二章三節  遊撃っ子モンジュ

【四月十日 雨 時々 ちょっと晴れ

 

 今日は待ちに待った我が遊撃部隊の入隊相談会。初のこころみとあって、緊張が高まった。

 

 準備は万端だ。先日からの駅前、仮設住居、ゲーセン、ネカフェ等でのビラ配りに加え、私のコケティッシュなアイドル性を前面に押し出し、学園の吹奏楽部、軽音楽部の友達に助けて貰って強引に完成させた、我が隊のテーマソング『YOUユーげきばっきゅん』を用いた街宣ダンスパフォーマンス。 

 

 ヤングのハートをやってやった。とやってやった。



――どういう事だよ。

 午後一で、息の荒い変なおっちゃんが子犬抱いて現れただけだったよ。

 なぜかおっちゃんの方がワンワン言いだしちゃったよ。

 

 その後、おっちゃんは若者の数が少なくなって悲しいとか、軍は何もしてくれないとか一方的に愚痴ぐちり出して……最後に「がんばれよ」と言いつつオシリ撫でてきやがったから、威嚇で銃を抜いたら号泣されたよ。

 泣き止まないので、仕方なく私の晩御飯のノリシャケをあげてみたら犬の分も要求してきたから、銃を抜いたら号泣されたよ。

 仕方ないので、お祝い用にとっといた桃缶もあげたら「犬に桃って……桃太郎じゃないんだからっ」とかチョット意味のわからない文句を言われた挙句あげく、なぜかビンタされましたが。


 西暦終了からの新世界、人の敵、変なおっちゃん、空腹と――。

 数々のせまり来るカオスの中で、私の世界は何処どこに向かうのだろう。

 

 ただひとつ言えるのは、後悔など、許されない。

 最強の(歌って踊れる)遊撃部隊を結成し、振り返る事なく、私は戦い続けるだけだ。


……でも桃缶は、出来れば返して欲しい。


 明日はもう少し市街地寄りの公園にテントを張ろう。コンビニとか近いと、よい。

 きっと明日こそ、明日こそ最高の戦友が現れるに違いない。

 

 そう、きっと……。多分……。およそ……。

 

 あいつの命日が、近い。


(ある女子学徒の日記より)



――――茨城南部 龍ヶ崎市 市民公園内



 穏やかな日差しの下、緑の芝生の上でドッジボールを楽しむ幼年幼女達を横目に、口笛を吹きながら黒のアーマーロングコートをなびかせ歩くスタイルの良い女子学徒の姿があった。

 

 彼女は金に近い長い茶髪を風に揺らし、水のみ場横に建てられた安さ爆発のベースキャンプを目指し歩く。

 そこに近づくごとに、その安っぽさが彼女の視界で際立きわだってゆく。

 

 その辺から拾って来たと思われる廃材で作られた馬小屋の様な粗末な作戦室。カーキ色の小さな住居用テント。軍からの放出品だという、装甲がび付いた廃車寸前のボロい軽装甲車で占拠されたその一画は、もはや公園の管理協会に対する嫌がらせとも思えた。

                          

「モンジュ~、邪魔すんよ~」

 ドアのかわりに取り付けられた赤いのれんをくぐり、馬小屋に足を踏み入れる茶金髪。


「――あ! 京子ちゃんイラッシャイませ!」

 

 さらさらとした茶色いショートカットと迷彩パーカーのフードが弾み、ぱちくりとした二重際立つ目を輝かせながら、小動物の様な愛らしさでモンジュは遠方からの来訪者に走り寄る。両手にチェーンソーを携えて。

「怖いよっ!! なにしてんだよソレ!!」愕然と後ずさる京子。

「あ、これね~さっき子供達に算数教えた時使ったヤツ」得意気で言うモンジュに――。

「算数でチェーンソー!! 斬新ざんしん過ぎるよっ!!」衝撃に声をあららげる。

「ランちーん!! キョーコちゃん来たよ~!!」モンジュは後ろを振り返り叫んだ。


「――イラッシャイませ、不良女子ふりょうじょし様」

 背後からの低い声にふと振り向く京子。

 上半身を隠すのれんの裂け目から見開いた眼を光らせ、その白い強化制服の男は静かにそびえ立っていた。

 

 腰元の両手に、チェーンソーを携えて。


「こえーよこの小屋っ!! 何このチェーンソーびと達!!」

「ああ、これか。作戦室の裏で、女児達のメイド喫茶ごっこに付き合わされた」

「喫茶でチェーンソー!! 次世代過ぎるよっ!!」

「フッ。……そう。冥土めいどへ送る喫茶。我がメイド。客は鳴動めいどう

「うるせぇよ」京子は室内にあったハリセンでうざい巨漢をスパーンとひっぱたく。

「きょ、京子たん! ハァハァ……あ、遊ぼ!!」

「キモいよ!」チェーンソーを携え興奮する少女をハリセンでひっぱたく。


 壮絶なチェーンソータイムを終え、ボロ作戦室内でランスが買ってきた冷たい缶飲料を片手に、少し足元のぐらつく手作りの木製机にそれぞれ腰を掛け、三人は談笑を始めた。


「で、今日はどうしたの? 遊びに来ただけ? 京子たん」

「……そう、虚構である事も、否定は出来ない」

「キョコウじゃねーよキョウコだよ! テメあんまめた事ばっか言ってっと色々ブチ込むぞこのタコ!」

「あ! 『ブチ込む』って言えばさ、シーちゃん子猫拾ってきたんだよ!」

「どんな連想だよ!! 猫に何したんだよ!!」

「大丈夫だよ! ちゃんと名前は『きょうこ』にしといたから!」

「大丈夫? 何が?! アタシそういった不思議なお願いとかしてねぇし!」

「では決まりだな……猫の名は『虚構きょこう』」

「ネコ不憫ふびんだよ!! 『きょうこ』でイイよ!! いや良かねぇけど!! なんで丸かぶりなん?! ヒネろーよ!!」

 キレまくる京子にスパンスパンとハリセンでひっぱたかれる巨漢を眺めながら、モンジュは好物のフルーツオレをグビリとやって、ウットリとしながら答えた。


「それはですね~、シーちゃんがすでに決めていてですね~、ランちんの話では、ダンボールにブチ込まれて捨てられていた子猫を見るやいなや、『名前はきょうこ』と、もうイキナリ名づけたそうです」

「『ブチ込む』そこかよっ!! ……ま、まあシー太郎がそう決めたんならよぉ~、別にイイんだけどよぉ……」

 

 少しモジモジとする不良女子。何か満更まんざらでもない事は動きのリズムで見て取れる。

「フッ……では、猫は『京子』、お前は『虚構』で落着か」

「なんでだよ」スパーンと決めたところで乱れた茶金髪をかき上げた。


「――んで、ドーなん? 少しは人集まったん?」

 京子はミルクティーをグビリとやって問いかけると、モンジュはしゅん、と軽くうつむき、両手で缶をコロコロとさせ、答えを渋る。


――静まる室内に、スパーンと音が弾けた。

「集まらない」 

「待て。今ナゼ俺はひっぱたかれた?」

「……まあガキの数が少ないってのもあるんだろうけどよ……ダメじゃんこのユニット。ほったて小屋ブチ建てた後、なんか解散。そう記録しとくから」

「ちょっ――『ほったて』とかちょう失礼だよ! 超立派な移動基地だよ! 超お風呂付きだよ! 超冷暖房……無いよ!」

「ダメじゃん。風呂ドラム缶だし」

 抗議するモンジュに、肩でトストスとハリセンを弾ませ平然と言葉を吐く京子。冷淡さは感じられず、むしろ何かの温情が顔に浮かんでいた。

 

 北は北海道、南は沖縄と――中には海外組といった者達まで――、状況に応じて飛び回る学徒遊撃隊。

 

 いくつかの大規模な学校が遊撃隊制度を導入しており、その目的は地域による戦力格差へのフレキシブルな対応から一般市民の防衛、苦情処理、臨時的な教育提供など、多岐にわたる。

 

 運用ルールに関してはそれぞれの学校により異なるが、神鵬学園の場合、基本的に志願制であり、各個人の能力を基に四~五名で一部隊を構成している。

 そういった編成上の理由で現在一人だけあぶれる状況であり、人員不足から危険な一人旅となる事も止むを得ない中で、「なんかロープレみたいでかっこいいじゃん! 仲間探しとか超面白そーじゃん! 燃えるよっ!」と、隊員の現地採用可というルールを面白がり、モンジュは自らその役目を引き受けたのだった。


――自分以外の何人かのあぶれ候補が、当然死亡リスクも高まる一人での任務を怖がっていた、という事もあった。


「……それでも私っ! 引き金、引けちゃうんだから!! YOU撃ばっきゅーん!!」

 モンジュは両手の指で銃を作り、下手くそなウインクに合わせてばきゅーんと京子にやる。


「フッ……どうやら一本取られたな? 斬間」

「え…………ドコで?! ま、まあ覚悟みたいなのはなんとなく解ったような、気もする……んで、本題だけど――」

「引けちゃうっ!!」

「うるせぇよ!! 明日の夜に出動頼みてぇんだよバカ!!」

「え――」ばきゅーんとする手が止まった。


 モンジュは缶飲料を僅かに口に含み、フゥと息を吐くと、変に神々しい表情で不良を見て、穏やかなトーンを発した。

「……そう、ついに私の中に眠る強大な力をほっする時が――」

「いや、お留守番るすばん頼みたくて」

「ばぶぅー!! おっおっ……ナメるなぁー!!」

 不良女子に飛び掛り、彼女が羽織るアーマーコートの下のスカートをナゼかずり下げようと必死の遊撃っ子ゆうげきっこ。赤面しながら当然抵抗する不良女子。


――ランスが目を見開き声を張った。

「お前の力はそんなものかモンジュ! 今こそ覚醒の時――」ズパーン!

「目覚めてっ!! 私の中のサンシャイン・パワ――」ズパーン!

 背後から頭部にハリセンの一撃を見舞われた巨漢とモンジュは悶絶する。


「京子ちゃん」

 暴徒を鎮圧ちんあつした人影が歩み寄ると、スカートを死守した京子の表情に花が舞った。

「お~シ~!! なんだどっか行ってたん?」

「お買い物。猫ごはん。おやつもある」

 くまインカムと買い物袋を抱き、微笑む黒い強化セーラーの少女、シールド。

「お、おう、そなんだ。おやつは……好きだぜ? あっ、猫拾ったってな? 後で一緒にナデナデしても、いーけど……?」

 京子はたどたどしく言いながら照れ隠しの様に長い茶金髪の毛先を指にクルクル巻く。

「名前は『きょうこ』」

「……イんじゃね? センスあんじゃね?」

「だがこの女さっきはひねりが無い――」

「巨漢はドラム缶に水でも入れて沈んどけよっ! シーすけが付けたんなら別にイんだよ!」


――京子とシールドは過去、多くの戦場で共に戦っていた事もあり、モンジュを通じて更にその絆を深め合ってきた。(まあ、巨漢も)

 掛け替えのない友情で結ばれている事も確かだが、たまにシールドに対して変態的な固執もうかがえる京子。 

 

 一人っ子で寂しがり屋の京子は小さい頃ころから妄想の中に妹がいた。

 その設定は黒髪乙女の優しい子、でもちょっと怖がり屋さん。でもみんなにないしょでお空が飛べる、不思議な子だよ。といった危険思想であり、シールドは運悪く色々合致がっちしていた。


「――シーは……実はチューリップの妖精さんだったんだよ……だからイんだよ……」

 キモい小声でハアハアとウットリ頬を染める不良女子に、ランスもすべが無かった。


「ちょっ――! 無視すんなこのしまぱん不良! シーちゃんからも言ってやってよ! 私たちはお留守番部隊じゃないって!」

 仁王立ちで不良を精一杯に指差し、モンジュは叫ぶ。


「お留守番は、好き」 

「けばぶぅー!!」 

「ぶははっ!!」

 

 モンジュの謎の絶叫と京子の爆笑を皮切りに話は徐々に脱線してゆき、昨日の晩飯のカレーにモチを入れてみた事、独自にチームを結成し、小型世界核を狩る少年少女達の事、学徒英雄がパンダ好きな事、コードL・Tリバティック・トリガー時に、軍の暴走を阻止した謎の巨大戦艦と機械幽霊郡きかいゆうれいぐんの事を、四人はポテトチップをほおばり冷たいドリンクで流し込みながら話しあい、笑いあい、想像しあう。

 

 そしてシールドの愛らしさに自我じがを失ったモンジュが彼女を抱きしめハアハアと興奮し始めると、京子がハリセンの連打でこれを鎮圧。 その背後で、女子学徒達のすきをついたランスがクマ型インカムと謎のおしゃべりを展開。京子がハリセンの連打でこれを鎮圧した。

 

 この聖戦を皮切りに話は更に脱線してゆき、今日の朝飯のシリアルにモチを入れてみた事、混乱を防ぐ為、世間に公表されなかった世界核部隊を一人で殲滅せんめつしたと言われる謎の少年兵、通称『極東王』きょくとうおうの事、学徒英雄がパンダ好きな事、学徒アイドルとして、人気ナンバーワンの女子遊撃隊長の事を、想像しあい、語りあい、ポテトチップを奪いあう。


「――あの子、キレイだよね……」

 しゅん、とうつむき、両手で缶をコロコロとするモンジュ。

「渋いよな『最前線さいぜんせんのディーヴァ』とか。動画の人気もスゲエよなぁ~。ウチのガッコーでも情報部のガチオタがフュギュアだか作って興奮してたし」ポテチをかじる京子。

「CDも出る。予約した」ポテチをかじるシールド。

「そして彼女は優秀なソルジャーだ。『ウィズダム・ネット』の扱い方が尋常ではない」

 巨漢はポテチ争奪戦に敗れ、見兼ねたシールドからあてがわれたクマを抱いている。


「あの子『UMアクロバット』凄いよね……『軌道演欺』きどうえんぎとか」

「近接戦術の革命だよな~。空間をつかんだり蹴り上がったり乗っかったり、軌道を演じ、あざむくってか。凄い時代になったじゃんか。アタシなんかまだまだだけどよ、シーも巨漢も似たような事するし。てか規格外だし」

「わ、私も少しだけ、空中とか歩けるよっ」

 モンジュはほんの少しムキになって言うと、京子の持つポテチの袋に手を突っ込む。


「そう、差はあれど、人は少しずつ歩き出す……最後の解放に――」

「重いんだよてめーは」

 悪い女の顔。京子は手の指先で巨漢の首筋をコチョコチョと責める。少しエロい。

「私モンモン応援する」ポテチを巨漢の口に運んであげながらシールドは微笑んだ。

「子供達に勇気と熱血だかを贈る戦隊を作るんだろ? お前はお前のやり方で、イーんだよ。お前のアホっぽい元気さにあきれてついてくる変人もどっかにイっからよ。別に学徒アイコンで十人中七位とか微妙でも、イーんだよ」ポテチを巨漢の口に押し込みながら京子は微笑んだ。

 

 インターネットで自然発生したといわれる学徒アイドルコンテスト。

 実行委員の国内調査を基に勝手な選抜をされた女子学徒十人を対象とし、人気投票が行われる。

 モンジュは自分がノミネートされた事は素直に喜んだが、微妙な人気と上位の女子への軽い劣等感に、内心ガックリきていた。


 頭にスパンと一発、不良女子に気合を入れられると、好物のフルーツオレをグビリとやるモンジュ。強襲仕様アサルトタイプのスクールスカートをひるがえし、ターン、と元気に床を踏む。

「そうだよね! アホっぽいとか変人とか微妙とか気になるワードあったけど、アイコン一位とかの魅力みりょくが有ったらなーとかヘコんだけど、元気が一番だよねっ!!」


「魅力が有るに越したことはない、などと言うべきではない様だな」

「みぎゃぁぁぁぁぁ!!」 

「言ったぜこのバカ!」

 モンジュの断末魔だんまつまの奇声が響き、口が滑った巨漢はズパーンと制裁をくわえられた。

 

 深刻な精神的ダメージを負ったモンジュには、応急処置として新たなポテトチップとクマがあてがわれ、京子はそれを見守り飲料をグビリとやる。

「で、明日は頼むよ。アタシも臨時で隊員になってやってんだからさ、助け合いって事でさ。こういう事の積み重ねでカバーしてけよアイドルさん」

 クマを抱きながらチップスをパリパリかじる遊撃隊長は、不満げにうつむく。

「うう……わかったよ……授業終わったら、出動するよ~モ~。……ランちんとシーちゃんも明日は一緒に行ける?」

 心細げに視線を投げ掛けられると、二人は静かな微笑みで返す。


「フッ……。少女が力を求め、涙落とす時、ただ振り返ればいい。そこに立つは、一騎の騎兵と――」

「あなたの盾。そして子猫。あとクマ」


「……ん……どういった団体だよ!! とりあえず猫は置いて――」

 言いかけた京子をさえぎり、オーバーな手振りと表情で感激を表現し声を張るモンジュ。

「私っ!! 今すごく感動してるの!! 今のは正式な入隊届けと判断させていただきますが……ドウですかっ!!」

「我は臨時」 

「子猫は入隊」 

「にゃぶうぅぅぅぅっ!!」あっさりとした二人にモンジュは腰が砕けた。


 言いつつも、モンジュとは古い付き合いのランスとシールド。本拠地防衛任務の合間にはチョコチョコとほったてモンジュ基地に出向き、元気で危なっかしい勇者をさりげなく気に掛けていた。

 それは冬条もレンカも望むところであり、最低限の規律は存在するが、学園の仲間達も時間が許せば結構自由にモンジュのもとを訪れ、楽しく、さりげなく彼女を支えたりしていた。

 

「だははっ!! 正式隊員第一号は、こ、子猫っ!!」

 などとモンジュをからかう京子も、過去にとある戦場で彼女と出会い、その熱い魂を確認しあった時から、持ち前の義侠心ぎきょうしん風来坊ふうらいぼう気質でチョコチョコとほったてモンジュ基地に出向き、年下でちっこい勇者の世話を焼いている。

 京子は自分の所属学校から臨時隊員とかそういった部分での規則違反を度々たびたび指摘されていたが、「あ? 規則違反? 上等」の一言で全て黙らせていた。


「隊長、いや人として子猫の入隊とか許可しないよ! も~、そもそもなんでお留守番が必要なのさ!」

 腹を抱えて笑う不良女子をハリセンでバシバシやりながら、モンジュは問いただした。


「――あ~、明日の夜、ウチんとこの大将の屋敷でデカいパーティーがあって、身辺警護に学徒部隊をかなくちゃならんのよ。その分通常の哨戒しょうかい任務とかの頭数足りなくなるから、そこで正義のアイドルくずれの出番って事で」


「…………ふむむ。兵器貯蔵庫等、重要施設を死守せよ……そういう事ですね?」

 遊撃女子の目が静かにわり、キラリと冷たく光る。


「いや――重要なのはウチらで対処するから、アンタらは町の農作地区の見回りだな。最近、夜に芋とかコーンとか食い荒らす野良タヌキが出没して、住民から苦情きてんのよ。だから見つけたら、おっぱらって。出来たら捕獲して。山に返すから」

 不良女子の目も据わり、キラリと冷たく光る。


「……なるほど、では我が隊のホープ、子猫のきょうこ隊員を派遣します。敵アニマルとまずは意思の疎通そつうを試み、駄目だったらネコパンチを許可します」

 遊撃女子の目は深く据わり、冷気が増す。どこかの支配者を意識してみた様だ。


「バカ、タヌキつえーんだぜ? もうオマエが出るしかねーだろ?」

 不良女子の目も深く据わり、冷気が増す。付き合ってみただけの様だ。


「ん~……うっせ!! カカシでも仕込んどけばいいよ!! ね~シーちゃん、やってられないよね~」んね~、と、モンジュはかわいらしく同意を求める。――が。

 

 黒髪女子と巨漢の目は深く据わり、キラリと冷気を放つ。付き合ってみただけの様だ。

「たぬき、触りたい」

「フッ、狸がコーンだと……? 待受けに使える光景…………出動だ」

「イヤだぁぁぁぁぁ!!」

 頭を抱え仰け反るモンジュの叫びが、ボロ小屋に空しく反響した。


――外の芝生の上を、子供達と子猫が日の光を浴びながら、無邪気に走り回っている。





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