弱小女神の『認識兵器』

豊 トミー

プロローグ

 少し、過去を思い出したので──。

 暇潰しに、あの星の物語を語ろうかと。


 俺……失礼、語り手である私は宇宙であり神であり、全てのモノと共に在り、かつては人の子ではあったが、今や男とか女とかはドウでもよい──オネエ系とかそういった事ではない──ので、まあ、曖昧あいまいな存在というか、キャラが弱いというか、いやホント、ごめんなさい。面白い事も特に言えないです。ホント神とか調子乗ってすみません。


──ふん。卑小な読者ごときが超越者であるこの私の声を聴ける幸運を、ひざまずき、感謝しろ。


 いやホントごめんなさい、二度と調子に乗らないです、ハイ。一人称が「私」とか背伸びしてすみません。キャラまだ固まってないです。読者層とか絞りきれてないです。すみません。

 

 いや、魔王とかじゃないです。無双ハーレムとか私、しないです。

 あ、いや「やれ」と仰られるなら、出来るです。ニーズはホント……大事なんで、はい。


────話を戻そう。

 無数の銀河、無数の生命。そのひとかけらである、地球と呼ばれる星に私の意識が向いたのは……懐かしさ、からだった。

 私は彼女の故郷である燃え盛る星の横で、かつての身体と安っぽいティーテーブルセットを構成し、まばゆい光の宇宙空間でチェアに腰掛け足を組み、紅茶なんぞをすすってみる。


 ほのかな苦味を堪能するとテーブルにゆるりと肘をつき、ちらり青き星の方向に目をやり、小さく、妖しく口角を上げる。

 

 まあ、そんな演出も実際は激し過ぎる光量で、傍目はためからは私が何してんのかなんてサッパリわからないのだが、読者の方々にはミステリアスなストーリーテラーが何だかおっぱじめるとでも想像していただければ幸いだ。




 偉大なる独裁者、マーディアス・デイガードにより地球の名の下に統合された全国家。

 統合暦三年……人類が世界の最終的な真相に達した頃、地球に謎の攻撃が始まった。


 敵は公式には世界核せかいかくと呼称され、時に一機の異形の戦闘機、時に複数の異形な人の姿などで国を問わず至る所に突如出現する──ある学校で、授業中の教室にいきなり入って来た例もある──それらは、規模範囲に個体差のある、自らを中心とした理想領域的なモノを展開していると推測され、その領域は人や物を破壊し、あるいは狂った理想の中へと命を取り込んでいった。

 

 理想郷の一部に変換される者もいれば、その理想に支配され、何か恐ろしい力に目覚める者もいた。

 

 大地に、海に、空に、世界が生まれてゆく。

 かつて悲劇をもたらした核の光へ、謎の動物達が徘徊する不思議なテーマパークへ、ただの殺人鬼へ……世界が、カタチを変えてゆく。

 

 地球統合政府は最大級の非常事態を宣言。人類存続をかけて交戦するも、戦略兵器すらも用いたその強過ぎる爆撃は世界核にはまるで涼風のごとく、いたずらに自らの大地と同胞を汚してゆくばかりであった。

 

 政府は失われゆく兵力を補う為、後の世の命運を左右する事となる『世界全校武装令』せかいぜんこうぶそうれいを発令。

 十歳にも満たない幼い学徒にすら銃を持たせ、充分な訓練を受ける間もなく最前線に立たされた少年少女達は、恐怖にすくみ、母を呼び、ただ泣きながら砕け散っていった。 


 繰り返す悲劇が、人間の数を半分にした頃────。


 そして追い詰められた政府は、人脳の第四進化を提唱する最終機関ウィズダムネットよりもたらされた約束の最終力さいしゅうりょく『認識兵器』にんしきへいきを未制御にもかかわらず解き放ち、優しく世界の空を覆っていった光の切り札は世界核もろとも守るべきモノも数多く焼き尽くし、その力の有効性を実証するに至った。

 

 この時、巻き添えとなった前線の学徒兵達に撤退命令が下されなかった事実は、暗黙のうちに記録から抹消された。

 

 これより、統合政府は『認識兵器』を用いた反攻作戦を展開してゆく事となるが、そこに付随した人道的悲劇、倫理の欠落に対し異議を唱える者は、たとえ将官であれ処断された。


『認識兵器』発動より七年後。 


 世界核の出現数は年月と共に減少の様相を見せ、人々が終戦後の小さな希望を見いだし始めた時……日本上空に、過去最大級の世界核が突如、襲来した。

 

 列島級──日本列島の鏡写しとも呼べる漆黒の巨大なモノが、空高くに浮遊する。

 

 要人達は一部を除き即刻国外へ脱出、日本駐留の統合軍にも即時撤退命令が下される。


──住民の地下シェルター避難を誘導。暴徒の鎮圧。

 統合政府から日本の学徒兵に下された命令に、撤退の二文字は含まれなかった。

 

 空で炸裂する、国内外より放たれる『認識兵器』らしき爆発光が、日光を遮られた地上の民間人、学徒兵達の絶望の眼差しに空しく踊る。

……残された者に、逃げ場など、無い。

 

 出現より数刻後、巨大世界核が鳴り響く警報と人間の悲鳴、絶叫に吸い寄せられるかの様に地上へ無慈悲な落下をゆっくりと始めたその時、全学徒兵のインカムに届く、少女の声。


〈全ての戦友達、今は亡き戦友達に……この、逆襲の光を。──生まれた、意味を!!〉


…………陰では捨て駒と呼ばれ、この世界の盾にされ、時に最前線で友軍の無謀極まる爆撃に殺されていった、数多あまたの少年、少女達────。

 

 その遺志をまとう、地上からの光り輝く超絶砲撃に、後に『逆さ日本』さかさにほんと呼称された世界核は壮絶な轟音と共に粉微塵に完全破壊され、まるで日の光に溶け込んでゆくかの如く、空に消滅していった。

 

 そしてそれを仰ぐ、時を切り裂く咆哮と共に軍指令無視の一撃を放った学徒英雄の蜂起ほうきを、諸刃の光『認識兵器』の輝きが優しく、抱擁ほうようするかの様に照らしてゆき────。


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