第6話 林の奥のムシの城
ギギギギイイッギギギギギギイイイ
ムシの声にイラつき太刀を振り回しながら、サンダーソニアはムシの巣中央へと身長に進む。
ミロクたちの通った後には巣の材料となった木材や獣の骨や蜜の残骸が散らかり巣の外まで一直線に道が出来ていた。
その体はムシ達の体液でぬらぬらと濡れているがミロクはまだ事態に気づかない。
『マスター? 多分そろそろ中央ですよ?』
ミニソニアが座り込んだ姿で元気なさげに言う。
「ああ、この壁の向こうの方か?」
また一つ通路を砕いたサンダーソニアの前に立ちふさがる大きな壁。
その壁をサンダーソニアで軽く叩きながらミロクが尋ねる。
それは木材が蜜でコーティングされたものが積み重なっただけのもので通路などを構築するものと何ら変わらない。
だが一見ただの壁に見えるそれにはムシ達用の通路穴もなく、周囲に残る通路の残骸もこの壁を避けるように左右に伸びている。
通路を通せないほどの何かが有るのかもしれない、ミロクはそう判断した。
「よし、壊す」
ミロクは宣言し、わずかに後退すると大太刀を上段に構えふっと息を吐く。
いつの間にかムシの声も聞こえなくなっていることが気がかりだったが邪魔をされないならそちらの方が都合もいい。
「てっ!!」
補助脚を含めた脚を全て伸ばし、前方へサンダーソニアが跳ねる。勢いづけたまま大太刀を振り下ろす。
特に抵抗もなく
パラパラと亀裂から木片などが剥がれ落ち中に更に蝋の壁が覗く。
太刀を振り切るとサンダーソニアの腕を引き、刃を壁から離し、中段から亀裂に合わせ横に切る。
先ほどのように先端でかするような攻撃ではなく刀身の半分ほどが蝋の壁を削り、グチャグチャと湿っぽい音とともに傷をつけ十字の切れ込みができる。
「ソニア、中に入るぞ」
『んんっ了解です、マスター……n』
いつの間にかミニソニアが消え、ソニアが代わりに消え入るような声で反応する。
壁の切れ込みにサンダーソニアの両手を入れ、前側の補助脚も使い切れ込みを穴まで広げようと力を込める。
だが、広げようとする腕の力とそれを阻む壁の力が拮抗しサンダーソニアの腕が激しく震えだす。
更に壁の隙間から壁材の蜜が染み出し、サンダーソニアの手ごと壁の再生が始まった。
底なし沼にはまった様な気分だ。指先から感覚が無くなっていく。
「なっ!! ソニアっ! 力入れろ! 飲まれるぞ」
既にサンダーソニアは手首まで壁に飲まれ上半身の動きが取れず。補助脚も前の二本が同様に埋まり残りの脚4本で踏ん張るも、びくともしない。
『……マスター。これが現在出せる最高出力です』
絶望感さえあるソニアの宣告。だが、ミロクはサンダーソニアの出力に疑問を持った。頭に入ってくる情報ではまだエネルギーはかなり残っているはずだ。
「はぁ!? 嘘だろ」
ヨロイとリンクした体を震わせミロクが叫ぶ。その間にもサンダーソニアは少しずつ壁の方に引き寄せられ、
『いえ……事実です。ワタシに原因不明のエネルギーロスが発生しており──』
その時、後方から急な衝撃がサンダーソニアを襲いソニアの声が途切れた。
ミロクは踏ん張った体勢のままモニターで後ろを確認し舌打ちをした。
勝手に開けた出入り口までぎっしりとムシたちが一固まりの生き物の様にうごめきひしめいていていた。
そしてその団子から代わる代わる細長いムシたちがサンダーソニアへ体当たりをしている。
ミロクはその虫たちの姿にゾッとし、ある物が見当たらず恐怖した。
「ぁあ!? 刀は?」
素手で壁をこじ開ける前に床に刺したはずの大太刀の姿がどこにもない。
あれもまだ消えるほど使っていないはずだ。
ドンッドンッドンッ
どんどん激しさを増していく体当たり、もう猶予はあまりない。
(どうするどうする。刀どこだよってかなんでこんなことに……そもそも壁に押し込んでどうすんだこいつら。なんで普通に攻撃してこない)
ぐるぐるぐるぐるミロクの頭の中で疑問が湧き考えがまとまらない。だが顔は笑顔で目線をさまよわせようやく見つけた。
サンダーソニアの右斜め後ろ。ムシ達の体の影に隠れるように太刀の柄が床から生えている。
ムシ達の攻撃に耐え、少しづつ脚を伸ばす。
サンダーソニアの足はかかととつま先どちらも左右2枚に別れたヒヅメ状になっている。通常時はそれを伸ばし人と同じ足の形をしているが4枚全てをたたむことにより物をつかんだり不安定な足場でも立つことができる。
そして今、立てたヒヅメで柄を握りこんだ。
ミロクは唇を舐めニヤリと笑う。太刀はいつの間にか人間の腕ほどの長さになってしまっていたが柄を握るだけで残されたエネルギーの強さがよくわかる。
何十発目かのムシの攻撃に合わせ補助脚の力を抜き壁へ突っ込み。
壁に取り込まれる瞬間、右足を上げ壁に太刀を差し込み残されたエネルギーを開放した。
眩く紅い光。それがムシ達の声やサンダーソニアを捕らえていた壁を一瞬にして消し去る。
光が収まると辺りにはムシの残骸が転がっていたが、それらがチリになって消えていった。
『……マスター。報告します、原因不明のエネルギーロス解消を確認。これよりサポートに復帰いたします』
「おそくないか?」
『……申し訳ございません』
全てが終わってからの復帰。責めるようなミロクの言葉に丁寧な謝罪をするソニアだったが、モニターにミニソニアがペコペコと頭を下げる姿が現れている。あまりに必死な姿についミロクも笑ってしまいそうになる。
こういった姿がわざとかどうかミロクにはわからないがこういうところがあるからあまりソニアは憎めない。
そんな気持ちでミロクはサンダーソニアと進んでいく。
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