第8話

 リーダーはヒーラーだった。

 オブジェクトの残り体力は五百ちょっと。全力で六回殴れば終わる。はずなのに、それをさせてくれない。

 リュートが追ったスナイパーは、撃ち逃げしてすぐにオブジェクトに到着。薫と対峙していたディテクターも、無駄に逃げ足だけは早かったようだ。

 それにしても、あのゲイナーとスナイパーの連携が厄介だ。相手のコンダクターも、コンダクターとしての能力もそうだが、個人的な身体能力が高い。全員が戦い慣れているというのが率直な感想だ。

 ゲイナーのシールドで防御しつつ、その穴をスナイパーが埋める。ディテクターもコンダクターもヒーラーも、攻撃に全力を注げるわけだ。

 しかし、こちらはまだ本腰を入れていない。

 ラウンダーの攻撃を左に避けるが、その先には遠隔型シールド。右肩を思い切りぶつけてしまい、一瞬意識が飛んだ。

「語!」

 リズに突き飛ばされたのと同時に、彼女はスナイパーの直撃を受けてしまう。体力は一気に二十以下。

「大丈夫かリズ!」

「大丈夫。語は攻撃に集中して」

「くそっ……!」

 仲間に助けられた。俺がグズなせいで、仲間を傷つけてしまった。

 徐々にだが感覚が鋭敏になっていく。背後からの追撃が来ると、直感でそう思った。

 リズを小脇に抱え、両足に魔法力を込める。流動魔法を発動させ、逃げる先など決まっている。

「なっ……!」

 背後から迫り来るラウンダーに突っ込んだ。攻撃態勢に入っていたのなら反応も遅れるはず。本来俺がいた場所を攻撃しようとしていたのだから当然だ。

 エンハンスで左拳を強化、去り際に裏拳を見舞った。

「リズ! 俺にフォーサーエンハンス!」

「りょう、かい」

 それでもなお、俺はリズを離さない。体力が少なくなれば動きが鈍るのは当たり前だが、攻撃はできる。それに、今離してしまったら見捨てたみたいでなんかイヤだ。

 薫と俺で撹乱すれば、間違いなくリュートがオブジェクトを攻撃してくれるはず。だけどそれじゃダメなんだ。

「薫とリュートでオブジェクト!」

 二人に驚いた様子はない。戦い慣れているやつが味方というのは心強いなと、本当にそう思った。

「リズは攻撃魔法でスナイパーの攻撃を落とせ」

 理解したかどうかはわからないが、多分大丈夫だろう。

 全神経を足に集中させ、俺はゲイナーへと向かっていく。地面に足を滑らせてから流動魔法を使えば、瞬く間に相手の目の前だ。後ろから追われることはない。それがわかるのなら、側面からの攻撃にさえ気をつければいい

 目の前のシールドをセーフエンハンスで破壊。しかしシールドは一枚だけじゃない。だから俺は、リズを目一杯前方に投げた。

「何枚だって壊してやるよ!」

 両手足にセーフエンハンス、目の前のシールドを一枚ずつ破壊する。それしか方法がないのだ。

 上空のリズがサポートしてくれているから、俺とゲイナーは一対一で戦える。なによりも、ゲイナーは今俺に対してシールドを割いている。

 オブジェクトに対して、薫とリュートの攻撃が決まった。オブジェクトの残り体力は三百六十だ。

 一瞬でいいんだ。俺がなにかをして敵の意識を反らせれば、あの二人なら確実にやってくれる。元々攻撃力よりも敏捷性を特化させた二人だからこそ任せられる役割だ。

 一度リズを受け止め、もう一度ゲイナーへと向き直る。

 先ほどよりもシールドの数が少ない。そろそろゲージの枯渇が近いのかもしれない。

 好機と見た俺は、一直線にゲイナーへと突進した。今度はシールドを壊すためではない。

 一枚破壊する。相手が後ずさる。

 また一枚破壊する。相手の顔が曇り始める。

 二枚一気に破壊する。腰を据えて臨戦態勢に入った。

 それを見てから流動魔法で駆け抜ける。勢いがつきすぎてしまったが、すれ違いざまに腹を殴ってやった。

 相手のゲイナーは空気に溶けていく。一対一は、俺の勝ちだ。

 オブジェクトの体力は三百を切っている。どっちかがまた攻撃を成功させたのだ。それも重要だが、薫とリュートでスナイパーを潰していた。これは大きい。

「一気に決める」

「フォーサー、エンハンス……」

 リズからの支援を確認し、今度はオブジェクトに攻撃をしかける。

 残りの敵はディテクターとコンダクターとヒーラー。ゲイナーとスナイパーの二人を失った時点で守りは崩壊しているのと一緒だ。

 俺の挙動に反応したヒーラーだが、リズの魔法攻撃で追い払われた。

 オブジェクトから少し離れた位置で右足を前に出す。そして地面を思い切り踏みしめた。一ゲージ消費してエンハンス。

流動魔法エフケリアスペル!」

 超高速で、俺は彼らの視界を置き去りにする。しかし、俺の体感時間だけはスローモーションのようだ。

 付き出した拳がオブジェクトに激突した。強く拳を握りこんで、残りのゲージをセーフエンハンスで消化する。

 拳を押し付けると、自分の力で腕が震えてきてしまう。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 そう叫び、振り抜いた。

 ガラスが割れるような甲高い音と、試合終了を告げるブザー。俺の体力は、自分の攻撃のせいで残り一割程度になっていた。

『勝者! スレイプニル!』

 この空間でいくら傷を負っても、セーフティによってそれ以上のダメージは受けない。腕や足が折れることはないし、臓器が破裂したりもない。が、この腕の痛みは普通じゃないと思う。

 勝ったなと思った瞬間、俺は真っ暗闇に飲まれていった。

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