三章三節  女神

 メガミ・カミフォーが神鵬学園から姿を消して五日後、統合政府軍事議会は更迭された前議長に代わり強硬派の有力者ランベル・レノワー元帥を新議長とし、学徒臨時法の成立が宣言された。

 それは既に意見の対立などもない、言わば神託と化していた。

 斬間准将をはじめとする穏健派の大半は、事前にいわれのない罪状をでっち上げられ、拘束、幽閉ゆうへいされていった。



――――神鵬学園 中央大会議室



「最早なりふりかまわぬか。いくら飾ろうが、最後は力よ」


 薄暗い室内。宇羅は漆黒の専用制服と共に暗闇に同化し、悪魔の微笑みでさげすむ。

 室内後方の大画面モニターに流れる冷徹な目をした新議長の宣言は、再度、世界中の学徒兵達を絶望の淵へと追いやるものだった。


「これが答えだ。――気は済んだな? 雪原」

「……ああ」

 並び立つ冬条とレンカは闇に浮かぶ軍人達を見ながら言葉を交わした。


「みんな、聴いてくれ」

 冬条が暗い室内に集った少年少女達に、静かに語りかけた。

「――これが最後の確認になる。引き返したい者は、今ならまだ間に合うが」

 そう言って、冬条はゆっくりと立ち並ぶ人影を見回す。

「――共に行きます」夜鳩が眠たげな目で微笑み、言った。

「新しい世界に」ディーヴァはうなずく。

「ただ、進むのみ」月下が指をコキリと鳴らす。

「突っ走ります!」モンジュが元気に言った。

「別にオメーの為じゃねぇかんな?」京子がニヤリと笑う。

「か、勘違いしないでよねこのタコボンボン」仕込まれたシールド。

「フッ」なんか言えランス。

「お、お兄ちゃんは私がいないと駄目じゃん!」まだ言ってるミカ。

「ふふ。足が震えておるのではないか? 源人」黒扇子の奥で笑みを浮かべる闇の姫。

「そばに、います」静は儚げに伝えた。


 冬条は目を閉じ、少し間を置いて「ありがとう」と、みんなに優しく笑った。


「――あれ? 私は?」

 レンカが思い出したように言ってきたが、何かめんどくさい予感がした冬条は一つ咳払いをして「ふざけるな」と小さくレンカに耳打ちした。


――じぃーっと冬条を見つめるレンカ。冬条はチラッっと目を合わせるも、すぐ顔を逸らす。周囲の仲間達はナゼか固唾を呑んで見守った。


「……何だ。何か言いたかったのか?」

 根負けした冬条はため息を落として、隣のレンカにしぶしぶ尋ねた。


「――冬条くん。わたし、怖いの」

「ここで! まあタイミングとしてはアリか」冬条は軽い衝撃に眼鏡を曇らせて言った。

 うつむき、笑いをかみ殺す仲間達に、謎のしたり顔で近づいてゆくレンカは――。

「ビックリしただろ」と変に小さい声でライオンに言う。

「……はぃ」うつむくライオンが必死に笑いをこらえながら声を絞り出した。

「――ドキドキしただろ」隣の月下にも及ぶ。

「……多少」口に手を当て、プルプルとうつむきながら月下もなんとか答える。


「――怖いのは本当さ」

 冬条の隣に戻りながら、彼女は寂しげな背中で真情を吐露する。

「だから――頼りにさせてもらう」


――――きっと、遠からず起こるであろう彼女の悲劇を言っている。


 冬条は、微笑んで強がったレンカの腕を引き寄せ、強く抱きしめた。

 レンカは目を閉じ、ただ身を任せ、穏やかに言葉を紡いだ。


「……みんなも、怖い時は言ってくれ。きっと手ぐらい、繋ぎに行けるよ」

 

 どんな姿になろうとも――。

 ディーヴァはレンカの言葉の続きを、心の中でつぶやいた。


「――怒らぬのか? 静」

「何を野暮な。むしろあそこで抱き寄せもしない男に、私は怒ります」

「……そなた、よいおなごじゃの」 


 悲哀の微笑みを浮かべる二人の姫も、やがて訪れる時を知る身であった。

 長い時を共に戦い続けたその男女を、周囲の者も含め、しばらく邪魔はしなかった。



 きっかけは、まだ初等部の頃だった。


 冬条が在籍した、神鵬学園ではない、とある私立学校に避難の形で流れ着いた雪原姉妹。


――それから数カ月後、その学校は町ごと吹き飛ばされた。


 瓦礫がれきの陰で冬条が意識を取り戻した時、辺り一面が焼け野原だった。


(生きてる)

 冬条は体中に負った傷の痛みに耐える中、何かを引きずりながらこちらに近づいてくる人影に気付く。


 雪原レンカだった。

 血まみれの彼女はまだ息のある子供達を、今にも崩れ落ちそうな建物の残骸の中から引きずり出し、息も絶え絶えたえだえ重い足取りで安全な場所まで運んでいた。

 自分の周囲に沢山の子供達が集められているのに気付いたのはその後だった。

 

 痛みに喘ぐ子、泣いて母を呼ぶ子、黙ってうずくまる子――。

 血を流し、意識を失っているミカもいた。


「目、覚め、た? 生きてる人、これで、さ、さいごだと思う」

 砂煙舞う中、小さなレンカは冬条の近くに運んできた子供を寝かせた。 近くで爆発音、銃声が鳴り響いている。学校の大人は全滅していた。

 

 やがて学校だった瓦礫に、ゆっくりと火がまわり始めた。

 レンカはよろよろとまた、そこに戻っていく。

「やめろ。お前まで死ぬぞ」痛みに歯を食いしばりながら冬条はレンカに言う。

「でも、まだ、生きてるかも。駄目でも、せめてあそこから、出してあげたい」

「助けを待て! それにもう間に合わない! やめろ! もう死んでるんだ!」

「――でも生きてた! それでも今日まで頑張って! みんな生きてた!」

 振り向いて叫んだレンカの顔は悲しみに歪み、沢山の涙が血に混じりながらこぼれていた。

 その片足には鉄片が刺さり、貫ぬいており、手の指も一部、おかしな方向に曲がっていた。


 同じクラスになっても、二人は特に会話を交わす仲ではなかった。

 とある軍人の子という事は聞いていた。国家反逆罪という不名誉のもと、父を失った姉妹。

 冬条も父を失っていたが、別にそれがどうした、といった具合に感情を凍死させていた。


 偉大な父を失ったショックで自暴自棄じぼうじきになっていたふしがあった。財閥という重圧、自分を取り巻く奔流、そういったものもこじれ――早く戦場に出る歳になって、死にたい。時にそんな思いが浮かぶ事さえあった。


 こいつはバカだ。バカなやつなんだ。なんなんだこのバカ!

 冬条は眉をしかめ、涙を一つこぼした。その涙が、自分の中の冷たいモノを溶かしていくように感じた。


 やがて、遠くから、地響きが伝わってきた。

 それは何かの大群が大地を踏み鳴らす振動。二人は音の方角へ、震えながら、ゆっくり顔を向ける。


 だだっ広い、見通しのよい焼け野原の向こうから、大小様々な異形の影が迫っていた。

「世界核……」冬条の口からこぼれた。

 レンカは素早く涙を拭い、体力の消耗に息を切らしながら声を張った。

「みんな聴いて! 動ける子はみんなで協力して動けない子を運んで! 向こうに大きい病院があるからまずそこを目指して! 急いで!」

 幼くも真剣なレンカの表情に動ける子供達は頷き、動けない子を背負い、抱き、手を取り合い、レンカが指差した方角へ歩き始めた。


「冬条君、妹を、ミカをお願いします」

 そう言い残し、レンカは歯を食いしばり、皆が向かう反対方向に足を引きずり走っていった。

「やめろ! ばか! 戻れ!」

 おとりになる気だ。冬条は必死に立ち上がる。しかし激痛が容赦なく幼い体を襲う。

「ふうー! ふうー! 痛くねえっ! 痛みなんか認めねえっ! 加藤! その子を! ミカを頼むぞ!」

 レンカの後を追おうとする冬条を、級友が泣きながら止める。

「冬条君! 駄目だよ! 殺されちゃうよ!」

「ばかやろう! 俺を誰だと思ってやがる! 王様はなぁ! 死なねぇんだよ! だからあのバカ女も死なせねぇ! お前らも死なせねぇ! 加藤! いけぇぇぇぇぇっ!!」

 級友は泣きじゃくりながら小さなミカを抱きかかえ、必死に歩き出した。


――ミカ、ミカ、強く生きて。母さん、どこにいるの? ミカを一人にしないで。

 レンカは朦朧もうろうとする意識の中走りながら、その手に小型拳銃を握り締める。

 そして逃げた子供達とだいぶ距離が離れたのを見計らい、世界核集団に向け発砲した。

 しかし今のレンカでは小型の銃の反動にも耐え切れず、一発撃ち放っただけで足がもつれ、地べたに倒れこんでしまった。

 足の出血が酷くなっていた。それでもレンカは少しでも子供達の逆方向へ、発砲を繰り返し、地を這いずった。


「俺は王! 第七王だ! 痛いのだって支配してやる!」

 冬条は全身の激痛に飛びそうになる意識を気力で声を張り上げ、引き止める。

 手には懐から抜き出したカスタムリボルバー。銃声を頼りに、霞む視界の中、足を引きずり王は進む。

「この俺が、生きてやるんだ。覚悟、しろ。世界め」

 血にまみれた王が、小さく笑った。


 カチッ! カチッ! っと、残酷な音が響いた。撃ちつくしてしまった。

 沢山の影が、レンカの視界で徐々に大きく、鮮明になってくる。


――おとうさん。おとうさん。


 地に這いつくばるレンカ。乱れた銀の髪は血に汚れ、強化制服も所々が破れ、ボロボロだった。


――ミカ。


 銃を手放し、限界に震える手で、目の前の瓦礫から飛び出た細長い角材を握り締めた。


――おかあさん。

 

 少女は最後の勇気と熱で、立ち上がった。

 

 恐らく千は超える異形の影に、おぼつかない足で角材を引きずり、その小さな少女は流血を軌跡とし、ゆっくりと、歩き出した。


「――いきるんだ」

 何も見えなくなった冬条は、その言葉を最後に、後は覚えていなかった。



 気付いた時には、二人寄り添い、地面に寝転がっていた。


「あれ――つっ!」

 全身の痛みは残っているが、生きている。なんだか知らないが、目の前のレンカの手を握っている。

 冬条は特に何も考えず、動かずにいると、レンカの目がゆっくりと開いてゆく。


「…………冬条君」

 レンカは小さく言った。彼女も、そのまま動かなかった。


「…………熱いな、お前」

 冬条は無表情で言うと――。


「……熱い」と、微笑んだ。


「……冬条君も、熱いね」

 傷だらけのレンカも、優しく微笑んだ。



 その後、世界核の影響で遅れていた救助隊も到着し、レンカと冬条は無事救助された。

 ミカや別れた子供達も無事逃げ切っており、損壊は激しいが、かろうじて機能していた病院で保護されていた。


 結局あの時に何が起こったのかはよく分からず、軍の調査でも、気付いたら世界核は消滅していた、といった曖昧な結果だった。

 昔話になると、レンカはあの時、世界核集団に向かう自分の横を誰かがゆっくり追い抜いていった気がする、と話し、冬条も意識を失う直前、誰かに触れられた気がする、などと話す。


「――あれが二人の最初の『認識兵器』だったのかもな」

 冬条は最後に決まってそんな感じで言うと、顔を綻ばせていた。

 


〈統合軍、動きを見せました! 当学園には霞ヶ浦、横浜、宇都宮の三個師団が向かっていると思われます!〉

 インカムを通して通信班の女子学徒より告げられる、開戦の時。

〈報道各局、全ての準備は整っています〉

 通信班男子学徒の冷静な声。


 レンカは冬条の腕の中、彼との思い出に続き、メガミの事を考えていた。

 

 教室から笑顔で出て行ったっきり、もう戻って来なかった女性士官。

 朝になっても戻らないメガミを心配し、みんなで探した。そしてミカが屋上の女神小屋で置手紙を発見した。


【私はもとの場所に帰ります。お別れの挨拶もしないでごめんなさい。

 軍人の私が子供の前で泣けないから。だから、許して。

 猫パジャマはミカが欲しがってたから置いていくね。衣装ケースに入れとくから。


――みんな、優しくしてくれてありがとう。また会えて、嬉しかった】


 猫パジャマは連絡通路に落ちていた。手紙はあの集いの前に書き置かれたモノなのだろう。


――こんな別れ方、するなよ。ミカもモンジュも泣きじゃくって大変だったんだぞ。泣いてもいいよ大人だって。神様だって、泣いてもいいよ。……帰らなくても、いいじゃないか。


 そんな思いと共に、また会えて、という文面が、彼女の中でずっと引っかかっていた。


「行こうか」

彼女をそっと離し、冬条は微笑み言った。暖かい目をしていた。

「ああ、行こう」

 レンカも暖かい眼差しで小さく答えた。




 そしてその直後、世界が終わった。




――世界の終わり、とはどういうモノなのだろう。読者の方々も、もしかしたら一度は考え、想像してみた事があるかもしれない。


 世界の一番偉い人がテレビで緊急放送を行い、巨大隕石の衝突が間近である事を告げたり、遂に全面核戦争が勃発する事を宣言したり、はたまた巨大地震が恐怖に叫ぶ人々を飲み込んだり、謎の生命体がUFOに乗って侵攻してきたりと……人それぞれの終末観があることだろうが、今、ここで起きた終わりには、いわゆるドラマも前触れも無い。

 

 あたかも夜の急な停電、その後のわめき声など一切存在しない、世界にあまねくラスト・フリーズが起きたのだ。



――――しかし、少年少女達が、それを許さない。



(……寂しい宇宙だ)

 レンカは思った。


 レンカの周囲には無限とも思える宇宙が広がり、そこには仲間達も、学園も、大地も、何も無かった。

 闇に光る星々だけが、相対的に自らの存在を証明するかの様だ。しかし彼女の身体は宇宙に融け、その意識、魂だけが宇宙を漂っていた。


「もう、抗わなくていいのよ」


 宇宙が、語りかけてくる。

 いや、その声は確かにメガミ・カミフォーだった。

「もう、全部、あなた達の言う『ユニバース・マター』に還っていったわ」



――――女神が現れた。



「そう、あなた達以外は」

 軍服の女神は、暖かく、懐かしい光を身に這わせ、全てを超越した無表情でソレを見る。


「ほう」

 宇宙をも震わせる謎の黒。ソレが人を構成し、無限の闇に銀髪の魔王レンカが降り立つ。


「レンカ姉!」

 モンジュは孤独な宇宙で叫んだ。誰もいない宇宙。

 でも、確かにそばにみんながいる。みんなとそれぞれ意識を、魂を共有している。彼女がそう思った時、宇宙がモンジュを構成した。


「まあ落ち着くがよい小童」

 禍々しい黒色を放ち、闇の姫、宇羅が宇宙に降り立つ。

「そばにいますよ」

 美しき光の四枚羽が闇に咲き、空の神、静が降り立つ。

「これが、終わりなんだ」

 天忍の末裔、夜鳩が一人、宇宙に立つ。眠たげな目が全てを見渡す。

「ここもまた、新世界」

 宇宙を果てしない雷が交差し、真紅を纏うディーヴァが現れる。

一興いっきょうではないか」

 空間を一閃した刃を納刀し、剣士月下は指をコキリと鳴らし、宇宙に立つ。

「え、何? あたしら死んじまったん? 上等じゃん」

 義侠のレディース京子。宇宙上等、夜露死苦よろしく参上。

「ちくしょー!! こんなことなら貯蓄とかしてんじゃなかった!!」

 マネーの鬼、ミカが宇宙で地団駄を踏む。

「こんな事したら、だめだよ」

 慈愛の盾、シールドが宇宙で一人、泣く。

「その決意……見届けよう」

 導く槍、ランスが宇宙を歪める。

「女神……か」

冷涼なる『セブンス・キング』、冬条が宇宙の冷気をも友とした。


 互いの姿は確認できない。だが皆が見るモノが意識に流れこんでくる。皆の声が頭で感じ取れる、そのそれぞれの宇宙で、少年少女達はレンカの見るモノ、女神と対峙する。


「何やってんの少佐!! みんな心配したんだよバカ!!」

 モンジュが涙を流して怒った。


「――ごめんね、モンジュ」

 女神が悲しい表情で小さく答えた。声が届いている。


「……何から訊こうか」

 レンカはそれまで険しかった表情をフッと綻ばせ、女神に対し穏やかに言った。


「そうね……まず、ここは『ウィズダム・ネット』と呼ばれるモノの最深部。人と宇宙の境界とも言える場所。――まあ、宇宙よ。地球と、そこに在った生命を否定した、ね」

 女神は目を閉じながらゆっくりと答えた。

「やっぱそうなんだ。感覚似てるし」

 ミカが宇宙をふわふわと遊ぶように漂い、言う。


「ねえ何したの?! みんなをどうしたの?! 殺したの?! あなた、なんなの?!」

 モンジュが叫ぶ。全員の目が鋭くなった。

「殺したんじゃない。もう、やめたの。創造主である私が、その世界を否定したのよ」

 静の目が据わり、意識の中の女神を睨む。

「宇宙からの強制認識……」

「……いよいよ地球とそこに住まう生命が何であったのか、おのずと見えてきたのう」

 宇羅がゆるりと黒扇子で口元を隠し、静の言葉に続く。


「――――ずっとずっと昔ね、みんなが太陽と呼ぶ星は、とても素敵な星だったの。地球と、いえ、それ以上にずっと素敵な星だったの。自然も、文化も、そこに生きた人達も」

 

 女神の口から、真実が語られる。その言葉に声を失う者もいたが、最早誰一人、その物語を否定する事はなかった。

「あなた達と変わらない、沢山の人間達がいた。そして歩んだ道も、そう大差は無かった」


 女神は遠い目で言葉を紡ぐ。

「沢山の人種が沢山の戦いを経て、やがてみんな仲直りして、一つになる素晴らしさを知ったの。そして、その融和が人間に進化を与え、人間は大きな力を知ることになった」


 ランスの全てを超越した表情を感じながら、女神は続けた。


「そう、あなた達の言う『認識兵器』と同じ力。宇宙という絵を塗り替える力。それは理想の創造。宇宙が描かれた『ユニバース・マター』という魂の連鎖、いわばキャンパスに自らの理想をえがき、他に強制する、もうそれ以上はありえない最終力。それはとても素晴らしい力だけど、それを沢山の人が一緒に使ったらどうなるか。いろんな人がそれぞれの理想をキャンパスに描き散らす。いろんな絵が重なり合ったそのキャンパスには、色と線が滅茶苦茶に混じり合う、もう何か解らないモノが描かれていた」


 シールドが、何か過去を振り返るように宇宙を見上げる。


「世界を構成する『ユニバース・マター』とは、言ってみれば小さな小さな記憶媒体。それ自体が弱い意識を持つ、粒子と概念の狭間でたゆたうモノ。全てのモノはそれの集合体で構成されている。弱い意識はより強い意識に影響され、それが持つ記憶さえ歪めてしまう。三層の人脳が進化し生まれる第四層、第四進化とは人の枠に収まっていた強い意識がかせを外し、周囲の弱い意識を侵食、強制支配できる事を言うのよ。その意識が強ければ強い程、それは弱い意識達の間でより広く連鎖してゆき、それは自らを構成する『ユニバース・マター』をも支配する。しかし周囲の否定、フィルターに阻まれもするその力は時としてかなり限定的なモノ、自身への影響のみにとどまる事もある。ここまでがいわゆる自身のノウ力、進度で表される力。――そしてスケール。収束力とは他の強い意識をも従わせる力。簡単に言えば信認される力ね。相手のフィルターを融かし生まれる共鳴はその理想をより絶大なモノにしてゆく。同じ絵を重ねて描いて貰うのよ。重なれば重なる程、それはやがて誰にも消せない強い色となるわ。……ね、冬条君」

(――当然、お見通しか)冬条は答えず、女神を睨む。


「そういった意識が滅茶苦茶に混じり合った結果――『ユニバース・マター』は制御出来ない絶大なエネルギーと化し、星すら消滅させたエネルギーは今尚、激しく燃え盛っているわ」

 望郷に悲しむかの様に、女神は切ない眼差しで遠くを見る。


「……なら、太陽とは、暴走した『認識兵器』という事になるのですか?」

 夜鳩が真相を尋ねた。

「――というより、世界核よ」


「…………え? 世界、核?」

 つぶやく京子は女神の言ってる事が理解できなかった。いや、理解する事を恐れた。


「理想の奇形、理想の交差点、理想の暴走。それが世界核の正体よ」


…………その女神の言葉に、放心状態となった月下がつぶやいた。

「馬鹿な。……ならば、ならば世界核を生み出していたのは……」


「――マーディアス・デイガードを代理人として表舞台に立たせ、絶大な権力と金融支配により世界の統一を果たし、統合政府の樹立を成し遂げた『九の王』達。実質的な力は『五皇帝』をも凌ぐ王達の完全な秩序のもとで人々は平和を享受し、解かり合おうとする魂、融和に目覚める意識が人脳の第四進化を促し始めた時、宣告者は現れた」


 冬条と宇羅の目が、より冷たく研ぎ澄まされた。女神は語り続ける。


「既に王達もその進化とそれがもたらす力に着目し、人が最後に得るモノとなるであろう事から最終の名がついた研究機関、ウィズダムネットにより解明が進められていた。しかし、その進化の行き着く先を知る宣告者から告げられた真実はあまりにも残酷だった。――そして王達は人類の存続を優先し、その進化を放棄する事を決めた」


 レンカは「放棄」という女神の言葉に眉を寄せ、うつむいた。


「既に始まっている進化を放棄する。それがどういうことなのか」

 女神は心を殺し、言葉を続けた。


「殺処分よ。進化した者を、残らず殺すことにしたのよ」


 モンジュは恐らく聴く事になるであろうと覚悟した言葉を耳にして、また一粒、泣いた。


「ただ強引に連れ去って大量殺戮さつりくを行えば、築き上げてきたモノ全てが崩壊するであろう。王達はいかに合理的に殺すかを考えた。その時にはもう地球に世界核が現れていた」


 静の頬にも一筋の涙が流れた。悲しき子供達への手向けとなって。


「戦って、死んでもらう事にしたの。仮に世界核という存在が無かったとしても、王達は自ら火種を撒き、無理矢理にでも戦争を起こすつもりだったの。だって互いに争い、傷つけ合うと言う事が、進化を抑える手段でもあったんだもの」


――人とは……。宇羅は思いに目を細める。


「それも含め『ウィアース・プロジェクト』なのよ。――航宙艦によるウィアースへの脱出を行うとされた計画。確かに進化者を含め選抜された人間をコールドスリープで外宇宙へと脱出させた方舟も存在しているわ。ただあくまでそれは未来に託した実験サンプルとしての意味合いが強く、戦争の中で死にそうもない強い力を持つ者、またその可能性が見られる者を選定して旅立ったそれ以外の艦は、全て遠い宇宙でコンテナに詰め込んだそれらの者達を切り離し、そのコンテナは自爆し、消えていった。……何も知らない、沢山の人を乗せて」


 残酷過ぎる――。雷陰は口を手で押さえ声を殺す。だが涙を止められない。


「機密により存在する場所もわからない新天地。政府による公開映像は巨大な人工惑星で暮らす人々の豊かな日常、政治情勢、人気スポットなんかを紹介していた。――でもそれらは全て作り物の嘘だった。新天地なんて、最初から無かった。インビジブル、インビンシブルのダブルIアース。見えない新天地、無敵の新天地。今は見えない、やがて敵を無くした地球というのは、人類存続を脅かす進化者を完全に排除した未来の地球の事を言っているのよ」


 それは遥か遠くの素晴らしき新天地を例えた呼び名などではなかった。進化を見せた者達は極秘裏に敵性として見なされていたのだ。


 冬条と宇羅も、王達の画策の全てを把握出来たわけではなかった。

 そういった新天地計画を極秘裏に行える程の力を有した王の連合体。

 冬条も宇羅も流れの中でその存在に疑念を抱く中、もしや、といった思いもなかったわけではない。

 しかしその最悪の真実を知り、冬条は恐ろしい形相で歯を食いしばり、宇羅はただ悲しげに、消えていった命へ黙祷もくとうを捧げた。


「……ほとんどがまだ子供だったの。そういう風に処分されていったのは、ほとんどがまだ子供だった。平和な世界に、より柔軟に、より純粋に適応していったのは、そこに素晴らしい夢を見た、沢山の少年少女達だった。――ただ普通に生きた、子供達だった」


…………女神が表情無く、涙を一つ落とした。誰もが口を閉ざしていた。


――やがて涙を手で拭い去り、女神は正面のレンカを見据える。

「――レンカ。あなたのお父様は、あなたにも伝えていた事以上の真実を知った時、激昂し、王達に反逆を試み、殺されたの。そして全ての子供に武器を持たせる『世界全校武装令』を発令したデイガードも、その罪の重さに耐えかね、苦悩の中、自ら命を絶った。――彼はロマンチストで、心優しき代理人だったわ。誰よりも平和を夢見ていたのかも知れない」


 レンカは何も答えない。彼女もまた女神を見据えるだけだ。


「――『冬猫ふゆねこ』か。表に出ることを望まない冬の猫。最高ランクの諜報員としてはかわいらしい、洒落しゃれたネーミングよね。あなたの大型拳銃も絶大な力を発揮する事から、出来れば表に出る事がないように、との願いも込めて名付けられたってトコロかしら?」


 母のコードネームに、ミカが何かをあきらめた様な顔でゆっくりと反応した。


「……あなたのお母様。――彼女こそ、世界に『認識兵器』を解き放った張本人よ」


 レンカはやはり答えない。ミカが震えながら涙を落とす。


「王達は自分らを守る最低限のモノ以外、特に広範囲に影響する大量破壊型の『認識兵器』を使用する気は無かったの。その力は『ユニバース・マター』を揺るがし、伝わってゆく波は他者の進化をも促す事を知っていたからよ。世界に力をばら撒く事を恐れたの。――彼女は夫の死後、その死の真相に辿り着いた。それと同時に始まった統合軍による最終機関の解体。真実の流出を食い止める為の殲滅行動の中、彼女は研究所の被験者達による、超大型『認識兵器』を解き放ったの。――皮肉な事ね。確かにその時、世界中で世界核が猛威を振るっていた。しかし公式初となる『認識兵器』の最初の犠牲者は襲い来る兵士達、人間だったのだから」


 モンジュが立ち尽くす。最初の『認識兵器』――兄を奪った光。


「……でもね、彼女の行動は決して自暴自棄とか単なる自己防衛とか、そういうモノではなかったの。――彼女は、その光に希望を託したの。愛する夫を想い、愛するレンカとミカを想いながら、彼女は壮大な光の中心で消えていった。まだ制御もままならないモノが沢山殺してしまう事も覚悟の上だった。それでも、少年少女達がただ無残に殺されてゆくだけならば、それが諸刃になろうとも、せめて、抗う力を。いつの日かこの犠牲の先で、全ての人達がこの力との共存を果たす事を祈り、それを解き放ったの」


――世界で母を感じとれなかったレンカもミカも、ただ自分達の力が不安定で弱いだけだと誤魔化し、互いに慰め合ってきた。が、心のどこかで、母の死は覚悟していた。


 ミカが手で顔を覆い、ひっくひっくと泣いた。だが、レンカは涙をこぼさない。


「デイガードも代理人としての役割の中、自らの理想と王達による板挟みで常に苦しんでいた。……彼も彼女同様、その残酷な命令が、それでもいつか子供達の抗う力ともなる事を願い、死んでいったの」

 

 冬条は悲しき独裁者を思う。幼き日に父への想い同様、憧れを抱いたその魂。


「……そして王の中でも、その流れに抗おうとする者がいた。その者こそ第七王、冬条源人」

 女神の低い語り声に、冬条の眉間のシワが更に深まる。


「計画に異を唱えた先代を謎の事故……本人も承知の通り、暗殺によって失った彼はまだ幼くして総帥の座を引き継いだ。偉大な父の、その抗う魂と共に。――彼は王達に、宣告者の助言を得て自らが考案した代替計画を提案した。だがそれは一蹴いっしゅうされた。その計画は、自分達の支配すら超えてしまうモノを創り上げる事を意味していたから」


 最早何も隠し立てするような事は言わず、冬条はただ眼鏡に指を添えた。


「それは『絶対者創生ぜったいしゃそうせい計画』と呼ばれ、スケールという『認識兵器』の特色に着目した彼は、選抜した一人の英雄に絶対的カリスマ、求心力を持たせる事により、いずれ全ての人間が認識するような比類なき者、絶対者として世界を守らせようと考えたの。進化者達の認識を一つに収束することで、神を創ろうとしたの」


 シールドは穏やかに目を閉じ聴き入った。


「頂点にしがみつく王達がそれを許すハズもなかったわ。しかし宣告者はその計画を支持し、彼を見守った。彼は王達を敵に回し、独自に計画を推し進めた。――それぞれがそれぞれの理想で宇宙を満たし、混ざり合ったそれが反発、否定しあった後、やがて暴走を引き起こすのであれば、理想を一つに近づければいい。皆で同じ絵を描き重ね、何者にも揺るがせない強い色とすればいい。……それが、進化との共存を訴えた彼の答えだった」


 宇羅は冬条に代わり、小さく頷く。


「神鵬学園は英雄を育てる為に用意された舞台。レンカの魂を信じた冬条君が用意した舞台。それと並行して進められたいくつかの計画に、遊撃部隊による『進化促進計画』があるわ。各地に散らばる遊撃隊員が『認識兵器』を駆使して戦闘を行い、その周囲に広がる強制認識が影響下の人々の進化を促す。世界核への対応の裏で、レンカをより強い存在にする為の土壌を整えていたの。――そして学徒アイドルコンテスト。これは『絶対者創生計画』の一部であり、何らかの理由でレンカを失った時の為、その代わりとなる者を育て上げるべく用意された場であった。……今や歌姫はレンカに続く求心力を得て、彼女も絶大な力をその身に宿している」


 雷陰も何も答えず、切ない眼差しで宇宙の星々を見上げた。


「……私が知るのはここまで。あなた達が神鵬学園に再度集い、沢山の報道局を呼び寄せて何を企んでいるかは私は知らない。いえ、知ろうとする事を止めた。その気になれば私は全てを知れる存在。人の心すら、私はそれに融け込める。だって、全ては一つだもの」


 語り手である私と同じだ。そして私が彼女を知るように、彼女も私の存在を知っている。


「――ふふ。でも今のあなた達に融け込むのはチョット難しいかな。あなた達の認めない力、フィルターは、もう強過ぎる。そして単なる否定にとどまらず、宇宙というルールさえ越え、あなた達はその進化で周囲の『ユニバース・マター』の認識すら強制的に侵食し、具体性すら提示する。当然のように生き、声を発する。≪存在≫という名の『認識兵器』で私に抗う。……まあ、それでも、例えば言葉の端々を拾っていけば、あなた達の考えもわかっただろうけど、ね、もう、さ……止めたの、そういうの」


 女神がここで初めて微笑みを見せた。その顔に、レンカはメガミとの懐かしい日々を想う。


「私はね、ずっと長い間、色々な姿でこの星を見てきた。ずっと孤独だった私は、やがて人に憧れ、最後は人として消えてゆく事を望んだ。――時が経ち、人が進化を向かえ、終わりが近づいている事も知っていたけど、私はそれに干渉する気は無かった。それは、あなた達で選択し、決めてゆく事だから。……そんな時、世界が迎える結末に立ち向かう女の子を知って、その子が『認識兵器』を振るい、懸命に生き抜いていた姿に私は懐かしさを感じた。……それ以上に、私は悲しかった」


 少し、女神は切なげにレンカを見つめると、やがて力無く視線を外す。


「――私は統合軍の軍人になって、世界に割り込んだ。……教師にでもなろうか、なんてことも思ったけど、あなた達を止める存在としてはチョットおかしいものね。……私が世界核を生み出すようなマネは避けたかった。強引過ぎる力はそれだけ大きな奇形を呼ぶ。もう、世界には『認識兵器』が混在していたから。『ユニバース・マター』だって、そう万能なんかでもない。自らの許容、限界を超えた時、時として終末の太陽ともなる。なるべくなら流れに沿う形で……。あなた達の管理体制強化という統合軍の流れを、利用した。まあそのくらい、世界の認識を少しいじくれば簡単な事でね」


 モンジュはランスの言葉を思いだしながら、切なげに胸に手を添えた。


「あなた達との≪出会い≫を、私の最後の『認識兵器』とした。以降、私は人間として生きる事を決めた。もう人にそぐわない力を使う事もせず、女性軍人メガミ・カミフォーとして終わりを迎える事を決意したの。――人である為に、自らに枷を課したの」


 女神が自分の軍服姿を堪能するかの様にくるりと横に一回りし、また小さく笑った。


「――それにね……らぐだろうから。あなた達のしようとする事を知ったら、きっとまた、揺らぐだろうから。ずっと思い悩み、やっと決意した気持ちが、ね。だから、もう、いいの」


 悲しく、笑む。――そんな女神に、冬条が静かに問う。


「なあ少佐、いや女神。我々がこれからしようとした事が、あなたの不安や悲しみを払拭ふっしょくする様な事だったら、どうするんだ? ――今、教えようか?」


 冬条の言葉に、皆が女神をしかと見据える。女神はゆっくりと顔を横に振った。


「……いいよ、もう。そんな事、できっこないから。あなた達にどんな秘策があろうと、人の行く末は変わらない。私は人の素晴らしい部分も、それ以上に悪い部分も、ずっと見てきた。――ねえ、冬条君。人の想いなんて、そう簡単に重なり合うモノなんかじゃない。力を得た全ての人々が、全て美しいモノを描くなんて事はありえないよ。そうして人が進化のまま生き続ければ、世界核も生まれ続ける。……私は、結局、あなた達を信じる事が出来なかった」


 人心の最奥を揺さぶるかの様な低音が声として発せられ、うつむく女神を覆う光が消えた。



「――ねえ、おかしいでしょう? 平和を求め、わかり合えばわかり合うほど人は進化し、その進化に殺されてゆくなんて、それがイヤなら互いに争い、傷つけ、殺し合うしかないなんてあまりにも残酷な話でしょう? 人は成長、進化してゆくモノならば、そういうものならば――せめて私が終わらせてあげるしかないじゃないっ!!」 



 女神の悲しい怒号が宇宙を切り裂き、かつて人が出会った事の無い音と光が少年少女達の宇宙を激しく渦巻き暴れ狂う。



「やめて!! もうやめてよ少佐!! おかしいよこんなの!!」

 モンジュが頭を抱えながら轟音と激光に耐え、悲しみの叫びを上げた。



――やがて光と音が消え去ってゆき、少年少女達は閉じていたまぶたを苦しげに開いてゆく。そしてそこにはレンカと対峙する女神とは別の、それぞれが視覚で確認できるそれぞれの女神がいた。


……だが、学徒達はもう驚く事は無かった。

 

 ある者は力強く涙を拭い、またある者はゆっくりと刃を抜いた。



「それでも、行くのさ」

 冬条はゆっくりと大型リボルバーの撃鉄を起こす。



「どれだけ神に否定されても」

 夜鳩は腕に巻き付ける鞘から刃を抜いた。



「――世界は続く」

 月下は穏やかに、刀を下段に構えた。



「……そんなんじゃガキは止められねーよ」

 京子は拳をゴキバキと鳴らした。



「きれいなモノも、いっぱい、知ってるから」

 ミカが大きな光を纏い始めた。



「――愛ゆえ、理想を否定する」

 ランスは、動かない。



「それを、選ばせない」

 シールドがクマを強く抱きしめた。



「――お父さん、お母さん、兄貴。……どうか、あの人を止める力を、私に貸してください」

 モンジュはアームホルスターから二丁の拳銃を抜き出した。



「全ての魂に、どうか、この生命の音が伝わりますように」

 ライオンの周囲を、異形の小刀二本と大型拳銃二丁が浮遊し、ゆっくりと円を描く。



「――今こそ、生まれた意味を」

 宇羅がゆるりと、宇宙に揺れる。



「――生きているのです」

 静の長い髪が、宇宙に揺れる。



「メガミ・カミフォー」

 レンカはただ、口のはしを僅かに上げた。


 そして、理解不能の恐怖を振り撒く、激しい光のヴェールに包まれた十二の女神が同時に口を開く。








「私は女神。今は燃え盛る、かつて『地球』と呼ばれた星の人々が、崩壊の散り際に祈り描いた神の集約――『認識兵器』≪女神≫である!!」


 遂に、人類史上最大の敵が咆哮した。

 十二人の進化者と十二の女神が、無限に広がる素晴らしき宇宙で今、壮絶にぶつかり合う。


「我が『認識兵器』≪人間≫よ!! ただ認めよ!! お前達の否定が終わりを妨げている事を知れ!! 真の回帰を拒絶するならば、その魂を砕き折るのみ!!」


 美しく、壮大に重なり合う最終宣告。

 全ての宇宙が激しく揺れた。

  

 

 しかしそれは女神によるものではない。







 今こそ証明する、冷酷な王には抹消世代と呼ばれた者達の生命の熱波が、宇宙に遍く弱い意識達をも熱く震わせたのだ。


「面白い。やってみせろ。俺は、最弱の王。――女神を殺す、最弱の王だ!!」


「目標確認。敵は女神。――眠野夜鳩、これより戦闘を開始します」


「相手にとって不足無し。海前月下、推して参る!!」


「あ? 女神? ――上等だぜっ!! アタシは京子!! チットつえーぞバカヤロウ!!」


「実はこの中で最強の魔法少女ミカポンが、女神にきついの一発キメてやんよ!!」


「――フッ。我はランス。見守りし槍」


「私はシールド。あなたと、一緒」


「神鵬遊撃隊隊長、神鵬文殊!! これより女神をぶっ飛ばしてやります!!」


「私は『最前線のディーヴァ』――――今日もどこかで、血祭りに歌う」


「誰にモノを申しておる。――わらわこそ裏天。神をも笑う、天の闇」


「――どんな真実でもいい。わたくし達は、行きます」





「――――ようこそ、射程内へ」

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