二人の夏。
次なる試練の対策は
部室である社会科準備室の窓から見える外の風景は、先週までと打って変わって晴れ渡った空の下、あらゆるものがくっきりと影を地面に落としている。ようやく梅雨が明けたらしい。本格的な夏の訪れだ。夏休みもすぐそこだ。夏休みは何をしよう、今からワクワクが……。
「その前に期末試験があるけどね」
蒔崎のクールな突っ込みにがっくりと脱力する。
「現実に引き戻すなよ……」
「現実ついでにもうひとつ。お前達は高校受験が控えているだろう。夏休みに遊べると思ってるのか?」
先生の言葉に、今度は二人揃ってがっくりと脱力。
「確かにそうだよなあ。俺も親から夏期講習だけは行っとけって言われるわ」
「私もー。行ったって対して成績上がるわけでもなさそうなのに」
べったりと机に身を伏せたまま、顔だけを起こしてぼやく俺達に、もうひとつの声がかかった。
「えー、先輩ってもっと頭いいと思ってましたー」
西澤の発言は無責任……というか、やっぱり野次馬のノリそのまままだ。
「そりゃうちのクラスの子達は私のこと完全に面白がってるからねー。あんたたちみたいに教室の前でたむろってる後輩の子にネタになるようなことしか言わないの」
「つまり蒔崎の成績は王子様に似つかわしくない成績だってことか」
ビシッ、とデコピンを食らう。
「アンタも大して成績変わんないでしょ! 知ってるんだからね、数学は平均以下だって」
「お前は英語と社会が平均以下だろうが」
ぐっ、と蒔崎がうめき声を上げた。実際、俺も英語と社会のカウンターを打てなかったら同じうめき声を上げていたかも知れないが。
「ってことはお前達、志望校はどの辺だ? 北高か?」
「苦手教科が克服できれば何とか、って感じですかねえ。暗記教科はまあ良いんですけど、どうも数字が苦手で」
「私は暗記の方がダメかなー。そこさえクリア出来たら私も北高行けるっぽいけど」
「なるほど、つまり頑張ればお前達はまた同じ学校に通えるということか。どうせならお互いに苦手科目をフォローしあったらどうだ?」
あ、確かにそれも良いかも知れない。そう思って蒔崎の方に目をやると。
全力で二人分のガンを飛ばされていた。
「ちょっと待て、何でそんなに怒ってんだよ……別に良いじゃん。その頃にはどうせ祓え巫女じゃなくなってるだろうし、一緒のクラスになっても普通のクラスメイトで」
「………………ふんっ!」
何、今の全力そっぽ向き。
「先輩に色目使わないでくださいっ! ふんっ!」
隣の西澤も蒔崎を真似してそっぽを向く。
謎のノリに付き合うのも馬鹿らしくなってきたので、いつも通りとっとと宿題を済ませることにする。そして俺が勉強を始めると、ノートチェックなどのおこぼれを狙って蒔崎も勉強を始めるのがいつもの流れだ。
「あー、武井。ここんとこのノート取ってる? ちょっと見せてよ」
「早速来たな、おい。良いけど後で数学のノート貸せよ?」
そんないつもの勉強風景である。……しかし。
「あーそうそう、明日からはこの部屋使えないからな」
「……え? 何で!?」
「俺等に勉強するなって言うんですか?」
受験生二人揃って抗議するが。
「さっきもお前達自身が言ってたじゃないか、もうすぐ期末試験だって。明日から試験終了までは部活停止期間だ」
……あ、忘れてた。そういやこの部屋は部室だった。あまり部活をいしきしていないせいで、これが部活の時間だっていう意識が全く飛んでいた。っていうか俺達、部活らしいことは一切やってなかったな。この部屋は実質俺達の自習部屋と化してるし。
「んじゃ、明日からどこで勉強するかな……ノートのこと考えたら二人でやりたいとこなんだけど」
「普通に考えれば図書館だろう?」
北崎先生から横槍が入るが、そこは否定するしかない。
「それは無理なんですよ、先生。近所の図書館は蔵書も机も少ない上に児童書中心だから。いつも席の取り合いになるし、ラッキーで席がゲット出来ても子供の声がうるさいしで勉強にならないんです」
「ほう、そうだったのか。図書館はあまり行かないから知らなかったよ。じゃあ……蒔崎の家に集合か?」
へ? という俺と蒔崎の声がぴたりと合わさる。
「他に選択肢があるのか? 学校も図書館も無理ならどちらかの家というのがごく普通の選択肢だと思うが」
あー、これはまた睨まれるな、と思いながら、そーっと蒔崎の方に視線を向けると。
「…………まあ…………別に……いい、けど」
髪の毛先を指で弄りながら、やたら不服そうに肯定する彼女。何だよこの態度。そりゃ理由考えたら否応なしに場所が決まった感じで気分悪いのかも知れないけど。
そして。
「ダメです~~っ!! 先輩たちを二人っきりになんてさせませんから~~!! あたしも行きますっ!!」
二人ではなく、西澤も入れた三人ということになったらしい。
「よし武井。お前には蒔崎の部屋の調査を頼んだ」
「調査って何ですか。間取りですか」
「いやいやいやいや。こういった場合の調査といえば決まっているだろう。もちろん下着」
ゴン。
だからアイちゃん、そういう振りはダメなんだって。蒔崎をそうやって弄るとあからさまな攻撃が飛んでくるから。俺に。
今回の右フックは、けっこう効いた。
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