第10話 よくある光景
転校生がやってくるらしい。
一気に三人も。
男の転校生だったらいいなとシオン・パタルは切に願った。
麗しき魔法使いの少女だけが入学を許されるメディーナ魔法学園。
本来は女しか使えない魔法を男の身で使えることが発覚した途端、シオンは無理矢理この学校に入学させられた。
クラスメイトたちは、女の特権である魔法を男が使えるのが面白くないらしい。
シオンはクラスメイトにやたらと因縁をつけられていた。
もしも男の転校生がやってきたのであれば、シオンだけに向けられていたクラスメイトの注目も少しはまぎれるだろう。
「この子たちが、新しく仲間になる魔法使いよ」
教壇に立っていたエリー先生が、横に並んでいる三人の転校生を紹介した。
一度に三人も転校生が来ることはこの学校にとっては不自然によくあることで、誰も疑問に思う者はいなかった。
「三人もいればと思ったが、そううまくはいかないよな」
シオンは頭を振った。
並んでいたのは全員女だった。
エリー先生が一人ずつ紹介をしている。
メルクール・イクリプスは笑顔の耐えない明るい女の子だった。どことなく仕草に気品を感じたが、シオンは特に興味を示さなかった。
美人揃いのこの学校にはよくいるようなルックスだった。
波遊すずなも同じく、この学校に相応しい美人だった。色白の肌と大きな澄んだ目が特徴的だった。
清純そうな顔立ちに反して、過激な金髪がやけに似合っている。
ルックスだけならこの学校で一番かもしれない。転校してきたばかりなのに一切緊張していないところも気にはなったが、シオンは彼女の自己紹介が終わる前に、余所見をしてしまった。
三人目の自己紹介が始まった途端、シオンは彼女から目が離せなくなった。
髪の短い、少年のような少女だった。色っぽい女ばかりがひしめくメディーナ魔法学園に現れた清涼剤だった。
例えるなら赤やピンクばかりの中に現れた青、脂っこい肉料理ばかりの中に現れたフルーツ。
山田希星はそんな女の子だった。
「希星さんはシオン君の後ろの席ね」
エリー先生の言葉に従って、希星が窓際最後方の席に歩いてくる。
キュッキュッと音がする足下に目をやると、ルーズソックスとかっこいいスニーカーが見えた。ショートの髪もかっこよくて爽やかだ。それでいて、ミニスカートや胸で揺れている赤いスカーフは女の子っぽくて可愛い。
シオンの目の前にやってきた希星は、少し悩ましげに首を傾げながら微笑んだ。
「よ、よろしくね」
ちょっとだけ凛々しさのある大きな瞳がシオンを捉える。
「おう、困ったことがあったら、何でも言ってくれよな」
シオンがそう言うと、隣の席のクリスが突っかかってきた。
「ちょっと、色目を使うのやめなさいよ」
クリスは金髪ツインテールとつり目が印象的な女の子だ。
もちろん美人。
最近やたらと絡んできては怒り出すので、シオンは困っていた。
「慣れない転校生の力になってやろうと思っただけだろ?」
「違うわよ。私は山田希星に言ったの」
クリスは、シオンの後ろに座った希星を指差して言った。
「ぼ、僕?」
「シオンと付き合いたいと思ってるんだったらやめときない」
「いきなり何なんだよ。まあ、付き合いたいというか、付き合わなきゃいけないって感じなんだけど……」
希星は小声でぼそぼそと呟く。
「とにかくシオンはだめ」
「君はシオン君の彼女なの?」
「ち、違うわよ。こ、こんなやつのこと、好きになるわけないじゃない。ここは恋愛禁制の清き学舎なんだから、男には近づかないようにしようってクラスのみんなで決めたの」
「困ったなあ」
希星は恥ずかしそうにちらちらとシオンを見ながらぼやいた。
「山田希星! とにかく抜け駆けは禁止なんだからねっ」
シオンにとってはもう何度も見てきたうんざりするような女同士の言い合いだった。
何も転校してきたばかりの子まで巻き込むことないじゃないかとシオンは思う。
「お前ら仲良くしろよ」
シオンがそう口にした途端、クラス中の女子たちが揃いも揃って血相を変えながら叫んだ。
「あんたのせいよ!」
ほとんどの女子が睨んでくる中、一人苦笑いをしていた希星が、シオンにとって心のオアシスだった。
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