第2章 宝瀬真百合とコロシアイ

君を死に誘うプロローグ

 4月が後半を過ぎたころ、つまり俺の停学が明けて最初に登校した日。教師からモノクロのプリントが配られ、そこに書かれていたものに目を奪われる。


『第百十一回博優学園最強決定戦』


「何これ」


 俺の呟きに答えてくれたのは友人の時雨驟雨。今日も黄色い髪とピアスを光らせ如何にも不良そうな外見だが、なんとこいつ、そんなに悪くない。


「お前は知らないのか。教えてやるよ。これは毎年やっている学校の大会みたいなものだ」

「何やんの?」

「分からん。公平さを保つために当日になってからしか教えないだってよぉ」

「因みに去年は何したの?」

「美術館貸しきって泥棒ごっこだった」

「滅んでしまえ」


 そんなこと高校生にさせるな。


「だいたい何のためにあるんだよ。こんなの」

「おれもよく知らないんだが国がこれから必要な人材を見つけるために開催しているらしいんだとよ」


 滅びろ。そんな国。

 スパイでも育成したいのか。


「別これ強制参加じゃないよな?」

「ああ。去年は6割しか参加してねえ」


 予想外に多い。学校行事何て三割でも参加してくれれば御の字と思っていた。


「えっと……今週の日曜??」


 まさか高校生が日曜日に学校のイベントに参加するだと。

 参加しないと致命的なデメリットか、もしくはその逆か。


 俺はチラシをめくり他に情報がないか求む。


『参加者は食券一万円』


 なん……だと……?

 一万円だと?

 俺の五か月分の小遣いだと……?


『成績優秀者には一年間購買無料券が付きます』


 学校に来る日を二百日、それを五百円でかけた場合、十万円。


 十万円のお金が浮くのか!?


 参加決定。全力で勝ちにいく。






 そしてよく晴れた日曜日


 集合場所には16人のギフトホルダーがいた。

 かなりギリギリで到着したため、遅れている人がいなければこいつらが参加者になる。


「やはり月夜は来ないか。仕方ないと言えば仕方ないが」


 衣川早苗、16歳。

 鬼神化オーガニゼーションを入手したときから、髪の毛の色が変わった。

 以前は毛先の4分の1が赤で残りは黒だったのに、2分の1まで赤く染まっている。


 驚いて指摘したのだが、ギフトホルダーの間ではよくあることと言われた。

 ひょっとして俺もギフトを使い続ければ、髪の色が黒から別の色に変わるかもしれない。


「月夜さんには、何かあるのか?」

「うむ。あいつのギフトは特殊すぎるのだ。下手をすれば一樹、お前よりも恐ろしいぞ」


 早苗は俺のギフトを知っている。

 俺のギフトはキスした相手の能力を使えるようになる口映しマウストゥマウスというギフトだが、それより恐ろしいギフトなんて考えたくもない。


 クラスでは月夜幸と福知智。尾張さんに水取、あと羽茂はもちが来てなかった。


 福知は、アニメのサークルがあるとかで忙しいらしい。

 尾張さんは事前に友人と遊びに行く約束をしていたとか。


 あとの二人はそんなに親しくないので知らない。


「久しぶりね。覚えてくれているかしら」


 何やら女性が俺に話しかけるが、その声と顔を忘れる人は我が博優学園にはいない。


「ええ、もちろんです。宝瀬先輩」


 我が博優学園の生徒会長、宝瀬真百合。


 絵にかいたような完璧超人。

 一方俺はしがない高校生。


 天秤で釣り合いをとるどころか、重みで壊れてしまいそうな、そんな人が再び話しかけてきた。


「それで、生徒会長様は一体何のようだ」


 早苗が彼女のような人間が俺に話しかけるのを不審に思うのは当然のわけだ。

 それにしては態度が不審だが。


 嫌っているというより、避けたがっているとでもいうのか。

 家の近くでうろうろしている泥棒みたいなのに、職質をかけるような言い方だった。


 しかし、こうして向き合っているのを見ると……すごいな。

 胸はEエクセレント……いや、Fァンタスティック


「どこを見ている」


 女性の早苗は男の視線に敏感なようで、俺が生徒会長の胸を見ていたのを気づかれた。

 女は男が胸を見ているのが分かるって、あれは見ている時をカウントしているだけだと思っていた。認識を改めないといけない。


 雲行きが悪くなるかと思ったが、なんと宝瀬先輩が助け舟を出してくれた。


「早苗。嫉妬なんて見苦しいだけよ」

「黙れ。この乳牛が」

「あら。まな板に小豆を乗せただけのあなたに言われたくないわ」

「黙れ。Cはある」


 これは酷い。何やら女の戦いが勃発している。

 二人とも綺麗なはずなのに、醜い争いだ。


「それで用件は何ですか?」


 用件を聞いてさっさとお引き取りを願う。喧嘩は良くないし、立場が上過ぎて話すのに疲れる。


「あなたに会いに来ただけよ。嘉神君」


 営業スマイルで俺に微笑む。

 普通の男子高校生だったらこの時点で落とされそうなだけだが、裏があることに俺は気づく。


 理由? 俺なんかに好意的な解釈で微笑むわけがないじゃん。


「そうですか。それだけならもう用は済みましたよね」

「……!」


 驚いている。まさか看破されるとは思っていなかっただろうな。

 宝瀬先輩の敗因はたった一つ、貴女は貴女が思っているよりも偉大だということ。


「ねえ。あなたもしかしてブス専なのかしら」


 失礼なことを聞かれた。

 まさか会ってから十秒足らずでブス専か聞かれるなんて、これほどの屈辱はない。


 訂正させてもらう。


「失礼ですね。俺は先輩のこと綺麗だって思いますよ」

「そう。ならいいのだけど。第一印象は私が綺麗だってことでいいのよね?」


 この女めんどくさいな。


「ハイソウデスネ」

「何その言い方」


 不満がありそうだった。

 いいじゃん、これ以上言ったら絶対怒るもん。


「本当は何と思ったのかしら」

「本音は隠すものですよ。宝瀬先輩」

「怒らないから言いなさい」


 既に怒ったような言い方なのだが仕方あるまい。


「綺麗だなって思ったのは本当ですよ。ただ第一印象は、早苗の次に綺麗だなって」


 正直に言わせてもらえば、俺は早苗が鬼化したときが一番美しいと思っている。

 ただそんなことを言えば、精神異常者と間違われてしまうためこのような言い方にした。


「「………」」


 早苗と先輩は互いに顔を合わせたのち、それぞれ別の反応をとる。


「な、何を言うか一樹!」


 早苗は鬼人化オーガナイズを使ってもいないのに顔が真っ赤に、


「………そう」


 宝瀬先輩は、眉間に青筋が出てきた。


 赤と青。中々いい対比だな。

 髪の色とよく似ている。


「私は17年間生きてきたのだけど」


 うつむいたままぽつりとつぶやく。

 その長い髪で顔の様子が見えないのだが……寒気がした。


 ひょっとして……やらかした?


「私は17年間生きてきたのだけど、ここまでの屈辱は初めて受けたわ」


 爽やかな笑顔でそう言い放つ。

 だから言ったのに。それと怒らないって嘘じゃないですかヤダー。


「琥珀!」


 宝瀬先輩が誰かを呼んだ。


「何ですか? 真百合さん」


 俺はこの人を知らないが恐らく三年の先輩だろう。

 ベージュのゆるふわ系お嬢様といったところ。


 なんか今まで気にしていなかったが、この学園女子レベル高いな。

 ただどんなに高くても第一位はこの宝瀬先輩でマイベストが早苗の鬼。


「今回の大会、こいつを潰すわ」


 ろっくお~ん!!

 と、冗談はさておきスクールカースト最上位の先輩に潰すなんて言われたら吹き飛んでしまいそうなんだけど。


「あらあら。あなたがそこまで怒るなんて珍しいですわ」

「ええ。私も驚きよ。殺意すら芽生えたわ」


 うわ……ガチの怒り。

 最近女を怒らせてばっかりな気がする。


 と思ったが、男にも等しく怒らせているな、男女平等に煽ってる。


 時代は男女平等。


「さようなら」


 そう言い放ち、もう用はない様子。当初の目的を達成することが出来たがちっとも良くない。


 周りは『あ~あ、こいつ死んだな』といった目で俺を見る。


 ただいくらなんでも怒りすぎだろ。


「なあ、何で宝瀬先輩あんなに怒っているんだ?」

「私と真百合は仲が悪い、私関係になると何かとすぐに怒る」

「あれ?知り合い?」

「うむ。あえて言うなら幼馴染だ」


 女にもててあんな綺麗な人を幼馴染に持つ早苗は、実は早苗は主人公じゃないのだろうかと一瞬だけ思った。


「一樹、お前は一番嫌いな奴を思い浮かべてくれ」

「ほい」

「一樹はそいつの次にかっこいいな」

「処女を金属バットで捨てたいのか?」

「それを一樹が言ったんだ」


 それは本当に酷い失言だったと反省する。


「それと一樹、お前今とんでもないことを言ったぞ。私はこれでも女性だ。言葉を選べ」

「悪い悪い、ただそう言わせたのも早苗なんだ」


 だから俺は悪くない。悪いのは早苗。

 形式だけは謝るが、本心は謝らない。


「しかし一樹。これから大変だぞ」

「ん?何が?」

「あいつ、宝瀬財閥だぞ」


 宝瀬財閥。


 今現在、日本の国家財政どころか世界の二割を宝瀬財閥が賄っているというふざけた状況なのだ。更にふざけているのは日本にその上の財閥があること。


 つまり年収数十兆クラス、総資産が下手をすれば京になる人の子なわけだが常識に考えよう。

 ちょっと考えれば分かるはず。単純明快の答えだ。


「いやいや。常識的に考えてああいう人はお金持ちだけど末端の末端だろ?」

「いや。れっきとした、むしろあいつ以外後継者がいない位の本家の人だぞ」

「………おい」


 いや待て。おかしい。

 だってここは博優学園。伝統はあるとはいえ、一般偏差値50(ギフトホルダーは40)程度の底辺とはいかないまでもそこら辺にあるような私立だ。


 俺は入試に失敗したから入学費が一番安いここに来たわけだが、それでもいくら失敗しても金を積めばもっといいところに行けたはずだ。


「証拠になるかは分からんが、私立なのに安かっただろう? あれは宝瀬が一部……いや、七分くらいは負担してくれているからだ」

「…………」


 俺が高校に行けるのは宝瀬先輩のおかげなようです。


「でもなんで……?」

「何でも一族の決まりらしいぞ。高校までは決められたところにしかいけないらしい」


 一族の縛りか。

 確かに前早苗も俺との結婚がどうこう言っていた。

 最近はそういうの流行はやっているのな。


「え? つまり本当にあの先輩宝瀬財閥の娘なわけ?」

「だから何度も行っておろう。継承権一位だと」

「そしてさっき俺彼女怒らせてよな」

「うむ」


 ………

 てん・てん・てん・テーン!


「つんだ?」

「かもしれんぞ」


 よし決めた。

 あとで土下座でもして謝っておこう。


 靴舐めも厭わない。


 まだ生きたりない。もうちょっとだけ生きていたい。





 俺達はバスに乗り込む。


 教師たちはいない。どうやら生徒だけでやるようだ。


 別俺は、高峰先生の重王無宮スクランブルキャッスル程度なら相性の問題で余裕に勝てるため、むしろ参加してもらったほうが有難い場合すらある。


 個人的にこのバスは結構豪華なつくりだと思うのだが、宝瀬先輩は居心地が悪そうだった。


 今思い出すと、長い車に乗って学校に来てたのはあの人か。


 だったらこのバス辛いよなと思いながら時雨たちと大富豪をしている。





 目的地は思っていたより遠い。既に1時間以上乗車している。


「えーみなさん」


 お金をかけているのに、このバスガイドはブスだ。

 どれくらいブスかというと、ブサイクな芸能人は見れる程度のブス。

 特に特徴的なのは添加物増し増しの辛子明太子をくっつけたかのような唇。


 顎が半分隠れているくらいに大きい。


 直視すれば目をすらしたくなるか笑ってしまうか。


 にらめっこには負けたことないだろうな。


 折角なんで早口言葉を。


「ブスバスガイドブスバスガイドブスバスガイド」


 よし言えた。


 ただバスガイドが案内をするってことは、そろそろつくのかと、そして何をするのかをここで説明するのかと思って耳を傾ける。


「今日は皆さんに殺し合いをして貰いまーす」


………………は?


「今あのバスガイドなんて言った?」

「殺し合いってバトルロワイ○ルかよ」


 クラスのやつがヒソヒソ声で話す。

 どうやら俺の聞き間違いじゃないらしい。


「おいおいバスガイドさんよー。そんなふざけたこと聞いていないんだよ」


 三年の先輩一人が文句を言い出した。


「おもしろくもねーよ。そのジョーク」


 全くだ。笑えないジョークなんて、刺身の無い寿司にも劣る。


「だまりなさーい。話を最後まで聞くようにー。さーて、ルール説明でーす。ルールはひとーつ。自分以外の人間を殺してくださーい」


 徐々に笑いが消えていく。

 笑っちまいそうな話で、笑っちまいそうな顔をして、笑えなくなる。


「ゲーム開始はみんなが次に目を覚ましたときでーす」


 バスガイドが言い切ると、様々な所から白いガスが噴き出した。


 周囲を見れば宝瀬先輩が座っていた後部座席にはかなりガスが充満しており、俺の周りは完全にガスに包まれていた。

 バスガイド並びに運転手は軍事用マスクをして、それが猶更そのガスは催眠作用があるというのを決定づける。


「眠っていてくださーい」


 意識が薄れていく。俺は既に眠っている早苗越しにガラスを突き破ろうと試みるが、割れなかった。

 どうやら最近噂されている超強化ガラスのようらしい。


 こんな準備をするってことは最初から計画されていたこと、そしてそれが本気であること。

 疑いようのない真実。


 まるでそんな現実を受け入れてたまるかと言わんばかりに、俺の意識は失った。






 目が覚めたときの感想。「白」


 床も壁も天井も何もかも真っ白の部屋の中にいた。

 近くには誰もいない。ただ拳銃が一つ落ちているだけだ。


「正気かよ」


 気狂いどもめ。

 部屋の広さは六畳くらいのとても小さな部屋。そして前方に扉が一つ付いてある。


 扉は赤いランプがついてあり開きそうにない。


 あ。角に監視カメラ発見した。


 記念に破壊しておこう。




 現在俺が使えるギフトは5つ。

 俺自身のギフトである能力のコピーと、そのコピーした能力4つ。


 一つは鬼人化オーガナイズ 衣川早苗のギフトであり身体能力の強化。

 二つは雷電の球ライジングボール 時雨驟雨のギフトでありプラズマを球にして投げる。

 三つは柳動体フローイング 誰のギフトかは分からないが能力は異能効果の吸収。

 最後に回廊洞穴クロイスターホール(名前は福知に聞いた) コルネリア・ランフォードさんのギフト。次元に穴をあけそこから移動する反則スレスレのギフトがあるわけだが、失敗すると体がバラバラになったりするので使い勝手はあまりよくない。

 安全に使えるのは、精々数メートルの移動がやっとだった。


 そうこうしていると扉の上のランプが赤から緑に変わり、扉のロックが解かれる。


『それでは、バトルロワイアルスタートでーす』


 さっきのバスガイドの声。ここではアナウンサーをするようだが……声はまだマシだな。

 こんな声が、あんな顔で出されるなんて思わない。思いたくない。


「ここまで来ると、嘘とは思えないな」


 仕方ない。だったら俺は俺の戦いをするだけだ。










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