俺様お子様寡黙様!?
トライアングルな日々が続き、悠は精神疲労がたまっていくのを感じていた。
「まだ篠崎さんを相手にするだけならいいんだけど、るりが来るようになってからは2人とも毎日毎日喧嘩ばかり。いっそのこと逃げちゃおうかなぁ・・・」
ため息をついて、彼女の憂いとは真逆の雲一つない晴天を仰ぐ。
この前とは違う公園のベンチで、ぼーっとする時間が、とても安らげるようになってしまったのだった。
けれど、その幸せは長くは続かないのがお約束というかなんというか。
「ゆーーうさーーーーーん!」
姿を認めたと思ったら、全速力で向かってくる少年。
彼だけなら、まだ大丈夫。無邪気に慕ってくるだけの無害なウサギ。
精神は疲労するけれど、それはもう一人と一緒でも変わらない。
そう思って笑顔を向けようとしたとき、その表情は引きつったものへと変わった。
走ってくる人物の、その後ろ。
さらに速いスピードで追いかけてくる姿に、考える間もなくおいかけっこが始まってしまったのだった。
「なんで逃げるの悠さーん!」
「こ、来ないでーー!!」
神経をすり減らしつつ、あまり速くはないものの、一生懸命走る悠。
その顔が、地面を向いているのも仕方がないことだろう。
しかし、それが仇となって前方不注意でぶつかってしまった。
「あうっ、す、すみません、大丈夫でしたか?!」
当たったものが柔らかかったため、すぐに謝罪する悠に対して何か言いたそうに視線を下げる人物。
その人が口を開く前に、さっきから聞こえている声が響いた。
「待ってよ悠さん!何があったの?!」
少し息が上がってきているのか、辛そうなものに変わっているが、もう追手が近くに来ていることに気が付いた悠にはそれを心配する余裕はない。
それに気づいた被害者は無言で悠を自分の後ろに隠してかばう。
「あっ、麻衣!なんでその子を隠すのさ!」
麻衣と呼ばれた人物はじっとるりを見る。
長身から見下ろされたるりは、瞳を合わせた次の瞬間に逸らしてしまう。
「おい、ついた・・・。俺にこんなに走らせるとはな。というかなんだ、知り合いか?ウサギ野郎」
数回息を整えて、今の状況を整理しようとする俺様男。
途中から気づかない振りをしていたるりは、とても説明をするのが嫌そうな顔を隠すことなく後から来た篠崎に向けつつ、それでも律義に答える。
「研究所に一緒にいた、クマに変化することのできる人間だよ。 名前は
「へぇ、同じってわけだ。俺は篠崎。ねこの篠崎だ」
一連の流れを目視し、それでも声を発する事無く頭を下げる程度しかしない菫。
しっかりと後ろに隠した悠を守りながら、咎めるような視線を送った。
「僕の彼女(予定)なんだから、隠す必要ないでしょ?」
るりのわがままにも、首を横に振って拒否を示す。
「何言ってんだ。こいつは俺のだって言っているだろうが」
そこへ入っていく篠崎に、処置なしとばかりに首をさらに強く横に振った菫。
そのままわいわいと言い合っている2人をよそに悠をこっそり連れて行こうとしたが、その計画は男性陣に止められることになった。
「「まて(まって)」」
「どこへ連れて行こうというんだ菫」
「麻衣、その人をどこに連れて行くの?」
じっと見られても、無表情を崩さない菫。
「あの、菫さん・・・」
「どこでもいいでしょう。あなたたちがうるさいから、避難させるだけ」
悠がかばってもらっている状況に耐え切れなくなって声を出すと、それに被るようにかわいらしい声が発せられた。
初めて喋ったことに驚きを隠せない全員、特に男性陣を無視して、え、あの、とか言っている悠を連れて、その場を去っていくのだった。
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