第5話俗に言うラッキースケベってやつですね、分かります
俺は放課後になって早麻理と共に昇降口に向かっていた。昇降口には放課後になってすぐということもあり、多くの学生がいた。ところどころに顔見知りの生徒がいるため、声をかけられることがあった。その多くは早麻理に対するものではあったが。
「お前本当に知り合いが多いな」
「知り合いといっても同じ部活の人とか同学年だけだよ?」
「それでも十分だと思うぞ。俺に至っては知り合いなんかほとんどいないし」
「それは和弥が今まで周りと関わろうとしてなかったからじゃないの?」
そこを突いてきますか。確かに俺は周りとの関わりをシャットアウトしていたから知り合いが少なくてもおかしくはない。だけどそれをダイレクトに言ってくるか?俺のハートが痛い。……こんなに横文字を使ったのは初めてだな。
グダグダと話しながら上履きから靴に履き替えて昇降口前の柱で待つことにした。
「そういえばあの場じゃ言わなかったけど、今日は部活行かなくても良かったのか?」
「大丈夫だよ。うちの部活って基本的には自由だからね。行きたい時には来てもいいし、行かない時は来なくてもいいんだよ」
「ゆるふわな部活だな」
「そうだね。でも、結構楽しいんだよ。私と一緒に入れば良かったのに」
「その時から俺は一人でいることを決めてたからな。でも、誘ってくれたこと自体は嬉しかったぜ」
「そ、そうだったんだ」
早麻理は顔を少し俯かせた。何か俺は悪いことでもしたのだろうか。それからというものの、俺と彼女の間には会話は一つもなかった。
き、気まずいぞ?今まで早麻理といることは多かったが、ここまで気まずい空気になったのは初めてだぞ?かと言って話しかけられるような雰囲気でもないし、一体どうすればいいのだろう。早麻理に至っては顔が少しだけ赤い気がするし。熱でもあるのかと思ったが、今日一日見てそんな素振りは一回も見ていないし。
しばらくお互いに黙っていると、そこにタイミングよく鶴見と葉山がやってくる。た、助かった……。
「ごめんね。待ったかしら?」
「ううん。待ってないよ。私達も今さっき来たところだから」
「そう。それなら良かったわ」
おお、悪びれもなくさらりと嘘を吐いたぞ。我が幼馴染みながら恐ろしいな。女子ってこうもポーカーフェイスで嘘を吐けるものなのだろうか。
「後は本人を待つだけだな。そういえば皆は運動とかはどうなんだ?」
「私は言うまでもないと思うけど、運動はできる方だよ」
「早麻理はもったいないよな。何か運動部に入れば良かったのに」
「だって疲れるんだもん」
ブーたら理由を垂らす早麻理。今まで気にはしていたが、鶴見達が来てから調子が戻ったようだ。
「鶴見はどうなんだ?」
「私も運動は大丈夫な方よ。だけど真望ちゃんはちょっと怪しいところがあるんだけどね」
「わ、私は……その、スタミナがないから……」
「大丈夫だ。走るようなことはないから安心しとけ」
「う、うん。私頑張る」
ぐっと可愛く拳を握る葉山。少しだけ目尻に涙を溜めながら上目遣いで俺を見ているため、ものすごく可愛い。俺は葉山のためなら何をしてもいい。死んでも構わないと思っている。後ろで真望ちゃんに甘い、って聞こえるが、俺はそんなことは気にしない。だって、葉山真望は俺にとっての天使なのだから!
「まあそんなことはどうでもいいわ。そろそろ来てもおかしくないと思うし」
「あ、あの、鶴見さんと大磯さん?俺の足の甲をかかとで踏みつけるの止めませんか?さっきから痛いんですが」
「あら、それはどの口が言ってるのでしょうね?」
「誰が悪いかもう少し考えてほしいかな?かな?」
二人共怖っ!二人共笑顔なのにどうしてこんなに怖さが全面的に押し出されているのだろう。早麻理なんてどこぞのホラゲーのメインヒロインのような言い方になってるし。別に俺は差別をしているわけじゃないのに……。ほ、本当なんだからね!
そこへタイミングがいいか、悪いか。綾瀬がやってきた。とても不思議そうな顔をしながら。
「わ、私は邪魔だったかな?」
「いいえ。私達は京夏ちゃんのために集まったのよ」
「そうそう。和弥がどうしても手伝ってほしいって言うから手伝いに来たんだよ」
怖い怖い!だからどうしてさも当然のごとく嘘を言ってくるわけ!?本当に女子って怖いな。葉山も口では言ってないものの、縦に首を振っている。俺には味方が一人もいないんですね、そうですか。
「さて、ここで立ち話していると時間がなくなっちゃうから着替えて依頼をこなしちゃいましょう」
鶴見の一言に皆頷いて今は使われていない旧校舎の更衣室に向かっていた。
「あれ、ちょっと待て。綾瀬はともかく三人とも体育着を持ってるのか?」
「今日は体育があったからね。真望ちゃんも持ってるはずよ」
「う、うん。持ってる」
「早麻理は持ってるのか?今日は体育なかったよな?」
「持ってるよ。ほら、この通り」
俺に向けて体育袋を見せてくる。なんでそんなに用意周到なの?この話聞いてからいつか呼ばれるとでも思って用意していたのだろうか。いずれにしても早麻理はとことん恐ろしい幼馴染みである。
俺達は着替えるために一時着替えるために別れることにした。とは言ったものの、旧校舎は男女までは別れているが、仕切りの壁が木製のロッカー以外はないので、声が筒抜けになってしまう。その作りが俺を苦しませる結果になるなんてその時は思いもしていなかった。
「ここは男子更衣室……ここは男子更衣室……ここは男子更衣室……」
俺は同じ言葉を何度も何度も繰り返しブツブツと呟いていく。まるでお坊さんがお経を唱えるようである。さっきも言ったが、ここは女子の会話が筒抜けになってしまう。だから、今聞こえている会話も嫌でも耳に入ってしまうわけで。
『今日は皆何でここにいるの?』
『何でってさっき友莉ちゃんが言ったと思うんだけど』
『だって、三浦君って誰かに相談するような感じがしなかったから』
『そ、そうかな?私はよく相談とかされるけど……。それって私が和弥に一番近いからかな?』
『どうかしらね。私から見たら周りに相談相手がいないから仕方なくって部分もありそうだけど』
『そ、そうなの?やっぱりそうなのかな?どう思う、真望ちゃん』
『ど、どう思うって言われても。私に言われても困るだけなんだけど……』
女子更衣室では俺のことで話が盛り上がっていた。鶴見は俺のことをそんな風に思ってたんだな。ちょっとだけショックだった。そして早麻理。俺の天使・葉山真望に俺のことを振らないでくれ。俺と葉山は顔見知りではあるが、お互いに分からないことも多いから言い返せなくて困ってるじゃないか。
しばらく俺の会話が続いた後に、今度は女子が話していそうな会話が繰り広げら
れた。
『そういえば前々から聞きたかったんだけど、友莉ちゃんって結構大きいよね?』
『あ、それは私も感じてた。生徒会長として初めて見たときにこの人胸が大きいなって考えてたんだよ』
『……大きい胸は、男を惹きつける最大の武器』
『真望ちゃんが言わなそうなことを大胆に言ったんだけど』
『この子はたまにそういうことを言ってくるのよ。ムッツリスケベさんなのよ』
『私はムッツリじゃない。……す、スケベでも、ない』
『胸が小さいことにちょっとしたコンプレックスがあるからかしら』
『それ、胸の大きい子が言うと喧嘩を売ってるようにしか聞こえないってことを知ってる?』
『どうかしらね。それと胸って脂肪でできてるから意外と重くて大変なのよ。お風呂に入っていると、ブラで持ち上がってた胸が重力で垂れるから肩が凝ってることが分かっちゃうのよ』
『どれだけ大きいのかな……ていっ』
『ひゃわぁ!さ、早麻理ちゃん。い、いきなり胸を触らないでよ!?』
『いいじゃない、減るもんじゃないし。それにしても大きいよね……。指が沈んでいくよ』
『や、止めなさい……よっ!』
『ああ、もう少し触りたかったのに……』
ちょっと!?ここの壁がないこと知ってますよね!?何平然と胸の話をしてるんですか!?早麻理に至っては鶴見の胸を触ってるし!……会話を訊いただけだから確証はないが。そういう話は俺がここを出たときにしてほしい。おかげで着替えていた手が止まってしまったではないか。
この話もしばらく続いた。俺はそれをできるだけ聞き流して早めに着替え終えて外に出る準備ができる。俺は軽く荷物を整えてから扉に向かい、ドアノブに手をかけた。
その時だった――――――。
『ひゃあああぁぁぁぁ!』
『な、何?どうした……む、虫ぃぃぃぃぃぃ!』
『…………ぁ………ぁぁ…………』
『し、しかもゴキブリっ!?』
隣から黄色い声が上がった。てか、葉山に至っては声すら出せていない。早麻理が虫がダメなのは知っていたが、他の三人もどうやらダメみたいだった。
俺は急いで更衣室を出て、隣の女子更衣室の扉を開いた。
「どうした!大丈……夫…………か…………」
俺は扉を開けてから気がついた。ここは更衣室である。しかも女子専用の。いくら隣がパニックになっていたからって扉はノックした方がよかった。今更ながら総思えた。
「え……?和……弥……?」
「和弥……君……?」
「え……?な……!?」
「…………ひぅ…………」
四人が俺の姿を見て固まってしまう。同時に俺も彼女達同様に固まってしまう。
目の前の光景は着替え中の少女達の姿である。
早麻理は上半身はピンク色のブラを着けており、下はブルマを履いていたが、僅かにズレていたためパンツが多少見えてしまっている。
鶴見はこれまた上下下着のままであり、パンツは黒いレースの紐パンツである。
葉山は高校生だというのにまだ胸は未発達なのだろうか、ちゃんとしたブラではなく、インナーのような服を身につけていた。
綾瀬も例によって上下共に下着であり、可愛らしい白色を下着を着ていた。
って、何冷静に下着の説明とかしてんの、俺!?そんなものを見るためにここに来たわけじゃないだろう!ゴキブリが出たって……。
と、俺が考えていると、ゴキブリは既に俺が入ってきた扉の前におり、そのまま更衣室の外へと出てしまった。
あ、あれ?ゴキブリが外に出ていったってことは?これ、もしかしなくても詰んでない?
俺が再び顔を上げた時、俺の前には早麻理が腕を組んで立っていた。顔は笑っていたものの、目は全く笑っていない。こめかみもピクピクと動いている。
「ねえ。和弥」
「は、はぃ……」
「どうしてここにいるのかな?おかしいよね?」
「い、いや、訊いてくれ!俺は着替え終わったから先に外で待ってようとしてたんだよ!それは本当の話だ!」
「うんうん。それで?」
怖っ!うんうんって頷いてたけど、明らかに棒読みだったよね!?これもう恐怖でしかないよ!?
「そ、それで、隣で大声上げながら、ゴキブリが出たって言ってたから助けに行かないとって思って……その……なんだ……ぁぁ……」
ゴキブリがいなくなったことによって俺に明確な理由が見当たらない。完璧に詰んでいる何よりの証拠だった。
早麻理は俺の肩に手を置きながら、ニッコリと笑った笑顔で俺の顔を見た。もちろん、依然として目は笑っていない。
「確かにゴキブリがいたのは事実だから言い訳はしないよ。だけどさ、いきなりノックもなしに入ってきて私達を凝視した挙句、ゴキブリがいなくなっても私達の下着姿を見てたんだよね?」
「あ……えっと……その……ご、ゴメンナサイ……」
俺が素直に謝ると、早麻理は俺の頬に向けて平手打ちを打ってきた。乾いた音と同時に俺は軽く後ろに吹き飛ばされる。そして、壊れるんじゃないかと思うくらいに思い切り扉を閉めた。
俺は頬の痛みを噛み締めながら、吹き飛ばされた体勢のまま閉められた扉を見ていた。
一言だけ言おう。頬がめちゃくちゃ痛い。これは男女関係なく平手打ちは痛い。とても勉強になりました。はい。
~*~
俺達は体操着に着替えて新校舎の校庭に集まった。
俺が通っている桜咲高校では、今では物凄く珍しい絶滅危惧アイテム・ブルマを女子は着用することになっている。一時は当然のごとく反対意見が多かったが、今はそんなことがあったこと自体分からないくらいにまでに生徒の間で浸透していた。もちろん、男子はそんな女子の姿をエロい目で見ているような、ないような。俺は興味がないので、そんな姿を見たところでどうってこともない。うん、マジで。ムラムラなんてしてこない。
ちなみに今日はソフトボールではなく、サッカーボールである。地面を転がすだけであるサッカーであれば、昨日のソフトボールのように頭を打って怪我をすることはないと言う鶴見の意見である。
しかし、俺は関係ないと考えている。サッカーでもボールの上にさえ登ってしまえば、怪我をすることだって十分あるのだ。まあ少なからずそんなことはないだろうと思ってはいるが。
「それでこれを使ってサッカーでもするのか?」
「サッカーはするけど、試合をするんじゃないよ。ただ単にボールをパスするだけよ」
「それで円になったわけか」
俺は周りをぐるりと見渡す。左から順に早麻理、葉山、鶴見、綾瀬、そして俺の順で円になっている。ちなみにボールは俺が持っている。
「ルールは簡単。始まってから30分間パスをし続けるだけよ。ただし、時間は止めたりしないから、もしボールが思わぬ方向に行ったら取りに行くこと。時間になった時、最後にボールを持っていた人が負けよ」
「結構単純なルールだな」
「ちなみに負けたら何か罰ゲーム的なものはあるの?」
早麻理が俺も気になっていたことを訊いてくれる。この質問は彼女たちも同じ疑問を持っていたそうで、皆の視線が鶴見に集まった。
「そうね。それじゃあ単純に人数分の飲み物を奢るってことでいいかしら?」
「そうだね。その方がリスクも少ないし」
「私もそれでいいよ」
「俺もそれで構わないぞ」
俺と早麻理と綾瀬が返事をし、葉山は首を上下に軽く振った。
「それじゃあ今から30分間時間を計るわよ。くれぐれも順番だけは守ってよ
ね?」
「何で俺を見るんだよ……」
「いや、何となく」
ニヤニヤとしながら俺のことを見ている鶴見。何で俺のことを見たのか、俺には分からない。
「それじゃあ、スタート!」
鶴見の合図でパスゲームが始まる。俺は持っていたボールを地面に置き、早麻理にパスをする。
早麻理はボールの勢いを殺してから優しく葉山にパスをする。
葉山はそれを受け取り、鶴見にパスをした――――――――のだが、
「あうぅ!」
見事に空振りをしてバランスを崩してしまい、お尻から地面に着地をした。ドジっ子である。流石、俺のマイエンジェル。期待を裏切ってくれない。
「だ、大丈夫!?怪我とかない?」
「う、うん。だいじょぶだよ」
すくっと立ち上がってお尻をパンパンと叩いて土を落としていく。見ている限りは大丈夫そうだ。
気を取り直して葉山は、今度こそボールを蹴って鶴見にパスをした。
鶴見はそのボールを受け取って葉山にウインクをする。葉山は嬉しそうに手を合わせて笑ってみせた。超可愛い。流石俺の嫁である。
そんなことを思っていると、ボールはいつの間にか綾瀬のもとへパスされていた。俺は慌ててボールを受け取る体勢に入る。綾瀬は胸に手を当てて深呼吸を一回する。
「い、いくよ」
「い、いいよ」
何故かお互いに緊張をしてしまっている。お、おかしいな。心臓の鼓動も早く感じるぞ。嫌な予感しかしない。
綾瀬は意を決してボールを俺に向けて蹴った。ボールは足の甲に当たったのだろうか。少しだけ宙に浮いて俺のもとへ飛んできた。このまま落ちてくれれば。そう願うばかりである。だが、現実はそう甘くない。
ボールは着地と同時に急な方向転換をし、俺がいるところとは全く反対の場所へ転がっていった。おいおい!何で方向転換なんてしたんだよ!あれか、ベクトルを変えたのか!?いや、ベクトルの詳しいことは知らんが。
俺は急いでボールを拾いに行こうとした。が、俺はあることに気がついて急にゆっくりと歩くことにした。
「な、何歩いてんの!?時間が無くなっちゃうじゃん!」
「なるほど。敢えて京夏ちゃんのコントロールを使って時間稼ぎをするわけね」
「なあ!?それってずるくない!?」
「ずるくないよ。ルールは取りに行くってことしか言ってないから。急ぐ必要性はないってこと」
「……バ和弥」
早麻理からの非難の抗議がすごいが、俺は敢えて気にしないようにする。
俺がボールにたどり着いた時には1分は掛かっていた。自分のことながらひどいことしてんな、俺。
その後は順調にゲームは進んでいった。最初はゲームすらままならなかった葉山と綾瀬だったが、ゲームが進むごとに徐々に上手くなっていった。綾瀬はゲームとして楽しんでいることで、彼女の知らないところで上達をしていると感じることができた。
そして時間も残り5分を切った頃。俺以外の女子メンバーが少しずつ慌て始めていることが分かった。前半からミスが多かった葉山と綾瀬はともかく、今までミスがなかった早麻理にミスが目立ってきた。それは鶴見も例外ではない。
「だんだんミスが目立ち始めてきたな」
「和弥は何で慌ててないか逆に訊きたいんだけど」
「和弥君は性根が腐りきってるからね」
「このゲームに性根関係ない気がすんぞ」
なんでこいつら何かと理由をつける時に俺を罵倒しなければならないのだろうか。そんなに俺をいじるのが面白いか。少しは俺の心が繊細だということを知ってほしいものだ。
と、そんな話をしている間に1周、2周として残り1分を切った。後は時間の問題である。誰で時間が来てしまうか。ちなみにボールを持っているのは俺である。誰もミスしなければ、ほぼ俺が罰ゲームをすることは確定である。しかし、メンバーがメンバーである。何が起きるか最後まで分からない。
俺は落ち着いて早麻理にパスをする。早麻理もボールを止めて葉山へパスをする。
ここまでは大丈夫だ。問題はここからである。
葉山は早麻理から送られたボールを受け取り、勢いを殺してからよく狙いを定めて、鶴見にパスをする。
時間的には葉山にボールが回ってくることはないため、葉山は必然的に罰ゲームを免れることになった。
残るは俺、早麻理、鶴見、そして綾瀬の四人。残りは30秒を切っている。鶴見も綾瀬にパスをしてしまえば、必然的に罰ゲームは免れる。
鶴見は綾瀬にパスをしてボールは綾瀬のもとへ来た。
残りは15秒を切っている。早麻理にパスできるかどうか微妙な時間だった。俺は横目で早麻理を見る。早麻理は俺のことを見ながら、目で訴えていた。『空気読めよ』、と。
そんなことだろうと思ってはいた。だから必然的に早麻理はゲームから除外されることになる。
残りは10秒を切る。空気を読むも何もないだろう。
「来い、綾瀬!」
「で、でも、このままパスすれば三浦君が……」
「気にすんなよ。俺からしたら、お前に奢られる方が自分として許せないからな」
あと、周りにいる女子達に何言われるか分かったもんじゃない。
綾瀬は俺の言葉に頷き、ボールを俺に向けて蹴る。ボールは真っ直ぐ俺のもとへ転がってくる。ほんの数分前まではボールを真っ直ぐも蹴れなかった綾瀬が、ボールを真っ直ぐ蹴れるようになっていた。
後はこれが応用できればいいだけの話だな。
俺がボールを受け取り、時間となった。
罰ゲームは俺が受けることになった。
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