第三章「復体」episode III : Doppelgänger / 3-0 予兆

 駅前のパン屋で普通にバイトをしてるなんて、あたし、いったいどうしたんだろう?

 テヘッ……って感じの日常が続く、今日この頃。

 とにかくデカくて、しかも日本語まで達者なゲルマン人爺さんの姿は見かけないし、異形の怪物たちの臭いも何処にもない。

 だから、もちろん天使だって現れない。

 平和で優雅な日々が続いている。

 でも目を瞑るとそこは手術室で、あたしは真新しいベッドの上に裸に剥かれて横たわる。

 拘束されてはいないが、麻酔が効いているのか、身動きできない。

 それなら意識だって飛べばいいのに、意識は飛ばない。

 視線が一点集中だが、首が動かせないから当然だ。

 天井から吊るされた明るい照明ランプが嵌められた銀色の枠に、あたしの身体が映っている。

 メスを持った医師が映っている。

 麻酔技師が映っている。

 看護婦たちや、それ以外の医療スタッフが映っている。

 けれども、また目を開けば、あたしは自由を謳歌している。

 自由と不自由が表裏。

 不安と安心が表裏だ。

 そして、それらはひとつでもある。

 だから、そんなことが起こるのだろう?

 だから、そんなことが起きたのだろうか?

 あたしとあたしが分裂する。

 あたしが二つに切り裂かれる。

 よもやそんなことが自分の身に降り掛かろうとは思わなかったし、思いもしない。

 あたしとまったくそっくりで、実はあたしとはまったく違う、自分自身に出会うだなんて……。

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