第7・5話その頃彼女は風の中
ユテンとユッカは林の中を闇雲に走っていた。
ネコ型のヨロイが薄暗闇の中なのに軽やかに巨木を避けて進んでいく。
体を上下に揺らさず一直線の弾丸のような軌跡を残して。
ヨロイの中は外の音があまり聞こえず二人の間にも会話はない。聞こえる音は後ろに詰め込まれた水や食料などが揺れて奏でられる物音だけ。
しばらくヨロイを走らせ、人の足では時間的に無理な範囲まで来ると、リズムよくレバーとフットペダルを動かしながら「ユテンさん」とユッカが呟いた。
「あの人を心配をしているのは本当ですし無事でいてほしいとも思っています。でも私が心配させられていることにはちょっと怒ってます」
ユッカが今まで言おうかどうかためらっていた自身の本音を少しづつ話す。
「こんなことでこんな場所から人を探すなんて無茶だと思いますし」
ユテンはその言葉に返事をしなかった。意地悪をしたいとかそういうわけではなく本気でこの林の中からミロクを見つけ出すと決意していたからだ。
ヨロイの背中から突き出た回転する潜望鏡。そこから得られた周囲の暗視映像がユテンの前に有るモニターに映っている。
ユテンは真剣な顔をしてその木々が後ろに高速で流れていく映像をあまりまばたきもせずに見つめていた。
ユテンが反応しなくてもユッカは口を閉じない。喋りながらも彼女はヨロイのスピードを落とさず、最小限の動きで道もない乱雑に大樹が生えただけの林をただまっすぐ走らせる。
「でもね、私はちょっと楽しいですよ」
「楽しい?」
言葉が引っかかったのかユテンが少しだけモニターから目線を離したがすぐに監視作業に戻る。
ユッカの独白は続く。
「……昔、お父さんと一緒に旅をしてた時も朝の道より夜の道の方が好きでした。ユテンさんと一緒に暮らし始めてからあまり夜出かけることはなかったですよね?」
「私がこの子を外に出したがりませんでしたし」
「……でもやっぱり今思ってるんです!」
「暗いなか外はしるのって楽しいなあって」
「そんなきっかけを作ってくれた人にはちゃんと感謝も伝えなきゃダメですよね?」
「だからちゃんと全力で見つけます」
「……当然だ! あいつを捕まえて街のことを、私たちのことを教え込んでやる」
この時既に二人はミロク達が居るムシの巣近くまで来ていた。
ユッカの天才的なバランス感覚とテクニック。それと乗っているだけでも吐き気がしそうな速度で動くヨロイに耐え、その速さで流れる樹をしっかりと目で追えたユテンが速度を落とせと文句を言わなかったからだ。
その時、防音機能を備えたヨロイ内部にまで聞こえる爆発音がした。前方で起こったらしいその爆発により大樹が揺れ木の葉が吹き飛ぶ。
「わっ!!」
正面から強い風を受け、腹の下を通る風でヨロイの後ろ足が浮き上がりそうになるのをユッカはブレーキをかけてなんとかこらえた。地面に跡を残しヨロイの動きを止めると姿勢を低く固定し何が起きたのか確認を急ぐ。
「ユテンさん……大丈夫ですか?」
「なっなんだあれは!?」
「え?」
ユテンの方をユッカは後ろを向いたが彼女は前方を見て驚いた表情をしている。何を見ているのかとユッカもそちらを見て言葉を失った。
二人が見るモニターには巨大な火柱が林を突き破って天に登る姿が映っていた。
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