第弐幕

 日差しが中天に差し掛かり、猫が道の端で居眠りをし始めた頃、目深に笠を被り、この陽気にまるで喪服のように黒一色を身に纏った者がいた。

 白昼の往来を人混みを縫って歩く様は、まるで影の様。すれ違う者が横目で必ず見るぐらいには注目された。何より目に付くのは二本差し。皆一様に武家か?と考えるも、武家で誰かが亡くなり喪に服しているという話は聞いたことがない。といっても、噂になるのは上級からよくて中級の武家。下級、足軽程度の武士だろうか、と皆が邪推している中、影は穏やかに歩いている。まるで散歩でもしているかのようだ。

 

影、こと螢は、先日陽炎と団子を食べた店を探しに来ていた。今日の朝、夜番が終わり、眠ったのだが昼に空腹で目が覚めてしまった。どうせなら、先日陽炎と食べた団子が食べたいなあ、散歩するのもいいなあ、と思い立ち重い腰を上げたのだ。

 「どこら辺だったかなぁ・・・大通りをずっと歩いてたはずだけど・・・」

 辺りを見渡すも、周りを注視しながら歩いていたわけではなかったので、螢はとりあえず真っ直ぐ進むことにした。

 人混みをくぐりぬけ進み続けると、ようやく団子屋と書かれた青地の暖簾を見つけることが出来た。

 「やった・・・」

 知らず顔を綻ばせ、さあ、いざ暖簾をくぐろうとしたときに、通りから悲鳴があがった。

「きゃああああああ!」

 甲高い悲鳴に振り返ると、女性が一人倒れ、横に子どもが横たわっていた。

「おい、小僧。もう一度言ってみろ。」

 子ども達と相対するように立っているのは二本差しをつけた武士。顔は赤く歪み、喋る度に唾をまき散らす様はひどく見苦しい。対する子どもは、恐怖のせいか青白い顔をしながらも、果敢に武士に啖呵をきる。

「はっ・・・女の人に三人で囲むようなやつは武士じゃなくて糞だっていってんだよ!」

「貴様…餓鬼とて容赦はせぬぞ」

 ゆらりと真ん中に立っていた武士が刀を抜く。


 周りから悲鳴が上がると同時に螢が抜刀しようと腰元に手を添えるその時。


「貴様…これは何の真似だ」


 武士の得物が倒れた少年の胸に降り下ろされる刹那、間に割ってはいる者がいた。

 三つ編みの長い黒髪が空に翻る。少年の胸を袈裟懸けにするはずだった刀は、両者の間に入った闖入者の刀に遮られていた。


「…見るに耐えなかった故、止めたまで」


闖入者は、ふっと微笑し武士の刀を薙ぎ払うと自分の腰に刀を戻し、手を添える。


「今上の帝も、将軍も、私利私欲の為刀を抜くことを固く禁じておるぞ。例え今のことを、此の場にいる者たちが言わずとも…時機に四天が来る。…貴殿はどの様に説明なされるおつもりか」


目を細めて言葉に詰まる武士達を眺める闖入者は長い三つ編みを肩から払い、まだ幼さの残る面差しを和らげ、呆然と成り行きを見守っていた女性と子どもに手をさしのべる。

螢はほっと息を着くと、懐に仕舞ってあった朱天の羽織を着ると、人混みを掻き分けて武士の後ろに進み出る。螢の羽織を見て、見物人達が道を譲ってくれたお陰で、楽に武士の背後に回ることが出来た。


「これは一体何の騒ぎだ?」


 喚き散らしていた武士三人は、後ろに立つ螢の羽織を見て、驚愕の表情からすぐに青白い顔で下がる。


「・・・・・嘘だろ、朱天!」


「・・・全て見ていたぞ。詳しい話は場所を改めて聞こうか。それにしても最近の武士は余程暇らしいな」


 青白い顔で口を開け閉めしている中心に居る武士を一瞥すると、螢は後ろで此方の様子をうかがっている少年と、女性とその横に立つ中性的な顔を見る。


「・・・申し訳ないが、同行してもらって構わないだろうか」


「あ・・・はい」


 女性の気の抜けたような返事の後、見物していた周りの者からの口笛や拍手がわき起こり、野次が飛び交う中、武士達は悔しそうに唇をかみしめていた。



 武士の三人が途中で逃げたりしないように、自分で見張りながら、応援がくるのを持つこと数分。呼びに行ってくれた商人が駆け足で店先まで戻ってきた。後ろからは、笠を被った朱色の羽織を着た者が二人、着いてきてる。


「遅い」


「あれ?もしかして螢かい?」


「・・・日野さん?今日夜勤明けじゃ・・・」


 現れた朱天は、今日の朝まで共に仕事をしていた日野だった。日野も螢がいることに驚き、大げさに体を反らす。


「そりゃこっちの台詞よォ。おめェ、いくら若いからってちゃんと休まねぇと体に毒だぜ」


「俺は、少し散歩をしてただけですよ。それよりも・・・」


「ああ。おい、雀。早く縄にかけちまいな」


「へい」


 後ろで影のように日野にひっそりとついていた雀は、返事をすると、慣れた手つきで武士達に縄をかけていく。武士達は文句を言おうと口を開くも、雀の鋭い眼光に負け、渋々といった体で縄にかかる。


「で、螢。何があった?」


「はい。本日正午にてそこの武士三名、尾北、佐井、吉野が、勤務中に抜けだし街を徘徊していたところ、この茶屋の娘葉奈に、暫くつきあえだの何だのとくだらないちょっかいを出し、嫌だと抵抗した葉奈を無理に引っ張って行こうと為た所を、隣の呉服屋の息子、笙之介が助けようとしたのを、この武士達が斬って捨てようとしたんです。」


 一息に、自分が知っていることを言い終わると、日野が嘆息した。


「螢、いろいろと私情が交じっていねえか」


「そんなことないですよ。ただ、お腹空いたから団子食べたいなあ~て散歩してたら、目の前で抜刀騒ぎに出くわすだろ。今日は厄日だ、めんどくさい」


「まあ・・・お前が見つけたんだからお前が最後まで、この件担当しねえとな」


 めんどくせえのはわかるけどな、ともう一度嘆息する日野は、行儀良く葉奈と笙之介の隣に座る人物に目をとめる。


「で、お前さんは?」


「ああ、この人は・・・抜刀した武士を抑えてくれた人ですよ」


「・・・当然のことをしたまでです」


 謙虚に首をふる、まだ幼さの残る横顔を見つめて、そういえば名前聞くのを忘れてたと今更思い出す。


「名前は?」


 日野が聞くと、「申し遅れました、さくらと申します」とゆるりと微笑んだ。さくら、と頭の中で読んで、女の子みたいな名前だなと思った螢は、そこで勢いよくさくらを見つめた。


「・・・・・女の子?」


「・・・・はい?」


 首を傾げると、はらりと黒髪が頬にかかる。中性的な顔立ちのためか、男と言われれば男に見えるし、女と言われれば、女に見える。

 しかし、身につけているものは、袴だ。女性が着る着物ではない。女の剣士というのは居ない訳ではないが、珍しいし、見たところ螢と同じ年ぐらいだろう。

 驚いたのは、螢だけではないらしい。さくらに助けられた女性、葉奈も、笙之介も驚いている。


「え?女の子だったの?」


「うそ、お姉ちゃん超強いな!」


 目を輝かせて身を乗り出す笙之介に少し、辟易しながら、「私は全然強くないです」と微笑む。

 何より驚いたのは武士達だろう。尾北もさくらを凝視している。それも当然だろう。その腰に下げているもので、生計を立てているのに、失礼だが女子どもに舌と刀で負かされたのだから。


「しかし、どうりで華奢だと思ったよ。螢より華奢だからな」


 ふっと笑う日野は、螢の肩を数回叩き、「さて」と騒がしい一同を見渡した。


「とりあえず、お前さんたちには、一度我々と共に来て貰うが、構わないだろうか。勿論、さくら殿も」


「はい」


「よし、螢、お前は後ろ、雀は尾北達を頼む」


「諒解」



   


   ◇◇◇


 


 団子を食べ損ねたことで、空腹が歩く度、存在を訴えかけてきて、少し苛々してきた螢。寝不足の独特の倦怠感も手伝ってか、朱天の拠点となる建物、朱雀殿の、朱色の門が見えた頃には、ほとほと疲れ果てていた。


「螢、お前奥で休んでろ、取り調べは俺たちでするから」


 からりと笑う日野は疲れを感じさせない足取りで、門番をしている朱天の団員に挨拶をする。


「大丈夫です、出来ます」


「そんなひよこみたいな足取りで何が、大丈夫だ。体資本なんだら無理すんじゃねえ」


 螢の主張を一蹴すると日野は雀に指示を出し、尾北と佐井と吉野を取り調べ室にそれぞれ連行していく。


「日野さん、俺が自分で・・」


「ああー。そんじゃあさくら殿達を応接室に通して茶でも出してやれ。で、お前さんは寝ろ。わかったな?」


 有無を言わせぬ口調でそれだけ言ってしまうと、日野は雀の後追う。

 残された螢は、釈然としないまま、さくら達を言われた通り案内するのだった。


 後ろを振り向くと、子どもが目を輝かせて此方を見ていることに気づく。


「すごいなあ~お兄ちゃんは何歳?」


「十六歳。笙之介は?」


「俺は十歳! すごいなあ~朱天にまさか兄ちゃんみたいなのがいるなんて」


「なんか、あんまり嬉しくないな…」


「いや、兄ちゃんみたな子どもがいるなんて思わないだろ! 普通!」


「笙之介よりは子どもじゃないけどね」


 応接室に案内してから笙之介の矢継ぎ早にくる質問に答えていた螢は、そろそろ体がだるくなってきて、少しうんざりしていた。しかし、朱天に憧れる民は多く、こうも楽しそうに聞かれるとついつい丁寧に答えてやりたくなる。


「兄ちゃんは、何歳から朱天に入ったの?」


「…君の年にはもう、仕事に参加させてもらってたよ」


「そうなの!? すっごい! かっこいい!」


「…そ、そうかな」


 詰め寄ってくる笙之介を押し戻していると、くすくすと笑い声が聞こえたので前を見ると、正面に座っているさくらと葉奈が顔を見合わせて笑っていた。

 さくらと葉奈は、初めこそ緊張していたが、応接室で完全に寛いでいる笙之介を見て、少しずつだが緊張がとけていった様だ。笑っているさくらと葉奈をぼんやりと眺めていると、視線に気づいた葉奈が螢の顔を見てまた、堪えきれなくなったように微笑んだ。


「いえ、笙ちゃんがあんまりにも嬉しそうで…」


「笙之介くんは朱天が好きなの?」


「うん! 四天のなかでも朱天が一等好きだ!」


 さくらが微笑みながら聞くと、笙之介は胸を張って答えた。目を輝かせながら、笙之介は女性陣に話し始めた。


「朱天の頭領は四天のなかで一番強いんだよ!」


「へぇ、どうしてわかるんだい?」


 螢が聞くと、笙之介は嬉しそうにお母さんに聞いたと答える。


「お母さんが、昔若い頃、朱天の頭領になる前の陽炎に助けてもらったんだって!すっごく綺麗で、とっても強くて、優しくて…だから、朱天が一番強いんだ!」


 すっごく綺麗…? 陽炎が? 綺麗…? 修行と称して弟子を熊が沢山でる山に放っておきながら、自分は麓の街で物見遊山していたあいつが?え、優しいの? あいつが優しいなら世の中の大部分の人が優しい善人になっちゃうよ。えっへんと胸を張る笙之介を見ながら螢は、陽炎の顔を思いだし鼻で笑った。


「そうなんだ~笙ちゃんのおっかさんがねえ。朱天の頭領様はとってもいい人なんだねぇ」


 感心したように呟く葉奈に思わず、「そんなわけないだろ」と言いそうになって舌を噛み、一人悶絶していると、さくらが楽しそうに笑った。


「私も、朱天の頭領が一番、強いと思います!」


「そうだよな!姉ちゃん話がわかるなあ!」


「頭領の陽炎様は四天で一番強いと思います」


「そ、そうかな…」


 二人の勢いに若干押され気味になっていると、急に障子が開き、話題に上っていた陽炎本人が立っていた。


「あ、かげろう…」


 呆然と呟く螢の前まで、スタスタと歩き目の前に立つと思いっきり右頬をはり倒された。訳が分からず呆然とする螢と、成り行きを見守っていた三人が唖然とする中、「お前は、部屋で寝てろと言ったろうが。頭領命令だ、寝ろ」と言うだけ言うと、「雀ェー! どこにいるんだ!?」と廊下を歩き去っていった。


「……とう、りょう?」


「…はい、あれがうちの頭領ですすみませんなんか機嫌悪かったみたいですごめんなさい」


「え? 朱天の頭領の陽炎様…?」


「はいすみません」


「確かに、とっても綺麗だったけど…強い、ようだけど」


「え、綺麗ですか? あれが?」


「すっげぇぇぇぇえかったな! 兄ちゃん痛くない?」


「すっごく痛いよ!」


「…どうして怒っていたんでしょう?」


「今の内、日野さんも怒られてると思うよ。たぶん陽炎は夜勤明けで寝てないのを怒ってるだけだろうし」


「…そうなんですか」


「けんこーに煩いんだよ。少し寝なくても死にはしないんですけどね」


「兄ちゃんごめんな」


「え? なんで?」


「私たちのせい…で、寝れないじゃないですか。そうだ、ここで少し眠られたらどうですか?」


「何か、敵がきても私が見張ってますよ。少し横になったらどうでしょう?」


「今度は俺が兄ちゃんのこと守ってやるよ!」


「いや、ありがたいけど仕事中だから」


 螢は慌てて応接室に駆けつけた雀が来るまで、赤くなった右頬を抑えたまま、三人に一応どういった経緯で、抜刀騒ぎになったのか、聞き取り調査を行い、調書に認めた。



「螢、今日は災難だったな」


「笑い事じゃないですよ、雀さん」


「・・・冷やすか」


 きょほきょほ笑っていた雀だったが、未だに赤く腫れている螢の頬を見て少し心配になったようだ。手ぬぐいと、冷えた水を桶に入れて持ってくるよう、他の朱員に頼むと、螢の頬を注意深く看はじめた。いや、見始めた。


「しっかし、お頭も派手にやったなあ・・・」


「ちょ、押さないでくださいよ、痛いんですけど!」


「うわあ、手形くっきり残ってるな・・・」


「酷いんですよ、頭領ってば、客人の目の前で俺のことぶったんですよ!」


「へえ。可哀想に」


「ほんとにそう思ってないでしょ」


「思ってる思ってる」


「ほんと適当ですよね・・・」


 再びきょほきょほと笑い転げている雀を斜に見ながら螢は、ついさっきまでいた客人の少女たちを思い出す。


「笙之介はとりあえず元気だったなー・・・」


 笙之介は同じ年頃の少年たちがいかに朱天、ひいては四天に憧れているかを、熱く語り、それを葉奈とさくらが傾聴し、また色々質問するから、螢の質問からどんどん離れゆき取り調べににならなかった。やっとで聞き終わった頃にはすでに二時間も経っていた。

 武士の尾北たちが、昼から酒を呑み、偶々通りかかった店にいた葉奈に絡み、それを笙之介が咎め、抜刀騒ぎになったらしい。さくらは偶々葉奈の茶屋でお茶を飲んでいたらしい。武士が、一般市民に抜刀しようとしたので、止めに入ったらしい。勤務中にもかかわらず酒を酔うまで呑み、あげく、抜刀騒ぎを起こしたことで、尾北、佐井、吉野の三名は一ヶ月の謹慎処分を言い渡された。初めは、自分は何も悪くないとでかい態度をとっていた三人だったが、時間がたつにつれ、酔いが醒めてきたのだろう。青い顔をして、取り調べにあたっていた、日野に謝ってきたらしい。日野も呆れ半分、お情け半分で、謹慎一ヶ月だけの罰にしたらしい。葉奈と笙之介は、大事にならなかったから、それで構わないと許して貰い、尾北たちは陳謝していた。

 つらつらと物思いにふけっていると、障子の向こうから、若い男の声がかかった。


「雀さん、水と手ぬぐい持ってきましたよ~」


「ありがとう」


 障子の向こうには、水の入った手桶と、手ぬぐいが三つ添えられていた。雀が手ぬぐいを桶にひたし絞ると螢の腫れた頬に当てる。


「ありがとうございます」


 じんじんと痛かった頬は、手ぬぐいのひんやりとした感覚に癒されていく。

 まったく、いくらんなんでもあんなに思いっきりぶつことないじゃないか、年増ばばあ! 嫁ぎ遅れのくせに! と心のなかで嘲笑していると、いきなり障子が開かれる。大きな音を立てて障子を開けたのは、仁王立ちの朱天頭領、陽炎その人であった。

 あれ、さっきもこの光景みたなと認識するのと同時に陽炎は、大きく手を振り上げ、素早く螢の頭をたたき落とした。

 理解するより早く、脳天を貫く痛みにひたすら耐えていると、女性にしては低すぎる声が室内に響く。


「なァ、休めって言ったよな。 寝かしつけてこいって雀にも言ったよな」


「今、お頭がぶったせいで腫れた螢の、顔を冷やしてたんですよ」


 平然と返す雀を、陽炎は睥睨すると、「ご苦労、勤務に戻れ」と短く言い捨てる。


「雀さん!」


 こんな、鬼の前に幼気な俺を置いてかないで!!と必死に眼力に乗せるが、必死の訴えも虚しく、雀は隈がある目を爽やかに細めて「礼はいらねえよ。ちゃんと冷やしておくんだぞ」と爽やかに、去っていった。

 残るは、鬼のみ。

 一体次は何をされるだろうかと戦々恐々と待っていると、頭上から、はあと大きな溜息がかかる。

 不思議に思って顔を上げると、眉を寄せ、文字通り見下している陽炎がもう一度大きく溜息を吐いていた。


「あたしは、ちゃんと寝ろっていったよな」


「はい」


「・・・頬、痛むか」


「ちょっとだけ」


「・・・そうか。いま茵用意してやるから一眠りしろ。あたしが勤務終わったら、家帰るぞ」


「うえ!? いいよ、ひとりで帰れま、す・・・」


「ああン? わかったならはいと返事しろよ」


「・・・はい」


「よろしい」


 渋々と螢が肯くと、わしゃわしゃと陽炎が頭を撫でる。


「餓鬼じゃないんだからやめろよ!」


「はいはい、餓鬼は大人しくねんねしてな」


「うるっせえなあ」


 襖から陽炎が茵を取り出し、螢の横に調える。気遣ってくれる陽炎に、少し面映ゆくなりながらも、大人しく茵に横になると、ぽんぽんと胸の辺りを叩かれた。


「おやすみ、螢」


「・・・・・・おやすみ」


 素直に、おやすみというのが気恥ずかしくて、つい小さな声で返事を返す螢。さっきまで怒っていたため剣のある表情だった目元が、和らいで微笑をつくる。たしかに、陽炎は美人だよな。さくらたちがいっていたときは、どこが美人なのかと笑ったが、改めてみるとたしかに笑顔とか綺麗だなと思う。本人には絶対言わないけど。そうおもいながら、とんとんとリズムよく胸を叩かれるごとに深く眠る螢だった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る