おれは飛び込み参加なんだ。一度確認させてほしい」


「かしこまりました。個人差はいくらかありますがゲーム開始から2時間半後、事前に服毒してあった毒薬でプレイヤーを全員が死にます。プレイヤーに毒の耐性がないことは確認済みです。その解毒剤は彼らの腹の中にカプセルとして用意してありますので、生き残りたければ誰かの腹を裂く必要があるというわけです」

「フン、とはいえ誰も生かして返すわけはないのであろう?」

「当然です。誰が勝利しようが最終的に殺す手筈を準備しております。特に宝瀬の娘には生き残るという勝ち目を用意しておりません。あの娘には拳銃を持たせておらず、また配置も悪いように設定していますので」


「最後にこの後のことだ。宝瀬に感づかれたら貴様らはどう責任を」

「大臣、この企画にはが関わっております」

「支倉!? そうか、なるほど。ならば問題ない。余計な時間を使わせてすまない」

「構いませんよ。では大臣、この生き残りゲームで最後まで生き残るのは…………いいえ、最後に死ぬのは誰かベットをお願いします」

「ふん、そうだな。この衣川という娘がいい。こいつに5億だ」

「でしたら配当は30億になりますが」

「ああ。それでい」

「承知いたしました。大臣、このミナゴロシゲームをごゆるりと堪能してください」

「ああ、期待しているよ」













 まずやることは持ち物整理。

 何か手掛かりはないかと確認するのだが、落ちていた回転式拳銃以外何も使える物はなかった。


 財布や新しく買いなおした携帯も無事没収されていたのだ。

 もし生き残ったら返してほしい。



 いよいよはじめの一歩を踏み出す。

 踏み出したはいいのだが、酷い頭痛ノイズがしたためしゃがんで蹲る。


 その瞬間――俺の髪が刈られる感覚が。


「!?!?」


 同時に発砲音が響いた。


 撃たれた……!? 酷い! 開始10秒で撃つ馬鹿がいるのか!?


 急いで元いた部屋に転がり込む。


 二度と外に出たくない…………なんて冗談は置いといて、転がるときに撃った犯人の顔を見た。


「天谷ちゃん~~!」

「ちゃん付けしないでください」


 バスに乗るとき、早苗の後ろでハァハァしてた、とってもとっても危ない子だ。名前は天谷茉子。ただのレズ。


 人類たるもの、武器とは重火器ではなく言葉。


 話し合いで解決する。


「あまやんは、このゲームどう思う?」

「あまやんとも言わないでください」


 部屋まで入ってきた。

 実際する気が無いんだからいいんだけど、俺が銃を構えていたらどうするつもりだったんだ。


 やっぱ何だかんだ言って、一般的なギフトホルダーは戦い慣れしていないんだなと思う。


「先輩。折角ですから茉子のために死んでくれませんか」


 どういう折角だ。

 それと銃口を向けて話しかけるのはマナー違反だ。


「茉子のギフト贋工賜杯フェイクメーカーは、知っての通り物を複製するギフトです」


 以前たくさんの画鋲を上履きの中に仕込んだのを言っているのだろうな。


「先輩のギフトはどんなのですか?」

「俺が教えると思っているのか? だとしたら天晴れよ。主に頭が」

「もちろん思っていません。せめてどんなギフトを持っているか知りたかったんですけどね」


 天谷は躊躇無く引き金を引いた。

 天谷が銃を扱ったことなくて助かった。もし扱っていれば、今頃俺の脇腹に当たった銃弾は心臓に当たって即死だろう。


 一応補足するが、この国、許可が下りてさえいれば拳銃所持は許可されてる。

 だって考えてほしい、ギフトホルダーはいつでも殺せるのに、そうでない人は無理だなんてフェアじゃない。


 YES,WE CAN! の精神。

 日本の欧米化が心配である。


「いいのか。そんな簡単に撃っても。弾……勿体無くない?」


 片腹を押さえながら、話しかける。その間に傷も治すんだけど。


「大丈夫ですよ。撃ってすぐ、銃弾を複製しますから」


 つまりいくら撃っても減らない無限の銃弾というわけか。

 小学生が指鉄砲で遊ぶかのように、茉子ちゃんは発砲出来るってわけだ。


「やっかいだ。だがしかし、俺と相手するには力不足だな。後輩」


 俺は少し恰好つけてみる。


「確かに天谷の贋工賜杯フェイクメーカーは、この空間では厄介な異ギフトだ。だがな、その程度では生き残るのは不可能だ」

「はったりですね。分かりますよ。先輩嘘付くとき格好つけたがりますから」

「…………………」


 10分しか話したことのない後輩に渾身のハッタリを見抜かれ、がちで落ち込む。


「ん? てか何で天谷がそんなにも俺のこと知ってるんだ。さてはお前俺のファンだな」

「違います」


 即答だった。一蹴され俺の53万ある精神ライフに334のダメージが。

 とっても痛い。


「お姉さまに近づいた害虫を排除するために駆除方法を研究したんですよ。敵を知り己を知れば百戦危うからずと孔子も言っていたじゃありませんか」


 格好いいセリフだ。だが


「残念だったな。そのセリフは孔子ではなく孫子だ。孔子だと論語だな」

「くっ……」


 顔がリンゴみたいに赤くなった。よかったな、早苗とおそろいだぞ。


「あれれぇぇ? ま~こちゃんはー↑ 孫子と孔子の違いも分からないおこちゃまなんでちゅかぁ。その制服はコチュブレでちゅかぁ?」


 ハッタリを暴かれた恨みで少しだけイジメてみる。

 俺に口論で勝とうなど、千年早い。


 後輩をからかってスッキリしたので話を進める。


「それともう一つ。残念だが天谷。お前は何も分かっちゃいない。俺のギフトを知らないでどうして敵を知っているといえる」


 敢えて恰好いいポーズを取った。

 常に恰好つければ、本当のハッタリの時にばれないで済む。


 というわけではい、かっこいいだろー。


「まあ折角だ。おつむの悪い後輩に先輩が社会科を教えてやるよ」


 この場合歴史と社会観をかけている。誰か座布団くれないかなあ。


「だったら教えてくださいよ」


 天谷は俺に向かって発砲した。

 残念だが天谷。既にお前は負けている。


 俺は回廊洞穴クロイスターホールを自分の目の前で発動。


 このギフト本当に使用するのは面倒だが、その分効果は絶大。


 あの後輩。ずっと銃口をこっちに向けたままである。

 それじゃあコースを教えているようなものだ。


 次元に穴をあけて俺に向かってくる銃弾を、拳銃の隣に出現させてやった。


「きゃぁあ」


 自分の拳銃で拳銃を撃たれる。

 強く拳銃を持っていた天谷はその力でバランスを崩した。


 俺はその好機を逃さずに、天谷を押さえ付け、寝技を決めた。


「な、言ったろ。お前は既に負けていると」


 俺は精一杯かっこつける。


「は、離してください!」

「分かった」


 解放した。キャッチ&リリース。


「………は?」


 いつぞやの疑問符である。


「いや何やってるんですか先輩」

「天谷が離せって言ったんだろ。お前は離せと言って文句を言い、離したら離したで文句を言うのか……くれぐれもクレーマーにならないよう気をつけろよ」

「言いましたけど、言いましたけどここは畳み掛けるべきでしょう」

「なんのために?」

「今コロシアイやってるんですよ」


 そっか。天谷はそう思っているんだな。

 可哀想に、見えているものが違うとこうも話が違うのか。


 俺が導いてあげないと。


「残念だったな。俺はそんなの興味ない。法律なら従うが常識には従わない主義なんだ。大体あんなイカレタ連中の言うこと聞く必要ないって。お前じゃ生き残れないのは間違いないし、生き残った所であいつらが生かしておくとは限らんだろ」

「だったら茉子はどうしたらいいんですか。こんな行かれた場所で従わない選択肢はないんですよ」


 大声で叫ばないで欲しい。


「確かに。今のお前には従わないという選択肢がない。だから俺は従う選択肢を与えよう。一つ、自然の摂理に従って死ぬか。二つ、あいつらに従ってここで飼い殺されるか。三つ目、俺に従って生きるかだ」

「無理です。だって茉子と先輩の他にもあと10人以上のギフトがいるんですよ。どうやって生き延びれると言うんですか」

「十分だ。だってそうだろ?俺とお前が居るんだぜ。だったら不可能だって可能にしてやる」


 偽物を作る能力と偽物を得る能力、素晴らしい能力だ。

 ちょっとだけシンパシーを感じたりする。


「本当ですか。本当に先輩に付いていけば、茉子は助かりますか」

「当たり前だ。俺を誰だと思っている」


 だがその前に、……だ。


「いるんだろ。出てこいよ」


 俺は大声で叫ぶ。


「よく分かったな」


 拳銃を向けた男が二人と女一人が部屋に入ってきた。


「あれだけ泣き喚いたら場所を突き止められるのは必至だからな」


 だから泣くのを止めろと言ったのに。

 一人は同級生。名前は湧井。二人目は恐らく天谷と同級生の一年。最後の一人は三年の先輩だろう。

 左から銀、ブロンズ、黄土色。


 おしい、黄土じゃなくて金とかだったらメダルの色になったのに。


「嘉神、時雨は能力者が全員好きだからお前のこと受け入れたが、この際だから言っておく。おれはお前が嫌いだ」

「だからここで殺すってか。止めておけ。何度も言うが、お前らじゃ俺を殺す事なんて出来ないよ」


 ハッタリだーい好き。


「三人に囲まれてお前ら二人で何が出来る」

「そうは焦らないでくださいよ先輩。本当に、ここにいる二人だけと思っていますか。今後ろに俺の仲間がいるとは思わないんですか」


 男子二人は振り向いた。もちろんいないよ。


「君は振り向かないんだね」

「ウチのギフトは感知タイプだからね。背後を取られるなんて有り得ないよ」


 感知タイプ。是非とも仲間に入れたい。

 俺の最大の目標は全員生存。

 俺以外に同じ考えを持つ人はいないのか?


「みんなもどうだろうか?俺とチームを組むのは」


 二人より五人だろう。


「嘉神、お前話聞いていなかっただろ。おれたちはコロシアイをしているんだ」

「言ってたな。だったらどうしたというんだ。いいか湧井、もしもここにいる能力者全員が参加を拒否すればゲームそのものが成り立たない。つまり不成立なんだ」


 プレイヤーのいないゲームなんて有り得ない。


「だから俺は、全員不参加という事態を作りたい。協力してくれ」


 それが俺の考え出した最良の道だ。


「そんな世迷い言余所でやれ!」


 湧井は俺に向かって発砲した。



 何かが起きたので俺は撃たれる前にしゃがんだ。



 轟音。さっき天谷が撃った拳銃とは比べものにならない。


 支給品のあれじゃそこまでの威力は出ないはずだから、ギフトであると推測できる。


「おれのギフトは武装凶化グレードアップ、使う武器の威力を上げるギフトだ。聞いていないと思うけどね」

「そんなことないよ。ちゃんと聞いてる」


 だが効いていない。壁に大きなクレーターが出来てる。

 当たれば即死だったが、当たらなければどうということはない。


「駄目だろ。そう簡単に自分のギフト喋っちゃ。倒してくださいって言ってるもんだよ」

「ちっ。そのすました態度が嫌いなんだよ」


 多分あの威力だと、回廊洞穴クロイスターホールは使えない。穴そのものをもぎ取ってしまう。


 とはいえ、この後輩に格好悪い所は見せるわけにはいかない。折角後輩が俺の信用してくれてんだ。答えるのが先輩の役目だろう。


「それで先輩のギフトなんですか」


 湧井のギフトは理解した。後輩のギフトはさっき聞いた。だからあとは三年のギフトだ。


「教えるわけ無かろう」


 そうだろうな。それが普通。

 ただ何となくだが、もう答えは見えている。


 


「カウンター」

「なぜそれを!?」

「先輩だけが、引き金の指に力入れていないんですよ。普通いつでも撃てるようにするはずです」


 早苗や時雨のような攻撃系のギフトならば拳銃には頼らない。狙撃の名手じゃない限りギフトの方を信頼するから。

 とはいえ攻撃しないギフトなら、ここにノコノコ現れる必要はない。


 後輩がやってきたのは、多分だが俺達に敵意が無いことを知っていたか脅されて弾除けかのどちらかだ。


 防御だけならば、受けた後すぐ反撃するために引き金に力を入れているはず。


 以上のことから、攻撃を誘っている、つまりカウンターだと読んだ。


「本命はカウンター技で、こっちの攻撃を誘ってるですかね」

「……その洞察力。見事だ」


 先輩は銃を降ろした。


「確かにをれのギフトはカウンター技だ。誰かが攻撃しないと効果を発揮しない」


 だったら今からの敵は湧井一人だ。これならなんとか――――


「だが二年。別に攻撃するのはをれでもいいんだよ」


 訂正。先輩の方だ。


 先輩は、自分の胸に拳銃を向けて発砲する。


 俺はその前に天谷を掴み、回廊洞穴クロイスターホールでどこかに逃げた。


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