2-10 光臨

「どうした爺さん。何の御用?」

 SATに導かれ、擬似アムステルダム遊園のエントランスに向かいっつ、携帯電話二世に声を掛ける。

 さすがに通話状態が悪い。

 電波ではなく、複数サーバ経由のPC電話と携帯電話二世が仕掛けたスクランブル暗号のせいだ。

「ああ、レディー、メイ。お亡くなりになってはいなかったのですね。ありがたい」

 ノイズの中からワイル爺さんの野太い声が聞こえてくる。

 しかし、いきなり生死の確認って何なのさ?

「なん、うちのまた死んだこつになっちいるん?」

「Was ?」

「あっ、悪い、罹(うつ)った。どうして、あたしが死んだことになってるわけ?」

「生体信号が消えましたから」

「服とか身に着けてたものは、あの後すぐ焼いたから……」

「そうでしたか?」

「で、今日降るの? 雪はまだみたいだけど……」

「わたしたちの特殊レーダーに、わずかに反応がありました。だから、お願いです。わたしたちの元に戻ってください。あなたが死んだら、この世界が無くなります」

「それって、あたしじゃなくて、あたしの天使が死んだらだろ? あたしのことを生体解剖しようとしているくせに……。良く言うよ!」

「ああ、それはあなたの誤解です。あなたの身体にメスなど入れません」

「じゃ、放射線を当てて不妊にするんだろう?」

 擬似アムステルダム遊園のエントランス付近に自衛隊員の姿が見える。

 しかも、あの日午後、H公園にはなかったランチャー付きロケット弾車輌=多連装ロケットシステム(MLRS)まで用意されている。

 遊園客の表情が曇るもの当たり前だ。

 ワイル爺さんの正体は不明だが、アメリカ軍さえ、やってきそうな勢いだ。

 天使と怪物の空間あるいは物理法則同士の代理戦争が本当のことだと信じさえすれば……。

「聞こえていますか?」

 ワイル爺さんがそう問いかけたとき、あたしの頬に冷たいものが当たって融ける。

 ついに降ってきたのだ。

 雪が……。

「爺さん、雪が降ってきたよ。そっちの反応も強くなったんじゃない?」

 携帯電話の向こうで息を飲む音が聞こえる。

「じゃ、忙しくなりそうだから、またね!」

 ブスッと携帯電話を切り、上空を見上げる。

 暮れかけ、紅く焼けた大空の遥か彼方に閃光が走り、空が割れ、黒い天使が光臨する。

 それが、あたしの守護天使とまったく同じ顔と無表情を持つ、全身すべて真っ黒な天使=黒羽異日月に間違いないとあたしが確信。

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