寡黙女子と一緒に

「あの、菫さん・・・」


「麻衣」


「ま、麻衣さん、本当にどこへ行くんですか?」


「・・・」


名前で呼んでほしいという一言以外黙ったままの菫。


その長身からは威圧にも似た何かが出ていると思ってしまうほどだ。


モデルのような縦に対し、ほどよく付いた肉が好ましい。


少しうらやましいと思ってしまう悠の目の前に、壁が出現した。


「ぶ、むぁいふぁん(麻衣さん)?」


「ついた」


その声に体をずらすと、そこにあったのは、とても大きな建物だった。


ポカーンと口を開けてその屋敷を見上げる姿に菫は慣れているのか、特に興味なさげに門をくぐっていく。


「入って」


手招きする菫におろおろするしかない一般市民の悠だった。


———————————————————


お招きされてしまった場所は、菫家。


祖父の祖父(高祖こうそ)が事業を成功させ、そこから代々続いている会社の社長令嬢、それが菫麻衣だと言うのだ。


菫という名前での企業は知らないけれど、と悠が思っていると、別の名前が上がってきた。


それならば誰もが知っているが、この物語には直接関係ないので割愛させていただく。


そんな菫家は先ほどから言っているように豪邸で、メイドが淹れてくれた紅茶をおいしくいただきながらいるこの場所は、菫ご本人の部屋。


明るく、女性的ではあるがピンクとかのかわいらしい系ではなく、かっこいい系のものが主体となっているように思う。


しかしベッドの横に置いてあるのは立たせると小学生並みの大きさにはなるだろうという大きさを見せつけるようなクマのぬいぐるみだったりと、そういうギャップも彼女らしいと言えるだろう。


さて、連れてこられたのはいいが、どうすればいいのかわからない悠は、おずおずと話しかける。


「あの、どうしてここに?」


無言のまま紅茶をこちらも飲んでいた菫は、首をかしげる。

まるで、ダメなの?と言わんばかりのそれは、確かに話さなくても通じるものがあった。


「いえ、他の場所でもよかったんじゃないかと思ったんですけど…」


「ほかの場所・・・わからないの。行ったことないから」


その声に驚く。


「えっ、どこも?今まで?」


頷く菫。

お嬢様というのはそういうものだと何かで聞いた気がするけれど、実際に会うとそれはちょっと悲しいものがある。


カラオケ、図書館、映画館。もちろんゲームコーナーも行ったことはないんだろう。


それなら、連れて行ってあげようと悠は思った。


「ゲームコーナーとかは見つかりそうな気がするから、カラオケか、映画館。どっちがいいかな?」


「・・・任せる」


ということで、2人で映画を見に行った。


カラオケはまた次にした。見た映画は今流行中の、魔法使いの少年が奮闘するお話。


魔法を使っての大迫力バトルや、動物との触れ合いの場面もあって、なかなか楽しめた。


かわいい動物と少年の掛け合いは和やかで、見ているこっちも和やかな雰囲気になった。


隣で見ていた菫も喜怒哀楽を表していたから、楽しんだようである。


それを裏付ける話を菫家に戻るまでに聞いたりしたらしい2人は、いつの間にか親友と呼べる間柄になっていた。

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