第5話

私は、妻や息子に昔の自分のような思いはさせたくなかった。だから、一所懸命働いた。不平を言わず、愚痴を言わず、他人の悪口も言わず、仕事に必要な勉強をし、率先してきつい仕事を引き受けた。課題解決に当たっては時間的・空間的な広い視点から考え、問題解決に当たっては平社員のときは係長の立場で考え、係長のときは課長の、課長のときは部長の立場で考えた。相手があるときは、常に相手の立場に配慮し、お互いが納得できる落としどころを探した。

人事異動のときには、私はいろいろな部署から引っ張りだこだったが、私の上司は誰もが私を手放そうとしなかった。

私の上司は皆出世し、そして私を引き立ててくれた。

そして、私は若くして勤務先の会社の幹部にまで出世することができた。逆説的に言えば、これは父と母のお蔭かも知れない。

別に出世がしたかったわけではなかった。ただ家族に不自由な思いをさせたくない、それだけだった。

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