第6話

 あれからリズにいろいろと教えてもらった。もといボコられ続けた。攻撃を当てるどころか、かすることさえもさせてもらえなかった。そのくせ向こうの攻撃は当たるもんだからイライラする。でも気持ちを乱すのはもっといけない。

 まあ、リズにそう言われただけなんだけど。

「さて準備はいいかしら?」

 望未は腰に手を当て、メンバーに向かってそう言った。ケージの中、俺たち八人はアクケルテを待っている。

「おう、問題ない」

「問題ないって顔じゃないけどな」

「ここ最近ずっと殴られ続けたんだ。しかたねーだろ」

「愛の鞭ってわけか。やけるじゃねーか」

「京介、それは違う。私は鞭なんて使わない。優しく愛で包み込む妻になるのだから」

「おしゃべりはその辺にしておきなさい。対戦相手のお出ましよ」

 観客が作った道を歩き、アクケルテの九人が現れた。

 コミュニティストラグルが発生したのと同時に、組み合わせと対戦時間が情報掲示板に掲載される。ケージの外で見ていてもいいし、教室に設置されたモニターで中継を見てもいい。しかしこの学校には物好きが結構いる。ケージの外で観戦しようとする人は多かった。

「こんにちは。今日はお互い、いい内容になるといいですね」

 コミュニティ同士で向き合った。リーダーらしき人物に向かって、望未がそう言う。

「こちらも重要なメンバーを手放すわけにはいかない。手加減はなしだ」

 どちらともなく手を出し、握った。

「挨拶は済ませたな。それではヴェルフェルを開始する」

 先日と同じように、姉さんが立会人になってヴェルフェルを開始。不利になるカテゴリーが出ないことを、ただただ祈るばかりだった。

「フィールドはマウンテン、カテゴリーはミューチュアル」

 なんとも言えない感じになってしまった。

 カテゴリーはミューチュアルということだが、これはメンバーを攻撃と防御の二つに分けなければいけない。自分の陣地の最奥、フラッグで言えば旗がある場所には女神像のようなオブジェクトが置かれ、それを守らなければいけない。攻撃側は相手のオブジェクトを破壊しなければいけない。なお、オフェンスは敵陣、ディフェンスは自陣固定。敵陣と自陣は魔法障壁で区切られているため、攻守の人員を切り替えることはできない。

 すぐさま魔法術式が展開され、周囲は山岳地帯になった。

「どうするんだよリーダー。ミューチュアルで人数差を覆すの、かなり難しいと思うぜ?」

 作戦会議の五分で、一番始めに口を開いたのは京介だった。しかし、望未はすでにプランを考えてあったようで、淡々と語り始めた。

「ロールはいつも通りでいい。オフェンスは語、薫、リュート、リズ。ディフェンスはそれ以外の四人。今回は人数的に不利ってのもあって、物量作戦を行うのは得策ではない。今私たちにできることと言えば、高速型のオフェンスしかないわ。ディフェンスを捨てるわけじゃないけど、オフェンスで勝ちにいく」

 つまりしょっぱなから全力でいけってことだな。

「五分経過、オフェンスは前に出ろ」

 姉さんの掛け声で、オフェンス四人が前に出る。その瞬間、敵陣へと飛ばされた。

 足場の悪い山岳地帯。目の前には一本の坂道が続き、右側には河川、左は森だ。ここは河川地帯と森林地帯も兼ね備えているフィールドと言えよう。

「オフェンス側のリーダーはリュートに任せたいんだが。俺じゃ荷が重い」

「そんなバカな。本来のリーダーは語くんなんだし、ここはキミがやるべきだよ」

「僕も兄さんが適任だと思うよ!」

「夫をたてるのは妻の仕事」

「わかったわかった。あー、それじゃあ一気にカタをつけよう」

 望未が言った通り、素早くオブジェクトを落とさなければいけない。一番の不安要素が自分なだけに、気をはらないと。

「正面突破だ。四人で一気にいくぞ」

「「「了解」」」

 ブザーが鳴り響き、俺たちは一斉に走りだした。

 マウンテンもフォレストと同じ、全長は六キロ程度。それを半分に割っているから、実質三キロしかない。

 予想はしていたが、俺は三人から遅れている。一応魔法だって発動はしているが、前方の三人は格が違う。いや、俺の格が下すぎるだけか。

 スナイパーからの狙撃に備え、岩場から森に入った。今まで自分がいた地点になにかが着弾した。

「はえーな、もう狙ってきやがったぞ」

「予想通りって感じだね。見晴らしがいいフィールドはどうしたってスナイパーの的になってしまう。ここは俺が囮になるから、三人は流動魔法で森を抜けてくれ」

「リュートは使えないのか?」

「流動魔法は単純だが、クセが強くて覚えるまでが難しいんだ。立派な高等魔法だよ」

 そう言って、リュートは笑った。

「行くぞ、リズ、薫」

 着地と同時に流動魔法発動、一気に速度を上げる。木の枝に当たらないように注意を払い、地面に足をつけるたびに魔法を発動していく。

 森が、終わる。

 体勢を崩しながらも岩場に着地した。

「早いな。予想外だったよ。流動魔法ってのはすごいんだな」

 迎撃要員は一人だけか。今のところスナイパーがいることくらいしかわからないが、この人とスナイパーを抜かした二人が最終防衛ラインに陣取っているはずだ。二人のうち一人はコンダクターだろうが、もう一人のロールはわからない。

 それってスナイパー以外わからないんじゃ、なんて思っちゃダメだ。

「すまないが、無駄口を叩いてる時間はないんだ」

「知ってるよ。やろうか」

 あっちは一人、こっちは三人。ぶつかって負けるはずはない。

「頼むぞ薫」

「オーケー、すぐに合流するよ」

 薫は突撃してきた相手の攻撃を受け止めた。衝突した二人の横を抜け、俺とリズは更に進撃していく。

 ひたすらに魔法を行使し続けた。

 川を飛び越え、再度森を抜けて、山の麓に到着した。この間五分程度だ。

「来てやったぜ、アクケルテのリーダーさん」

「これはこれは、スレイプニルのリーダーさん。やけに早いご到着だな」

「人数がいない分、早期決着の必要があるんだよ」

 移動と同時にエンハンスを発動。ゲージの三分の一を使い、拳に込めた。相手のリーダーも、コンダクターもすり抜けて、オブジェクトを殴りつけた。

「おいマジかよ!」

 はずだったのに、目の前に現れたのはゲイナーのシールド。遠隔型の強化シールドだった。今の攻撃は攻撃力に比重を置いたため、ペネトレート効果は弱い。

 俺の攻撃はなんとかシールドを破ったが、その時点でエンハンスの効果は切れた。そして横からの強襲。なんとか避けるも、リズとは少し離れてしまう。

「ディフェンスを五人にしやがったな?」

 死角からもう一人、俺を攻撃した奴とは違う人が出てきた。あれがゲイナーか。

「オフェンスを多くするのは基本だ。だけど、キミたちが高機動編成なのはわかっていた。それが一番の近道だからな」

「見破られようがなにしようが、この作戦で成功だと思ってるよ、俺は」

 望未がそうしろって言ったんだ、迷うものか。

リズの攻撃が相手のリーダーを襲う。避けられはしたが、距離は取れた。

「すまんな」

「大丈夫。それよりも語はオブジェクトに集中して」

「一人で三人相手にするってのか? いくらお前が強くてもそりゃ無茶だ」

「任せて」

 リズの身体から光が溢れる。フォーサーエンハンスを自分に向けて行使したってことだろう。

「ああもう、好きにしてくれ」

 ゲージはまだ一本ある。オブジェクトの体力はおよそ千。エンハンスと流動魔法込みでも、見込めるダメージは九十。本来、相手が生徒だった場合は体力上限が百だから、通常戦闘ならばかなりいいダメージになる。しかしオブジェクトに対しては何度も攻撃しなきゃならない。

 見極めて、ゲージは全部オブジェクトに使うんだ。

 三人を相手にするリズを見て、俺は拳を握った。

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