一章四節  射程内にて

「これより! 諸君らの――」

「質問っ! 交戦権剥奪はくだつとかマジすか?!」

「物資供給に制限掛かるの?!」

「彼氏いるんすか?!」 

「女神とか……正気ですか?!」 

「り、力士の……なんなんですか?!」 

「スリーサイズお願いします! は、早くっ!」 

「うるせぇっ!! 全て軍事機密! ほっとけ! てゆうか話聞けよっ!」

 とキレるメガミに、おぉ~、と、色んな意味での驚嘆きょうたんの声を禁じえない学徒ども。

 メガミはとりあえずサイズをしつこく探ってくるミカを、代表として再度スパンと一発入れておく。


「……早くも誤った情報(特に力士とか)等が錯綜さくそうしている様ですが、軍からの正式な通達事項以外は信用しない様に!」

 メガミは厳しい表情で再度学徒達を見渡し、押さえ付ける口調で言葉を発した。


――――カツン、カツンと、遠くで足音が聴こえる。


「諸君らは普段通りの生活を送ってくれて構いません。只、ほぼ全ての行動に対しレベル四の監視介入権かんしかいにゅうけんが発生する事を頭に入れての節度を求めます!」


 現場の裁量さいりょうで人権無視の即時強制拘束も有り得るといった内容に、学徒達から怒りの声が巻き起こった。

「それってほぼテロリスト扱いじゃねぇか!!」 

「フザケんなっ!!」 

「軍人は他にやる事沢山あんだろ!!」 


(……当然の反応よね……)それでもメガミは威圧する眼差しを保ち続ける。


「余程気に入らんらしいな……過ぎた学徒の増長ぞうちょう、とやらが……」


 メガミはこれまでに無い位の強い眼光で、皮肉めいた声の主を睨み付けた。

 

 沸き立つ学徒達の中、目を閉じ、腕を組み、氷の様な沈黙を貫いていた、折襟の際立つ白い長ランを纏うその男子学徒。

 緩やかに逆立つ灰色の髪は僅かに冷気を放ち、眼鏡の奥の光は、支配する力というモノを何か物理的に感じさせる威圧感があった。


(トウジョウ、か……)


「――否定はしません」挑発的な眼差しで座ったままの冬条にメガミは低い声で言った。


――カツン、カツン。

 静まり返る教室に、その足音は徐々にハッキリと聴こえてくる。


「昨年の諸君らの行為が……引き金となっている事は」

 

 カツン!

 

 間近で鳴り響く音へ目をやるメガミ。そして、彼女に戦慄せんりつが走った。


≪解放的な引き金≫コード・リバティック・トリガー

 

 明け広げられたままの出入り口の先に立つ英雄は、静かに語る。

「……『逆さ日本』を壊滅させた攻撃を、私達はそう呼んでいるな」

 

 粉雪の様なあわい微笑みが、時計の針を凍りつかせた。


「神鵬理事から話は聞いている。……ようこそ、射程内しゃていないへ。メガミ・カミフォー少佐」


(でたわね……)

「――会いたかったわ」女性士官の口角が、挑発的に僅かに上がる。


(ユキハラ、レンカ)



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