第4話

 ふと目を開けると見慣れない豪華なフリルの付いた天蓋が目に映った。

 自分が今どこにいるのかわからなくなる。

 慌てて飛び起きて気がついた。自分は今、不思議な国に迷い込んだお姫様なんだと。

 部屋はカーテンをしていても十分に明るく、外はもう朝だ。カーテンを勢いよく開けると眩いほどの光が迎えてくれた。

 目が慣れるまで数秒かかり、ようやく窓の外を視界が捉えた。一面白より真っ白なアネモネが見事に咲き誇り、本当に私は一国のお姫様としてどこかの宮廷で暮らしているかような錯覚に陥る。

 現実と虚構の区別がつかなくなるくらいの妄想癖は昔からだが、今いるここは本当に現実なのか、はたまた長い夢の中なのか決める手がかりはない。リアルな夢と言われれば信じるし、もちろん現実味も十分あった。

 時刻は7時を回ったところ。いつもに比べたら長く眠ってしまった。この二日間はともかく身も心も疲れ果てた。むしろこの時間に起きれたことが意外と適応力があるのかと自分に驚くばかりだ。

 夢でも現実でもいい。外の春の空気を吸って冴えてきた頭を働かせる。

 私はこの国で三ヶ月過ごさねばならない。セリムという男の子の家に居候として暮らし、大学に通う。それらが私に課せられたこの国にいる条件だ。決してお姫様なんかではない。

 もう長いことこの国、この家で生活しているかのような感覚になる。なんの違和感もなくエレベーターで下の階に降り、たくさんの朝食をコーヒーの香りで満たされたダイニングキッチンで食べる。

 「ミアちゃん、おはよう」

 「おはようございます」

 今日もお母さんはいつもとなんら変わりなく笑顔で美味しい朝食を作って私を迎えてくれた。相変わらずすごい量だが味は確かだ。

 「ミア、おはよう」

 遅れてセリムがやってきた。確かいつも7時半に起きると言っていたが、休みの日でもその習慣を崩すことはしないようだ。

 セリムは座るやいなや食べ始め、全意識をすべて食べることに集中している。そのスピードもさることながら味わうことも決して忘れていない。その証拠にところどころ料理の味について食レポ顔負けのコメントを残している。

 「午前中はゆっくりしてていいよ。午後から買い物に行こう」

 昨日の夕食の際に決まったことだが、今日は買い物に行く。日常生活をするうえでは近くにある商店街で基本的にすべて事足りるのだそうだが、少し離れたところに立派なショッピングモールがあるという。そこに行って生活に必要なものをすべて揃えようというのが本日のミッションだ。

 部屋でひと息つく。

 今日の買い物のお金もすべて負担してくれる。貨幣の価値もわからないため具体的にお金がいくらこの家に国から入っているのかは想像もつかない。かといってこのまま黙って世話になりっぱなしというのもやはり悪い気がしてならない。

 午前中はゆっくりと言われても特にすることもないのでお母さんの家事でも手伝おうかと下に行くと、ちょうど洗濯物を干すところに遭遇したので一緒に干させてもらうことにした。

 セリム家の庭は広い。学校の運動場くらいある。家の正面と同様に庭がある裏側にもアネモネは見事に咲いていた。アネモネの内側に敷きつめられた芝はよく手入れされ、綺麗な薄緑の輝きを放っていた。太陽の日差しがたっぷりと降り注ぐ芝の上で寝転ぶセリム一家が目に浮かぶ。

 お母さんがなにかボタンを操作すると脇に置かれている倉庫のような建物が動き自動で物干し竿が庭にセットされだした。庭一面に四列の竿が走る。

 「今日はベッドのシーツなんかもあるから手伝ってもらえると助かっちゃうわ」

 お母さんは心から感謝を述べているのが伝わってくる。この人はどんなに小さなことに対しても感謝の気持ちを忘れない。でもそれが接していてこんなにも気持ちがいいものだとは知らなかった。他人に感謝を述べる。当たり前のようで案外さらっとできなかったりする。

 家族全員のベッドのシーツを干すだけでもかなりの重労働だった。二人でシワを伸ばしてなんとか干すものの、いつも独りでどうやっているのかと思う。

 家族の洋服はすべてとても大きかった。すべて干し終わると、アネモネと柔軟剤の香りが絶妙に庭に広がりふんわりした心地になる。上空から見た庭はきっと、白の額縁に緑の下地というキャンバスの上をカラフルな色が描かれた独創的な画となっているだろう。

 洗濯のあとは部屋の掃除だ。大きな、だがなぜかかなり軽い掃除機を部屋に走らせる。掃除機をかけるくらいなら私にもできると思いその仕事を引き受けてお母さんには違うことをしてもらった。だがこれだけ広い家のすべての部屋を掃除するとなるとやはり骨が折れた。

 一階はキッチン、リビング、お風呂の他に、客間とお母さんの部屋がある。客間はさっぱりと物が少ない部屋で掃除はしやすかった。問題はお母さんの部屋だ。料理の研究や裁縫に精を出しているのがわかるほどその類の物が溢れていた。他の部屋はどこも完璧に片付いているのになぜここだけこんなに生活感まるだしなのだろう。とは言っても私の部屋に比べたら全然マシで清潔感がないわけではない。

 さすがに自分の部屋を見られるのが恥ずかしいと思ったのかお母さんが慌ててやってきた。

 「やだやだ、この部屋はしなくていいよ。作業部屋みたいなものだし、すぐちらかるからあまり片付けないようにしてるの」

 照れた笑顔のお母さんが可愛らしい。私はそのまま三階に上がった。

 二階は夫婦の寝室のほか、お父さんの書斎、トレーニングルーム、物置き部屋があるらしい。プライベート感がすごいから二階もやらなくていいと言われていたために三階の自分の部屋から掃除機をかけることにする。

 昨日用意された部屋だけあって塵一つ見当たらないほど綺麗だ。ここまで綺麗に掃除をこなすお母さんの家事力には感服する。

 セリムの部屋をノックする。セリムは勉強中だったらしく机の上には参考書が複数開いた状態でパソコンもついたままだ。

 「勉強中?ごめんね。お掃除のお手伝いしてて」

 「そうなんだ。そんな気を使わなくてもいいのに。僕の部屋は大丈夫だよ。後で自分でやるよ」

 邪魔しても悪いと思いそのままクレアの部屋をノックする。

 「ミアお姉ちゃん、掃除?どーぞ、お願いします」

 クレアは電話中だ。意中の彼だろうか?あまり音の出ない掃除機とはいえ電話中の人の部屋に入るのは気が引ける。

 「どうしたの?大丈夫だよ」

 クレアはまったく気にする様子もない。そこまでいうならと私は部屋の掃除に取り掛かる。途中すぐ電話を終えたクレアが話しかけてきた。

 「友達の恋愛相談。偉そうにアドバイスできる身でもないんだけどね」

 「へー。みんな恋してんだね」

 「お姉ちゃんは好きな人いないの?」

 自分の好きなこと以外にはまったく行動力を発揮できない性格とあってどうにも他人の趣味に合わせることが苦手だ。自分のオタク趣味に付き合ってくれる男子は少ない。

 「んー、なんか最近は出会いもないな。好きってなんだっけ?いや、女としてまずいねこれは」

 クレアは、女は恋してこそだよと私を励ましてくれる。私もまったく恋をしてきてないわけではない。それなりにお付き合いというものの経験はある。でもどれも素の自分を出すことができなかった。極端に自分を偽っているわけではないが、本気で心を開くことがあまりできなかった。

 「私でいいならいつでも相談に乗るからね」

 これではどちらが年上かわからない。でもクレアのが恋愛上級者なのかもしれない。

 洗濯と掃除を終える頃にはもういい時間だった。お母さんが昼ごはんの支度を始めている。家事を手伝って消費カロリーはかなりのものだったと思うがお腹はあまり空いていない。

 それでも美味しい料理はお腹に入っていく。毎日これでは私もみんなと同じ体型になりかねない。積極的に家事を手伝って運動も適度にする必要がある。

 

 外出する支度を終え玄関を出るとカーラとアポロが来ていた。買い物に付き合ってくれるらしい。せっかく買い物にいくんだからオシャレをしたいところだが洋服はまだ限られている。その限られた洋服から赤のロングスカートと白のふんわりしたブラウスを合わせる。シックで大人っぽい感じをイメージしたコーディネートだ。靴は昨日と同じシルバーのミュールを履いた。

 「やあ、ミア。ミアはいつもオシャレだね」

 「おはよ、ミアちゃん。今日は大人っぽいね」

 アポロとカーラが褒めてくれる。そんなアポロは薄茶色のインナーの上に紺の薄手のジャケットを羽織っている。腕にはシンプルなデザインの腕時計が巻かれ、小物にも気を配れるオシャレ上級者の佇まいだ。

 カーラはというと、ゆったりめの黒のパンツに同じくゆったりめの黒のカーディガンを合わせている。彼女らしいといえばそうだが、やはりもっとオシャレをすればいいのにと思ってしまう。

 遅れて出てきたセリムはチェックのシャツにハーフパンツ。アポロが着てればオシャレにも見えそうなものだがなんだか残念だ。でもそこがなんとも可愛らしく思える。

 「そろったね。じゃあ行こうか」

 セリムの一声で私たちは歩き出す。

 最初に向かったのは家の近くの商店街だ。目的地は商業施設だけどぜひ見ておくといいとのことで商店街を抜けたところから電車に乗ることにした。

 春の陽気でぽかぽか気持ちがいい。天気にも恵まれ買い物日和だ。

 商店街は近くの地元民たちだけにもかかわらずかなり賑わっていた。肉屋、魚屋、八百屋、パン屋、ケーキ屋、美容院と床屋、本屋、雑貨屋、洋服屋など確かに基本的なものはすべてそろっている。歩いていると私以外の三人はしょっちゅうお店の人から声をかけられている。子どもの頃からここの商店街の物を食べたり使ったりして育ってきたからと三人は口をそろえる。

 お店の一人ひとりに三人は私のことを紹介してくれた。そんなこんなでなかなか前に進まず商店街を抜けるだけでかなりの時間がかかった。

 太陽はより日差しを強めたのか少し汗ばむくらいで、案の定セリムはダラダラと汗を流していた。

 土曜日とあって地下鉄のホームには電車が来るのを待つ人々も多い。それでも立て続けに来る電車のおかげか混雑はしていない。

 電車にはわずか数分乗っただけで目的地の駅に到着してしまった。聞けば地下鉄は端から端まで乗っても一時間ほどだそうだ。

 地上に出るとすぐ目の前に立ちふさがったのは摩天楼と形容するにふさわしい超高層タワーだ。これほどの建物ならセリムの家からでも見えそうなのに全然気が付かなかった。

 中央に立つその巨大なタワーの周りにはその半分くらいの高さのタワーが等間隔に5つ立っている。タワーはすべて架け橋で繋がれていて、おそらく上から見れば五芒星の形に見えるのではないか。

 最先端技術を惜しみなく散りばめたようなガラス張りのデザインのタワーの表面は見る角度によって様々な姿を映し出す液晶としても機能していた。

 「すごい。現代アートみたいだね」

 その美しさといったら時代のあるヨーロッパの大聖堂にも肩を並べるほど、質は異なれど美の真髄を極めたものだ。

 「この中にはあらゆるものがあるよ。買い物も遊園地もレストランもなんでもある。一日じゃ全部回るのは難しいかな」

 セリムは誇りげに言うが、これほどの施設が自国にあれば誰でも誇りに思うことだろう。

 「さて、どこから回ろうか」

 アポロは楽しそうだ。オシャレな彼の目に適う品々がきっと数多く並んでいるのだろう。

 「ミアちゃんは初めてだから。王道ルートで中央タワーから行こうよ」

 カーラの言葉をきっかけに私たちは真ん中にそびえ立つギラギラしたタワーに吸い込まれていくかのように入っていく。

 入り口からもうすごい人混みとなっている。週末のため家族で遊びに来る人が多いみたいだ。子連れが多く見受けられるが、まじまじとこの国の子どもたちを見るのは初めてだ。当然なのだが、子どもも例外なくみんな太っている。ちっちゃいのに太っている。真ん丸なそのフォルムはちょっと大きめなぬいぐるみのようでどの子も本当に愛らしい。

 抱っこ紐の中で眠る子どもの姿もある。赤ちゃんの時点でもすでに肥えているということは生まれた瞬間もかなりのサイズなのだろうか。

 「ミアちゃん子ども好き?かわいいよね」

 カーラが私の視線の先に気がついた。カーラは子どもがとても好きとのことで将来は保育関係のお仕事でいろんなお話を聞かせてあげたいと夢を語った。

 「かわいいなって思うんだけど、いざ相手にするのはちょっと苦手かな。自分に子どもができたら変わるのかな」

 私はつい本音を口に出していた。かわいいとは思う。でも見ていてそう思うだけで実際に育児に携わることは自分には無理だろうと思っていた。好きなことを見つけたら子どもそっちのけで意識が違うところに向いてしまいそうだから。

 セリムとアポロも子どもが好きだという。聞くにこの国の人はみな子どもを愛するらしい。それもきっと国民性だろう。

 偏見もなく子どもが愛される国。とても素敵だと思う。可能ならばこういう国があることを世に訴えて世界中を同じような素敵な国に変革していきたい。

 入り口を進むと中央に噴水が見える。そして真ん中は頂上まで見事に吹き抜けている。タイミングよく噴水が舞い上がった。かなりの勢いをつけて吹き抜けの頂上まで一気に水が届いた。水はカラフルなミストに変わり優しくゆっくりと下まで降り注ぎ、その爽快で心躍る演出に誰もが目を奪われ足を止めていた。

 フロアマップが目に入った。52階建てだという。そしてすべてのフロアに様々なテナントが入っているらしく、この一帯だけで1000近くのお店があるらしい。

 「とりあえずミアの買い物を再優先に片付けよう。洋服や日用品でほしいものをすべて買うんだけど、どこで買ったらいいかわかんないよね。結局歩きながら気になるお店に立ち寄って見ていくしかないや。ゆっくり行こう」

 セリムの提案のようで大した提案にならない言葉に従って私たちはゆっくり一軒ずつお店を見ていった。

 チャレンジとばかりに普段まず着ないであろうかわいい服や大人の色気が垣間見える服などを選んでいく。保留なんてしてたら同じお店に戻るだけでも一苦労だったので、着たいと直感で判断したものは買うことにした。私はセリムのお母さんからもらったカードで支払いをした。国から支給されたカードだそうで、ざっくり予算は服にして20着分は平気で、その他の買い物も同じくらいの金額まで使えるという。毎月支給されるし使い切らないともったいないから惜しみなくじゃんじゃん使ってこいとの命令だったため遠慮なくお金を使わせてもらった。

 とはいえかなり抵抗があった。この国の貨幣価値がわからないしざっくりこれくらい買えると言われても未だピンとこない。この国の経済事情はどうなっているのか。昨日の夕食で私はセリムに聞いていた。

 

 「この国の経済ってどうなってるの?」

 我ながらなんて漠然とした質問だろうかとも思ったが、セリムは私の考えをしっかりと汲み取ってくれたらしく丁寧にその状況を教えてくれた。

 「この国に貨幣は存在しない。外の世界は貨幣経済だよね。基本的に多くは資本主義経済でしょ。でもこの国は違う。貧富の差は極力なくそうとしている。でもかといってその方向性をやりすぎると誰も働かない社会になってしまう。これらは経済の基本だ」

 私は経済のことはまったくわからない。だからあんな小学生みたいな質問をしてしまったわけだが、セリムは経済についても詳しいらしい。

 「この国では働いた分だけポイントが貯まる。その生産性に応じてポイントは付与されるわけ。そしてそのポイントは多く持っていたからといって得にはならない。それは毎月リセットされてしまうから。ひと月働いて得たポイントは残高の有無に関わらずゼロになる。だからめちゃくちゃ他人を出し抜いて頑張る必要はない。でも頑張った人には特別な報酬が与えられたりする。じゃあ今度は逆はどうか。あまり働かない人間がいたとする。この場合、生活できる最低限のポイントはもらえる。だったらみんなあまり働かなくなるんじゃないかって思う?」

 思う。貧富の差はなくなるかもしれないが誰もが同じ給料をもらえるなら楽をしようとする人間が出てくるのは世の常のはず。少なくとも私なら楽をしたいと考えてしまう。私はただ頷いた。

 「働かなくても最低限のポイントはもらえる。でも働けばそれに応じた手当がしっかり付いてくるんだ。国民の誰にもその手当を受け取る権利がある。誰もが平等に幸せの舞台に上がる権利を持っている。それがこの国の基本的な構造であって、働きたくないって人間はいない。これも国民性なのかな。外の世界に誰も興味を持たないのと同じ感じで、みんな働くことを生きがいにもしている」

 外の世界では個人の努力も評価されるが持って生まれた才能がものを言うことが多い。多くは運として片付けられてしまいがちだ。資産家の元に生まれたら才能なくともお金持ちかもしれない。戦争中の途上国に生まれたら普通に暮らすことさえ難しい。この国ではそのスタート地点での不平等がない。

 でもいきなりそんな仕組みを外の世界に持ち込んでも絶対にうまくいかないだろう。甘い蜜を覚えた人間は時に醜い。それでもこの国ではそれが当たり前。そんな国を作ることなどできるのだろうか。普通に訴えただけでは無理だ。国民の思考までも統制しなければなしえないと思う。

 太っていることとも何か関係しているのだろうか。また一つ疑問が増えてしまった。それでもこの世界の仕組みは本当によくできている。

 「僕たちは無償でも働きたいって仕事に就くんだ。働き口を探す際に自分に一番適している仕事をカウンセリングして探す。それによって心から楽しいと思える職を得ることができる。それもかなり影響してると思う」

 私は驚くばかりで何も言えないでいた。その時にお母さんからカードをもらった。私の身の回りのために使うお金の代わりとなるものだ。すべて使い切って大丈夫らしいが、なぜ私はそんなにビップ待遇を受けているのか不思議に思っていた。


 一階から順番に上の階に上がるスタイルでお店を丁寧に見ていったが、10階にして洋服は20着ほど、化粧品、文房具、その他いろいろと必要なものはすべて買い終えてしまった。まだあと40フロア以上あるが、どうしようかとカーラと話しているとアポロがとりあえずカフェでお茶でもしようと提案した。

 私たちは12階にあるカフェに入り各々がコーヒー、フロート、パフェ、パンケーキと好きなものを注文し、ひと息をついた。

 私たち以外にもお客はたくさんで席はほとんど埋まっていた。西洋の教会をモチーフにしたような内装は落ち着きあるとてもオシャレな空間を創り出していた。

 上を見上げると天地創造のような美しい天井画が描かれ、店の奥には昔ながらの暖炉がオブジェとして置かれていた。

 周りから聞こえてくる声はどれも幸せをいっぱいに享受していると伝えてきて、そこにいるだけでこちらも幸せな気分になる。

 「ミア、この商業施設はどうだい?といってもまだ半分も見てないんだけど」

 フロートを楽しんでいるアポロが美味しさにか満面の笑みで尋ねてきた。

 「すごすぎるよ。買い物が好きになっちゃう。あれも欲しいこれも欲しいってなる。ねえ、やっぱりなんでも好きに買えるお金持ちとかに憧れたりしないの?」

 「なんでも買えたらいいなとは思うけどね。でもその分、毎月に買える楽しみがあるから。この国の人はみんな考え方は同じだと思う」

 セリムもカーラも口をもぐもぐさせながら頭をこくりこくりと動かしていた。

 「じゃあ、もし実際に一人ずば抜けてポイントを持っててなんでも買えちゃう贅沢な暮らしをしてる人がいたらどう思う?」

 こんな質問を投げかけてなんの意味があるのか。自分の性格の曲がった部分に嫌気がしながらも聞いてしまう。

 「贅沢ってのが僕たちはあまりわからない。そういう贅沢はできないかもしれないけど貧困に苦しむこともない。どちらかといえば常に満たされているんだと思う。僕たちは十分に贅沢なんだよ。でもたぶんだけど、もしそんな人がいたらその一人をよく思わない人間は出てくると思う」

 セリムがそう言うとカーラも珍しく口を開いた。

 「外の世界の小説なんかで知ったことだからみんながそうではないかもしれないけど、お金持ちって心が寂しかったり、嫌な性格になったり、人を見下したりとか、とにかくあまり良く描かれてないよね。この国にお金持ちがいないのはそれが国民にとって有益なことじゃないと判断されたからなんだと思う。この国は国民のことを再優先に考えてるから」

 「うん。カーラの言うとおりだよ。外の世界はお金に飢えてる。そのせいで必要のない争いが起きたりする。人間関係がぎくしゃくしたりするのはほとんどがお金のせいだったりする。かといっていまさらその仕組みを変えたりしたらそれこそすぐにお金持ちが暴動を起こすだろうね。もしみんなのお金が平等になったら今度はシステムの隙をついて楽をしようとする人が出てくる。そしてまたいざこざが起きる。でも私はそれが人間が人間であるゆえの問題だと思ってた。まさか国民全員が同じ方向を向いて幸せに与れる国があるなんて夢に思わなかった」

 「深いね。幸せとはなんて普段あまり真剣に考えたりしないテーマだもんね。人によって幸せの定義は違うかもしれないけど、外の世界の状況を聞くとオレたちはみんな平和で幸せな環境にいると思う」

 私の変な話題提供にも嫌な顔一つしないで議論をしてくれるこの三人のような友人は外の世界にはいない。誰もが自分で作り上げた色眼鏡を通してでしか世界を見ることができない。そして見ている景色が他人と乖離するとそれは攻撃の対象になったりしてしまう。

 「ごめんね、変な話させちゃったね。そろそろ行こうか」

 私は場の雰囲気を変えるべくトーンを上げた。そして買い物は一時中断してゲームセンターに行くことにした。


 ゲームセンターは中央のタワーの周りに建つタワーの一つにある。建物すべてがゲームセンターとなっていて。ありとあらゆるゲームが体験できる。

 外の世界でもお馴染みのクレーンゲームやコインゲームはこの国でも人気があるようで多くの子どもたちで盛り上がっていた。

 プリクラには高校生くらいの女の子達がやはり群がっていて、同世代の男の子たちは格闘ゲームや、車や拳銃を模して作られた機械を操作するゲームに夢中になっていた。

 大人たちはというと、ヴァーチャルリアリティをより進化させたゲームに興味津々だ。中でも意識を完全にゲームの世界に転生させる類のゲームが一番新しいジャンルらしく多くの大人が列をなしている。

 それらのゲーム内では、海の中を自由に泳げたり、空を縦横無尽に飛び回れたり、戦国の時代を生きたり、魔法使いになったり、現実世界では絶対にできないであろうことが可能となる。

 私たちは魔法使いになってダンジョンを攻略するゲームに挑戦したが、仮想世界で魔法を使って自由に動き回るという不思議な体験が現実世界となんら変わらない感覚でできた。頭に専用のヘルメットを付けて脳に映像をダイレクトに送り込む技術らしいが、リアルな夢を見ている感覚に近いだろうか。私は某有名ライトノベルの設定そのままのそのゲームに心から感動してしまった。

 それですっかりこの国の進んだテクノロジーに魅了された私は、まだ残ってるカードのポイントを使って子どものように様々なゲームを楽しんだ。他の三人も一緒になってゲームで遊び、ゲーム内同様に私たちの絆はより一層強くなった気がした。

 一面特殊なガラスで覆われているため建物内から外の様子はすべて見える。そのため外がもう夕焼けによって徐々に朱く染まってきていることに私たちはすぐに気がついた。

 今日はこのくらいにして帰ろうと、大きなトランポリンの区画を通りかかったとき、何かが飛んでくる気配がした。次の瞬間にはセリムの大きな背中が私の目の前に立ちふさがり、飛んできたモノを捕まえていた。

 確認するとモノではなく子どもだ。子どもとはいえこの国の子だけあってとても大きい。トランポリンの勢い余って外側までダイブしてきてしまったらしい。セリムは猫の首根っこをつまむかのように軽々しく子どもを片手で持ち上げているが、私にぶつかっていたかと思うとぞっとする。絶対に軽い怪我などではすまなかったはずだ。セリムのとっさの判断には助けられた。ちょっとかっこいいかもとか思ってしまった。

 そのままセリムはその子を優しく元の場所まで持った状態で送り届けた。実は軽いのかと錯覚してしまうほど余裕に見える。もしかして私でも持てたりするのだろうか。持ち上げてみたら、およそ体重と呼べるものがまったくと言っていいほどなかったのである、なんてことになったりするかもしれない。そんな私の大好きなライトノベルの名シーンを思い出しついニヤリとしてしまった。

 そこにふとよちよち歩きの女の子が私の足に抱きついてきた。かわいいと思って抱っこしようと女の子の脇に手を入れてみたものの、ビクともしなかった。地面に靴が接着剤か何かでくっついてるんじゃないかと疑うもそんなわけはない。単純に重いんだ。この国の現実をまじまじと突きつけられてしまった。


 天蓋に付いた小さな小さな電球の光だけの暗い部屋の中でふと目が覚めた。買い物で疲れて帰るなりご飯も食べずに寝てしまった。

 眠りたいときに深い眠りにつくとこんなにも目覚めがすっきりするものなのか、頭は冴え渡り体も軽い。眠ってた時間は3時間くらいか。短い睡眠でも質がよければ大丈夫だと実感した。

 買い物は楽しかった。この国の日常風景はどれも微笑ましく、みな幸せそうに笑顔を振りまいていた。

 子どもが飛んできた珍事にもセリムは怒ることなどせず、ただただ優しく接していた。ここには笑顔が溢れている。怒りなんて存在しないかのように。

 ベッドの脇にはたくさんの袋が置かれていた。買い物の荷物は全部セリムが持ってくれていた。セリムはいつも優しい。疲れた私を気遣って声をかけずにそっと寝かせてくれていたのだろう。

 夕食を抜いたことで空腹を覚えるも勝手にキッチンをうろうろするのもためらわれる。さすがにもうセリムは寝てしまっているだろうか。

 静かにせリムの部屋をノックする。

 「ミア、起きたんだ。どうしたの?」

 セリムはまだ起きていた。どうやら本を読んでいたらしい。

 「ごめん遅くに。つい爆睡しちゃってご飯食べなかったからお腹空いちゃって」

 「そっか。下に行こうか。何か軽食作るよ」

 セリムは優しい。私が欲していることをすべて言わなくてもわかってくれる。私たちは下に行き、セリムが作る簡単なご飯を食べた。

 「今日はありがと。買い物たくさんできたし、みんなとも遊べて楽しかった」

 「まだまだ見てないエリアいっぱいだからね。またゆっくり行こう」

 過剰に求めるということがこの国にはない。なにげない日常が当たり前のように繰り返されること、それこそが一番幸せなのかもしれない。

 まだ3日間しか過ごしていなくとも毎日のようにそのことを強く感じる。


 日曜日も学校はお休み。

 独りで出かけるという選択肢もあったが、うっかり遠出して迷っても困る。独りのようで今はセリム一家と一緒にいて完全に独りではない。何かあって家族に迷惑をかけることは避けたい。

 昨日と同じように家事の手伝いをしていると、初めてお父さんに会った。

 「はじめまして。セリムの父です」

 丁寧に挨拶をするその男性は、薄く白髪が混じった黒髪で目尻のシワがなんとも優しげな雰囲気だった。セリムよりこじんまりとした体格で、この国の男性にしては小さいほうだろう。控え目な低い声を聞くとやはりセリムとは親子なんだなと思う。

 「ミアちゃん、紹介が遅くなちゃってごめんね。うちのパパ」

 「はい。すみません、お邪魔してます。よろしくおねがいします」

 お父さんは、なんの遠慮もしなくて平気と優しく言うと、休みの日にもかかわらず出かけてしまった。スーツ姿を見ると仕事なのだろうか。

 「あの人は仕事が大好きで。休みでもああして仕事に行っちゃったりするの」

 お母さんは不満そうに言うも笑顔で送り出していた。その一瞬のやり取りを見ただけでもこの夫婦がとても愛し合っているのがわかった。

 「ミアちゃん、今日はどこかに行かないの?」

 「毎日いろいろありましたから。今日はのんびり何もしないのもありかなって」

 「そうね。まだまだ慣れないことも多いだろうし疲れるでしょ。無理しないで何でも言ってね」

 その後もお母さんと家事を一緒にした。自分の母親とすら家事なんてしたことがなかったのに不思議と息が合った。

 「ホームシックになってない?家事をするのは家庭の日常が恋しい証拠だと思うけど」

 お母さんにそう言われてなんて返事をしたらいいかわからなくなった。今までも家を長く空けることは結構あった。でも今回みたな気持ちになることなんてなかった。

 「自分でもよくわからないんです。家に帰りたいとかではないんですけど、自分の家族ともこんなふうに過ごせたらなみたいな。いや、別に家族と仲悪いわけじゃないんです。でもいつもいるのが当たり前でなんの有り難みも感じなくなってたっていうか。ここにいると家族っていいなって感じがするんです。当たり前こそ有り難いものだって。家族との当たり前の毎日を大事にしたいって気持ちなのかな」

 自分で言ってて恥ずかしくなった。でもこの国にいると自分の知らない気持ちに気付かされるのも事実だ。

 「素敵ね。でもそうだと思う。知ってる?日本語って言葉ではありがとうの反対は当たり前なの」

 ありがとうの反対は当たり前。

 「ありがとうって言葉は感謝の言葉なんだけど、元々の意味は有るのが難いものなんだって。当たり前に起こることの反対は当たり前に起こらない、奇跡のようなもの。つまりは有るのが難いもの。

 でも、毎日朝起きること。ご飯を食べること。大好きな人と会うこと。ひいては生きることだってそれは当たり前のようで当たり前ではないと思わない?いつ何があるのかわからないのが人生でしょ?」

 その通りだと思う。戦争中の国では寝ること、食べることだって難しくなってくる。毎日生きることさえも。たまたま平和な国で生まれて何不自由なく暮らしているだけでそれは決して当たり前ではない。

 当たり前の毎日こそ奇跡の連続なのかもしれない。それはありがとうと感謝すべきなんだ。

 目から鱗でなにかすっと軽くなった気がした。風を通そうと開けていた窓から気持ちの良い風が家の中を吹き抜けていく。

 「ありがとう」

 つぶやいていた。

 照れくさくてあまり多用しない言葉だが、これほど素敵な言葉があるだろうか。当たり前の毎日にありがとうと言える人がどれだけいるだろうか。

 「ん?ミアちゃん、何か言った?」

 「いえ、なんでもないです」

 自然と笑っている自分がいた。


 家事の手伝いを終えて自分の部屋でひと休みしているとセリムの声がドアの向こうから聞こえた。

 セリムは土曜日か日曜日のどちらかは勉強の日と決めているらしい。今日も朝からずっと勉強をしていたらしく、ちょっとひと休みで私に声をかけてきた。

 「ミア、何かしてた?」

 「何もしてないよ。ただただボケっとしてた。たまにはのんびり何もしないでみようって」

 「クレアは土日いつもいないの?」

 昨日も今日もクレアの姿を見ていない。休みの日とあればガールズトークが延々と繰り広げられるのではないかと覚悟を決めていたのに肩透かしをくった。

 「クレアは部活やってるから」

 「そっか。前から聞いてみたかったんだ。クレアってスポーツ何をやってるの?」

 「フットサルだよ」

 「え?アポロと同じなんだ」

 「クレアは僕以上にアポロに懐いているからね。彼の影響があったんだと思うよ」

 もしかしてクレアが恋してる相手ってアポロなのかな。年上に恋してるとか言ってたような気がするし。

 今度またゆっくり聞いてみよう。他人の恋話を聞いて私も少し女子力を磨いていかなくちゃ。

 「ミアどうしたの?」

 「あ、なんでもない。青春してるなって」

 若いってのはいい。私だってまだまだ全然若いけれど高校生は何をするにもキラキラしてる。

 「明日からまた大学だけど履修する科目は決めたの?」

 そうだった。大学で勉強しなきゃいけないんだった。

 「その顔は完全に忘れてたね?僕の部屋のパソコン使っていいよ。シラバスとか見て決めたほうがいいでしょ」

 セリムはなぜいつも私のことがこんなにすぐわかってしまうのだろう。そんなに私ってわかりやすいのかな。でもお言葉に甘えて調べさせてもらった。

 この国の歴史に関する授業に興味があったが、しばらく開講されてないようだ。それでも開講されてない授業は録画されたものがあるとのことで、基本いつでもあらゆる授業が受けられるらしい。

 単位のこととか本気で心配する必要はないのだしせっかくなので興味があまりないものにあえてチャレンジするのもいいと思った。

 最終的に、この国の歴史を中心に扱う歴史学をメインに据えて文学や物理など普段馴染みないものを履修することにした。

 「ねえ、セリムはこの国の歴史についてどれくらい知ってるの?学校で教わるもの?」

 これまでにもこの国についてのことをあれこれ教えてもらってはきたがどうにも曖昧な部分が多かった。歴史的なことに関してはまったく触れてなかったような気がする。

 「いや、教わらないよ。大学になってやっと自国の歴史を扱う授業が選択できるだけ。生活するために最低限必要なことは小中高で教わるけど」

 「え?自分の国の歴史を教わらない?そんなことあるの?だって気にならないの?セリム世界史とか勉強してるじゃん。自分の国の歴史だって気になるものでしょ?」

 「これも国民全員に当てはまることなんだけど、自分の国の歴史にあまり興味がないんだ。今暮らしているこの国の歴史を知ることにあまり意味はない気がする」

 急に背筋に寒気が走った。この国は素晴らしい面を多々持っている一方で何かおかしい。歴史の講座があるわけだから隠しているというわけではない。でも誰も知ろうとしない。知る必要がない?そうだろうか。過去から学ぶべき教訓はいくらでもあるはずだ。小国といえどこれだけの技術を持つ国の歴史が浅いとは思えない。

 「じゃあ世界史を勉強する意義は?」

 私はまだ数えるほどにしかこの国の人と話していない。それでもセリムがその中でも他の人とは違う思考を持つことはわかる。そしてセリム自身も違和感を感じているのか少し困った表情をしている。違和感がもやもやするのにそれが何かはわからないようだ。

 「セリム、なんか変だって思うところがあるんじゃない?」

 セリムはうっすらと額に汗をかいている。空調を入れてないこの部屋は彼には少し暑いだろうか。

 「正直なところ僕にもわからない。他の人にはない違和感を感じているのは事実だよ。でもその違和感がなにかはわからないんだ」

 「セリム。落ち着いて聞いてね。外から来た私だから感じることで別にこの国のことを悪く言うつもりはないの。でも私が感じてる違和感を知ってほしい。その上でセリムの意見を聞かせて。

 まず、国民全員が太ってること。これはどう考えても不自然。普通に暮らしてて国民が例外なくみんな太ることなんて生物学の知識などなくたっておかしいってわかるよ。確かに肥満遺伝子なんてのがあるのは解明されてるけど、日常生活をコントロールすることで肥満は防げることもわかってる。それに体重が減らないのもおかしい。理由はわからないけど、みんなが太っていることには絶対になにかしらの理由がある。

 次に、外の世界に出ていくことができないこと、そして誰も外の世界に興味関心を示さないこと。隠れて完全鎖国政策をする意味が今の時代にあるのかってのもそうだけど、そもそも国民の誰もが外に出ようと考えないなんてありえない。外の世界という存在を知らないならまだわかるよ。でも外の世界について多くの知識があってこの国との比較をすることだってある。それなのにそれ以上の行動を起こさないなんて変だよ。普通は閉じた世界に住んでたら外に飛び出したいって考える人がいるものだよ」

 一気にまくし立ててしまったせいでセリムは頭が追いついていないのか目がかなり泳いでいる。少し興奮してしまったせいか私もほんのり汗ばんできた。

 「セリム。セリムの考えを聞かせて」

 セリムは一度大きく息を吸い、ゆっくり長く吐き出した。

 「僕は外の世界に興味がある。知りたいとも思う。本当の空が見たいから山にも登ったりする。何度と友達を山に誘ったこともある。でもいつだって誰も付いてきてくれることはなかった。これだけ外の世界に関する文献があるのに僕以外の人は積極的にそれを読もうともしない。そのことに関しては僕も不思議に思っている。どうして他の人は外の世界に興味関心を示さないのか。だけどそれに関しては気になることもある。僕自身も外の世界に出てみようとはなぜか思わない。これは説明が難しい変な感覚なんだけど、外に出たいって思いたいのになにか引っかかって思えないみたいな感じ。

 太っていることに対しての違和感は、ごめん、あまりわからない。誰をみてもそれがおかしいとは思わない。ミアを見た時はかなり驚いたけどそれは程度の差こそあれ誰でもそうかもしれない。でも、ここにも気になることはあるんだ。体重を測ること。測るだけならいいんだ、この国の国民の健康を知る上での政策だと思うし。でも体重が減ったときの対応が引っかかる。なんていうか、体重が減った人間は保護対象にされてるような。これは良い意味じゃなくて、この国に相応しくないから排除する的な」

 空調を入れた部屋はすぐにひんやりとしてきた。むしろもう肌寒いくらいだ。

 妄想癖のある私だからかもしれないが、セリムの話は絶対に国の最重要機密事項に絡むものだと思う。大きな秘密が存在する。陰謀とかまで膨らむとも思えないけど最初会った四人の男の件もあるし何かあるのは間違いないと考えていい。

 でもこの国のことを嗅ぎ回るのはリスクが高い気もする。この様子だとセリムは味方についてくれるだろうけど巻き込んで良いものか。

 とりあえずこの国の歴史から紐解いていく必要はある。案外国民の興味が薄いだけでなんら隠してない可能性もある。

 「セリム、もしセリムさえいいなら一緒にこの国の違和感を調べよ」

 「うん。いいきっかけだと思ってたんだ。ずっともやもやしてたし、ニアが来たとき何かが変わるイメージが浮かんだんだ」

 「でもセリムが話した違和感に関してはできれば友達や家族にも話さないでほしい。念のためにね」

 セリムは真剣な表情で一度大きく首を立てに振ると、休憩のつもりだったのに熱が入っちゃったねとにっこり笑った。

 改めてちゃんと休憩しようとセリムは下からお茶とお菓子を持ってきてくれた。話題を180度変えた他愛もない雑談で場の雰囲気と私たちに昂ぶった熱は徐々に落ち着いていった。


 翌日から私はこの国の歴史の授業を受け始め、大学が終わると図書館にこもって歴史に関する文献をあたった。

 だが、歴史の授業はこの国の成り立ちに関しては何も触れず、いわゆる現代史で政治経済や文化といった事象を切り口にした概論ばかりだった。

 図書館であたる文献も同じように一つのテーマを掘り下げて歴史を考察するものばかりで、この国がどういう経緯で作られたのかなどを知る手がかりは見つからなかった。

 知り得たことは外の世界の歴史と比べても特に目立ったものはないということ。前提としてあるこの国の体質を除けば至って普通の歴史が語られるだけだった。

 気づけばあっという間にまた一週間が経過し、再び土曜日となった。

 ずっと調べ物をしていて気分が疲れていたこともあって気分転換にどうかなとセリムが声をかけてくれたのは嬉しかった。

 私たちはアポロとカーラも呼んで海に行くことにした。海があることは知っていたはずなのにその存在をすっかり忘れていた。そもそもこの国に海があるなんておかしいのだった。

 世界地図を広げてもこの辺は内陸も内陸で海などまったくない。おそらくこれもまた人口的なものなんだろうとは思うもわざわざ海まで用意する理由はなんだろうか。

 結局どこに行こうともこの国の謎がつきまとうことに変わりはないが海は見てみたい。潮の香りや波の音は心をリラックスしてくれるはずだ。

 季節は春。海に入るには少しまだ寒い気がする。海は地下鉄から地上に出るとすぐに目の前に広がった。位置的には商業施設をさらに南に行ったところあたりになる。

 潮の香りが鼻の奥をかすめる。浜辺はゴミなどまったく落ちてない綺麗な姿で、太陽をいっぱいに浴びて真っ白に光っていた。

 海の中で遊ぶ人の姿もちらほら。砂浜もこの季節にもかかわらず意外と賑わっていた。

 久々に見た海にテンションが上がってしまった。裸足になって砂浜を駆け巡る。砂はさらさらでほんのり暖かい。波が寄せてきて足を海の波がさらっていく。温かいとも冷たいとも感じない微妙な水温でこれなら海に入って遊ぶこともできるのはうなずける。

 今回は誰も水着をもってきてなかったので浜辺でお決まりのビーチバレー大会が始まった。私とセリム。アポロとカーラ。ペアを組んで試合をした。

 アポロの運動神経の良さはフットサルを見た時に知っていたが、カーラも体の重さを感じさせない素早い動きでバシバシと息ピッタリとアタックを決めてきた。

 対する私はといえば、運動は苦手ではないものの得意でもない。そしてセリムは見た目そのままにまったく動けない。とても試合にならない一方的すぎる展開で私たちはボロ負けをした。

 負けたペアが罰ゲームで買ったペアにジュースを奢るなんてイベントは起こることもなく、アポロが持ち前の気前の良さでみんなにジュースを買ってきた。少し歩くとちょうどよい感じの岩場があり、そこで海を眺めながらおしゃべりをした。

 沖のほうには船舶がいくつか見えた。そこまでの距離ではないため大きさはそこまででもないだろうがこの規模の海にしたら十分大きいのではないだろうか。

 船が沖に出ているとなれば漁業がなされているのだろうが、人工的な海に食料となる魚がいるというのか。

 「あの沖に見える船舶って本物だよね?」

 もっとマシな聞き方があった気がした。本物かどうかなんて何を聞きたいのかわかりにくいしどこか馬鹿にしてる印象を与えてしまうかも。

 「もちろん。魚を獲ってるよ。この国では漁師の資格を持つ人しか船に乗ることはできない。あと沖に行くこともできないよ。泳ぎが得意なら行けそうだけど行ってはならない決まりなんだ」

 アポロが何も気にしてる様子もなく答えてくれた。彼はこの中でも一番大人の対応ができる。

 海は人工的なものだが、魚はクローンでもなんでもなく正真正銘の自然に生きる魚だという。そのためにプロの人しかその領域に足を踏み入れさせたくないそうだ。下手に素人が荒らして生態系のバランスが崩れることを避けるためとアポロは丁寧に続けて解説してくれた。

 私としてはそもそもこの海が人工的にできていることもあまり信じられなかった。だが海水は確かに塩分を含みしょっぱい。たぶん海洋学者とかが調べても本物の海と変わらないと証明しそうだった。

 「もう一つ気になることがあるの。この海の果てはどうなってるの?」

 普通に考えれば壁にぶつかるはずだ。だがここから目視できるのはなぜか水平線ようなもの。あれも特殊な液晶によるものか。

 「これは噂だからどこまで本当かはわからないんだけど、海の果てには滝があるらしい。海を囲むように大きな滝がいっぱいの水をこの国に注ぎ込んでいて滝の上はまったく未知なんだって。でも船に乗る人たちもそこまで行ったことがある人はいないらしくて噂の域を出ない」

 なるほど。誰も行けないように何か工作してるのかもしれない。まあそれは鎖国と繋がるものだからそれはそれでいいとしてもこの大量の水はどこから来るのだろう。

 この国では一見れば十の疑問が湧く。まったく飽きない。

 ずっと晴れ渡っていたはずの空にいつのまにか雲が立ち込めていた。この国に来てから雲を見るのは初めてかもしれない。

 いくらか風も出てきたように感じる。相変わらず吹き抜けていく風は潮の香りを程よく運び、疲れた心を癒やしてくれていたが、セリムの一言で現実に引き戻された。

 「これは一気に天気が変わって一雨くるね」

 「そうだね。あの雲は間違いなく雨雲だよ」

 「カーラがそういうなら雨雲だ。雨が降る前に早いけど帰る?それかオレの家に来る?」

 よく見ていなかったがあれは確かに雨雲だ。私も飛空士の端くれで空の知識はけっこうある。飛んでるときにあの手の雲を見たらなるべく避けるようにしている。でもこの国の空は液晶だったはず。天気はどうなっているのだろうか。

 「ちょっとまたツッコミどころが多い。みんなは天気詳しいの?」

 「カーラは気象学も勉強してるからなんでもわかるよ」

 「でもセリムも空が好きだから自然と勉強もしないで詳しいよ」

 二人は照れながらお互いを賞賛している。

 「オレは天気はさっぱり」

 「気象学があるってことはこの国の天気も変わるの?」

 みんな何を当たり前のことをという顔をした。でもセリムだけが私の疑問を察知してくれたようだ。

 「この空は液晶で映された空だけど映し出された通りの天気になるよ。仕組みはもちろんわからないけど。あれ?この国の天気はコントロールされてるって言ってなかったっけ?」

 「天気をコントロール?」

 「そう。基本的には晴れだけど、曇や雨や雪といった自然現象が人間の体に与える影響は大きいとされてて、晴れだけだと健康を害するんだってさ。だからたまにランダムで天気を変えてるんだって」

 「天気を変える?そんなことできるの?」

 「すごいよね。この国の技術は天気まで変えちゃうんだよ。だからこの国には雨や雪はあっても台風とか雷雨みたいな激しい悪天候は絶対にないの。気象学は基本的には外の世界の天気についてだけどコントロールするうえでも重要な学問だよ」

 この口ぶりだとカーラは気象のことについてはけっこう好きなんだろう。文学を話しているときとさほど変わらない饒舌ぶりと目の輝きがある。

 「あの感じだとたぶん通り雨でほんの一時的にばーっと降るんだと思う」

 一雨来る前に私たちは帰路についた。そしてそのままアポロの家にお邪魔することになった。

 アポロの家はセリムの家からはほんの数分歩く程度の距離にあった。地下鉄で一駅の距離だが歩いたほうが早いという。どこの家々も一戸建てが多いなか、意外なことにアポロの家はそうではなかった。敷地面積はおそらくセリムの家とあまり変わらない広さのその場所には高級ホテルのようなオシャレな外観の建物が建っていた。

 エントランスホールを入るとアポロに反応するかのようにセキュリティーが解除され奥の扉が自動で開いた。そのまま真っ直ぐのところにかなり大きなエレベーターがあり、車も入りそうなくらいの広さだった。

 4階建てらしくボタンは四つ。でもこの構造だと一階部分には人が住んでなさそうだし実質3階建てみたいな感じだろう。

 二階に向かいエレベーターの扉が開いた瞬間に見た光景に私は度肝を抜かれた。

 そのフロアすべてがそこから見渡せる作りで仕切りが一つもない完全筒抜けの部屋だった。真ん中にオープンキッチンが大きくあり、その隣にこれまた大きな長テーブル。左右を見ると大きなソファーがランダムだが計算されたかのように置かれている。

 窓は一面ガラス張りかと思いきや東西南北すべての壁に大きな液晶が付いていることに気づいた。どのソファーに座っても画面を見れるようになっている。

 最低限のものしか置かれていないこともあってその広さがとにかく際立てっていた。

 キッチンには女性の姿が。こちらに気がつくとすぐにニッコリと微笑んで歓迎してくれた。

 「いらっしゃい。アポロから話は聞いてます。ミアちゃんね。ゆっくりしていってね」

 そこでようやく気がついた。ここはホテル並みの外観のマンションなどではなく、ホテル風のマンションというアポロたちの一軒家だった。建物すべてまるまるアポロの家だということで二階はキッチンとリビングになっていた。

 上の階に行くとそこはアポロと社会人のお兄さんの部屋が綺麗に二分割されていた。向かって左側がアポロの部屋で、広さにして私とセリムの部屋を足してもまだ足りないくらいだ。

 普段からオシャレに気を使うだけあって部屋も相当オシャレだった。黒を基調としたシンプルなデザインではあるが、家具や電化製品はこだわりを感じさせる。

 壁には何インチかわからないくらいの液晶モニターがあり、その反対には映画館さながらの段状のソファーがあった。扇型のそのソファーは一段目に一人、二段目に二人、三段目に三人がゆったり座れる仕様になっていて、ソファーの中は収納できるようになっているという高機能を備える。ただ無駄に大きいというだけではないところがこだわりポイントだとアポロ本人は言っていた。

 スピーカーはといえばこのクラスの人間なら当たり前かというようにやっぱり部屋の四隅の上にライブ会場で見るようなものが付いていた。

 セリムとカーラは何度も訪れたことがあるのだろう、すでにくつろいでいる。こんなハイスペックな部屋になんの違和感も感じないこの二人はやはりこの国の人間なんだなと思う。

 「この国には大きな貧富の差はないって話だけどアポロの家はめちゃくちゃお金持ちに思えるんだけど。セリムの家もいろいろとすごかったけど生活感があってアットホームじゃん。でもここは高級ホテルみたい。この辺の差ってなんなの?」

 「家のどこを重視するかの違いしかないよ。ここもセリムのところもカーラのところだっていわゆるお金という概念から考えればそんなに大きな差はない。セリムの家だったら大きな庭とか花壇とか、あとは自然の光を取り入れる匠の技が物を言う設計とかがすごいでしょ。この家ならまさにミアが言ったみたいに高級ホテルみたいな外観、まあ内装もそうかもしれないけど。あとは家具とかに力を入れてるね」

 私の価値観が勝手にアポロの家をお金持ちのイメージで決めつけてしまっているというわけか。確かによく考えてみたらセリムの家にもすごい点はたくさんあった。こうなるとカーラの家にも行ってみたい。

 「あ、今カーラの家にも行ってみたいって思ったんじゃない?」

 セリムはやはり鋭い。

 「うん。じゃあ来週は私の家に招待するね」

 そのときドアのすぐ横にある金庫みたいな扉が光って音を鳴らした。アポロがそこを開けると大量のケーキやお菓子、紅茶やジュースと出来合いのものではないちゃんと作ったものが入っていた。

 下の階のキッチンからつながっているらしい。見た時にはわからなかったが、ボタン一つで上下の連絡通路みたいなものができるらしい。

 いろいろと凄すぎる。彼らが私の家に来て私の部屋を見たらなんて言うだろうか。そもそもこの大きさの三人が来たらそれだけで部屋は埋まってしまうのだが。

 アポロのお母さんの手作りのお茶菓子をみんなで食べながら楽しくおしゃべりをした。こういう風景はどこの世界も同じでやっぱ大学生だなとちょっぴり青春じみた感慨にふけってしまった。

 「ミア」

 窓の外を指差すセリムに促されて立ち上がり外を見る。先ほど海で見た雨雲が空に広がり大きな水の粒を地面に落としていた。それは確かに雨であり、窓を開けると濡れた地面から立ち上る雨独特の香りが部屋に舞い込んだ。

 この国で見る雨は初めてだった。雨は嫌なイメージのほうが強いのに今はその光景に釘付けになった。雨の匂いや音がどこか懐かしくようやく見慣れてきたこの世界がまた違ったふうに見えた。

 

 引き続き国の歴史について調べてはみるもののなんら目立った成果があがらないまままた一週間が過ぎた。図書館の雰囲気にもすっかり慣れてしまいつい息抜きにと関係のない本を読んでしまうこともしばしばだった。

 文学作品でこの国の歴史をテーマにした作品があるかもと思い立って探したりもしたものの、検閲されているのか、もともとそうした作品が書かれないのかはわからないが一冊も見つけることはできなかった。

 今度の休みはカーラの家に行くことになっていた。一家がそろって文学に通じているとのことだったので、なにかその手の本の情報が得られる可能性を期待したい。

 平均してこの国の天気は晴れが多いのは間違いない。今日も雲ひとつない快晴で初夏の陽気だ。

 セリムは半袖一枚でも汗をたっぷりかいていてかわいらしい。私は花柄の黄緑のワンピースを着ていた。ふとセリムに感想を求めると彼はさらに汗を吹き出してしまった。

 買い物に行ってから二週間経つというのにまだコーディネートのパターンがある。それくらいたくさん買ってしまったことを改めて実感した。

 カーラの家は地下鉄を三駅ほど乗ったところにある。駅からは少し離れていたが、意外に緑が多く公園などがあちこちにあるのが目立った。子どもがたくさん遊んでいる。この辺りは子どもが多いのだろうか。

 数分歩くと一際緑豊かな公園に入った。近道かなと思い歩いていると緑に囲まれたところに巨大な本が90度に見開きになって置かれていた。

 「あれが私の家なの」

 巨大な本のオブジェかと思っていたらカーラの家だという。しかも公園かと思われたこの敷地もカーラの家のもので完全なる私有地だった。

 大きさこそ他の二人の家と比べるとだいぶ小さいものの、デザインへのこだわりは一番だろう。一冊の本をモチーフに、モチーフというか完全に本を再現しているのだが、その巨大な本が家というのはなかなか奇抜斬新で面白いセンスだ。

 大きさやハイスペックな設備を抑えているぶん自然豊かな敷地と細かなオーダーメイドの建物にその情熱が割かれているのがわかる。

 玄関を入るとまず目に飛び込んでくるのは、本。

 玄関を囲むおびただしい数の本はインテリアとして機能しているようで実用書としても活用するらしく、よく見てみると靴、服、アクセサリー、といったオシャレや身だしなみに関する本が多い。まるで家を出入りする人間をチェックでもするかのように本の視線を感じる。

 新旧問わず本があるようでも古本特有のかび臭ささはまったくせず、家の中にまで外のちょっとした森林浴の続きが演出されフレッシュな香りと空気が広がっていた。

 通路、階段、キッチン、部屋の至るところに本がある。オシャレな図書館、ブックカフェといった雰囲気が強い。

 カーラの部屋は当然のように壁一面を本がびっしり覆っていた。それでも置かれた家具類は女の子らしいピンクを基調としたかわいいテイストでまとめられていた。

 「すごい。個人的にはカーラの家が一番驚いたかも」

 「すごいよね。こだわり抜いた本の家。大学でもカーラの家はけっこう有名なんだよ」

 セリムが教えてくれた。このクオリティーの家なら誰もが一目置くのもうなずける。

 「そうだ、カーラ。この国の歴史をテーマにした文学作品とか知らない?どうにもこの国の歴史を調べるに手間取ってて」

 「歴史物は私も読むけどこの国の歴史のは知らないや。ごめんね」

 カーラが読んだこともないというのなら存在しないのかもしれない。やはり秘密にされているのかと諦めかけていたとき、カーラのお母さんがお茶菓子を持ってきてくれた。

 「こんにちは、いらっしゃい、みんな。ミアちゃんははじめましてね。ちょうど聞こえちゃったんだけど歴史を調べてるの?それなら大学の学長がその道の一番の権威よ」

 「大学の学長ですか?」

 思わぬ名前の登場にすぐに思い出せなかったが、初めて大学に来た時に一番初めに挨拶した人だ。

 「そう。あの人は私のお父さんの同期なんだけどこの国の歴史の研究に携わっていたから」

 そう言うと美味しそうなフルーツたっぷりのケーキと紅茶を置いてカーラのお母さんは部屋を出ていった。

 まさかこんな身近に手がかりとなる人が存在するなんて。これは話をしてみる必要がある。もし彼でも何もわからないならいよいよ外の世界の私が手を出してよいテーマではないということでいいかもしれない。

 カーラの子ども時代の写真を見せてもらいながらそれぞれの子ども時代の話で盛り上がってはいたものの、私の頭の中は早くも学長との歴史についてのことでいっぱいになり集中できなかった。

 その夜、最初の二日間だけ日記を付けたのにそれ以降まったく書いていなかったことに気がついた。正確には気づいてはいたが書くことがないし書く気分でもなかった。久しぶりにノートを開いて日記を書くことにした。何日目かもわからなかったが、書きたいことだけ書こうと思った。

 

 セリム、アポロ、カーラの家を制覇した。

 どの家も個性を発揮した素晴らしいセンスの光る家だった。この国の国民は大人になっても遊び心を忘れない無邪気なところがある気がする。

 そして思いがけない収穫があった。収穫と呼ぶにはまだ早いかもしれないがこの国の歴史を知る最後の手がかりとなりそうだ。

 学長にアポをとって直々にこの国の歴史を教えてもらえればと思う。

 


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