一章一節 神鵬 対 カミフォー
学徒蜂起事変より一年後――――日本 関東某所 私立
「軍政府としても、この状況下で身内同士でのイザコザは好ましくありません」
その女性士官は対面の
「しかし、昨年の貴校学徒部隊による
レザーソファーに浅く腰掛ける四十代前半と
「同感です。可愛い教え子達を戦場に送り出すのは、やはり心苦しい」
「そういう事を言っていません!」
男の瞳のエロい光を、揺れる前髪の間から強い眼光が
窓の外からは校庭での体育だろうか、幼い学徒達の賑やかな声が僅かに、併せて射撃訓練の散発的な銃声も聞こえる。
「――随分と初動が遅れた様ですが、視察なり監視なりは受け入れましょう、カミフォー少佐」
男の目から笑みが消え、何時しか全てを見渡すかの様な哀しい色を放っていた。
「……よく観てゆくといい。
――殺風景な強化コンクリート壁に囲まれた室内で、二人きりの静かな
女性士官は木製ロータイプのセンターテーブルに置かれた、冷め気味の紅茶が入ったティーカップにゆっくり手を伸ばした。
バックにふわりと流す、躍動感があるセミロング程の金の髪と、窓から入り込む柔らかな日差しが美しく絡み合う。
「そんな
紅茶を一口、含む。
対面の男は窓の外に
グレーのスタイリッシュなオーダースーツが静穏と相まって、その男の隠された知性を演出するかの様だった。
しかし、彼は何か大事なモノを隠しきれていなかった。
「理事長、チャックが全開なんですが」
「え――んあああああああっ!!」
茶葉の量が多かったのか抽出時間が長過ぎたのか、少し苦めのファーストフラッシュ。
だがその苦味は、これから始まる学徒達との対立に備える彼女の心を更に引き締める。
「えっ、ちょ、うそ~! 何、最初から気付いてたっ?!」
高速で社会の窓口をクローズした男は動揺を隠せない。男の上目使いが痛い。
「お会いした時から気付いてましたが、なんか放たれるオーラがイヤラシイ感じなので、ソレも何かの演出の内かと」
「何の演出だよっ! どんな理事なのよそれっ! 言ってよっ! 最初にっ! おっ俺はあのシリアスな展開をフルオープンで……!」
「では、行きます」
「ちょっ、待ってくれっ! この事は内密に! 学徒達にでも知れ渡ったら、全開理事、または色んな意味でオープンな理事としてイジられ……あっ待っ――イヤっ!」
無慈悲な歩みで立ち去る女性士官がガチャリとドアノブを回すと、優男へ妖しく振り返る。
「貴方次第ですよ、理事長」と、口元は笑み。
バタンと冷酷に閉められたドアの先には、遠ざかってゆく足音が一つ。
そして見送る、バカ一人。
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