彼等の試練の結末は
その後、期末テスト勉強で蒔崎家にお邪魔することは出来なくなった。
けど、この一回の試験勉強が効いたんだろうか。それとも西澤の成績を見て無意識に危機感が湧いたんだろうか。その後は俺自身、自宅でも勉強時間が増えた。
結果。すべての教科で点数が上昇。俺の苦手な数学や、蒔崎の苦手な英語や社会もすべて平均点以上に到達するという快挙を達成したのだ。
そして、こいつも。
「なんか見たことのない点数取っちゃいましたー」
「何? ビックリするほど低い点数取っちゃったり?」
「ぜんっぜん。なんかこんな点数取っちゃいました!」
自慢気に答案用紙を並べて見せる西澤の答案は……、悲惨な点数オンパレードだった。
「あのさ、西澤……。もうちょっと頑張れなかったのか」
「何言ってるんですか! こんなに良い点取ったのに!」
これで良い点なんだ。そうなんだ。どう見ても平均点に足りているとは思えないバツの数にこうべを垂れたくなるところだが、当の本人は本気で喜んでいるようだ。この調子でもうちょっと授業内容を身につけてくれたらもうちょっと見られる点数になるんじゃないかと期待しておこう。
「けどさー。何か今回、得意教科も調子良かったんだよね、私」
ぼそり、と蒔崎がつぶやいた。
「そういや俺もけっこう点数良かったわ。英単語のスペルミスとか減った感じ」
テレビでちらっと見た記憶がある。勉強法のひとつで「自分の覚えた内容を人に教える」というのがあるらしい。人に教えようとすることで自分の記憶の抜けが見つかったり、覚えていた内容を頭の中で整理できたりするらしい。
勉強時間の増加以外にも、今回勉強をお互いに教え合ったり西澤に教えることで、そういう効果を得ることが出来たのかも知れない。
「あのさ、蒔崎」
「何よ」
「今回みたいに点数が良くなるんだったらさ、また蒔崎ん家で勉強会とか出来ないか? お互いのためになりそうだし」
俺の提案に、蒔崎は何故か顔を赤らめた。
「…………。」
無言で俺にどこか不機嫌そうな視線を送りつける蒔崎に言い繕う。
「あ、こないだクローゼット開けたのは俺じゃ無いからな? 一応言っとくけど」
「それは知ってる。あんたはそんなことしないし」
……あれ、俺信用されてる?
「けど……、なんか見られるのが……嫌かな」
「何を」
「……何でもない」
ぶすっ、と不機嫌そうに視線を逸らした蒔崎の心の中は、最近ちょっと読み辛くなってきている。
視界の外で期末の答案を持って踊っている誰かさんには、今は触れないでおこう。とりあえずお前はどれか一教科でも平均点を超えることを目標にしろ、と後で釘を刺しておくつもりだが。
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