第4.5話その頃街では?
すこし時間は戻ってその日の昼前、場所はレイジータウンユテンのアジト。
地下ガレージにてユテンは破損したヨロイの修復作業をしていた。
上下つながった長袖のつなぎを着て、その上側をはだけ腰の前でくくった姿。
口を尖らせながら作業用コンソールを睨む。
今彼女は、擬似精霊に自動で破損箇所の修理を行わせつつ、先の戦闘での突然の機能停止について調べようとしているところだった。
「ふむ?」
ガチャガチャとアームが立てる作業音の中、彼女は感覚に任せ適当にスイッチなどをいじる。
ポンッ!!!パァンッ!
動作音に何かが弾けるような音が混じっても彼女は気にしない。
「ああっ!!ユテンさん!!!」
爆発音が断続的に奏でられる中突然怒鳴り声がした。
「?」
声に反応したユテンがそちらの方を向くと、螺旋階段中央に備え付けられたポールに脚を絡めユッカが滑り降りて来た。
めくれ上がるスカートを気にせず敷かれたマットに着地すると彼女はユテンの方へ走っていく。
ユッカは拳二つ分ほどの距離まで詰め寄るとユテンの胸に指を突きつけ大声でまくし立てる。
「触っちゃダメって言ってるじゃないですかっもう!!!」
「心配性もすぎるんじゃないかユッカ。今日はきっと大丈夫だ」
怒るユッカにユテンはなだめる為にその頭を撫でようとした。
「ダメです!! 昨日出てく前も同じこと言ってましたよそれ!!」
その手を払い除けユッカの怒りは増すばかりだ。
「そっそうか? なら帰って来れたんだから大丈夫じゃないか」
「ヨロイボロボロだし、あの人に助けられたって自分で言ったじゃないですか!」
「んん……仕方ない今日はやめておくよ」
ユテンは両手をあげて操作を諦めたことをアピールする。
「そうしてください、私がやっておきます」
ユッカが小さな両腕をめいっぱい伸ばし、ユテンの体を脇に押しやる。
「おっと……押されなくてもどくって」
よろけながらユテンが後退していく。
「信用できませんよ!! 昨日も私が最終チェックするんでって! 待っててくださいって! 言ったのに! 言ったのに起きたらいなくなってて」
ユッカは背伸びをしてコンソールを覗き、まず未だにポンッポンッと小爆発を繰り返す作業アームの動きを止めると、計器の数値を一つずつ指差しで確認していく。
「昨日の出発前のデータはっと……」
……内部機構……パイプ……同調率……燃料……ねんりょう?
一つ一つ呟きながら追っていたユッカの指がある項目で止まった。
「んん?? あああ! ……ユテンさん?」
「おっおう、どうした?」
ユテンは再び怒られ少し萎縮したように両手の指を絡ませながら返事をする。
「……メインの燃料空っぽじゃないですかもう!! こんなことってありますか!? いくらなんでも初めて触るんじゃないんですよ?」
「あっ……」
ユテンの頭に思い浮かぶ昨日の熊との一戦。
擬似精霊が一瞬止まったあの時、メインタンクの燃料が尽きサブに切り替わるというタイミングで大きな衝撃を受けたせいで、切り替えがうまくいかなかったのだ。
ちなみにヨロイの燃料タンクは背面の腰辺りに有り、
長方形の引き出しのような入れ物に燃料を満たし差し込むことによって交換補充をすることができる。
当然擬似精霊に任せておけば自分でわざと弄らない限り自動で補充交換される。それが向こうかされていたのだ、間違いなく人の手で。
ユッカはため息を漏らしジト目でユテンを見つめる。
「はぁ……もう触らないでくださいね?」
「うっ……わかった」
念押しするとユッカはまたコンソールに向き合い正常な設定を打ち込む。
カチャカチャッカチャッカチャカチャカチャ
操作を続けながら小さくユッカが呟く、
「……ユテンさん。なんで男の人なんて連れてきたんですか? しかもあんな怪しい人」
先程までの怒った声とは違うどこか寂しげな声。
「……昨日も言っただろ? 私はあいつに助けられた……だからだ」
ユッカに怒られることには慣れたユテンもとまどい目を泳がせ口ごもる。
「嘘ですうそうそ。そんな理由だけなら一晩泊めるだけで良いじゃないですか!」
「…………だって」
「だって?」
ユッカが手を止め振り返る。
「だって……あんなピンチ助けられたら……気に入るに決まってるだろ」
耳まで真っ赤に染めたユテンが消え入るように言った。
「なっ…………まっまさかユテンさんにそんな乙女心が残っていたなんて……」
「ユッカ! あんまり私をからかうな! もう」
真っ赤な顔を横にそらしたままユテンが口を尖らせる。
そんな時、階段の方から声がした。
「こーんにちはー! 」
「「?」」
顔を見合わせると二人そろって階段の方を振り替える。
カタンッカタンッ
階段を女性が降りてきた。
「ユテンちゃんユッカちゃん。こんにちはー」
長い黒髪と薄紫の長いドレスの様な服をきた女性。
女性の名はアヤメ、彼女はユテン達の近所に住んでおり。
人あたりの良さから様々な情報に精通していて、面白そうな話を聞いては二人に教えてくれる。
二人にとっては大姉の様な存在だ。
「ああアヤメさん! おはよう」
「おはようございますアヤメさん」
急な来訪者がよく知る者だとわかると先程までの話から切り替えようとユテンは勢いよく手を上げ、ユッカは少し頭を下げて挨拶をする。
「いつも二人は元気一杯の賑やかさんで良いわねー今は何をお話してたの?」
「いっ今? あのっそのちょっとしたあれで……」
ニコニコと口に手を当て笑うアヤメにユテンが慌てて
「ふふっ噂になってたわよー? ユテンちゃんかわいい男の子連れ込んだんですって? 」
アヤメはそんなユテンの反応を楽しむように自分の聞いた話を出した。
「つっ……連れ込んだって! 人聞き悪い!」
「あら違った?」
「違います!」
「そうなの? ユッカちゃん?」
「今のユテンさんは乙女さんだそうです」
「ユッカ!」
ユテンに睨まれてもユッカは涼しい顔で横を向く。
「ふふっ……あっそうだ! その男の子みたいな子が朝方門から出てったって当番のおじさんが騒いでたけど?」
「え? ミロクが? …… 朝に私見たけど」
「そうなの? なんだかムシが出たとかで、それを見に行くって言ってたらしいからユテンちゃんのとこの子かなって」
あくまでアヤメは先程までと変わらない世間話の続きを話しているつもりだった。
今の時代ムシが出たからと体一つで確かめに行く愚か者は居ないからだ。
「──ムシ!? 本当ですか!?」
「ムシ…………」
だが、ムシというその言葉を聞いてユテンとユッカは驚き顔をこわばらせる。
ユテンは昨日変異化した熊から助けてもらったばかりで、ユッカもその話を夜中聞かされていた、だから最悪の出来事を想像してしまう。
もしかしたらミロクなら本当にムシを見に行ったのかもしれない。
普通なら絶対にないと言い切れる、だが出会ったばかりでお互いの考えがあまりわからないからこそ少ない情報だけで判断してしまう。
「ユテンさん……本当にあの人でしょうか」
「……わからない、ちょっと私話聞いてくる」
そう言うとユテンは一目散に走り出した。
「あっ……」
ユッカは階段を登って行くユテンに声をかけようとしたが、とても振り向いてもらえそうな気がしなかった。
ユッカはまだミロクのことを納得したわけでもないが、危ない目にあって欲しいとは思っていなかった。
それより何より家族であるユテンが彼のことを心配している。
なら自分も彼女のためにできることをしなくては──
ミロクを知らないアヤメはムシを見に行く馬鹿がいるとは思っていない、せいぜい近くの森に散策に行っただけだろうと考えていた。
だから二人の慌て方にあまりピンと来ていなかった。
「あのっアヤメさん! ……私も、ちょっと準備しなきゃならないので」
「あらそう?」
そう言うとユッカは二つならんだヨロイの奥側、大きな塊を背負った四つ足のヨロイの前に行く。
「もしかしてそのワンちゃん出すの?」
「たぶん、きっとユテンさん行こうとするんで」
アヤメが少し驚いたように尋ねられ、ユッカがコンソールに自分のカゴを刺し照れたように笑った。
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