第四幕

四天、すなわち青天、白天、朱天、玄天。それぞれ都を東西南北にわけた区画を割り当ててあり、警備をする。


しかし、本当の役割は、この都に集まる魑魅魍魎の類を退治するのが役割だ。

また、全国の神社と連携もするのが、四天の役割である。


四天にはそれぞれ頭領がいて、実力で先任からの指名と、四天内での試合で決まる。

現在の頭領は、青天は影水、白天は阿木姫、朱天は陽炎、玄天は惟仁である。白天の阿木姫が一番若く、二十五歳。次が惟仁の三十五歳で陽炎と影水が四十歳だ。


現場の経験が豊富な、実力も確かな頭領たちは、四天のもの全てから尊敬されている。


勿論、螢も陽炎のことを尊敬し、敬愛している。


「とりあえず、陽炎は強いもんなー」


干し芋を食べながら螢がそうこぼすと、隣で同じように干し芋を食べていた喜之助も首肯した。


「頭領に勝てるのはやっぱり青天の頭領ぐらいだろうねえ」


青天の頭領、影水の怜悧な表情を思い出して、螢はぶるりと体を震わせた。


「俺あの人苦手ー。なーんか、いっつも無表情で何考えてるかわかんないし」

「ははは、確かにあの御仁はいつも仏頂面だねえ。もうすこし愛想をだしたら、なかなかの二枚目だ。今よりもっと娘たちから人気がでるだろうねえ」

「喜之助は、青天の頭領が戦っているところ見たことある?」

「昔にね。あるよ。頭領よりも強いんじゃないかと思ったよ」

「そんなにすごいのか、青天の頭領」


ぽかんと口を開けたままの螢に、喜之助は持っていた干し芋を突っ込んで笑った。


「間抜け面だねえ」

「煩いよ! 喜之助!」

「ははは、ごめんごめん。それにしても、いつものことだけど、会合が長いねえ」


喜之助の言葉に、螢も頷く。

今日は月に一度開かれる四天の会合の日。朱天からは頭領陽炎と護衛で副官の、日野が出ている。

御所の近くにある四天の中央本部の方へ、各頭領と副官、そして中央の首長と副長が出席し、月に起こったことを報告しあい、全国で挙げられた件で、現地では対応できないと言われた案件について話し合う。必要とあれば、四天の天員を派遣することも話し合う。

他の天員は現在外回り中で、喜之助と螢は詰所で待機だ。

しなければいけないことも終わり、することもないので二人でおやつの干し芋を食べている。要はさぼりである。


「そういえば、喜之助は首長の雪常様と会ったことあるの?」

「雪常様? すれ違ったことがあるぐらいだねえ。螢は?」

「ないなー」

「雪常様はもう七十七ともう、良いお年だ。そろそろ世代交代だと噂されてるねえ。その前に一度でもみれるといいねえ」


そうだねと、のんびり干し芋を食べながら螢は青い空を見上げた。

喜之助もつられて空をみる。


「平和だねえ」

「このままずーっと平和なら楽なんだけど」


螢の言葉に喜之助が笑う。


「先日の《送り雀》のことかい。まだまだ他に仲間がいるそぶりだったとか」

「いまのところ、それらしい奴ら見当たらないけれど・・・」

「今日の会合でも話が出るだろうけど、不気味だよねえ。《送り雀》自体はそんなに強いわけではなかったようだけど、その仲間がどれだけの規模で、どれだけ強いかも未知だし」


不安に思うけれど、日々の忙しさにかまかけて、放っておいたこと。

あの時共に戦った永太も、気にしているだろう。


夏特有の生温い風が吹き付ける。

天高くもこもこと膨らんでいる雲の白さと、目に痛いほどの青い空を見上げながら、螢は干し芋を食べた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る