25
季節はすっかり秋である。天は高く伸び、度々涼しげな風がまいたつ。色鮮やかな紅葉が、ゆらゆら揺れる馬車の窓からアンドレアの目に飛び込んでくる。
針葉樹林の植えられた国立公園を過ぎて、フードの男と一緒に山奥にそびえてるシャルロット城に馬車で向かう途中であった。
突然ガクンと馬車が傾いて、アンドレアはフードの男に寄りかかってしまった。
「何事です」
「すいません、うっかり石を踏んでしまったらしくて」
従者がペコペコ謝るとその場はいったん収まった。アンドレアがその城に出向くのは2度目である。そのときは褒美をもらっただけであった。
ずしりとした金貨の袋は、2キロはありそうだった。ちょっとしたダイエットでも2キロ落とすのは大変である。スラム出身のアンドレアは、
滅多に太った人物になど会うことはなかった、都の人々や、貴族に会うたびにその体格の大きさにあっと驚くことが多かった。
彼らは痩せることに関心を持ち、薬草を煎じて飲む。昔どこかで聞いた話では南の国に立派な皇帝がいて、彼は不老長寿を手に入れるために、あちこちの国に使者を出しては、報告をほうほうと聞いているそうである。
たびたびアンドレアはその収穫に立ち会わせることがあって、そんなつまらない雑事や過去の仕事のことを笑いながら思い出すのだった。
フードの男は相変わらず細い。身軽な少年のアンドレアとほぼ体格が変わらない様子だった。彼は
「私を警戒せずについてきてしまってよかったのですか」
などといって、アンドレアを怖がらせた。
「あんたはまっとうな客だと思う」
揺れながら、そう答えるとフフと笑ってそれきりであった。
アンドレアがちらと見ると、フードのおくにスッキリとした鼻筋が伸びているの確認した。長い黄金の色の髪の毛が、すこしほつれている。
「?」
意外な依頼主の様子を知って、ようやく到着して長々と揺られて痛む腰をさすった。
「やれやれ、毎度のことながら苦痛ですね」
フードの奥から笑む口元が見える、髭面ではない。中身は小奇麗にしているにしているようで、男も腰をさすった。
立派な門構えを越えて、馬車が城の内部に入ってくると、どこからともなくヴァイオリンの音が聞こえてくる、噴水の匂いがする。爽やかな水の香りだ。おそらくここは桃源郷なのだ。
そんなことを思いながらアンドレアが馬車を降りると、そこは荘厳なシャルロット城であった。立派な門構えには、王家の紋章である三つの翼をもつドラゴンの紋章の彫刻が掘ってあって、その城の持ち主の、格式の高さをアンドレアはひしひと感じるのであった。
緋色の絨毯の廊下を連れられて歩きながら、アンドレアはついに、こんな所まで来たという、確かな高揚感を感じていた。心臓がドキドキする、ぎいと大広間の扉を従者が開けて、そこに玉座が佇んでいた。その黄金の玉座には誰もいない。
「大変だ!ディアル様が!」
アンドレアが慌てふためく臣下たちの様子を観察していると、はっと我に返り、
「なにかあったんですか?」と、遠慮がちに尋ねると慌てて臣下は
「ディアル様がさらわれた!」
と、それだけ告げてバタバタとその場から退散していった。
「さらわれた…?どのような連中に?」
「このような手紙を残して!」
ディアルを我が城に招待し、監禁することに成功した。
返して欲しくばこの件から手を引くこと。
そのような文字が書いてあることをアンドレアはようやく知った。
それはあの件、つまり元の仲間たちがつるんでいる組織のことだ。
「黒の鷹・・・・・!」
フードの男はそれだけ言って、走り出した。「どこへ行くんだ!」
「アジトへ!」
「オレも!オレも行くんだ!足手まといにはならない!」
「覚悟はよろしいですか?」
アンドレアははっとしていた。元の仲間たちを殺すことになるのだ。
長い間信頼していたグレイプニルも今はいない。覚悟はとっくに決まっていた。
ピエールを殺し、スラムのソフィアに初めて嘘をついた日から。
「覚悟はできてる!」
アンドレアはそう悲鳴のように叫んだ。その覚悟はどの程度固まったものだったのか、今のアンドレアには自分でもよくわからなかった、フードの男はその言葉を聞いて、安堵したような溜息をもらした。
「きっと一緒に来てもらえると思っていました」
フードの奥で男はにやりとしたようであった。
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